優勝風景

日本中の阪神ファンのブロガーがきっと阪神優勝の感動を力説していると思うので、それは他人に任せることにします。私も書き出したら小説みたいに長くなってしまうのもありますが。

今日は少し見方を変えて優勝の瞬間からの風景を書いてみたいと思います。昨日はこんな感じでした、

    巨人最後の打者阿部の飛球をレフトの金本がガッチリ捕って試合終了、野手をはじめベンチ入りしていた選手たちが一斉にマウンド上の久保田に駆け寄ります。歓喜の輪が出来上がったところに岡田監督が招き寄せられ胴上げ。 3回、4回、5回と宙に舞い(最後に落下したのは笑いましたが)、やがてペナント授与の表彰式、さらに選手全員が六甲おろしの大合唱の中、場内一周。記念写真を撮ってセレモニーは終わります。もちろんこの後は会場を変えてビールかけです。
べつに阪神だけではありませんが、最近の優勝風景ではほぼ定番のスタイルです。個人的には「アニキ」金本や選手会長の今岡、下柳ぐらいの胴上げがあっても良かったと思いますが、この辺は日本シリーズに向かって封印したのか、全員野球で全員ヒーローの趣旨だったのかは選手たちに聞いてみないとわかりません。

この風景を見ながら実に整然としたものだなぁと感じてしまいました。もちろん今回はまだ2年ぶりの優勝ですし、昨日の試合自体も展開は典型的な阪神楽勝パターン。最後の抵抗を宣言していた堀内巨人も、阪神の勢いと甲子園の圧倒的な大声援の前にすっかり大人しくなってしまい「なにがなんでも胴上げ阻止」の気概のカケラもなかったのもあります。少なくとも'85に神宮でヤクルトがみせた気迫とは雲泥の差があります。

整然と優勝セレモニーをして悪いわけではありませんが、三昔前の優勝風景と較べると変わったものだと思います。三昔前と言うと昭和50年代になります。この頃は昭和40年代に圧倒的な強さを示していた巨人の力がやや衰え、一方で長い間低迷にあえいでいたチームが歓喜の初優勝を相次いでした時代です。広島、ヤクルト、近鉄です。

とくに弱小ゆえに熱狂的なファンを抱えていた広島や近鉄の初優勝シーンはまさに歓喜の一言に尽きるほどのものでした。その頃の優勝風景の定番はこんな感じでした。

    「アウト、試合終了」の瞬間に、数千のファンがフェンスを乗り越えてスタンドから球場内になだれ込み、一斉にマウンドに向かって殺到します。胴上げはもちろん行なわれ、中心はもちろん選手ですが、ファンもその中に混じりこみ、監督から主力選手のほとんどを次々と胴上げされます。もちろん場内一周もありましたが、ファンと選手が連れ立っての騒然たる風景でした。
この雰囲気は'昭和60年代にもある程度残り、'85の阪神優勝のときにも神宮球場の外野の前二列には観客を入れず、警備員をずらっとならべて乱入防止をしていたのを記憶しています。関係者の話にも「本当は甲子園で優勝して欲しかったが、本音は警備に自信が無いので神宮でよかった」との談話をどこかで読みました。ファンが乱入しての優勝風景が理想なんて言う気はありませんが、あれはあれで味があって良かったなと今年の阪神の優勝風景を見ながらふと思ってしまいました。

そういえばファンが乱入する風景はなくなりましたね。かつては優勝風景だけではなく、試合にトラブルが発生するとファンが大量乱入して、試合をぶち壊したり、対戦相手の帰りのバスを取り囲んで立ち往生させたりがしばしばありましたが、ここのところすっかり耳にしなくなりました。

私が覚えている限りで有名なのは'73に阪神が甲子園の最終戦で宿敵巨人に大敗して優勝を逃した時、試合終了と同時に怒り狂うファンがそれこそ無数になだれ込み、巨人選手は胴上げどころか優勝セレモニーひとつできずに脱兎の如く甲子園から逃げ出した事件があります。

また'75の広島初優勝の年、激しく優勝を争っていた中日との微妙なクロスプレーがもとで広島ファンが大量乱入。中日の選手に大量の負傷者が発生し、翌日の試合が行なえなくなる事件がありました。この年には広島は巨人戦でのトラブルでも帰りのバスを包囲し、投石、狼藉の限りを尽くしたのも有名です。

社会的見地からしてこういう乱入行為は褒められるものでは決してありませんが、そこまで贔屓チームに肩入れする熱気と言うか、雰囲気と言うか、心意気みたいなものは嫌いではありません。乱入行為が絶滅したのはそれだけプロ野球ファンが礼儀正しくなったのか、マナーが向上したのか、それともそこまで人を熱狂させるパワーが失われたのかは私にはわかりませんが、整然とした優勝風景を見ながらそんな事を思い出していました。