MRワクチン制度再改正

麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の制度が4月に施行されたのも束の間、たった2ヶ月で制度改正の正式通達がありました。お役所文章の解読にはいつも苦労させられるのですが、なんとか解読して自分の診療所のHPにアップしましたので、ブログでも少し触れておきたいと思います。まず4月時点の最大の問題点をおさらいします。

    MRワクチンは過去に麻疹及び風疹に実際に罹ったもの、ないしは従来の麻疹及び風疹の単独接種を行ったものには接種は罷りならぬ。そういう子供は自費で単独ワクチンを接種すべし。」
これが去年MRワクチン導入時から繰り返し強調され、小児科団体の繰り返しの緩和要望も無視され続けました。制度変更による移行措置も市町村に丸投げされ、神戸では来年3月まで従来の予防接種券の有効期限が延長されています。

ところが5/31付け通達で「絶対に罷りならぬ」と繰り返し強調されていた点がアッサリ改正されてしまいました。なんと

    「麻しんワクチン又は風しんワクチンを接種した者」に「麻しんワクチン又は風しんワクチン及び麻しん風しん混合ワクチン」を接種した場合の安全性が確認された
となったのです。誤解ないように言っておきますが、この改正は諸手を挙げて賛成です。賛成ですが、6月に出来るものならなぜ4月に出来なかったのかと言う事です。メーカー筋の話では「治験には少なくとも2〜3年はかかる」というものでした。時間的にはそんなものだと思います。それを2ヶ月で猛烈な速度で治験結果を検証できたのでしょうか。6月に改正できるなら4月になぜ出来なかったのでしょうか。もっと言えばMRワクチン導入時に始めから改正制度で行い、混乱を最小限に務めようとの発想は無かったのでしょうか。現場としては釈然としないものがあります。

それでもって改正後の制度では下記の如くになっています。

  1. 麻しんの第1期又は第2期の予防接種は、乾燥弱毒生麻しんワクチンを用いて接種する事。
  2. 風しんの第1期又は第2期の予防接種は、乾燥弱毒生風しんワクチンを用いて接種する事。
  3. 麻しん及び風しんについて同時に行う第1期又は第2期の予防接種は、乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンを用いて接種を行うこと。
少しわかりにくいかもしれませんので補足します。通達の趣旨は、まずこれからは原則として麻疹および風疹の予防接種はMRワクチンを2回接種すると解釈できます。そこに麻疹や風疹の単独接種もOKの内容が盛り込まれたのは、MRワクチンの接種前に麻疹や風疹に実際に罹る子供が出てくる可能性があるためだと考えます。この点は柔軟性に富んだ改正で納得します。

ところでこの改正のために新たな問題点が発生します。もう一度MRワクチンの接種制度の原則を書きます。

  • MR1期:1歳児対象。2歳になれば公費接種から外れる。
  • MR2期:幼稚園保育園の年長児相当の時期。小学校に入学すれば公費接種から外れる。
神戸でもそうですが、4月のMRワクチン導入に伴う移行措置で、来年3月まで従来の予防接種券が有効となっています。従来の予防接種券では7歳6ヶ月まで接種可能です。ここで当然出てくる問題があります。2歳〜5歳でまだ予防接種を終わっていない子供への対応です。思いつくままに挙げてみます。
  1. 2歳以上児(MR2期相当時を除く)でMRワクチンを希望されたらどうするか。現在の移行措置を杓子定規に解釈すればMRワクチンは接種できず、それぞれの単独ワクチン接種となります。
  2. MR1期以降、MR2期以前に麻疹及び風疹の予防接種を行った場合、MR2期との間隔をどうするか。極端な話、現在年中組であり、来年の3月に滑り込みで予防接種を行った子供に、翌4月にMR2期を希望されたらどう対処するかです。つまり2歳以上で予防接種を行った子供をMR1期相当とどこまで見なすかにもなります。
  3. 現在MR2期の子供で、麻疹なり風疹なりのどちらか片方だけ接種している子供の対応はどうするかです。MRワクチンだけ接種するのかです。これはあくまでも解釈ですが、移行措置で残っているワクチンを接種した上で、制度改正によりMR2期を接種できると言う考え方も成り立ちます。ただしそうすると、そこまで何も予防接種をしていなかった子供はMRワクチンだけを接種するとなっているため、矛盾が生じます。
  4. 上の内容のさらに応用問題ですが、年中までに麻疹か風疹の予防接種を終えており、4月からこれまでの間に移行措置に従って、残りの予防接種をした子供はどうするかです。制度改正があったので、MR2期を接種するのか、MR2期として片方の予防接種が終了していると見なし、残りの予防接種のみを行なうのかです。
きっと移行措置の改変に頭を悩ましているのだと思います。神戸市からの通達の末尾にこんな一文が書かれてました。
    なお、今回、新たに第2期の対象となった者への麻しん風しん混合ワクチンの接種は、平成19年3月まで接種が可能であるため、本市から対応通知があるまで差し控えてください。
気持ちは分かるのですが、このネット時代、私が書かなくても誰かが書いています。それを読んで「国から通達が下りているはずだ」と談じ込まれたら困りますね。早急に対応して欲しいところですが。