医療レベル埼玉統一構想

7/27付読売記事(埼玉)より、

今日のメインテーマです。
    県内の医療レベルは統一化されなければならない。日本のモデルを埼玉独自で作りたい
読売記事が編集した、この県医師会長の構想の前提条件ですが、記事引用を省略しますが、医師の増員法の基本方針として、
  1. 若手医師は他県から積極的に引き抜かない
  2. 戦力充実に動員するのは、定年を迎える団塊の世代と子育てを終えた女性の医師
団塊の世代とか子育て終了後の女性医師なんて、どこかの政権の埋蔵金伝説みたいな構想ですが、これが本当に実現するかどうかを検証してみます。

平成21年医療施設(動態)調査・病院報告の概況が最新データのようですが、これを見ると県医師会長の構想は可能性がありそうな気がしてきました。県医師会長の医療レベルの統一化は病院レベルと解釈するのが妥当です。ここで周知の事ですが、埼玉県の面積ではなく人口当たりの病院常勤医数は、

ベスト10 ワースト10
順位 都道府県 人口10万人対
常勤医数
順位 都道府県 人口10万人対
常勤医数
1 高知 218.3 38 神奈川 127.2
2 徳島 195.5 39 福島 125.4
3 東京 191.2 40 青森 121.8
4 福岡 190.6 41 茨城 121.0
5 京都 186.7 42 新潟 120.3
6 岡山 186.5 43 岐阜 118.3
7 石川 183.2 44 千葉 117.6
8 鳥取 179.4 45 静岡 117.5
9 熊本 177.7 46 三重 115.6
10 長崎 177.3 47 埼玉 103.5
全国 149.9


埼玉県の人口は720万人ですから、常勤医を全国平均にするだけでも3340人の増加が必要です。実に年間国試合格者の約半数が必要です。定年を迎える団塊の世代と子育てを終えた女性の医師の埋蔵金発掘では賄えそうな数字とは思えません。常勤医数だけならそうなんですが、県医師会長の構想は医療機関、すなわち病院のレベルと今日は解釈します。

そうなると見方が少し変わってきます。話は救急問題から出ていますから、一般病床数から見てみます。

ベスト10 ワースト10
順位 都道府県 人口10万人対

一般病床数
順位 都道府県 人口10万人対

一般病床医数
1 高知 1026.4 38 茨城 647.3
2 大分 1015.0 39 東京 640.2
3 岡山 978.3 40 岐阜 624.6
4 北海道 978.2 41 三重 619.3
5 香川 954.0 42 栃木 612.7
6 島根 932.3 43 静岡 581.6
7 石川 915.3 44 千葉 552.5
8 熊本 915.1 45 愛知 547.4
9 鹿児島 901.4 46 神奈川 522.8
10 秋田 894.5 47 埼玉 490.6
全国 710.8 さいたま市 440.8


埼玉は人口10万人当たりの常勤医数が全国最低ですが、同時に人口10万人当たりの一般病床数もまた最低です。ちょこっと笑ったのは、県都さいたま市の方が埼玉県全体より少なくなっています。あくまでに因みにですが県医師会長が力説した「施設の数や質など、県内で最も医療が充実」のうち質は知りませんが、病院数だけで言えば埼玉県の人口10万人対の病院数は4.3施設、さいたま市は3.1施設、全国平均は6.0施設になっています。


さてなんですが、常勤医数も少ない代わりに一般病床数も少なければ、病床あたりの医師数と言う考え方が出てきます。ただ病床数となると療養病床やその他の病床も絡んでくるので、話がチト複雑になるのですが、幸か不幸か療養病床数でも埼玉は全国42位の183.3床(全国 263.7床)のため考えやすくなります。100病床あたりの医師数の統計があります。

