医療閑話・不正品ワクチン問題

秋ぐらいから本業で困らされていたのは化血研問題。とにかくモロに本業に密接に関わる問題なので情報収集と対策に振り回されました。そのまとめというより愚痴みたいなものです。


化血研はなにをやったのか?

とりあえず厚労省1/8付報道発表資料より

一般財団法人化学及血清療法研究所に対する改善指示について
 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「法」と略す。)第56条の31第1項の規定に基づき、一般財団法人化学及血清療法研究所(本所及び菊池研究所)(以下「化血研」と略す。)に対し、平成27年12月21日及び12月22日に立入検査を実施したところ、平成19年10月から12月及び平成27年10月の計4回、二種病原体等であるボツリヌス毒素を法第56条の27の規定に定める熊本県公安委員会へ届出をせずに事業所外に運搬していたことなどが確認されたことから、本日、化血研に対し以下の事項について改善を指示したのでお知らせします。

化血研に対する改善指示事項

  1. 特定病原体等の運搬に関するマニュアルを新たに整備するなど、適切に運搬業務を実施できる体制を整備すること。
  2. 特定病原体等安全管理委員会が事前審査を行うなど、特定病原体の運搬・保管等について特定病原体等安全管理委員会の関与を図ること。
  3. 病原体等を取り扱う全ての職員に対して、運搬業務に特化した定期的な訓練を実施するなど、教育訓練を徹底すること。
  4. 特定病原体等安全管理委員会が実施する内部監査を強化すること。
  5. 病原体等の保管等の記帳に関して、病原体等の受入れ、払出し、保管、使用及び滅菌等に係る記録を適切に記録、整備し、漏れがないよう確認を徹底すること。
 また、今般の事案の発生を受け、二種又は三種病原体等の所持者に対し、別紙のとおり、特定病原体等の取扱いに係る法令遵守の徹底を指示したので、併せてお知らせします。                        
(以上)
 

ボツリヌス毒素の話は聞いていましたが、それ以外の業務停止云々の話は影も形もなく拍子抜けしたところです。これじゃ何にも判らないので化血研HPより、

今回の処分は、弊所が、血漿分画製剤について長年にわたりこれを承認書と異なる方法で製造するとともに不正な製造記録を作成しこれを隠ぺいしていたこと、及び、独立行政法人医薬品医療機器総合機構による同製剤に関する立入調査において適切な対応を行わなかったこと、並びに、ワクチンについて厚生労働省の報告命令に対して適切な報告を行わなかったことによるものです。

やっと耳にしていた情報らしいものがあります。今回の処分のメインはおそらく、

    承認書と異なる方法で製造するとともに不正な製造記録を作成しこれを隠ぺいしていたこと
これが本丸で良いかと思っています。この化血研の不正を聞いての感想は、
    ワクチンや血漿製剤は完成品だけでなく、その製造過程の一つ一つにも認可が必要なんだ!
こういう事です。そうなると輸入ワクチンの使用なんて論外に近い事になります。そりゃ「輸入」って言うぐらいですから、国外メーカーが国外工場で製造したものですから、海外まで厚労省が監査になんて出かけられるとは「なかなか」思えないからです。ワクチン輸入が不可能ではないのは新型インフルエンザワクチンの前例がありますからわかりますが、少なくとも不足したからと言って手軽に輸入で補えないことだけは判ります。そりゃ国外ワクチンの製造過程の一つ一つを厚労省が審査し、承認を出すのに・・・何年かかるんでしょう。それはともかく化血研が不正を行ったのは事実ですから処分が下されるのは当然として、化血研問題には困った側面があります。
    製造過程は不正だが、出来上がった製品は合格
これが頭の痛い問題になっています。


化血研ワクチンのシュア

平成27年10月21日付厚生科学審議会感染症部会決定「一般財団法人化学及血清療法研究所の製造するワクチン製造等に関する意見」に掲載されています。

20160109141514

うちでも関係するところを抜粋しておくと

種類 メーカー数 化血研シュア
インフルエンザ 4 29.0%
四種混合 2 64.2%
B型肝炎 2 79.9%
日本脳炎 2 36.2%
日本脳炎やインフルエンザのシュアも大きいのですが、四種混合、さらにはB型肝炎となると圧倒的なシュアであることが判ってもらえるかと思います。シュア29.0%のFluだって出荷が自粛されただけで現場では対応に相当振り回されました。


業務停止の内容

これも化血研HPより、

〇第一種医薬品製造販売業及び医薬品製造業の業務停止

    期間:平成28年1月18日から平成28年5月6日までの110日間
    (ただし、安全対策業務、製造設備の維持管理に係る業務並びに製造工程の改善に係る
    業務及び業務停止命令除外品目に係る製造及び出荷業務を除く。)

110日間は異例というか、これまで最長の厳罰処分だそうです。ただなんですが、

    業務及び業務停止命令除外品目に係る製造及び出荷業務を除く
これが具体的になにになるかですが、ワクチンのところだけ抜粋しておくと、

20160109142914

見ての通りFluも、DPTPも、HBVも、日脳も業務停止から除外されています。まああんだけのシュアを持つ化血研ワクチンが突然消滅すれば公費接種に多大どころか半身不随になるのは目に見えていますから、除外にしたのは理解するとして、現場的にはそれだけでは困る問題が発生しています。


不正品発言

1/8付CBニュースの見出しより、

化血研の“不正品”使用強いられる医療現場−厚労省行政処分の一方で出荷再開容認

CBの見出しの

    不正品
なんですが、私は見ていませんが1/8のニュースで厚労省が頻繁に使用していたそうです。伝聞ですがこれを見ていたうちの看護師が
    「しつこいぐらい強調していた」
ですから事実して良いかと思います。ごく簡単な理解として、
    化血研ワクチン = 不正品
こういう扱いで厚労省は述べていた事になります。事実関係としては不正品でも間違いではないとは思いますが、ごくごく素直に不正品を現場で使用するのに猛烈な違和感があります。つうか厚労省お墨付の不正品を誰が喜んで使うだろうかです。これは接種される側もそうでしょうし、接種する側だってそうです。うちだって化血研以外のワクチンを四苦八苦して集めて接種しています。そりゃ不正品の化血研ワクチンを接種したら、
    うちの子に不正品を接種した!
こういう苦情が少なからぬ割合で起こる懸念で、そんなトラブルは御免蒙りたいところです。もうちょっと言えば
    不正品だが品質は問題ないから接種OK
こんな説得を何故に医療機関がやらにゃならんってところです。それでも厚労省は化血研の不正品込みで「足りている」アナウンスしかしないでしょうから、現場としては本当に困惑しています。とりあえず集められるだけの非化血研ワクチンを接種して、なくなったらお手上げってところです。まあ時間が経てば情勢も変わるかもしれませんから、その時に考えないと仕方ありません。とりあえずHBVに関してはどう頑張ってもヘプタの入手が困難になっており、いつになったら接種できるかはまったく見通しが立っていません。

あくまでも噂に過ぎませんが、化血研問題が起こった当初から最終的にミドリ十字方式で決着をつけるの話が業界筋では流れています。つまりは看板を付け替えての禊路線です。それでも別に良いとは思うのですが、はてさてどうなる事やらです。とにもかくにも正規品を安定供給してくれってのが現場の切実な要望です。