参照データは、
- 平成21年度財務諸表
- 平成22年度財務諸表
- 平成23年度財務諸表
- 平成21年度収支決算書総括表
- 平成22年度収支決算書総括表
- 平成21年度事業実績報告書
- 平成22年度事業実績報告書
- 平成23年度事業実績報告書
- 平成23年度事業計画
- 平成24年度事業計画
- 病院機能評価機構の無敵の経営後編・輝ける明日
ここは本題とは関係ないのですが、補償制度の加入率を機構は執念深く大変な熱情を持って調査されているので、分娩医療機関の実数が把握できます。
Date | 病院 | 診療所 | 合計 |
2010.6.3 | 1203 | 1696 | 2899 |
2011.3.3 | 1200 | 1695 | 2895 |
2011.5.18 | 1199 | 1693 | 2892 |
2012.2.1 | 1200 | 1695 | 2895 |
2012.5.7 | 1200 | 1689 | 2889 |
2010年から2012年の間に病院が3ヶ所、診療所が7ヶ所減少している事が確認できます。元ソースは日産婦となっています。ちなみに平成23年度実績では診療所7ヶ所を除いて保険料を徴収できています。
これも確認できる限り表にしておきます。
生まれ年 | H.23.2 | H.23.4 | H.24.1 | H.24.4 |
平成21年生 | 113 | 128 | 164 | 171 |
平成22年生 | 16 | 22 | 98 | 115 |
平成23年生 | * | * | 5 | 16 |
年月の経過に従って増えているのは、生下時では診断が難しかったものや、制度の事を後から知った者がいるためだと考えます。とは言え平成21年度生まれは既に早ければ3歳、遅くとも2歳になっています。そうなると171人から増える可能性はかなり低いと考えられます。既に気付かないはあるとは思えないからです。産科補償制度の対象児は他にも条件がテンコモリありますが、CPとしては、
運営組織が定めた重度脳性麻痺の障害程度基準によって、身体障害者障害程度等級の1級または2級に相当すると認定された場合をいいます。
これであり、ちなみに2級の上肢機能で、
不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作が極度に制限されるもの
これもちなみですが2級は「極度に制限」ですが、補償対象外の3級は「著しく制限」です。詳しくは冒頭のリンク先を宜しくお願いします。少なくとも見た目で気がつかないは「ありえない」とさせて頂きます。なお申請期限は5歳の誕生日までとなっています。
でもって平成21年生れの171人とは、どの程度の人数であるかの評価になります。制度設計時の補償対象児は2000人に1人とされています。年間出生(100万人とすると)に直すと500人です。では500人が補償人数の限界かと言えばそうではなく、平成21年度事業実績に
なお、年間の補償対象者数は最大800人と推計している。
制度上は800人まで可としているのが確認できます。平成21年度生れであれば500人として34.2%、800人として21.4%が補償としてカバーされているとも表現できます。それと平成21年生れは制度発足年であったため、利用者への周知が十分で無かった点は考慮すべきかと存じますが、平成22年度生れの現在までの動向を見る限り、平成21年度生れに較べて制度利用が促進されている気配を非常に感じにくいところです。
平成23年度事業実績より
年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 |
保険料 | 315億2476万6000円 | 323億9304万6000円 | 317億7988万円 |
補償金 | 46億8000万円 | 27億3000万円 | 9000万円 |
まずこの保険制度は、平成22年度事業実績報告書より、
本制度の補償の機能は民間保険を活用しており、平成21年に生まれた児に係る補償は、平成21年の収入保険料で賄う仕組みである。補償申請期間は児の満5歳の誕生日までとなっているため、平成21年生まれの児が満5歳となる平成26年を終えるまで、平成21年保険年度分の補償対象者数および補償金総額は確定せず、収入保険料は将来の補償に備えて保険会社が支払備金として管理する。
つまり、
- 平成21年生れの補償金は、平成21年生れの保険料から賄われる
