子供の自殺統計

イジメ自殺について書こうと思ったのですが、これは下手に論を立てると炎上必至のアドバイスが某所にあり、これはやめます。プロットは立てていたのですが、確かに何を書いても誰かが猛反発しそうですし、それを招かないようにフンワリ書いたら毒にもクスリにもならないものになるのは確実です。そこでと言うわけではありませんが、下調べのつもりだった子供の自殺統計だけまとめておく事にします。


人口動態統計

人口動態統計の死因の定義ですがいばらき統計情報ネットーワークより、

 死因の統計は死亡診断書に基づき作成するが,死亡診断書に2つ以上の死因が記載されている場合は,統計表章のため1つの死因を選択しなければならない。死因の選択にあたっては,医師の死亡診断書への記載に従って,原死因(直接に死亡を引き起こした一連の事象の起因となった疾病もしくは損傷であり,死亡診断書が正しく記載されている場合には,?欄の最下欄に記載された傷病又は損傷となる)を死因として選択している。

死亡診断書ないし死体検案書の死因に基づいて分類されているぐらいの解釈で良いかと思います。さて人口動態統計で長期の年次推移を見るには、5歳刻みの年齢階級になります。それ以上掘り起こすのは無茶苦茶手間ですから、今日はその程度にさせて頂きます。子供の自殺と言ってもさすがに0-4歳はゼロになっています。それと今日は便宜上20歳未満の未成年者をすべて「子供」とさせて頂いていますので御了解ください。

自殺率をグラフにするのですが、子供の人口も大きく変わっているため、統計処理のために年齢階級人口10万人対にさせて頂きます。

こうやって見ると15歳未満に較べると15歳以上は自殺が格段に増えるのが改めて確認できます。当たり前といえば当たり前なんですが、もう一つ、1950年代は非常に子供の自殺が多かったのがわかります。ここのピークが非常に高いので最近の変動がかえって判り難いので、1965年以降のグラフも示しておきます。
10-19歳の傾向ですが1965年以降では1975年に一度ピークを示した後、1990年に最低になり、そこから2008年まで増加傾向を示した後、2008年から再び低下傾向を示しています。それでも1955年に人口10万人対30.0人を越えていたものが、2010年時点で8.0人程度ですから、かつてよりは減少しています。現在は統計上最低だった1990年当時に較べて2倍弱程度と言うところです。


では実数ではどうかです。

年度 5-9歳 10-14歳 15-19歳 5-19歳合計 5-19歳自殺率 5-19歳人口
1950 0 2 1310 1312 4.90 26790250
1955 3 88 2735 2826 9.69 29175928
1960 1 62 2217 2280 7.72 29530711
1965 0 46 806 852 3.06 27884587
1970 0 55 702 757 3.04 24897682
1975 1 88 768 857 3.43 24992396
1980 2 53 599 654 2.41 27082572
1985 4 81 453 538 1.96 27382100
1990 0 47 381 428 1.65 25900277
1995 0 66 423 489 2.18 22409742
2000 0 74 473 547 2.75 19925096
2005 1 44 511 556 3.02 18413828
2008 1 58 507 566 3.19 17745000
2009 0 55 457 512 2.92 17542000
2010 0 63 451 514 2.94 17462882

5-19歳人口が1960年の約3000万人から1200万人程度も減ってしまっているのは、小児科医として複雑ですが、今日の主題ではありませんから置いときます。ここまでが人口動態統計による自殺統計の動きです。
警察統計
警察庁自殺統計を行っています。警察庁の死因としての自殺分類は、死亡診断書・死体検案書に加えて警察捜査が加わった上でのものぐらいの理解で宜しいかと思われます。警察庁データは1978年までとりあえず遡れますが、年齢階級は19歳以下で一括りになっています。人口動態統計との違いも見たいので、母数を5-19歳人口として、年度をそろえて表にして見ます。
年度 5-19歳自殺者数 5-19歳人口 自殺率
人口動態統計 警察統計 人口動態統計 警察統計
1980 654 678 27082572 2.41 2.50
1985 538 557 27382100 1.96 2.03
1990 428 467 25900277 1.65 1.80
1995 489 515 22409742 2.18 2.30
2000 547 598 19925096 2.75 3.00
2005 556 608 18413828 3.02 3.30
2008 566 611 17745000 3.19 3.44
2009 512 565 17542000 2.92 3.22
2010 514 552 17462882 2.94 3.16

