虫垂炎事件の補足情報

11/26付読売新聞・関西発より、

虫垂炎症状見逃し患者死亡 医師の不起訴「不当」…検察審議決

 患者の虫垂炎の症状を見逃して死亡させたとして業務上過失致死容疑で書類送検され、大阪地検が不起訴(嫌疑不十分)とした40歳代の男性医師について、大阪第3検察審査会が「漫然と診察し、血液検査など最低限の検査を怠った」として、不起訴不当を議決したことがわかった。

 10月26日付の議決などによると、医師は2006年11月、大阪府内の病院で当時43歳の男性患者を診察。風邪と診断したが、患者は翌日死亡した。解剖の結果、死因は虫垂炎による敗血症ショックで、診察時にすでに虫垂炎を発症していたとみられることがわかった。

 遺族は「診察時に腹痛を申告していた」と主張したが、地検は今年7月、カルテに腹痛の記載がないなどとして不起訴にし、遺族が同審査会に申し立てていた。

どこかで見た事のある記事と思ったら、2010.10.16付アッペは怖いで取り上げていました。今日はまず当時の記事を補足情報として提供します。まず2010.10.15付産経記事より、

 大阪府枚方市の星ケ丘厚生年金病院で平成18年11月、腹痛を訴え受診した枚方市の男性=当時(43)=が30代の担当医に「風邪」と診断され、翌日に壊死(えし)性虫垂炎による敗血性ショックで死亡していたことが14日、病院関係者への取材で分かった。病理解剖の結果、男性は死亡の数日前から虫垂炎とみられる炎症を起こしており、医師が診察時に適切な治療をしていれば、死亡しなかった可能性が高いという。

 男性の遺族は、医師の「誤診」で死亡したとして、業務上過失致死罪で枚方署に告訴状を提出。病院側は今年7月、当時の解剖結果や検体などを同署に任意提出した。同署は関係者から事情を聴くなどして慎重に捜査している。

 病院関係者や遺族によると、男性は18年11月23日午前8時45分ごろ、激しい腹痛を訴え受診。担当した男性内科医が聴診器を使うなどして調べたが、「風邪」と診断し、風邪薬を処方して帰宅させた。

 男性は翌朝になって体調が急変。自宅で心肺停止となり、同病院に運ばれたが、午前9時半すぎに死亡した。同病院が遺体を病理解剖したところ、男性の虫垂に穴が開き、そこから漏れた細菌が腹膜に感染、血流に乗って全身に広がり、急死したことが分かった。

 死亡後、医師は男性の遺族に謝罪したが、診断書には男性が腹痛を訴えたとの記載がなかった。医師は病院側の内部調査に「診察時には腹痛を訴えていなかった」と説明。診察時の症状について医師と遺族の間で説明に食い違いもみられるという。

 ただ、専門家が当時の病理組織を検査したところ、虫垂炎の発症時期は少なくとも死亡日の数日前だったことが判明。医療関係者によると、診察時に血液検査や超音波検査などの適切な処置をしていれば、死亡しなかった可能性もあるという。

 病院側は「患者が死亡されたことは大変気の毒だが、当時の対応に問題があったかどうかは捜査機関に委ねるしかない」としている。

 同病院では平成17年2月にも、ヘルニア手術を受けた当時1歳の乳児のぼうこうを誤って切除するミスが起こっている。

この記事のポイントは読売記事の検察審議会議決の事件と同じものである事の確認が一つです。死亡した男性や担当医師、症状の経過、発生月日から同一の事件である事が確認できます。当時もう一つ焦点となったのは、患者側が激しい腹痛としているのに対して、担当医が風邪と診断している点です。激しい腹痛の怖さを医師なら知っているはずなのに、なぜにここまで食い違うんだろうです。

続いて2010.10.15付スポニチ記事です。

風邪と誤診?虫垂炎の症状で死亡「見分けるのは難しい」
 
 大阪府枚方市の星ケ丘厚生年金病院で2006年、腹痛を訴え受診した枚方市の男性=当時(43)=が風邪と診断された翌日に虫垂炎による症状で死亡していたことが15日、同病院などへの取材で分かった。

 07年2月に、男性の母親が誤診ではないかと被害を枚方署に申し出たため、同署は業務上過失致死の疑いもあるとみて関係者から事情を聴くなど慎重に捜査している。

 同病院によると、男性は06年11月23日、嘔吐や腹部の不快感を訴え受診。30代の男性医師は風邪による胃炎と診断し、男性はいったん帰宅した。ところが24日朝、トイレで倒れて心肺停止となり搬送先の同病院で死亡した。その後の検査で、以前から虫垂炎を患い、細菌が患部から全身に広がったことが死因と分かった。