- 補償申請期間は満5歳までであり、平成21年生れの子供が平成26年を終了した時点で補償総額が決定する
補償原資に剰余が生じた場合は保険会社から剰余分が運営組織に返還
「運営組織」とは「機構」のことです。言い換えれば、平成27年から毎年剰余分が機構に収益として戻ってくるです。2年半弱ほど先のお話です。ではどれぐらい剰余が生じるかと言えば、平成21年度事業実績報告書に
-
収入保険料 − 事務経費 = 支払備金
- 医療保険から保険料が機構に支払われる
- 保険料から機構と保険会社に事務経費が支払われる
- 保険料から事務経費を差し引いた残りが支払備金になる(支払備金は保険会社が管理)
- 支払備金から訴訟認定者に補償金が支払われる
- 支払備金から補償金が支払われた残りが剰余として保険会社から機構に神払われる
では具体的に「事務経費」「支払備金」「補償金」「剰余」がどうなっているかを確認してみます。平成21年度事業実績報告書は事務経費の機構分、保険会社分の端数まで書いてあります。この事務経費これも平成21年度事業実績報告書に、
運営組織と保険会社の事務経費を合算すると、収入保険料に占める割合は約15.7%となっている。
つまり保険料から決められた割合で事務経費が算出されるです。平成21年の比率で事務経費が差し引かれたとすると、以後の事務経費、支払備金は次の通りになります。なお桁が余りにも大きいので、億単位の表示にさせて頂いています。
年 | 保険料 | 事務経費 | 支払備金 | |
機構分 | 保険会社分 | |||
2009 | 315.2億円 | 15.4億円 | 33.9億円 | 265.9億円 |
2010 | 323.8億円 | 15.9億円 | 34.8億円 | 273.1億円 |
2011 | 318.0億円 | 15.6億円 | 34.2億円 | 268.2億円 |
平成21年を例にとって支払備金と補償額、剰余の関係を表にして見ます。
支払備金 | 補償人数 | 補償額 | 剰余 |
265.9億円 | 100人 | 30億円 | 235.9億円 |
200人 | 60億円 | 205.9億円 | |
300人 | 90億円 | 175.9億円 | |
400人 | 120億円 | 145.9億円 | |
500人 | 150億円 | 115.9億円 | |
600人 | 180億円 | 85.9億円 | |
700人 | 210億円 | 55.9億円 | |
800人 | 240億円 | 25.9億円 |
剰余の現状を簡単にまとめると、
- 制度上の上限とされてる800人補償でも25.9億円の剰余が生じる。
- 厚労省試算の500人も115.9億円の剰余が生じる。
- 現在の補償人数が200人まで増えても205.9億円の剰余が生じる。
保険料からの事務経費のうち、実際にどれほどが使用されたかの試算も可能です。手法は単純で、機構の産科保険事務手数料収益とは、保険料からの事務経費から実際に使われた経費を差し引いたものであると考えるのが妥当です。表にして見ます。
年度 | 機構受取事務経費 | 産科保険事務手数料収益 | 機構の実際事務経費 |
2009 | 15億4360万0000円 | 14億1982万3111円 | 1億2377万6889円 |
2010 | 15億8562万5403円 | 3億4880万7427円 | 12億3681万7976円 |
2011 | 15億5701万7986円 | 7億4437万9469円 | 8億1263万8517円 |
年度によりムラがありますが、億単位、平成21年などは10億円以上の黒字を計上している事が確認できます。簡単に言えば事務経費収入だけで機構は余裕の黒字と見れそうです。それと、これ以外に産科補償制度では国庫補助金も出ています。
年度 | 産科医療補償制度運営費受取国庫補助金 |
2009 | 2006万8000円 |
2010 | 7641万1300円 |
2011 | 8023万7000円 |
なんに対する補助金なのかよく判りませんが、とにかく年度毎に増えています。ただですが、産科補償制度事業の収益から言うと、なぜにこんな補助金が存在するのか少々不思議です。よく判らないところです。
- 本制度の見直しについては、「産科医療補償制度運営組織準備委員会報告書」において、「遅くとも5年後を目途に、本制度の内容について検証し、補償対象者の範囲、補償水準、保険料の変更、組織体制等について適宜必要な見直しを行う」と記載されている。