人口動態統計より自殺者が若干増えるようです。最初はグラフにして差を表そうと思いましたが、それほどの差はないので表に留めています。大雑把には人口動態統計より警察統計の方が1割弱程度多いようです。それでもおおよその傾向はほぼ同じで、警察判断の方が死亡診断書や死体検案書より自殺と判断するものが多い事はわかります。医学的判断と警察判断(社会的判断、状況判断)の差と言ったところでしょうか。 文部科学省も独自に自殺統計を行っているようで、児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査と言うのがあります。この統計は1974年からの集計があり、また文部科学省らしく小学校・中学校・高校と分類されています。ただ集計が途中まで小学校集計が無かったり、年集計が年度集計に変わったり、2010年度集計に岩手・宮城・福島が入ってなかったりしますが、概算として人口動態統計、警察統計と比較できると判断します。まず表にして見ます。
年度 自殺数 自殺率
人口動態統計 警察統計 文部科学省 人口動態統計 警察統計 文部科学省
1980 654 678 233 2.41 2.50 0.86
1985 538 557 215 1.96 2.03 0.79
1990 428 467 141 1.65 1.80 0.54
1995 489 515 139 2.18 2.30 0.62
2000 547 598 147 2.75 3.00 0.74
2005 556 608 103 3.02 3.30 0.56
2008 566 611 136 3.19 3.44 0.77
2009 512 565 165 2.92 3.22 0.94
2010 514 552 147 2.94 3.16 0.84

どう見ても文部科学省の統計の自殺者数は少ないようです。グラフにして見ます。
文部科学省統計は人口動態統計や警察統計とは異なる動きをしているのは明らかです。ここをもう少し調べてみると内閣府資料文部科学省統計と警察統計の小学校、中学校、高校で3分類した自殺者統計が掲載されています。2000年から2006年のデータなんですが、
年・年度 学校 文部科学省 警察庁
2000 小学校 4 10
中学校 49 93
高校 94 176
総数 147 279
2001 小学校 4 11
中学校 37 78
高校 93 198
総数 134 287
2002 小学校 3 5
中学校 36 54
高校 84 174
総数 123 233
2003 小学校 5 10
中学校 34 83
高校 98 225
総数 137 318
2004 小学校 4 10
中学校 31 70
高校 91 204
総数 126 284
2005 小学校 3 7
中学校 26 66
高校 76 215
総数 105 288

文部科学省警察庁資料の差は、

  1. 文部科学省資料は年度(4月〜翌3月)集計、警察庁資料は年(1月〜12月)集計。
  2. 警察庁資料は私立公立学校を含んでいるが、文部科学省資料は公立学校のみ。
  3. 文部科学省資料は「生徒指導上の諸問題の現状について」から、警察庁資料は「自殺の概要資料」より引用。

なるほど!、2000年から2006年にかけては文部科学省の統計に私立学校が入ってなかったための差になったと言うことになります。では今はどうなっているかと言えば、児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査から、

昭和51年までは公立中・高等学校を調査。昭和52年からは公立小学校、平成18年度からは国・私立学校も調査。

平成18年度と言えば2006年度です。内閣府資料の翌年度からは文部科学省統計も警察統計も調査対象が同じになったわけです。警察資料の2006年以降の学校別のデータが手に入らないために、人口動態統計を使って擬似的に比較して見ます。

  • 5-9歳を小3以下
  • 10-14歳を小4から中2
  • 15-19歳を中3から高4
こうやって集計し直してみると、

年度 人口動態統計 文部科学省統計
5-9歳 10-14歳 14-19歳 小3以下 小4-中2 中3-高4
2006 1 76 500 0 26 145
2007 0 47 455 0 27 122
2008 1 58 507 0 16 120
2009 0 55 457 0 26 139
2010 0 63 451 0 22 125

