続医療費削減

私は医療で食べている人間なので、医療費削減にはイヤでも関心が向けられます。小泉首相の一番基本のスローガンである「財政再建のための聖域なき構造改革」の鉾先は、情け容赦なく医療費削減に向けられているようです。「聖域」とよばれる分野は数多くありますが、政治家の大先生、お役人様がガッチリ利権を構造支配しているところは、郵政民営化のために強引な総選挙をやらなければならないような努力が必要ですが、医師会に昔日の力が失われた医療界では、今後草刈場になる可能性があります。

そういう流れに沿って医療費抑制の厚生労働省試案が発表されました。

  • 患者の窓口負担を、
      70歳未満3割、70歳以上1割→65歳未満3割、65〜74歳2割、75歳以上1割とする.
  • 生活習慣病予防対策で糖尿病発生率を20%改善する。
  • 入院患者の食費、居住費の全額自己負担化。
  • 一定所得以上の高齢者の窓口負担は3割。
  • 被扶養者も含めすべての高齢者からの保険料徴収。
  • 平均入院日数(38日)を30日以下に短縮。
だそうです。これらの長・中・短期の抑制策が組み合わさる事により、06年度28.3兆円の医療給付費(国民所得比7.3%)が15年度は40兆円になるのが、改革案では37兆円に減るとしています。また経済財政諮問会議は25年度の給付費をGDP比5.8%の42兆円まで削減するよう求めていますが、同省は49兆円(GDP比換算6.7%)を数値目標とするとなっています。

厚生労働省試案と経済諮問会議の25年度での達成数値の差である7兆円については、経済諮問会議がさらに提案しています。

  • 65歳以上の窓口負担をすべて2割負担にする事で1.3兆円削減できる。
  • 20年間で診療報酬計10%カットすれば4.9兆円削減できる。
  • 1000円以下の医療費でも定額1000円を求める「保険免責制」の導入すれば4兆円削減できる。
とし合わせれば10.2兆円さらに削減できると主張しています。

文句は山ほどつけたいところはありますが、まず「医療」とは何か、「保険医療」とは何かを考えて欲しいと思います。医療とは病気で苦しむ病人を救うこと、保険医療とは収入に格差があっても等しく十分な治療を受けられる事が目的だと考えます。現在の医療制度は完全無欠とは言えないかも知れませんが、世界的にも高い評価を受けているシステムだということをまず知っておいて欲しいと思います。

医療費削減策にはいろいろ書かれていますが、煮詰めればただ一点の方針から作られています。

    値上げ(自己負担増加)すれば客(患者)は減り、売り上げ(医療費)は落ちるだろう、それでも減りきらない分は従業員の給与(診療報酬)を減らせば良いだけだ。
との発想です。つまり医療もダイソーも同じような価値観で考えた方法論です。もしダイソーが国家の強制で200円ショップに無理やり値上げさせられたら売り上げは確実に落ちると考えます。同様の手法を医療に当てはめているだけです。医療って商店のように値上げさせて売り上げを落とせば万々歳の代物なのでしょうか。商品の値段が上がって買えなくて悔しい思いをするのと、病気になって受診できずに苦しむのが同じ事だと言うのでしょうか。厚生労働省も、経済諮問会議も、財務省も「まったく同じ物だと」考えているようです。

私は医療者として断言します、「考え方の根本が絶対間違っている」と。

それでもこういう意見って声が小さいのですよね、せめて一人ぐらい賛同してくれる人はないかと思っているのですが、世間の関心は低いですね。世間の関心が高まるのは、実際に窓口で自己負担分を支払って「痛み」を実感しないと難しいですからね。