小児救急再編案!?

今朝の読売新聞からです。

責任が行政にあることを初めて明確にしたうえで、重症対応と軽症対応を2種類の病院で分担する体制をつくるよう、都道府県に求める。病院が遠くなることもあるが、重症患者は確実に小児科医に診てもらえるようになり、たらい回しも防止される。同省は、9日の都道府県小児救急担当主管課長会議で、基本方針を通知する。

良くなるか、悪くなるかはこれだけでは分からないのですが、記事を読み続けていくと最後の方に具体策が書いてありました。

基本方針によると、都道府県は、拠点病院として、原則として重症患者に対応する「連携強化病院」と、軽症患者の診療を支援する「連携病院」を、公立病院から指定できる。

 「強化病院」には医師3人以上(目標は4人)を配置し、「連携病院」の医師は、医師会などの運営で軽症患者を診ている夜間急患診療所の応援に出向く。夜間診療所は、現状では大半が午前0時前に閉まってしまうが、実現すれば、風邪、下痢など軽症の患者でも24時間受診でき、肺炎などで入院の必要がある重症の場合は強化病院で専門医の治療を受けられるようになる。

さらっと読めばなかなか現実的な案だと思うのですが、良く考えてみれば絵に描いた餅のような気がしないでもありません。短い記事なので全貌が良く分かりませんが、この整備する規模はどれぐらいのものを想定しているのでしょうか。この辺は推測ですが、やはり従来の診療圏を前提に考えているのではないかと思います。

診療圏と言っても内実は様々で、充実した小児病棟がある病院を含む地区もあれば、小児科入院が不可能でない程度の病院しか存在しない地区もあります。これまでもいわゆる大都市圏であればこの基本方針を実現するのはさして困難ではないでしょうが、そうでない地方では「そうは言われても」というのが本音ではないかと思います。それはこれまで診療圏ごとの小児救急整備が遅々として進まなかった事からはっきりしています。

それと気になるのは小児救急の拠点病院である「強化病院」の規模です。整備目標は小児科医が最低3人で目標値としても4人です。求められるものは365日24時間の救急応需です。これは正直なところ地獄の体制だと思います。たった3人で救急当直を賄うという事は、3日に1回の当直です。つまり週2回強であり、月に10日となり、年間で120日以上です。いかに医師が労働基準法の枠外の扱いを受ける職種とはいえ、年間の1/3を病院に泊り込むような勤務体制は余りに過酷です。最近ようやく世間でも知っている人が増えましたが、医者の当直はたとえ不眠不休で働いても、翌日の仕事はごく普通にあります。そんな状態でたった3人で24時間救急を行なえばそんなに長続きするものではないと私は思います。

365日24時間救急体制下では、正月休みや夏休みは愚か、病気で休む事さえ憚られます。一人抜けたら隔日当直ですから、少々頑健な医者でもそう長くは続きません。若くて体力のある時代でも厳しいものがありますが、中堅からベテランの領域の医師には生き地獄といっても良いぐらいの代物です。小児科には女性医師の比率が高いのですが、妊娠出産なんかで休まれるのはとんでもない事ですし、育児休暇なんてものを優雅に取られたら残りのスタッフは討ち死にします。

若くて頑健な医師を優先的に配属するのもひとつの方法ですが、重症患者を主に扱うとなればベテラン医師は欠かせません。ベテランだからといって当直をある程度免除すれば、残りの二人の負担が過重となってぶっ倒れます。さらに言えば一晩に一人しか重症患者が来なければ良いのですが、時により2人、3人、それ以上の入院患者が運び込まれる可能性があります。医者だって重症患者を一人抱えれば通常目一杯です。そこで残りの二人に応援を頼む事になるのですが、応援に来て懸命に働いた翌日にまたぞろ当直が待ち受ける事は容易に予想がつきます。

いかに小児救急の大義のためとはいえ、こんな労働条件の強化病院に小児科医がどれほど集まるのでしょうか。もう強力な転属命令を行なっていた医局体制は崩壊しつつあります。医師は自分の意思で勤務する病院を選ぶのです。私だったらイヤです。たとえ知らずに飛び込んでも何年かすれば逃げ出します。崇高な医師の使命感を持ち出されても、自分の命をとことんまですり減らすのは許容限界があります。

批判ばかりを書きましたが、ひとつだけこの案の救いは「小児救急の責任は行政にある」と明確にした点です。現在の基本プランは欠点がどうしても目につきますが、これはこれで前進したと評価はしておきたいと思います。