- 制度開始から5年後となる平成26年1月に見直し後の新制度を開始することを目途に、今後以下の体制、検討課題、スケジュールで制度見直しに向けた検討を進める。
こうしており、さらに
-
遅くとも5年後を目途に、本制度の内容について検証し、補償対象者の範囲、補償水準、保険料の変更、組織体制等について適宜必要な見直しを行う
まず何らかの制度改定は行われると考えます。そうすると事業計画に書いてあるからです。そこでポイントになるのは、
- 遡及適用
- 実補償対象500人
でもって遡及適用が行われるかどうかは、案外可能性が低そうにも思います。運用は保険ですから契約問題があるからです。それと産科補償制度が出来た時にも、遡及適用は行われなかった前例もあります。
もう一つの「実補償対象500人」は機構がとりあえず目指す人数になります。つうのも、元もとの厚労省試算が出生2000人に1人の年間500人があるからです。この500人ぐらいはやはり補償しておかないと拙いです。500人まですんなり広がるのか、紆余曲折があるのかはこれからのお話です。
ここでなんですが、よくよく見なくとも補償500人での剰余も巨額です。支払備金の4割以上である100億円を軽く超えます。現在は200億円の剰余が問題になっていますが、これが100億円なら問題は解消するのかどうかです。どうにもこうやって見ると、産科補償制度は最初から機構に100億円が約束されていた制度に見えて仕方ありません。
今回見直しが問題になったのは、剰余が余りにも大きすぎる点ですが、仮に当初の厚労省試算通りに500人補償が実行されていたら無問題ではなかったかです。そりゃ、当初の厚労省の予測通りの人数に補償しているわけですから、制度としては合格点になる理屈が成立します。こういう制度設計はキッチリ行われますから、誤算さえ生じなければ機構への100億円は設計通り、構想通りと見なされても不思議ないです。
では誰がそれを望んだかです。制度設計に大きな影響力・決定力を持ち、機構に毎年100億円が流れ込む事でなんらかのメリットを享受できる人、ないし人々、または組織になります。いったい誰なんでしょうか、私にはサッパリ見当がつきません。
これを純粋の保険ビジネスと考えれば優れたビジネスモデルの一つと言えるかもしれません。また私は良く存じませんが、支払備金の4割程度(500人試算)は保険会社が取るのは保険業界の標準レベルなのかもしれません。ただこの産科補償制度が一般の保険と同レベルで考えて良いものかどうかに、どうしても疑問が残ります。実運用上の都合から保険モデルを使ってはいますが、純粋の保険ビジネスとは違うはずだです。
こんな事を言ってもどうにもならないのですが、産科補償制度を運用している機構は公益財団法人です。公益財団法人とは一般財団法人設立用書類代行センターより、
「学術、技芸、慈善その他の公益に関する事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう」
こうなっています。産科補償制度の誕生を願った者の1人として、医療保険から支払われている保険料は、可能な限り補償金に回されるべきだと考えます。それがこの制度の本来の趣旨ではないかです。もちろん赤字運用を前提とせよまで言いませんが、事務経費からの収益と剰余の収入を合わせて、年間10億円程度で必要にして十分ではないかと言うことです。10億円だって巨額で、現在の機構の収入の半分ぐらいを占めるものになります。
確かに制度が出来た時には機構は一般財団法人でしたが、奇しくも産科補償制度が出来た平成21年から申請を行い今は公益財団法人です。より産科補償制度を託すのに相応しい団体になっているです。制度発足時は一般財団法人であったにせよ、公益的な事業を担う事を期待され、今は名実共にそうなったのですから尚更みたいなものです。機構だって、巨額の剰余を無税化するためだけに、わざわざ公益法人に移行したわけではないでしょう。
ま、色んな思惑があるんでしょうが、平成27年から5年間は年間200億円が5年間、その後も最低100億円程度は機構の懐に毎年流れ込む「高度の蓋然性」があると分析します。そうなれば肥大化した機構の存在感は間違い無く増すと思います。肥大化した機構が何をなされるのか、あんまり楽しくない想像ばかりが「なぜか」思い浮かんでしまいます。