中国四千年の麺

4000年前の麺

ラーメン好きです。ラーメン通とまで行かなくてもそこそこ良く食べに行きます。日本のラーメンのルーツは諸説ありますが、大本はやはり中国由来と考えるのに異論は少ないと思います。ではラーメンも含む麺類の発祥の地も中国かといえば、西の麺類王国であるイタリアが「ちょっと待った」との異議を申し立てているようです。イタリアと言えばスパゲッティをはじめとするパスタ料理の本場。パスタ料理自体も容易に古代ローマ帝国までは遡る事ができ、「我こそが麺類発祥の地である」と主張しているようです。

なにせ食い物の話なので、古いものはそう簡単には化石や遺物で残りにくく、また麺類自体は古代から宮廷料理の主役と言う訳ではなく、むしろ庶民の料理として発展した部分が大ですから、「いつから」論争はそう簡単には決着しないものがあります。それでもこれまでは2000年前までは確認できるとされていましたが、それ以上になると王朝の記録はあっても麺類の記録は無く、発祥地論争はその辺で留まっていたようです。

ところが今回東の麺類大国である中国がとんでもないものを発見したと発表しました。なんと4000年前の麺を発見したと言うのです。これまでの麺類の歴史を一挙に2000年も更新したのです。それも見つかった状態も驚異的です。ひっくり返ったどんぶりの下に黄色味を帯びた太さ3mm、長さ50cmほどの麺が見つかったとのニュースです。写真が小さすぎて分かりにくのが申し訳ありませんが、現在のラーメンの細麺に似た形で、とても4000年前のものとは思えないぐらいの生々しさです。さすがにスープは残っていないようでしたが、まさに奇跡の発見としか言い様がありません。

これで麺類発祥地論争に終止符が打たれるかと言えば、少し疑問が残ります。どこぞの日本の捏造騒ぎまではさておいて、中国の麺類の発展からすると逆行するものがあるからです。短いニュースですので、解説も断片的ですが、今回見つかった麺は練って延ばして切ったようであるとされています。麺類の製作法として当たり前の方法ですが、これまで中国最古の麺と言われていたものはそんな製法ではないのです。

これまで中国最古と言われる麺は西晋時代(1700年前)に山西省を発祥とする刀削麺で、これは良く練って団子にした生地を刀で削って麺にするものです。通説ではやがて生地を延ばして麺にする方法が普及し、これが現在の麺の製法の主流となったとされています。ちなみに刀削麺は現在でも健在で、私は食べた事はありませんが美味だそうです。

今回の4000年前の麺が延ばしたものであるのなら、中国の麺類発達の歴史は生地を延ばす時期から一旦削る時代に戻り、もう一度延ばす方に発展しなおした事になります。これって何か不自然な気がしませんか、麺を削って作った方が延ばすより進歩した方法であるなら問題はありませんが、刀削麺以後1700年の歴史を見ると、麺の出来からすると延ばした方が優れているから発展したと素直に取れます。美味追求では世界有数の民族である中国人が麺の製作法でそんな試行錯誤を行なったとは考えにくいのです。

もっとも今回発見の4000年前の麺と刀削麺の間には空白の2300年があり、その間に麺類がどんな発展を遂げていたのかは知るすべもありません。ごく常識的に解釈すれば、延ばすと削るの両方の方法が並行してあったと考えれば矛盾は解決できるのですが、1700年前にはなぜか削る方が主流であった事の説明がどうにも難題と見えてきます。

全国のラーメンマニアの皆様にお知恵を頂ければ幸いです。