 同病院は「風邪と虫垂炎を見分けるのは難しく、誤診とは考えていないが、捜査には全面的に協力したい」としている。

ここでは産経記事では漠然と風邪とあったものが、胃炎症状として記載されています。胃炎による腹痛と虫垂炎による腹痛はある程度見分ける事は可能です。それでもはたくさんありますが、スポニチ記事では虫垂炎特有の右下腹部痛は必ずしも認めなかった、もしくは主訴として取り上げるようなものではなかったとなっています。

これは2010.10.15付の産経の続報記事です。

正確な診断難しい虫垂炎

 虫垂炎の症状は、風邪ウイルスによる感染性胃腸炎などと症状がよく似ており、一般的に正確な診断が難しい疾患とされる。

 典型的な症状としては、みぞおち付近に痛みが出て、時間の経過とともに右下腹部へと移動することが多い。ありふれた疾患だが、右下腹部の痛みを伴う症状は胃腸炎など別の原因も考えられ、虫垂炎の所見を見落として治療が遅れるケースもみられるという。

 「外科医と『盲腸』」や「孤高のメス」などの著書がある阿那賀診療所(兵庫県南あわじ市)の大鐘稔彦院長は「問診や触診をきちんと行ったうえ、血液検査で白血球数を調べたり、超音波やCT検査で炎症反応や虫垂の状態などを確認すれば、そんなに見落とすことはないはず」と話す。

 ただ今回は、担当医が初診の段階で「(患者が)腹痛を訴えていなかった」と主張。遺族の証言と食い違う部分もみられ、医学的観点からの十分な検証が今後、求められる。

 大鐘院長は「初診から患者が死亡するまでの進行が早く、かなり前に発症していた可能性が高い。最近は虫垂炎の手術例が少なくなったこともあり、経験不足が不幸な結果を招いた可能性も否定できない」と話している。

 一方、死亡した男性の遺族は産経新聞の取材に「まさか盲腸で息子が亡くなるとは思わなかった。あのとき適切な診察をしてくれていたら、きっと助かっていたはず…」と話している。

受診時の患者の訴えが生き残った担当医師の証言のみになるので判断に保留部分を残しながら、一般論として胃腸炎との鑑別の難しさを書いてあるぐらいに取ります。

これは2010.10.15付MBS記事です。

星ヶ丘厚生年金病院 「風邪」と診断、翌朝に患者死亡

 4年前、大阪府枚方市の総合病院で風邪と診断された男性がその翌朝に虫垂炎による敗血性ショックで死亡していたことがわかり、大阪府警が調べています。

 枚方市星ヶ丘厚生年金病院の説明によりますと、2006年11月、43歳の男性が母親に付き添われて受診し、おう吐や下腹部の不快感を訴えました。

 30代の当直医は触診などで風邪による胃炎と診断し、風邪薬を処方して帰宅させましたが、翌朝、男性の容体が急変、心肺停止の状態で搬送され、およそ1時間半後に死亡しました。

 解剖の結果、男性の死因は虫垂炎の細菌が全身に回った敗血性ショックでした。

 このため遺族は「診断に誤りがあった」と警察に被害届を提出し、現在、捜査中だということです。

 「病院としては『これは刑事事件になるようなものではない』と判断をしている」(星ヶ丘厚生年金病院 浦野光廣事務局長)

 病院側によると診察した医師は「男性は腹痛を訴えていなかった」と話していますが、付き添っていた母親の主張と食い違っているということです。

この記事には目新しい情報はないのですが、43歳の男性が受診した時に母親の付き添いがあった点です。色々考える事はできますが、全体の経過を類推すると死亡した男性の虫垂炎は受診当日に格別悪化したものではないであろうとの見方は有力です。結果として受診後に破裂から敗血症ショックを引き起こしたと考えるのが自然ですが、母親が説得してようやく受診したとの見方は出来るかもしれません。

