医療報酬削減

実現性の高い形勢になりつつあります。私も医者ですから関心が無いわけではありませんし、無いというより非常に心配しているのが本音です。厚生労働省案で2〜3%、首相のご意向の反映である経済諮問会議で5%が打ち出されていますので、削減される事だけは必至です。

厚生労働省案では診療報酬だけではなく

  • 長期入院患者からの食住費徴収
  • 一定所得以上の70歳以上の高齢者の窓口負担の3割への引き上げ
  • 高額療養費制度の負担上限額引き上げ
  • 低額の医療費を患者の自己負担にする「保険免責制度」
もあわせて医療費抑制を検討するとなっています。

なんのために医療費削減をするかと言えば財政再建のためです。経済諮問会議の医療費削減の発想は見事なぐらいのそろばん勘定です。つまり医療費抑制をするには支出を削減すればよい、支出を削減するには医者への報酬を減らし、病院を受診する患者を減らせばよいと言う事です。減らすためには大義名分と目標値が必要です。大義名分は危機的な財政危機で十分です。目標値は経済成長率や物価の動向であるということです。

診療報酬を物価と連動させるのはある程度筋が通っています。これを真正面に掲げられると反論しにくいのは事実です。デフレで物価の下がる中、診療報酬だけ青天井で上げていくのは世間で通用しにくいことは素直に認めざるを得ません。下がればうちも含めてですが、経営が苦しくなるのは明らかですが、この問題は今日は置いておくとします。

医療費全体を経済成長率で規制するのは理屈に合わないと考えます。日本は言うまでもなく物凄い勢いで少子高齢化が進み、人口構成の高齢化に驀進しています。高齢者は少数の例外を除いてリタイア世代です。会社を勤め上げて定年となり年金生活に入る、こんなスタイルははっきり言ってごく普通のライフスタイルです。年金生活に入った高齢者に経済成長率を押し上げるパワーはありません。また高齢者の比率が増えていくと働く世代の高齢者への負担は増え、これも経済成長率の足を引っ張る要因となるんじゃないでしょうか。

一方で高齢者は体の衰えとともに持病が加速度的に増えていき、医療機関への受診は増えます。病気知らずの元気な高齢者もいますが、勤労世代に比べ桁違いで医療費を必要とすることは自明の事です。

つまり人口構成の高齢化は経済成長率が下がり、医療費が増える事になってしまうのは連動している現象と言えます。反対に人口構成が若い方が、経済成長率を押し上げ医療費が減る傾向になると考える方が自然だと思います。もちろん経済成長率は他の様々の要因が複雑に絡むため、人口構成だけで決定するものではありませんが、同条件なら人口構成が高齢化するほど経済成長率が低下し医療費が増大すると考えるのが常識的です。

私のような経済の素人でもそれぐらいは考えますが、財界人と呼ばれる人間はそんな発想は無さそうです。財界人の発想は経済成長率が上がれば医療費が増大し、経済成長率が下がれば医療費が減少するはずだと信じ込んでいるようです。それが経済のプロのはずの財界人の思考のようです。つまり経済成長が足踏みしているのに医療費が増える事態など信じられないと言う事です。

たしかに商品売買や金融業などは経済成長と売り上げは密接に関連していると考えます。経済成長率が上がらないのに商品売買がどんどん盛んになることは考えられないからです。一方で医療費は経済成長率の低下とは関係なく人口構成が高齢化すれば増えます。もっと言えば経済成長率が上がろうが下がろうが高齢者が増えるだけで医療費は増大します。こんな長々と書かなくても誰でも知っていることです。

こんな単純な理屈が経済諮問会議のメンバーには理解できないようです。いいえもちろん分かっていて論理のすり替えをして平気でふんぞり返っています。なんと言っても町金融の親玉みたいな冷酷非情の因業金貸しが主催している会議ですから、発想が金貸し感覚です。あの因業金貸しは平気で「医療費の自己負担を増やせば受診が減り、医療費が削減できる」と誇らしげに言うのですから始末に終えません。

病院受診なんて趣味でする人はごく少数派です。困っているからするのです。病気で困る人に貧富の差はありません。商品売買は値段が上がれば、買うのを我慢する人、買えなくなる人が増えて売り上げが落ちるかもしれませんが、病気は我慢したり、受診をあきらめる事は生命にかかわるものになります。それを自己負担分が増えて病院受診を医学的判断とは関係なくやむなく控えた病人をさして、「無駄な受診分を抑制した」と胸を張る因業金貸しの論理にはついていけません。

物事を考える時に身近な視線と大局的な視線の両方が必要です。因業金貸しはその本職通りに帳簿だけを見て病人を全く見ていません。因業金貸しにとって自己負担が増えて受診出来ないような病人は、そもそも受診する必要が無かったと断定しているのと同じ意味です。まあ、あそこの商売からして通院するのにお金が無い人に貸し出せる市場を開発できるわけですから、究極的にはすべて自費にでもなれば儲かって仕方がないというところでしょう。

それにしてもそんな見識の因業金貸しが政府の信頼する有識者ですから、皆様体にはくぐれもお気をつけください。