医療経済実態調査の実態

Yosyan2005-12-02

開業医での平均収支差が228万円という結果が出て、これも診療報酬削減を後押しした一因になったのは間違いありません。しかし自分も開業医として経営を知っているのですが、どうしても実感しにくい数字なんです。たんに繁盛してないからで片付けてもよいのでしょうが、診療報酬削減が決定的になったため、もう一度検証してみたいと思います。

まず「収支差=院長の給料」でない事はこの医療経済実態調査でも但し書きでちゃんと書かれています。具体的に何があるかといえば、職員の退職金の積み立て、医療機器の更新充実、さらに診療所自体の定期的な補修やリニューアルの費用もここに含まれているからです。細かいことをいえば、調査月は6月ですから、忘年会や慰安旅行などの福利厚生費用もここから出費されます。

それでも228万円といわれそうですが、どうもこの平均という表現が曲者のようです。数学とか統計とかはお世辞にも得意ではないのですが、わかる範囲で頑張ってみます。まずある調査を行ないます。今回であれば開業医の収支差です。いろんな結果が出てくるのですが、それを体感できる数字に置き換える手法に平均があります。もっともポピュラーで算数苦手の人間でも思いつく方法です。では平均が常に正しい実感を表しているのでしょうか。

平均が調査の実感を最適に表現する時は、サンプルの分布が平均値を頂点として左右対称に山形に分布している時です。そうでないとき、例えば10件の調査をして、1軒が1000万円の収支差があり、残りが100万円の収支差であったなら、平均は190万円となります。これは調査の実態を正しく表しているとはいえません。今回の医療経済実態調査ではこのサンプルの分布はどうなっているのでしょうか。

ネット社会は便利なもので医療経済実態調査もちゃんとネットで見ることは出来ます。ただし膨大な統計表が百枚以上も羅列してあり、ここから欲しいデータを探し出すのはかなりの根性が必要でしたが、ようやくそれらしいものを見つけ出しました。179ページにある第26表の「有床ー無床・開設者・収支差額階級別」です。他にもあるかもしれませんが、個人的な努力ではこれで精一杯です。

有料の画像をケチっているため、見ても小さすぎてわからないと思いますが、これをグラフ化してみました。上から6本目の棒グラフが平均収支差200万円から250万円の平均値に当たる事になります。素人が見ても「えらく偏りがあるな」と感じさせるグラフです。見にくいので具体的に数字を挙げて検証してみます。全体の調査件数は1036件となっております。まず収支差が100万円以下の比率ですが、375件あり全体の36%を占めています。さらに150万円以下なら531件で51%、200万円以下となると639件で62%になります。200万から250万のグループは100件あり、平均が228万円なのでやや乱暴ですが、平均の228万円以下が50件だと仮定すると、平均以下の診療所は689件で67%を占める事になります。

数字が並ぶと頭が痛いのですが、収支差が100万円以下の診療所が1/3もあり、平均以下の診療所が7割近くある状態での平均値は、診療所の実態を体感的に表しているとは言えないのではないでしょうか。7割もの診療所が平均以下で、残り3割が見た目の平均値を引っ張り上げているのが実態といえると考えます。調査を見ると1000万円以上なんて怪物的な収支差を叩き出している診療所が23件もあり、この辺の影響があまりにも強すぎると感じます。

怪物的な収支差を叩き出している診療所はあくまでも推測ですが、自費診療が主体の美容整形などが含まれると考えます。保険診療の枠内でそれほどの収支差をあげるのはどう考えても難しいからです。そうすると保険診療で普通に医療を行なっている診療所の分布は平均以下の7割にほとんどが含まれているとの推測が成り立ちます。それなら自分の実感とそれほど差はありません。

となると診療報酬削減で直撃を受けるのは平均以下の普通に保険診療を行っている診療所ばかりとなり、これこそ「弱い者いじめ」としか思えなくなります。こりゃ春から本当に診療所がバタバタ倒産する時代が来そうな気がします。医療は冬の時代から氷河期になりますね〜。