2010.10.15付関西テレビです。

枚方の病院で風邪と診断の男性死亡 虫垂炎と誤診か

大阪府枚方市の病院で4年前、風邪と診断された男性が、翌日、虫垂炎で死亡しました。遺族は「誤診があった」と訴えていて、警察が捜査しています。男性が死亡したのは、枚方市星ヶ丘厚生年金病院です。病院によりますと、男性は、2006年11月、おう吐や腹部の不快感を訴え救急外来を訪れましたが、医師は風邪と診断し、風邪薬と胃薬を処方して帰宅させました。しかし、男性は翌日、容体が急変して死亡し、遺体を解剖したところ死因が虫垂炎と分かりました。遺族は、「診察の時に腹痛を訴えた」と主張していますが、病院側は否定しています。

【病院の話】「当方の医師としては、「そういう訴えはなかった」と話している。(医師の対応は)基本的には適正であったと判断している」遺族は、「誤診があった」と警察に被害を訴えていて、警察が業務上過失致死の疑いで捜査しています。

これもスポニチに近いのですが、受診時の症状は嘔気や腹部の不快感となっています。おそらく医師側の主張ですが、処方されたのが「風邪薬と胃薬」。判じ物みたいな処方ですが、なんらかの感冒様症状も伴っていたのかもしれません。主訴は胃腸症状であっても、これに感冒様症状もあれば一緒に処方しても不思議ありません。うちでも下痢症状がメインであっても鼻炎様症状があたりしたら同時に処方します。つうか、処方しないと「鼻の薬がない」の指摘が回ってきます。




ここまでは当時のマスコミ情報なのですが、当ブログに御遺族と名乗る方からのコメントがあります。長くなりますが紹介しておきます。実名も出ていますが、あえてそのままにさせて頂いています。

上記:「風邪と診断され、翌日に壊死(えし)性虫垂炎による敗血性ショックで死亡」した本人・後藤周児の遺族(弟)の後藤浩二と申します。

 上記コメントにあるとおり、当初、星ケ丘厚生年金病院は、「腹痛の訴えは無かった。」と主張していましたが、その後、看護師の詳細な看護記録から「激しい腹痛の訴えにより来院」という記録が出てきて、当時の院長:吉矢生人も書面にて、これを認めました。吉矢院長により医師法21条の異状死の届出も行われています。

 今年2011年3月1日付けで当時の担当医:関川医師は、「業務上過失致死の嫌疑」として大阪地検に送致されました。現在、二次捜査中です。

 民事訴訟を行わず、刑事告訴だけに絞ったのは、医療機関としての刑事責任を明確にしたいという私や母遺族の思いです。

 私が、星ケ丘厚生年金病院と再三に渡り真相の究明を求めた協議の膨大な録音記録、情報開示請求したカルテ等の書面等、詳細な記録が私の手元にあります。

 私は、このやり取りのなかで、関川医師個人だけでない、病院ぐるみの隠蔽作業があったことは間違いないと、調査資料に基づき確信しています。残念ながら、刑事訴訟のなかでは、そこまで問うことは難しいようですが・・・

 下記に、兄が死亡に至る経緯を詳細に記録したもののうち、ごくごく一部を記載します。こうした事件が二度と起こらないよう、社会的にこの問題をみなさんに考えていただきたいと願って、また無念でやみません。関心のあるかたは、私のメール

nightcap2@mac.com

までご連絡下さい。警察に提出した私の手元にある証拠・資料を含め、すべて公開して構わないと思っています。

・・・・・・・・・・・・・・・

後藤周児:既往症は特になし。幼少時に、脳腫瘍(良性)の手術経験あるが、ほとんど後遺症は認められない。ただし、現在「広汎性発達障害」という軽度の自閉傾向があるが、この手術の影響があるのかもしれない。コミュニケーション能力自体はしっかりしている。

2006年11月22(水):嘔吐をともなう腹痛、微熱。右下腹が痛むというので、「陽だまりの会」(支援センター)へ行くのを休ませた。夕飯は普通食を食べ、途中で少し嘔吐した。夕食後2回嘔吐。

同年11月23(木・祝日):星ヶ丘厚生年金病院

 午前7時同病院の救急外来へ電話。直ぐ来るようにとの指示。(12月22日の病院側との話し合いで分かったこととして、この電話での看護士の対応は、受診の記録も含めた記録として看護側の記録に「激しい腹痛、嘔吐により来院。内服処方により帰宅」として病院側に残されている。)

 母と共に、午前9時頃受診(12月22日の病院側との話し合いで分かったこととして、正確には午前8時45分受診。5分程度。)救急外来。タクシーで。風邪との説明。母から腹痛について盲腸の不安を医師につよく訴えるが、触診だけで、血液検査やレントゲンなどの検査は一切なかったという。風邪薬が処方される。そのまま帰宅。昼食も食べられず。夜はおかゆのみ。寝たまま腹痛に苦しみ続ける。

