読んでると疲れる

S.Y's Blogさんで知ったのですが、論座とやらに大野事件の記事を書いた鳥集徹氏のとりごろうblogなるものがあり、そこで大野事件の論争の蒸し返しをやっているようです。実は昨日のエントリーでキーワードの一つに使った、「医療行為そのものが犯罪行為」という言葉もS.Y's Blogさんのブログのコメントから引用させてもらったものです。shy1221さん無断引用ゴメンナサイ、TB打ち返しておきます。

大野事件が刑事責任に当たるか、さらには逮捕勾留されなければならなかったかは、K医師逮捕時に医師の間では相当な議論が尽くされました。この議論には産婦人科だけではなく、小児科、外科、内科を始め多くの診療科の医師が参加し、あらゆる角度から論議が為されました。論議された掲示板やブログは相当数にのぼると思いますが、私の知っている範囲では、ある産婦人科のひとりごと氏のブログ、m3.com、2chがあり、m3.comは医師専用のため趣が違うとしても、他のサイトではオープンな状況でとことんの検証が為されたと思います。

皆様の中には読まれた方もあるかもしれませんが、医者の議論はあんなものです。専門用語が飛び交う世界で良く分からなかった人もおられるかもしれませんが、ある特定の科学分野の専門議論には最低限の基礎知識が必要であり、その常識の上で議論は行なわれます。参加して発言するにはまず最低限の基礎知識を身につけないと、すぐに意見の内容についていけなくなります。これは医学だけでなくすべての科学的議論に当てはまると思います。

結論は「不当でありK医師に罪なし」です。この結論はネット上に留まらず、学術団体の最高峰に位置する学会でも認められ、大きなうねりとなり、厚生労働大臣への陳情書提出まで至っています。しごく簡単にまとめれば医師の議論はすでに結論を出したと言う事です。この結論に異議を唱える医師がいないとは言いませんし、裁判が行われると言うからには検察側の趣旨に立った鑑定書を書いた医師もいるでしょうが、医療界としての結論は揺るぎません。

そんな状況で鳥集氏はもう一度問題を蒸し返している展開です。それでもって議論内容ですが誠に疲れます。上記したようにこの議論は医師の間で結論を出した議論ですから、医師側はかなり整然と議論を並べます。ところが受け手の鳥集氏の基礎知識がいかにも薄い。薄い上にその薄弱な根拠を頑として譲らない。そもそもこの議論は医学部生程度の基礎知識を持っているだけでは十分でなく、実践の経験を積んでいないと理解が難しいところがあるのですが、知識が薄っぺらで経験も無い人間が、わずかに理解した生齧りの知識で組み立てた理論に固執しています。

少しでも専門的になるとすぐついて来れなくなります。「わからないから理解しない」とでも表現したらよいでしょうか、ニュートン力学しか知らない人間が特殊相対性理論を理解しない態度と言えばよいでしょうか、算盤で気候変動が計算できないとでも表現すれば相応しいでしょうか。

これもshy1221さんのコメントにあったのですが、「鳥集氏は自分の主張に適合する答えが出るまで無限に質問を繰り返している様だ」の表現はピッタリだと思いますし、shy1221さんの壮絶な水掛け論という表現もウマイと思います。今日はshy1221さんの言葉ばかり借りますが、医者は真面目な人が本当に多いと思います。これだけ頑固な人に礼を失わず論を説く姿勢は日頃の診療での訓練の賜物かと思います。ただしこのブログの存在は徐々に知れ渡ってきていますので、そろそろ暴論極論の嵐が吹き荒れて炎上しそうな予感があります。

クーパーを「はさみ」と理解し、チョキチョキ切るものぐらいの見識程度の人間が、大野事件でネットの医者に議論を挑む事自体が無謀のように思えてなりません。それにしても繰り返し同じところを何度説明されても理解しない議論は読んでいて正直疲れます。まあ日常診療で良くありますから慣れていると言えば慣れているとも言えますが・・・。