NATROM先生に座布団1枚

平穏な関西にいると実感に乏しいのですが、鼻出血や下痢が内部被曝の影響によるものだと風評が飛んでいるようです。「そんな事はない」との冷静な反論も出ていますが、相手は理論ではなく不安心理でそう思い込んでいますから、議論もまたかみ合っていないように感じます。なんと言っても「絶対そうでないと断言できるか」の反論は議論の積み重ねを許しません。

「大変なこっちゃ」と横目で見ていたのですが、NATROM様が放射線被ばくで集患をとエントリーをあげておられるのを見て笑ってしまいました。NATROM様は不安心理を逆手に取って、手間のかかる否定より進んで肯定してしまえば、集患に有用としています。ま、普通の鼻出血やら下痢なら、どのみち治療可能ですから、放射線の影響を認めれば患者は満足します。

NATROM様がブラックなのは、ついでに怪しげなインチキ療法を自費診療でセットにすればより有用としています。そりゃ、どこの病院でも放射能被害でないと否定されていたのが、そこにいけば認めてもらえる上に、秘薬まで提供され、さらに治った気にばれるのですから人気が出ないわけがありません。NATROM様はブラックジョークとして出されていると思いますが、現在の状況なら出てきても不思議とは思いません。


真面目な話、実際に検査で内部被曝による影響かどうかは証明可能なんでしょうか。あれこれ考えていたのですが、有用な検査が思い浮かびません。これが医療の検査ではなく、疫学的な統計ならまだしも可能とは思います。連年の発生率の変動を考慮に入れても、有意に増えていれば関連性を論じるのはある程度出来るかもしれません。

ただし疫学的な統計による証明は、あくまでも集団に対してのものです。たとえば小児白血病患者増えたとしても、原発による放射能の影響無しでも一定数は確実に発症します。つまり、その患者の小児白血病放射能と関係ない発症であるのか、放射能と関係した発症であるかの鑑別は不可能ではないかと言う事です。

いくら頭を捻っても、小児の白血病患者の検査で分かるのは、どういうタイプの白血病であるかだけで、白血病の原因を起こしたものが何であるかを特定できる検査など思い浮かびません。白血病診断には今後の治療目的も含めて様々な検査を行いますが、それでもその程度です。ましてや鼻出血とか下痢になると、通常は検査を行っても遥かにプアな内容です。

つまり採血しようが便の検査をしようが、インフルエンザの簡易キットのようにシロクロとして出てくるとはどうしても思えません。たとえ汎血球減少が起こっていたとしても、これが放射能の影響によるものなのか、他の原因によるものなのかなんて鑑別する事は不可能と考えています。


ん、ん、ん・・・・・そうなるとNATROM様のアイデアが光ってきます。これは2008.6.6付の報知新聞からですが、

恐怖!中国で感染か!絹川が謎のウイルスで北京断念へ

 昨夏の大阪世界陸上に出場した女子長距離のホープ絹川愛(めぐみ、18)=ミズノ、仙台育英高出身=が、謎の「ウイルス性感染症」などによる体調の問題で、北京五輪代表選考会となる陸上日本選手権(26〜29日、川崎)への出場を断念する方向であることが5日、分かった。担当医師によると、中国・昆明での合宿中に感染した可能性が高い。

・・・・・・・(中略)・・・・・・・

 社会人デビュー戦と考えていた4月の織田記念(広島)などを次々キャンセル。仙台育英高卒業後も指導を続ける渡辺高夫監督は「練習による痛みとは思えない」と治療方針を変更した。都内の病院で放射線を利用したアイソトープ検査を受けると、骨の異常が判明。さらに特殊な方法による血液検査を行った結果、未知のウイルスに侵されていたことが分かった。

 治療に当たっている松元整形外科クリニックの松元司院長によると、赤血球を破壊し、白血球を変形させる凶悪なウイルスが血液を通じて骨や筋肉に付着。その炎症によって痛みなどを引き起こしていたという。絹川は同クリニックを訪れる前にも血液検査を受けていたが、異常は検出されていなかった。

