集約化と効率的な医療

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5/8付朝日新聞より、

高齢者医療担う7自治体病院、早期復旧困難 岩手・宮城

 東日本大震災で被害を受けた岩手、宮城両県の三陸海岸沿いの自治体にある15の公立病院のうち主に高齢者医療の受け皿となっていた7病院が全壊したり、常勤医師がいなくなったりして早期復旧が困難なことが朝日新聞社の調べで分かった。地元大学は医師会、県と医療機関の集約化を視野に入れながら、医療復興策の検討を始めた。

 三陸海岸地域の医師は震災前から全国平均の約6割程度しかいない。医師不足の東北地方では、公立病院は地域医療の中心だ。15ある公立病院のうち、大きな被災を免れた8病院の多くは高度医療をになう基幹病院。残りの7病院は、100床以下の小規模な病院が多い。いずれも津波で病院内が浸水し、医療機器や病室が壊れてしまった。同じ場所への建設は困難だ。2病院は事実上、常勤医がいなくなった。主に受け入れていた長期療養が必要な高齢者は今、内陸部の病院に転院したり、自宅に帰らざるを得なかったりしている。

 両県では今月、医療関係者中心の「医療版復興会議」を設け、本格的な協議を始める。医師を派遣する大学幹部らは、復興を機に、高度な急性期医療を提供する基幹病院を中心に強化し、地域の他の病院、診療所との役割分担を提案する。少ない医師でも質を落とさない効率的な医療を検討していく。「全壊状態」の小規模病院は、診療所での再開から始める。(月舘彩子、下司佳代子)

まずなんですが、

地元の人間ならピンと来るのでしょうが、関西に住んでいるもので判り難いところです。そこで同じ朝日の4/24記事を参考に考えてみます。4/24記事では岩手から福島までの9つの二次医療圏を被災地域として紹介していますが、5/8記事では「岩手・宮城」となっています。そうなると残り7つの医療圏に該当すると推測できます。具体的には、仙台がどれぐらい入るかチト疑問なんですが、とりあえずこの7つが対象かと考えられます。具体的に仙台以外の公立病院をピックアップしてみると、

医療圏 病院名 病床数
久慈 久慈 一般275床、回復期リハビリテーション病床43床、感染症病床4床、救命救急センター20床
宮古 宮古 一般373床、感染症4床、結核10床
山田 一般60床
釜石 釜石 一般272床
大槌 一般119床、感染2床
気仙 大船渡 一般病棟370床、精神病棟105床、結核病床10床、感染症病床4床
高田 一般136床
気仙沼 気仙沼市 一般447床、感染症4床
公立志津川 一般90床、療養50床
本吉町国保 一般21床、療養17床
石巻 石巻市 一般206床
市立雄勝 一般12床、療養30床
公立深谷 一般171床
女川町立 一般50床、療養48床
市立牡鹿 一般28床、療養12床


おぉ、きっちり15病院になりました。このうち大きな被害を受けた病院は、山田、大槌、高田、志津川、本吉、雄勝、女川かなと思います。ただなんですが釜石病院も大きな被害を受けたはずで、朝日の4/24記事でも

最多の272床をもつ県立釜石病院は耐震補強のため、26床しか使えず、手術再開の見通しもたっていない。

なかなか病院の特定は難しいのですが、とにかく久慈、宮古、釜石、気仙、気仙沼石巻の6つの医療圏の15の自治体病院を指しているのだけは正しそうです。地域が特定できたので、

    三陸海岸地域の医師は震災前から全国平均の約6割程度しかいない
これに進みます。思いっきり面倒なんですが、記事の眼点は病院再建であり、本当に欲しいデータは医療圏の医師数ではなく勤務医数のはずです。これを厚労省必要医師実態調査から引っ張り出して見ます。

医療圏 10万人当たり
常勤医数
久慈 76.8
宮古 75.4
釜石 103.0
気仙 82.0
気仙沼 75.0
石巻 91.6


ここの勤務医数とは正規、短期正規、非常勤を厚労省の計算法で足したもので、いわゆる常勤医換算になるとしても良さそうです。ほいじゃ全国平均はいくらかと言えば、平成21年(2009)医療施設(動態)調査・病院報告の概況に「都道府県別にみた病院における人口10万対常勤換算医師数」がありますから引用しておきます。

