第3部後日談編:可愛いユッキー

 ユッキーはあの夜から別人のように変わったんだ。ユッキーであるのは間違いないんやけど、そこには氷姫も、ユッキー様もどこにもいなくなったのです。今にして思えば、ユッキーは本来の性格の上に氷姫の分厚い殻をかぶり、その殻のわずかな隙間からユッキー様をやってたんじゃないかと思うようになっています。

 この氷姫の分厚い殻を取り去ったユッキーは輝くような可愛い女になったんだ。昔からユッキーを知っているボクでもそうなんだから、病院の連中は腰を抜かしているんじゃないかなぁ。仕事柄、そうそう毎日ってわけにはいかないんけど、デートの時のユッキーは本当に可愛い。もう可愛いとしかいいようがなくて本当に困ってまうんや。同じ褒め言葉じゃ悪いと思ってあれこれ言葉を探すんやけど、

    「可愛いだけで他はいらないよ。だって可愛くなりたかったんだから。そこだけ褒めてもらったら嬉しくて眠れないぐらい」
 デート中はまさにベタベタ。一分一秒でもボクに触れていたいみたいで、デート中は左腕にずっとしがみついて離れません。さすがに人目が気になるのですが、そこだけはユッキー様の面影が残っているのかもしれません。あれも人目なんか関係なかったですから。

 婚約指輪に関しては、コトリちゃんに前にあげてしまったので金欠。ちょっと待ってくれとお願いしました。そりゃ、あの時以上の指輪を贈りたかったからです。余程どこかから借り入れしようかと思ったのですが、

    「婚約指輪なんていらないよ、その代わり一緒にいて抱きしめて」
 なにか贈ってあげたいのですが、何を言っても
    「カズ坊だけで他はなにもいらないよ。ホントに大好きなカズ坊さえいれば幸せ」
 もちろん抱きました。よもやと思ったのですが、初めてでした。その後に泣いたのですが、痛かったかと思って気づかったら、
    「ぜんぜん、やっと大好きなカズ坊のものになれてうれし泣きなの。私ってこんなに幸せです」
 もう何をしてもユッキーは『幸せ』しか言いません。それも心の底から言ってるようにしか聞こえないのです。それとユッキーの『幸せ』を聞いただけで、ボクも心の底から幸せな気分に満たされてしまうのです。一度、
    「たまには漫才するか」
 こういったら
    「それだけはゴメン。もうやらないって決めたんだ。だってあんな言葉を漫才でも大好きなカズ坊にかけたら、私、罰があたる」
 ただちょっとだけ気になったのは、痩せ方。恋する女がやせたって良いのですが、これでも医者ですから気になります。
    「ちょっと痩せたんちゃう」
    「はははは、わかった。大好きなカズ坊に気に入られようと思ってダイエット頑張ってんねん。わかってくれて嬉しい。そんなカズ坊と一緒にいれて幸せ」
 これはウソです。ユッキーはもともとスリムと言うより華奢なんです。あの体で病院の激務に良く耐えられるかと不思議なぐらいです。
    「いっぺん病院行った方がエエんちゃうん」
    「そんなん、毎日行ってるよ。これでも医者やから安心しといて。こんな事まで心配してもらえてすごい幸せ、カズ坊大好き」
 こうやってはぐらかされます。とにかくこれだけ一途に惚れられたのは生まれて初めてで、ユッキーを選んで大正解だったと思う毎日が続きました。それぐらいユッキーは可愛くて、素敵で、綺麗で、優しくて・・・そうなると後悔するのは高校時代。これだけ想ってくれてたユッキーに気が付かなかった事です。これも言ってみたんですが、
    「あんときは、あんとき。あんときじゃ、きっとこうなってなかったと思うの。今だからこうやって結ばれたんよ。私はもうこれ以上、幸せなことはないもん」
 当然式の話も持ちだしたんですが、
    「急がなくたってイイよ。カズ坊の体が本当に回復するまで一年はかかると思うの。それまで私と付き合って、私で間違いなく良いと思ったらその時に考えよ。もし嫌になったら、気にせず抛り捨ててね」
 後半の言葉に少し怒りました。ユッキー以外の相手なんて考えられるはずがありません。そういってもニコニコしているだけです。やっぱりカズ坊は大好きで幸せしか言わないのです。どう考えたって永遠に続きそうな時間だったのですが、事件は突然起こります。
    「カズ坊ゴメン。もう会えないの。短い時間やったけど本当に幸せでした。きっと私はカズ坊に会うために生まれて来たんだと思うの。会うだけで十分やったのに、恋人にまでしてもらって、もう思い残すことはありません。頼むから探さんといてね。私はカズ坊の思い出だけで十分生きていけるから。新しい彼女見つけてね。私ではやっぱり役不足。そうなれるかと思ったけど、やっぱりダメだった。ちょっと悔しいけど運命には逆らえないの。あんな幸せな日々をありがとう。永遠に愛してるよ。ユッキーより」
 この手紙を読んで茫然自失になりました。『また振られた』かと思いましたが、今度ばかりは信じられません。それとこの手紙、ユッキーの端整な字であるのは間違いないのですが、ユッキーらしくなくかなり乱れています。やっぱりあの痩せ方は・・・。

 ユッキーの勤務先の病院に行っても文字通り剣もホロロの対応でしたし、中に入ってユッキーを探そうにも不審者扱いでつまみだされます。日参しても追い返されます。まるでストーカー扱いにされてしまいます。

 わからない、わからない、どう考えてもユッキーの身になにかが起こったとしか考えられません。待ってろよユッキー、このカズ坊様がどんなことをしてでも救ってみせる。あれだけ世話になったユッキーを一人にするものか。大好きだユッキー、愛してるよユッキー、二人は、二人は正真正銘の混じりっ気なしの夫婦だぞ。