同年11月24(金):午前5時:母が様子を見に行くと、お腹が張ったように感じたとのこと。うなりながら腹痛に苦しむ。そのまま、星ヶ丘厚生年金病院へ救急受診を頼むべく電話。看護士の対応で「前日に、専門医が触診しているので、緊急性はない。外来の時間をまってから来て欲しい。」と対応される。外来は午前8時半からとのこと。しかし、苦しむ様子が激しいので、再度電話をする。守衛らしき人の対応で、「初診ではないので、受付は午前7時半からでもいい」と言われ。タクシーを呼ぶ。タクシーが来る前、午前7時20分頃、トイレに入り、母の介助を受けながらトイレから出たところでそのまま倒れる。心肺停止状態となったという。そのまま119番通報。

 母の話では、救急隊と星ヶ丘厚生年金病院で蘇生措置を続けたが、間もなくそのまま死亡確認されたとのこと。

同年11月24日

・母と電話で状況を確認する。その夜、病院側に電話をするが、検死等の対応をしており現在対応出来ないので、週明けに連絡を欲しいとのこと。
・・・以下、省略・・・

このコメントとマスコミ報道の整合性を見ておきたいと思います。母親が付き添いで行ったのは

コミュニケーションには問題はないとしていますが、付き添いが合っても不思議無いと判断されます。問題の「激しい腹痛」の有無ですが、母親と医師のやり取りとして、
    母から腹痛について盲腸の不安を医師につよく訴えるが、触診だけで、血液検査やレントゲンなどの検査は一切なかったという
検査がなかったのはマスコミ報道も伝えるところですが、母親が本当にそう言ったかどうかは当事者しか判らないところで、出来れば客観的な証拠も欲しいところですが、
    受診の記録も含めた記録として看護側の記録に「激しい腹痛、嘔吐により来院。内服処方により帰宅」として病院側に残されている
これはかなり重い記録です。ごく簡単な解釈ですが、「激しい腹痛」の症状の記載は、患者側が言わないと記録されないわけであり、診療時間は「5分」ほどとなっていますので、ポイントとして記載に値すると判断したものと推測されます。看護師がこの場面で高度の創作物をわざわざ書く必然性が乏しく、診察時のやり取りとして存在したと考えられる証拠になります。

もちろん「激しい腹痛」の所見を医師が取るかどうかは医師の判断ですが、たとえば2010.10.15付産経記事にある、

    医師は病院側の内部調査に「診察時には腹痛を訴えていなかった」と説明
この説明の信憑性はかなり疑われざるを得ないものになります。前回取り上げた時も、「激しい腹痛」が本当にあるのなら、やはり検査は必要であるの意見は強かったと記憶しています。いわゆる急性腹症の手強さ・怖ろしさです。だから推測として、患者側の訴えが「激しい腹痛」と必ずしも取れないようなものじゃなかろうかの意見がありました。

これが本当に「激しい腹痛」の訴えがあり、それを軽視・無視していたのなら問題と私は素直に感じます。痛みは本人しかわからないものですから、そういう訴えは問診上軽視できないとするのが医師の感覚と言えばよいでしょうか。少なくとも医師記録に留めた上で、軽視するならその理由も明らかにする必要性があると思います。

百歩譲って本人の意思表示が明快でなかったとしても、付き添いの母親が訴えているのですから、問題点は十分に残る対応と言わざるを得ません。民事上の注意責任義務を問われる可能性はありそうに思います。

もちろんですが、医師側の言い分はあるでしょうからこれを聞かないと断定はできませんし、案件は検察審議会の議決レベルになっているので、遺族側の主張から解釈すると「こうなる」の情報提供に留めさせて頂きます。あえて推測を加えると、看護記録に残された記載が検察審議会の議決に影響したんではなかろうかと推察しています。


遺族側のコメントにある程度信用を置くと、民事上の責任は問えると感じます。ただし刑事上の業務上過失致死に該当するかどうかを論じる法律的知見は私には不足しています。民事と刑事では責任の捉え方に差があり、民事で問える責任で刑事も必ずしも問えないものであったはずです。この事件の本当の論点は、医師の不手際の有無と言うより、刑事責任まで問えるかどうかのような気がしています。

そういう点で、福島大野や割り箸とは次元がかなり違う案件と感じています。十分とは言えませんが補足情報とさせて頂きます。