今日は久しぶりにマリちゃんと晩御飯。ミサキもイタリア行ったり、マルコ氏の工房の立ち上げにかかりきりになったり、さらに新しい天使ブランドへの参加で忙しく、マリちゃんに会うのも久しぶりです。
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「遅くなったけどイタリアのお土産」
「ミサキちゃん、わざわざありがとう」
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「ミサキちゃんは若手ナンバー・ワンって呼ばれてるよ」
「そんなぁ、小島部長と結崎部長の金魚のフンやってただけよ」
「あら知らないの」
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「そう言うけど、ホントに後ろに付いて行っただけよ」
「私もね、その辺のところがわからない部分もあるんだけど、あのイタリア出張って、あの二人の天使部長が本気出して行ったものじゃない。それもだよ、副社長に喧嘩売ってまで行ったって話じゃない」
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「普段の天使部長は一緒に仕事していて楽しくて、憧れの部署なんだけど、天使部長が本気出した時は猛烈でそりゃ周囲が大変なことになるそうなのよ。だから、それに付いていけた者なんて、そうそうはいないって話よ。悲鳴をあげて脱落するか、なんとかやり抜いても、しばらくは腑抜けみたいになるって言ってた。今回なんて二人セットなのよ」
「それは言い過ぎと思うよ。お二人とも優しくしてくれたし、そんな無理な注文を次から次に押し付けられたりもなかったし」
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「ミサキちゃん、それ全部付いていけたの。私じゃ無理、絶対無理」
「そうかなぁ」
「実はね、ミサキちゃんが視察団に選ばれてみんなビックリしてたの。それもミサキちゃん一人じゃない。絶対に途中で逃げ帰ってくるって噂してた。それが最後までやり遂げただけじゃなくて、平気な顔して次の仕事やってるじゃない」
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『ワイン』
『イタ飯』
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『ミサキちゃん、さすがだね、見込んだ通りだったわ』
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「それとミサキちゃん、マルコさんの工房の立ち上げ担当になってるじゃない」
「それはイタリア語を話せる人がほとんどいないから通訳してるだけよ」
「それだけじゃないと思うよ。よくよくミサキちゃん考えて、まだ新入社員だったのよ。私なんてお茶くみと簡単な仕事しかさせてくれなかったもの」
「それは部署が違うから」
「逆だと思うよ」
さらに言われてみて気が付いたのですが、マルコ氏の工房準備室は二人しかいなかったのです。イタリア語の通訳能力しか期待されていなかったら、さらに実務が出来る人が配属されていたはずです。とにかくマルコ氏の日本語は極めて怪しい上に、工房建設のための注文は非常に細かく、これを上に伝え、実現させる仕事は大変でした。
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「ミサキちゃん。マルコさんって、とっても気難しくて、気に入らなければすぐに怒りだす人じゃない」
「そんなことないよ、陽気なイタリア男だよ」
「あそこのお弟子さんに聞いたことがあるのだけど」
「それって久山さん」
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「そう久山さんもかなりの経験を積んでる人みたいだけど。何作ってもボツだって言ってた。それにイタリア語しゃべれないのをボロカスに言われるって」
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『師匠の言葉のニュアンスが聞き取れないような弟子は不要だ』
それとマリちゃんの誤解があるのですが、マルコ氏の『出て行け』は口癖みたいなもので、怒る時には瞬間湯沸かし器のように逆上しますが、済めばアッサリしたものです。実際にマルコ氏が工房を始めてから、自分で辞めた弟子はいますが、マルコ氏がクビにした弟子はいません。退職を申し出た者にも、
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『君には才能がある、もう少し頑張る方が絶対に良い』
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「じゃあ、ミサキちゃん、聞くけどマルコさんに怒られたことある?」
「ないよ、そんなもの」
「久山さんが感心してた。あれだけ細かい点にうるさいマルコさんの要求を、一〇〇%どころか一二〇%レベルで実現させるなんて考えられないって」
「そんなことないよ、イタリア語会話が出来るだけよ」
「ミサキちゃん、まだわからない。本気の小島部長と結崎部長に付いて行けると言うのは、マルコさん程度は余裕で操縦できるってことなのよ。まだ新入社員だから肩書つかなかったけど、ミサキちゃんは工房準備室長を任されて一人でやり遂げてしまってるの。これだけ仕事が出来る若手は他にいないってこと」
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「それよりさぁ、ミサキちゃん」
「なに、まだなにかあるの」
「綺麗になったねぇ」
「天使のモデルの話?」
「それもあるけど、こうやって久しぶりに会って驚いてるの」
そいつは誰だって話題になったのですが、とにかくミサキはマルコ氏の工房と言うか、マルコ氏のお世話にかかりきりで、あんまり姿を見られることがなかったのです。ですからわざと普通の女性を使ったエコノミー・ブランドじゃないかとまで言われたそうです。それが実際に見てみると話題騒然みたいになったようです。
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「今じゃ、クレイエールの三大美人って呼ばれてるよ」
「大げさ過ぎるよ、小島部長や結崎部長の足元にも及ばないよ」
「悪いけど私もそう思ってたけど、実際にこうやって会ってみて、納得したわ」
「マリちゃんまで、何言うの」
「こらミサキちゃん、この私の言葉が信じられないの」
そう考えれば、二人の天使部長の仕事に付いて行け、マルコ氏の工房立ち上げにも成功したのは天使の能力が現われているって説明は不可能ではありません。まさか、それを見抜いてコトリ部長もシノブ部長もミサキにあれだけ目をかけられ、イタリア旅行に連れ出したとか。あのイタリア旅行のもう一つの目的がミサキの天使の封印を解くためだっただっとか。でもローマでヴェンツェンチオーニ枢機卿に会った時には、
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『私には、はっきりと二人の天使が見える』