満開の桜の中、シノブ部長が帰ってきました。あの輝く笑顔とともにです。さっそく情報調査部に挨拶に伺いました。
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「シノブ部長、復帰おめでとうございます。お子様はお元気ですか」
「ミサキちゃん、久しぶり。息子は元気よ、ミツルの小さい時にそっくりで、もう可愛くって、可愛くって。なんか旦那が二人になった気分」
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「ミサキちゃん、変わったね。悪い方じゃなくて、イイ方よ。とにかく忙しいのは聞いてるけど、近いうちにコトリ先輩とも話をしないと」
シノブ部長の復帰はコトリ部長とミサキの負担をかなり軽くしてくれました。コトリ部長はブライダル事業の主な指揮をシノブ部長に取らせて、ジュエリー事業にかなり専念できるようになりました。負担の軽減は『あれっ、今日は午前様でなかった』、『十時に終わってる』、『八時で終りなんてウソみたい』と減って行き、ふと気がつくとコトリ部長と社員食堂でランチしてました。そしてついに、
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「五時だ、五時だ、ミサキちゃん帰ろ」
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「カランカラン」
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「ミサキちゃん、ホントによく頑張ったね。ミサキちゃんがいなければ乗り切れなかったよ」
「それにしても、なんだったのですか?」
「うん、ここまでくれば・・・」
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「おかしすぎるんだよね。ラ・ボーテの動きが。コトリもラ・ボーテの原口社長を知ってるけど、こんな切れ者じゃないのよ」
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「独善、狭量だけじゃなくて、センスがないというか、器が小さいというか、あれでよく副社長になれたと思う人物なの。それが今や業界の風雲児扱いになってるの。そりゃ、あれだけの実績を上げれば、そう呼ばれてもイイようなものだけど、人間があの歳であれだけ急に変われると思えないの」
「良いブレーンに恵まれたんじゃないですか」
「それがね、相変わらずの独善みたいなのはこの特集記事でもわかるのよ。今じゃ独善でなくて独裁みたいだけど、ブレーンを抱えてというよりも、原口社長の才能というか手腕でひたすら伸びてると見て良さそうなの」
「トップに立って才能が開花したとか」
「否定はしないけど、ラ・ボーテの社長になってからも、ずっと鳴かず飛ばずだったのよ。それが一昨年ぐらいから急に目覚めたように、動きだしたって感じ。どう考えたっておかしすぎると思うの」
「それって・・・」
「もっとおかしいのは、クレイエールには三人の女神が在籍してるのよ。たしかにシノブちゃんは育休中だったけど、コトリとミサキちゃんがあれだけ頑張っても防戦一方だったじゃない。これもおかしすぎる事なのよ」
「なにか心当たりがあるのですか」
「うん、昔に似たようなことはあったの。昔と言っても三千年以上前の話だから、まさかと思うけど」
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「ところでシノブちゃん、育児はどう?」
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「ところでシノブちゃんとこの調査課も少しは使えるようになった?」
「ボチボチ、去年は休んでたからね」
「で、なにかわかった」
「去年からそればっかり、やってるようなものだけど、たいした情報は今のところ。でも、伸び出したのは一昨年の秋物商戦ぐらいからでイイと思う」
「資金源はわかった?」
「これがハッキリしないのだけど、アッバス財閥が怪しい気がしてる」
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「でもアッバスは結構シビアじゃない」
「そうなんだよね。たかがラ・ボーテに資金供給するとは思えないし、クレイエールを潰しにかかるのも腑に落ちないところ。アッバスが力を注ぐ理由が合理的には見つからないの」
「そうなると、合理的でない理由があるしか考えられないね」
「コトリ先輩、そっちに行っちゃう」
「シノブちゃんは去年休んでいたから実感に乏しいと思うけど、そう考えたくなっちゃうの」
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「会ってみるか」
「誰にですか」
「原口社長に。写真じゃわからないものね。ミサキちゃんも来てみる」
「是非と言いたいところですが、話がちょっと見えにくいのですが」
「そっか」
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「やっぱりミサキちゃんは来ない方がイイわ」
「どういうことですか」
「ちょっと危険かも」
「また首座の女神との対決みたいなことが起るのですか」
「そこまでならないと思ってるけど、なる可能性はあるからね。たぶん、いきなりはないはずだけど」
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「会うと言っても、すぐにどうしようもないから、その時までに考えとく」