これでは埼玉はなんと20位に位置します。データ的には、

病院100病床あたり常勤医数
埼玉県 11.7人
さいたま市 14.4人
全国 11.9人


ここで医療レベルの統一とは具体的に何かを考えます。そりゃ、設備や医療の質の問題もありますが、とにもかくにも医師がいないと話になりません。つまり県医師会長の構想として、
    医療レベルの統一 = 病院あたりの医師数の統一 = 病床あたりの医師数の統一
これがまず実現する事と考えるのが良いでしょう。よく読めば県医師会長は、医療レベルの統一こそ口にされていますが、「日本最高水準」とかは一言も話しておられません。あくまでも埼玉県内レベルのお話ですから、構想の基本は埼玉県内の医療レベルを統一、つうより平均化すると言う構想と読み取るべきかと思います。読売記事にも、

日本のモデルを埼玉独自で作りたい

日本モデルとして考えると、埼玉の100病床あたりの常勤医数はほぼ全国平均ですから、病院単位では「日本モデル」を考えられる状況にあるとは言えます。そうなると不足医師数の考え方も人口10万人対ではなく、病床対で考えれば良くなります。ここは概算になりますが、全国平均に必要な常勤医数は、全国平均に0.2不足しています。埼玉の病院病床数は6万2870床ですから、必要常勤医数は125.7人になります。

おぉ、これなら「定年を迎える団塊の世代と子育てを終えた女性の医師」で補充可能かも知れません。ちなみにさいたま市の病床数は8226床になっており、100病床あたりの常勤医数は14.4人、つまり全国平均より2.5人過剰です。そうなるとさいたま市からその他の埼玉県内に222.1人移動させる必要があります。全国平均の医師数には125.7人まだ足りませんから埼玉平均にとりあえずするなら205.7人の移動が必要です。


県医師会長自らの提案ですから、まず県医師会長が模範を示す必要があるのですが、県医師会長は所沢肛門病院の院長です。ここは44床で常勤医7人のこじんまりした病院ですが、100床当たりとして換算すると15.9人となり過剰と考えます。ここも一般病床、療養病床、精神病床などの区分で必要医師数は変わるのですが15.9人は過剰としても良いでしょう。

常勤医6人で13.6人、5人で11.4人になります。こういうものは提唱者が率先してこそ後が続きやすくなりますから、最低でも1人、お手本を示す意味でも2人を他の不足病院に提供して統一化・平均化に寄与すべきように思います。


それにしても思ったのですが、埼玉県人は医療と言うか、医師数に関してユニークな発想をされる事に改めて感歎しています。知事(今も同じ知事でしょうか?)も必要医師数は人口当たりではなく面積あたりで比較するものだと力説されていましたし、県医師会長も「どうやら」基準を病院病床に対して考えられているようです。

県医師会長の構想のネックは、読売記事で、

施設の数や質など、県内で最も医療が充実しているはずの県都で起きた。「この地域で起きるということは、どこでも起きる可能性がある」

こう力説されていましたが、県医師会長の構想を実現すると県都の医療はより弱体化するように思われてなりません。私の杞憂であれば良いのですが、知事といい、県医師会長といい、常人の発想とは異なりますから、きっとうまく行く「はず」の完璧な計算が出来ていると固く信じておきます。

どうせ奇想なら、いっその事、東京に吸収合併されると言うのも発想としてあっても良さそうなものと思わないでもありません。そうすれば埼玉県が抱えている医療以外の問題もかなり解消するのではないでしょうか。聞くところによると埼玉都民なる言葉もあるそうですから、住民の違和感も案外少ないんじゃないかと考えたりします。ただ東京が嫌がるかな?


最後に県医師会長の御提案と言うか、真意はこの記事だけでは不明である事は言うまでもありませんが念を押しておきます。編集権を通過すると、そういう現象が起こるのは日常茶飯事だからです。誤解なく真意を伝えられたいと思うのなら、医師会HPなりに提案の趣旨を自筆で公開されることをお勧めします。そうしないと編集権記事から誤解が生まれ、さらに曲解して広まってしまう事が多々あるからです。