人口動態統計と警察統計はほぼ同じ程度の数値を出しています。若干警察統計の方が多い(1割弱程度)ですが、ほぼ近いが言える事を上で確認しています。2006年度から文部科学省統計の調査対象が同じになっていますから、文部科学省統計も人口動態統計(≒警察統計)に近づくと考えるのが妥当ですが、2005年度以前と傾向はほぼ変わらないと言えます。これは上でグラフに示した通りです。 文部科学省統計は在学中の児童生徒が対象のため、高校生以上の有職少年は集計に入っていないとは考えられます。ただ高校進学率は96%程度はあります。また高4は定時制であり、高校卒業後の19歳は集計から外れているはずです。他にも浪人とか留年もあるでしょうが、それらの理由を考慮しても差は大きすぎると感じます。とくにほぼ連動するはずの小4-中2と10-14歳は、年齢と学年の関係からの誤差とするにはチト大きすぎるように感じました。 3統計の集計に微妙に差があるので比較が概算にならざるを得ないのですが、自殺数で言えば
    警察統計 > 人口動態統計 >> 文科省統計
警察統計と人口動態統計の差はおおよそ1割弱程度です。文科省統計は2006年度から公立だけではなく私立も統計に含めているとなっています。そこで2000年から2005年の中学生の死亡数統計(警察統計と文科省統計)と、2006年から2010年の10-14歳(動態統計と文科省統計)を較べてみます。厳密にはあれこれ違いますので参考程度のものですが、
年・年度 警察統計
(中学生)
文部科学省統計
(中学生)
警察統計 − 文科省統計 文科省統計/警察統計
2000 93 49 44 0.53
2001 78 37 41 0.47
2002 54 36 18 0.67
2003 83 34 49 0.41
2004 70 31 39 0.44
2005 66 26 40 0.39
年・年度 人口動態統計
(10-14歳)
文部科学省統計
(小4-中2)
動態統計 − 文科省統計 文科省統計/動態統計
2006 76 26 50 0.34
2007 47 27 20 0.57
2008 58 16 42 0.28
2009 55 26 29 0.47
2010 63 22 41 0.35

どうなんでしょうか。文科省統計で自殺者数が少ない傾向は、2006年度に私立学校を調査対象に含めた後もあんまり変わっていない気がします。これだけ違う統計を基に子供の自殺対策を考えると少々問題があるように私は感じます。様々な自殺対策を行った結果は統計で評価することになるからです。 でもあんまり問題視されていないから話題にもならず、今に至るとも言えますから、現場と言うか自殺対策の評価には困っていないのでしょう。それにしても文科省の自殺認定の基準がどうなっているのか興味深いところです。私の手では文科省の基準がどんなものか探し出せませんでした。誰か御存知の方は情報下さい。
補足情報
警察庁統計内閣府資料に興味深い点がありましたので補足情報としておきます。警察庁統計では年齢別でネットで確認できるのは19歳以下と言う条件だけです。内閣府資料は警察庁統計をさらに細かい部分のデータが出たものと思っています。それが小学校、中学校、高校別のデータです。この19歳以下と児童生徒の統計上の差が結構興味深いものになっています。
19歳以下自殺者数 小中高の自殺者数の

合計
2000 598 279 319
2001 586 287 299
2002 502 233 269
2003 613 318 295
2004 589 284 305
2005 608 288 320

19歳以下の自殺者は児童生徒の自殺者のおおよそ2倍ぐらいいます。これがどこのグループになるかですが、
  1. 高校に進学しなかった者
  2. 高校を中退した者
  3. 高校を卒業した者
これぐらいがとりあえず思い浮かびます。このうち最大のグループになりそうなのが高校卒業者と考えられます。19歳の自殺統計は見つからなかったのですが、20〜29歳の自殺者の平均(2000年〜2005年)は3200人ぐらいです。これをさらに単純平均すれば20歳代の1年間あたり320人ぐらいです。ですから19歳の1年で19歳以下の合計の半分ぐらいの自殺数があっても説明は可能です。

もちろん高校卒業後の自殺者が増えた分だけではなく、高校に籍を置いていない子供の自殺率が高いのかもしれません。そこについては説明する資料に行き着きませんでした。ただこの事実がわかったことで、

    小中高の自殺者数 << 19歳以下の自殺数
これが判明しました。中学校(高校も含んでもよい)までの文部省統計と警察統計の差の謎は残るとしても、小中高生の自殺者の合計が19歳以下の自殺者数の半分程度ですから、文部省統計の小中高の合計数が警察統計の19歳以下の合計数よりかなり低い水準になる事は当然になります。

ただそうなると学校での自殺対策は、見様によっては子供の自殺対策の半数ぐらいにしか及ばないになっているのかも知れません。残り半分は学校管理外になるからです。そういう解釈で良いのか自信がありませんが、どうにも謎が多い自殺統計でした。


補足情報の補足

19歳以下の自殺者数の小中高生とその他の関係を2005年データでグラフにして見ました。