大田原市のロタワクチン助成

11/6付msn産経より、

大田原市ロタウイルスワクチンを助成 栃木

 大田原市は、乳幼児が激しい嘔吐(おうと)などに苦しむ「ロタウイルス腸炎」を予防するため、ワクチンの接種費用の一部を助成することを決めた。ロタウイルスワクチンへの助成を打ち出したのは県内の自治体で初めて。

 予防ワクチンを7月に厚生労働省が承認し、今月下旬にも発売されるのを受けて、大田原地区医師会(吉成仁見会長)が公費助成を要望していた。ワクチンはシロップ状の飲むタイプで2回接種する。感染しても重症化を抑えることができるという。

 市によると、助成対象は生後6週〜24週の乳児で、接種費用の半分を補助。12月議会に提案予定の補正予算案に事業費を盛り込み、可決されれば、来年1月にも助成を開始する方針。

予め断っておきますが、ロタワクチンに助成を行い接種を勧める事自体は賛成です。その点については文句はありません。しかし2点ほど違和感があります。


助成の優先順位

大田原市HPの任意の予防接種にはこうあります。

任意の予防接種のうち助成されているのはPCV7、Hib、HPVと成人用のニューモバックスです。ひょっとしてここに書かれていない可能性を考えて、大田原市にある社会医療法人博愛会菅間記念病院HPの小児科のページも確認しておくと、

【任意】

 ○Hibヒブ(インフルエンザ菌b型) ○肺炎球菌7価
 ○子宮頸がん予防ヒトパピローマウイルス ※高校1年生まで小児科で接種
(上記3ワクチンは公費補助あり)
◎水痘 ◎おたふくかぜ ◎インフルエンザ ◎B型肝炎 など

水痘、ムンプス、インフルエンザ、HBVは助成対象外と明記してあります。とくに水痘、ムンプスも助成する前にロタを先に助成するのにどうしても違和感を覚えます。水痘、ムンプスよりロタの方が優先順位が高いのでしょうか。


接種の優先順位

ロタが助成になれば当たり前ですが接種したいと言う希望者は増えるかと思います。2回接種と書いてあるのでロタリックスのはずですが、これは生後2ヶ月から接種が可能で、4週以上あけての2回接種です。また1回目は生後21週以降は接種できず、2回目も25週以降は接種できません。それでもって生ワクチンですから、他の予防接種との間隔は4週以上必要です。モデル的には生後2ヶ月で1回目の接種、3ヶ月で2回目の接種になります。

大田原市はBCGが集団接種ではないようなので、その点はスケジュール調整に余裕がありますが、BCGも生後6ヶ月までに接種するのが原則です。ここでバラ打ち希望者が多ければ綱渡りのようなスケジュールが必要になります。簡単にモデルを書いておけば、

週齢 ワクチン
6週 ロタ 1回目
10週 ロタ 2回目
14週 DPT 1回目
15週 Hib 1回目
16週 PCV 7 1回目
17週
18週 DPT 2回目
19週 Hib 2回目
20週 PCV 7 2回目
21週 BCG
25週 DPT 3回目
26週 Hib 3回目
27週 PCV 7 3回目


理想的に進んでこのペースです。実際は月齢と週齢に微妙な差が出るのですが、その差さえスケジュールに大きな影響を及ぼします。これがどれだけタイトなスケジュールかは、小児科医でも、実際に接種経験のある保護者ならよくわかるかと思います。これにさらにIPVなんて組み込もうものなら身動きが取れなくなります。


それでも好意的に考える

大田原市は人口8万人弱の地方都市です。こういう自治体で突如補正予算を組んでワクチン助成が決まるのは、やはり市長のリーダーシップがあったからだと見ます。地方議会では予算案を提出できるのは行政サイドのみですから、市長が積極的に動かない事には助成は成立しません。

ここで市長が助成が決断する時に地元関係者の意見を聞いているはずです。ごく簡単には地元医師会であり、小児科医会です。具体的には那須郡市医師会になるようですが、ここの意見も聞かずに暴走するとは思えません。ここが微妙なんですが、地元医師会に意見を聞いたらロタよりムンプスとか水痘の方の助成を優先しそうな気もするので、主導権は市長にあったような気がします。

医師会的には市長の意向を立てて助成案を受け入れたと考えたいのですが、医師とくに小児科医ならバラ打ち接種傾向の中でロタを組み込む厄介さを知っているはずです。完全に推測ですが、ロタ助成と同時に同時接種推進キャンペインがセットにして受け入れたんじゃないかと考えます。同時接種をセットにしないとロタ接種がいかに困難かは上に示した通りです。

ロタ助成優先を受け入れたのは、ワクチン接種でネックになっている同時接種問題の突破口にするためじゃないかです。もしそうであれば、非常に高い評価をしたいところです。


ただなんですが、小児科医サイドでも同時接種を避ける医師は少なくはありません。一般的に医師会での発言力が大きい層に多いとも考えられます。そこは意見集約に成功したか、決定権を持つ医師会幹部が同時接種推進派であった可能性もあります。あるんですが、まったく違うストーリーも考える事はできます。

医師会の意思決定も多くの場合、出席している幹部役員でのみ決定され、末端には上意下達で通知は少なくありません。市長がなぜかロタに御執心で、是非ロタの助成をやりたいとの意向を示せば、単にワクチンの助成が増えるレベルで歓迎したと言うのもあります。そういう受け入れ決定の時に、小児科医でもワクチン接種に積極的な医師が参画していたかどうかは微妙です。

つまり市長が「助成したい」、医師会幹部は「助成はなんでも歓迎」で、後は末端医療機関に「よきに計らえ」で丸投げもありえると言う事です。そうなると困るのは末端医療機関になります。


それでもなんですが、市が助成して推奨しているわけですから、丸投げ路線で計画されても、これを逆手にとって同時接種推進に利用すると言う手はあるわけです。そこまで深読みしながら市長と医師会が腹の探りあいを行ったかどうかは知る由もありませんが、建設的な方向に事態が進んでくれる事を祈るばかりです。