・・・・・・・(中略)・・・・・・・

 絹川は現在、免疫力を高める特殊療法などで回復に向かっている

この話題はどっか”変”な気が・・・で取り上げた事があるのですが、ポイントは、

  1. 原因不明の病気がある


      絹川選手が本当に未知のウイルス感染であったかどうかは、すこぶる疑問ですが・・・


  2. 原因を見つける特殊な検査がある


      報知記事の医師は「松元試薬を開発し、松元法・M-H法(松元-萩谷)・新松元法を開発して血球の研究をしてきました」とHPで謳っています。


  3. 特殊療法がある


      なんと言っても造血は骨髄細胞(幹細胞)で作られるのではなく「赤血球赤血球から増加したものと考えるべきである」に基いた治療ですから、推して知るべしです。既知のウイルス治療も容易じゃないはずなんですが・・・
同じ事が綺麗に内部被曝による鼻出血とか下痢を強く疑っている人に通用します。ある意味、絹川選手の件より仕事がやりやすくなります。患者側はどうしても内部被曝による影響と認めて欲しいの強い願望があります。NATROM様は「そうだ」と言うだけで十分としていますが、これが「独自検査」で証明されればさらに患者は受け入れます。

上述したように現代医学の検査での鑑別は不可能と言う利点がここで出ます。つまりオリジナルの検査であっても、現代医学ではそれが放射能被曝によるものでないと断定できないわけです。もうちょっと言えば、内部被曝によるものと証明して欲しい患者が来ているわけですから、被爆が証明されることで深い満足を得ており、否定された時のようにさらなるドクターショッピングに励むモチベーションが出てきません。

さらに特殊な治療まで有しているわけですから、患者の被曝による病気への不安もガッチリ受け止める事が出来ます。たとえばこんな感じです。

    患者:「私の鼻出血と下痢は内部被曝によるもののはずなんですが、どこも認めてくれません」
    医師:「当院ではそれが検査でわかります。やってみましょう」
    患者:「是非、お願いします。もう不安で夜も寝られない状態なんです」

    ・・・・・・・・それらしい検査一連・・・・・・・・

    医師:「結果が出ました。あなたは当院の内部被曝障害のステージ 2と診断できます」
    患者:「やっぱりそうだったのですか。でも治療はどうしたら・・・」
    医師:「治療の方もご安心下さい。当院では内部被曝障害のための特殊治療コースがあります」
    患者:「本当ですか!それを聞いて安心しました」
    医師:「あなたの場合の障害はコレコレですから、この基本コースにこのオプションを加えれば治療可能です」
    患者:「是非、お願いします」
要点は患者の過度の不安を認めることにより満足させ、さらなる不安についても治療をセットにする事により安心させる点です。

それに治療と言ってもただの鼻出血や下痢の治療ですから、回りまわってこの特殊検査が出来るクリニックに受診した時には治っています。行うのは特製検査で示された内部被曝に対する治療ですから、実質的にメリケン粉でも十分役に立ちます。さらに再び症状が出るようなら、内部被曝が再び増悪する情報はふんだんにありますから、治療段階を強化するなんて手も使えます。

もうチョット言えば、一度引っ張り込んだら、新たな被曝の口実は幾らでも量産できますから、定期的な検査と、これに対する治療の延々たる継続を行う事も可能です。手練手管としては、受診した患者に絶え間ざる内部被曝の恐怖をしっかり植えつけて、特製検査と特製治療を患者の財布が続く限り行わせれば良い事になります。

福島が終息してもセシウム半減期は約30年とされていますから、体内への貯留理論を「独自」に確立すれば、半減期の間は十二分に引っ張れます。適当に独自の内部被曝障害ステージを検査のたびに操作していけば、つかまえたカモから、さてこれで幾ら取れるのでしょうか。

もちろん自費診療ですから価格設定は任意ですが、基本コースを30万円ぐらいにして、なんだかんだのオプションで客単価50万円ぐらいは可能でしょうか。こういうものは安すぎるとかえって信用されないそうで、ある程度高いというのも客を引き寄せる魅力になるそうです。東京なら基本コース100万円でもいけるのかなぁ。そうやって吸血鬼の様に骨までしゃぶるのかなぁ。

書きながら誰かがやりそうな気がしてきました。典型的な詐欺の手口ですが、今の状況なら成功する確率は高そうに感じます。