女神伝説第2部:魔王対策の検討

 痴漢退治じゃなかった魔王対策は、シノブ部長も交えて三人であれこれ立ててます。まずはっきりわかったのはミサキの女神の本質。首座の女神が仰ってましたが、能力の本質は癒しであって、戦闘には向かないようです。ですから、

    「ミサキちゃんは治療をヨロシクで」
 これは納得したのですが、対策会議はとにかく進みません。難航しているというよりも、魔王の悪口をコトリ部長が言い出すと一時間は止まらないです。よくまあ、あれだけ悪口が言えるものだと感心するぐらいです。ですから最初の三回ぐらいはコトリ部長の魔王への悪口の独演会で終ってしまいました。それでもさすがは知恵の女神、悪口を言いながら次の計画を立ててるようです。まずはシノブ部長の一撃の復活です。
    「シノブちゃんが出来るようになれば効果は抜群なの。コトリよりよほど強力な気がするぐらい。最初の時は玉座の後ろにあった分厚い石の壁が大爆発して粉々になったし、二回目の時は魔王の親衛隊をそれこそ消滅させちゃったからね」
 かなり強力な武器になりそうなのですが、
    「問題はコントロールなのよね。極端な話、どこに飛んでくかわからんぐらいのところがあるの。撃つとこ見てたけど、撃つ瞬間の前に気絶してるのよね。あの頃に聞いたけど、気合が入り過ぎると全エネルギーが注ぎ込まれるみたいで、そこのコントロールも出来へんみたいなのよ。まあ、あれだけノーコンやったらかえって魔王も返って交わしにくいと思うけど。この辺をどうするか」
 要約すると当たれば効果は大きいが、なかなか当たりにくいぐらいがシノブ部長の一撃の位置づけのようです。だから三千年前は先に輝く天使に撃たせたのかも。
    「もう一つ、気が付いてんけど。密着の一撃は効果あるんや。あの一撃はとにかくロスが多いんやけど、距離があればあるほどあっという間に拡散してもて効果は落ちるってところ。舞子の時の二撃目はお世辞にも強なかってんけど、それでもあれだけ効果あったからな」
    「でも近すぎると巻き添えになるリスクが」
    「そこやねんな。とにかくあの一撃は離れて撃てるだけがメリットで、パワーは極端に消耗するし、外れた後はガタガタになるし、近すぎたら巻き添え喰らうねん。武神が使わへんのはようわかる。練習するのも一苦労やねん」
    「それにしても、なぜにそれほど使いにくい技を編み出したのですか」
    「そんなもの、あのクソエロ魔王の体に触れたくない一心に決まってるやろ」
 なにか女神と魔王の間にエロのエピソードでもあるのか気になるところですが、下手に聞くとコトリ部長の悪口が止まらなくなりそうなので自制しました。ここでちょっと思いついたことが、
    「ところでですが、コトリ部長が実戦で使われたのは何回ですか」
    「三回で合計四発やけど」
    「魔王が一撃を実際に交わされたのは?」
    「輝く天使の二発と舞子の時のコトリの一発やけど」
    「舞子の時はそんなに鮮やかに交わされたのですか」
    「いいや、あの一撃って輝く天使が撃ってもノーコンやけど、コトリが撃っても距離が延びるとコントロールは怪しいのよ。撃った瞬間に『しもた』って思たもん」
    「これって、もしかして魔王は一撃を交わせないんじゃないでしょうか。輝く天使の二発とコトリ部長の一発が外れたのは、魔王が交わしたのではなく、勝手に外れただけの可能性もあると思います」
    「だったら魔王の交わせると言ってるのはハッタリってことか。う〜ん、ありえるな。とにかく姑息な悪知恵はエロと同様に無尽蔵に湧く野郎やからな」
 ウソとハッタリはコトリ部長も使ってるんですが、
    「ホンマにクソエロ魔王が交わせるかはわからへんけど、そう想定するのもリスクが高い。とにかく撃ってもたらオワリの代物やから、実際に交わされたら今度は確実にエロされて殺されてまうし」
 エロはこの際、置いといて、
    「まだ問題は残ります。かつてコトリ部長と首座の女神が二発打ちこんでも抹殺出来ていません。今回も最大でコトリ部長とシノブ部長の二発です。これでケリがつくのでしょうか」
    「そこも考えなアカンとこやな。今度こそ三千前の決着つけなアカンし。どうやったらギタギタに出来るかや」
    「コトリ部長、とりあえずシノブ部長に撃てるように教えられたらいかがですか」
    「そやな、二発でケリがつくかは未知数としても、とりあえず二発使えんと話にならへんし」
 ここでシノブ部長が、
    「たぶん撃てると思います。一度試射したいけど、どこかに適当なところありますか」
    「シノブちゃん、試射って簡単にいうけど、あれ撃ったら次の日まで気絶してるやんか」
    「そうなんですか」
    「三回見た。それとエレギオンで試射した時は空に向かってくれたから良かったようなものだけど、何かに当たると大変な事になるのよ。そのうえ、空に向かうか、どこに向かうか怪しいとこ満載やし」
 シノブ部長は一度撃つと翌日まで意識不明のようです。それにしてもシノブ部長の一撃はどこに飛ぶかわからないし、当たればクレイエールの本社ビルに大穴どころか風穴開けてしまいそうで、ちょっとテストっていかなそう。
    「コトリ部長も、シノブ部長もそれなりに無理なく撃てる間隔はどれぐらいですか」
    「ホンマは一か月ぐらいは欲しいけど、一週間ぐらいでも無理したら撃てると思う」
 そんなに次撃つまで時間がかかるんだ。でも、ここで思いついたことが、
    「魔王は一発でもまともに当たればダメージは大きいですよね」
    「結構大きいのは確かや」
    「その回復もかなり日数がかかりますよね」
    「うん、相当かかる」
    「だったら最初に二発当てて弱らせといて、一週間後にもう二発当てたらトドメになりませんか」
    「無理やな。そんなんしたら誘拐監禁になってまう。警察が出てくるとウルサイ。魔王は抹殺するけど、原口社長を殺すわけじゃないからね」
 こういうところはすぐ気が付くのがコトリ部長です。それならそれで気になることが、
    「今までにコトリ部長と首座の女神の一撃は当たってますが、魔王じゃなくて宿主の人の方はどうなんですか」
    「あれなぁ、神を宿す人に当たったら、人への影響は気絶する程度で、ほとんど神に当たるみたいやねん」
    「でも話に聞く限り輝く女神の一撃は性質が違う気もします。下手すれば人ごと消滅させかねません」
    「そうやねんけど、まだ神を宿す人に当たったことないからな。とりあえず間違って人とか物に当たったら大変なことになるのだけは確実や」
 コトリ部長の怪気炎だけ聞いていると魔王をいかに料理するかの方法論みたいに感じますが、冷静に考えると不利な材料ばかりです。神々の戦いの基本である組み合っての消耗戦になれば女神が負けるのはまず確実そうです。というか、ここだけで絶対的に不利なのです。そこで一撃が出てくるのですが、これがとにかく未知数部分が多すぎて使いにくい武器で、実質として一発しか使えない上に、使ったらヘロヘロになり、当たるかどうかも不確実。さらに決定打にもなりそうにありません。

 こんな不確実性が高すぎる武器だけで魔王に立ち向かおうとするのは、無理を通り越して無謀の気さえします。それなのに首座の女神はコトリ部長に一任にしていますし、コトリ部長もそれで了承しています。これで本当に魔王に勝てるのか不安です。