舞鶴型崩壊の類型

私は全く存じ上げないのですが、山香病院長は整形外科中心の経営方針を確立し、病院経営を黒字にした功労者だそうです。松前病院長は人望と指導力に溢れた地域医療のプロとも言うべき人材だそうです。お二人とも経営者である自治体の運営方針と衝突し、その結果、
  • 山香病院は98%の病床稼働率の6割を占める整形外科の医師が一斉に退職
  • 松前病院は全部で10人の医師のうち9人が退職の意向の情報
この後「どうするんだろ」と素直に思いますが、とにもかくにもそうなっているようです。ある種の舞鶴型で、舞鶴は全国に名を轟かせた研修システムについて経費節約を持ち出して実行担当の実力派医師が辞職し、あっと言う間に「そして誰もいなくなった」状態に至っています。ま、似てますねぇ。


医療に限らずですが、小さな組織ほどヒトに関る比重が重くなります。医療ではとくに地方勤務は魅力が乏しく、そういう魅力が乏しいところに医師を集め、病院を繁栄させるには相当な工夫と努力が必要です。のんべんだらりんと「院長でござい」ではドカ貧はなくとも、ジリ貧に苦しむのが現在の医療情勢です。さらに言えば、地理的に不利な場所で繁栄させる事が出来る手腕を持った医師(臨床能力とは別物)は非常に貴重です。求めたって手に入るものではありません。そんな医師がいてくれると言うのは僥倖以外の何者でもないぐらいのところです。

ただなんですが、地方に行くほど(地方に限らずの面もありますが・・・)その他の人材の質もまた低いと言うのがあります。自治体の首長にしても職員にしても基本的にその地方の出身者である事が多いと考えていますが、その地方の事を熟知している反面として非常に視野が狭い事も多々あるように感じています。それと地方の事を良く知っているは反面として地縁・血縁の絡まり合いがまた濃厚と言うのもあります、

冒頭に挙げた2つの病院は今の地方の医療としては非常に元気な病院として良いでしょうが、元気であるためにはかなり独自の工夫があります。この「独自」と言うのが時に自治体サイドとしては目障りになっていく気がします。多くの場合、病院医師は地元出身者から見れば「余所者」であり、余所者が楯突くのは感情的な問題に発展しやすいぐらいでしょうか。

もちろんそういう環境の中で創意工夫をして元気な病院にしてはいるのですが、自治体サイドにとっては病院が元気である事よりも「目障りな奴」がウロウロしている方が問題としてより大きく感じるぐらいです。付け加えておくと、そういう状態になると病院の繁栄は「考えるまでもない」前提となり、あの目障りな奴さえ追い出せば、気分的にスッキリした上で繁栄している病院はそのまま残るの計算です。


ところがいざ追い出してみると、追い出した人材が実は病院の「すべて」であった事が明確な事実として示されます。一本抜いたらガラガラと崩れ落ちるほどの要中の要のキーマンだと言う事です。ここも極論すれば、他の医師は別にその病院自体に魅力があって集まっているわけでなく、そのキーマン医師の魅力だけで集まっているだけの事に過ぎない事になります。そりゃ、いなくなれば単なる田舎の病院ですから、その病院にあえて固執する理由がなくなります。もっともっと魅力のある病院からの引く手は数多はもはや常識です。

外野から見れば単純すぎるお話ですが、それでも気が付かないところが数多くあります。そりゃ、かつては幾ら気に入らない医師を追い出そうが、すぐさま補充が大学医局から供給された時代はありました。しかしもう伝説になり久しいものがあると見ています。あえて言えば、魅力ある人材が魅力のある病院を作っている時には人材供給も前向きかもしれませんが、いなくなれば単なる不人気病院で、もっと派遣したい病院は幾らでもある世界になります。そんな病院への派遣に固執したりすると、今度は医局から逃げ出されてしまう時代に移ってしまっています。


それでも悲劇は繰り返されるようです。医師から見れば「もったいない」お話ですが、首長や議会と言っても民意で選ばれていますから、たとえ失政であってもこの被害を受け止めるのは住民と言う事になるのかもしれません。それより何より、住民自体が本当に「もったいない」と感じておられるかどうかも実のところ疑問です。そりゃ、「ない」より「ある」方が良いぐらいはあるでしょうが、必要不可欠まで考えておられる方がどれほどおられるだろうかです。

無くなれば少々不便になるでしょうが、あくまでも少々不便レベルであって、不便を現実的な対応でリカバリーしてしまう方が多数派と感じない事もありません。本当に困るのはリカバリー対応が本当の意味で困難であり、本当の意味で必要不可欠レベルであった方のみの気がします。そういう方々は案外少なく、病院が吹っ飛んだ後の行政対応も、そういう少数派の方々の対策さえ行なえば案外事は収まってしまう感じもします。

医師から見ればそれなりにインパクトの高そうな冒頭に出した2つの事件ですが、住民にとっては近所の商店(病院だからスーパーかな?)が一つなくなって「不便になった」レベルの気がなんとなくしないでもありません。もちろんですが、両病院とも行った事がないので本当の事情は知る由もありませんが・・・。