都道府県 10万人当たり
常勤医数
岩手 139.9
宮城 132.4
全国 149.9


全国平均の6割とは90人弱になり、記事は間違っていない事が確認できます。もう一つ出しておきたい数字として、これも平成21年(2009)医療施設(動態)調査・病院報告の概況からですが、

人口10万対病院病床数をみると、「全病床」は1,256.0床で、前年(1,260.4 床)に比べ4.4床減少している。病床の種類別では、「精神病床」273.0床、「療養病床」263.7 床、「一般病床」710.8床となっている。

ここまで数字が出れば、ちょっとした試算が可能になります。キーワードは「全国平均」です。全国平均を物指しに使うのはあんまり好きではないのですが、医師が不足している自治体では「全国平均」が物指しによくなっているので使ってみます。試算の前提ですが、被災地の現状の数字を求めようがないので、震災前の人口と医師数で集約化と効率化を考えるものとします。

出したい数値は、

  1. 人口当たりの「全国平均」による病床数(今日は一般病床にします)
  2. 医師数当たりの「全国平均」による適正病床数
「集約化」と「効率化」ですが、一体の言葉ではありますが、被災後は効率化が重くなると推測します。公立病院といえども経営の黒字化は強力に求められており、被災後の自治体はこれまで以上に財政難が深刻化するのは確実だからです。そういう中で病院がお荷物でなくなり、さらには黒字を生んでくれたら非常に嬉しいからです。

病院経営が黒字化するための最低限の必要条件は、病床が埋まるだけではなく、これが高回転することが求められます。現在の医療経営では効率化とは高回転であり、高回転させるための医療戦力の集中を集約化としても良いと考えています。もちろん必要条件を満たしただけでは黒字化しませんが、必要条件を満たさないと黒字化すらしない関係です。

効率化のための集約化が「全国平均」で良いかの疑問は相変わらず残りますが、試算を進めます。これから示す数字は、6医療圏の一般病床に対する集約化の数値です。

人口 612391人
現在の病床数 4181床
全国平均での人口当たり病床数 4535床
現在の10万人対常勤換算医師数 84.7人
全国平均の医師数への充足度 57%
現在の医師数に対する全国平均での適正病床数 2461床
現在の病床数による削減数(削減率) 1720床(41.1%)
全国平均換算に対する病床削減数(削減率) 2074床(45.7%)


この試算が現実的なものかそうで無いかですが、厚労省は一般病床の大幅削減プランも考えています。ちょっと古いのですが、平成13年当時に21世紀の医療提供の姿として急性期病床(一般病床)の将来数を試算しています。試算は5つのシミュレーションに基づいて行なわれています。達成想定年度は2010〜2015年度頃で、つまり現在と言う事になります。

試算法 試算の考え方 想定病床数
試算A 現状の入院受療率を基礎とした受療率見込み及び将来人口により試算 100万床
試算B 先進諸国における全病床数に占める急性期病床数の割合により試算 60万床
試算C 先進諸国における人口当たりの病床数により試算 50−60万床
試算D 現状の入院回数を基礎とし、平均在院日数を15日として試算 63万床
試算E 現状の入院回数を基礎とし、平均在院日数を10日として試算数 42万床


平成13年当時は確か100万床に対してでしたが、4割から5割の一般病床の削減を構想しています。これを被災地の医療圏にあてはめると、医師数に対する全国平均の病床数で医療は十分可能と言う事になります。つまり震災前の4割減程度の一般病床数に「集約化」するのは「効率化」のために必ずしも非現実的でないと言う事です。病床削減は平時には難航しますが、こういう非常時のドサクサには一挙に進めてしまうと言うのは十分に考えられます。だからこそ、
    少ない医師でも質を落とさない効率的な医療を検討していく
これが自信をもって言えるとも考えられます。全国に先駆けてのモデル病床削減地域になるかどうかは注目しておいても良いかもしれません。