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今朝のYOMIURI ONLINEから

小泉首相は1日夜、05年の合計特殊出生率が1・25と過去最低を更新したことに関連し、首相官邸で記者団に「今年になって出生率も回復の兆しがあるとの報告を受けている。今後、少子化対策は最重要課題になってくる」と述べた。

たしか今年の初めに出生率が低下して、人口が減少に転じる事が大きなニュースとして報じられたと記憶しています。また少子化対策が重要と判断したので担当大臣を置いたはずです。それほどの重要課題であるはずなので、国会の予算審議でも対策が論じられなければならないはずです。普通に考えればそうならないとおかしいはずです。

もうすぐ国会は会期が終わりそうです。首相は会期延長には気乗り薄です。この国会で少子化対策はどれほど論じられたのでしょうか。国会のすべての委員会をウォッチングするのは不可能ですから、あくまでもメディアが報じたもの、また具体的に形になったものを思い出そうとしますが殆ど出てきません。

担当の猪口大臣はそれでも頑張ったと思います。頑張りましたが、そもそも猪口大臣を担当にした辺りから少子化対策への熱意のなさが窺われます。猪口大臣は去年の総選挙の小泉劇場で生まれた小泉チルドレンと称される新人議員です。新人であってもベテランであっても議員は議員で上下の差は無いとも言えますが、新人議員では政治的影響力が乏しいのは当たり前です。政治は多数の支持を集めるのが必要であり、この多数とはもちろん議員の数です。年功序列を尊重せよとは言いませんが、ポッと出の新人議員の主張を、海千山千のベテラン議員がそう簡単にハイ、ハイと聞くはずもありません。

少子化問題は日本だけの特殊問題ではなく、先進諸国である程度共通している課題です。どうも文明や文化が進むと生じてくる必然の課題のような気もしています。各国ともこの難題に知恵を絞って取り組んでいます。先行例があるわけですから、それを参考にすれば良さそうなものですが、問題の現状分析は詳細に行なわれても、決定的な解決策が存在しないという難題です。

現在わかっている事は、少子化対策に役に立ちそうな事に手当たり次第やってみるしか無いということです。猪口大臣もどうやらそのあたりは了承しているようで、少子化対策の基本中の基本である育児手当の支給にこの国会は尽力したと見ます。ただし猪口大臣には手に余る仕事であるのは誰の目にも明らかです。

国の予算編成の基本は前年度実績からの増減交渉です。既得権と言い換えても良く、予算を守るのが官僚の主要業務の一つです。増額されれば勝利、削減されれば敗北です。財政難で歳出抑制を政治テーマの掲げようが、官僚にとっての最重要関心事は予算の増減です。少子化対策費は前年度実績がありません。ない事はありませんが、厚生労働省総務省が既得権として膝下に抱えています。そもそも猪口大臣が自由に裁量できる予算が無いということです。

何もないところに予算を生み出すのは至難の業です。高度の政治力が必要な作業であり、正統論をぶつけるだけではどうしようもないという事です。はっきり言って新人議員では手に負えない仕事なのです。結局猪口大臣は何もさせてもらえなかったと言うことです。成果として残ったのは、出産祝い金の前倒しだけという事です。他は「検討課題」ですべて棚上げです。何もしないと言っているのとほぼ同義語ではないかと考えます。

でもって出生率低下への冒頭の首相のコメントに戻ります。

    「今年になって出生率も回復の兆しがあるとの報告を受けている。」
今国会の少子化対策は「何もしない」の方針を表明しています。世間へのアピールのためだけに政治力の無い新人議員に大臣をさせ、なんの実権も与えず、提案をことごとく握りつぶしただけが今国会の少子化対策です。そして少子化対策は「自然回復するでしょう」でチョンです。

まあ首相も9月で退陣だそうですから、9月以降の事は既に無関心という事です。少子化、人口減少と騒いでみても首相が生きている間には、よほど長生きしない限り問題は表面化しないでしょうし、表面化しても過去の首相の責任問題は問われませんし、元首相となっても生活に困るわけでも無しと。他人事とはまさにこの事です。