被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム流言飛語対策

まずなんですが平成23年4月6日付総基消第145号 総務省総合通信基盤局長より、

東日本大震災に係るインターネット上の流言飛語への適切な対応に関する要請
 平素より、情報通信行政に対し、格別の御高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

 さて、本日、「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム」(※)において、「被災地等における安全・安心の確保対策」(別紙参照)が決定されました。

 東日本大震災後、地震等に関する不確かな情報等、国民の不安をいたずらにあおる流言飛語が、電子掲示板への書き込み等により流布しており、被災地等における混乱を助長することが懸念されます。

 つきましては、インターネット上の地震等に関連する情報であって法令や公序良俗に反すると判断するものを自主的に削除することを含め、貴団体所属の電気通信事業者等に、表現の自由にも配慮しつつ、「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」や約款に基づき、適切な対応をおとりいただくよう御周知いただくとともに、貴団体においても必要な措置を講じてくださいますようお願い申し上げます。

※ 平成23 年3月31 日、関係省庁が緊密に連携し、被災地等における安全・安心の確保に係る総合的な対策を検討・推進することを目的に設置(議長:内閣官房副長官補(内政))。

以上

震災と言うか社会的混乱時に流言飛語はつきものと言えますが、これへの対策のようです。総務省の指示は

    被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム
ここからに基づくもののようですが、ワーキングチームについては、この通達の別紙にあり

 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被災地及び福島第一及び第二原子力発電所事故に係る避難指示対象地域等においては、混乱に乗じた犯罪等の発生が懸念されるとともに、その他の地域においても、人の善意に乗じた詐欺等の発生が懸念されることから、関係省庁が緊密に連携し、被災地等における安全・安心の確保に係る総合的な対策を検討・推進するため、「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム」(以下「ワーキングチーム」という。)を設置する。

これが出来たのは平成23年3月11日付で「関係省庁申し合わせ」となっています。3/31に設置されたワーキングチームが4/6に出した指示も別紙にあり、「流言飛語への対応」として、

 地震原子力発電所事故に関する不確かな情報等、国民の不安をいたずらにあおる流言飛語が、口伝えや電子メール、電子掲示板への書き込み等により流布されており、被災地等における混乱を助長していることから、このような流言飛語に惑わされることのないよう、関係省庁が連携して、広く注意喚起のための措置を講じる。

 特に、インターネット上の流言飛語については、関係省庁が連携し、これらの実態を把握した上で、インターネット利用者に対して注意喚起を行うとともに、サイト管理者等に対して、法令や公序良俗に反する情報の自主的な削除を含め、適切な対応をとることを要請し、正確な情報が利用者に提供されるよう努める。

 また、国、地方公共団体等は、あらゆるメディアを通じて信頼できる情報発信に努める。

 なお、国、地方公共団体等が民間ソーシャルメディアを活用するに当たっては、認証の取得等の対策を講じることで、情報源としての信頼性を確保し、インターネット上の流言飛語を抑止する。

総務省通達とワーキングチームでは表現に若干の差があって、

総務省通達 ワーキングチーム
東日本大震災後、地震等に関する不確かな情報等、国民の不安をいたずらにあおる流言飛語が、電子掲示板への書き込み等により流布しており、被災地等における混乱を助長することが懸念されます。 地震原子力発電所事故に関する不確かな情報等、国民の不安をいたずらにあおる流言飛語が、口伝えや電子メール、電子掲示板への書き込み等により流布されており、被災地等における混乱を助長している
インターネット上の地震等に関連する情報であって法令や公序良俗に反すると判断するものを自主的に削除することを含め、貴団体所属の電気通信事業者等に、表現の自由にも配慮しつつ、「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」や約款に基づき、適切な対応をおとりいただくよう御周知いただくとともに、貴団体においても必要な措置を講じてくださいますようお願い申し上げます 特に、インターネット上の流言飛語については、関係省庁が連携し、これらの実態を把握した上で、インターネット利用者に対して注意喚起を行うとともに、サイト管理者等に対して、法令や公序良俗に反する情報の自主的な削除を含め、適切な対応をとることを要請


たいした差ではないのですが、総務省通達だけを読めば、ネット「も」流言飛語の温床にならないように協力を求めているのに対し、ワーキングチームはネット「だけ」を狙い撃ちしている事がよくわかります。ただし、総務省通達に引用されているワーキングチームの部分は限定的で、ひょっとして流言飛語対策として、他のメディアについても言及している可能性があります。

探してみると嬉しい事に全文がありまして、平成23年4月6日付「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム決定」として公開されています。お時間があればリンク先を確認していただければと思いますが、流言飛語対策はネットにのみに対策が行なわれている事がわかります。他のメディアに対しては書かれていません。


さてなんですが、流言飛語が生まれる背景として群衆の不安心理があることは、力説するまでも無い事かと考えます。不安心理は新たな情報を求め、なおかつ不安を掻き立てる情報になぜか靡く傾向があります。心理学は素人に近いのですが、おそらくその時の不安心理に同調するような情報に人間は親和しやすいのかもしれません。

不安心理は眼前なりに展開した状況から生まれるものであり、その不安な状況を主観的に納得させる情報に共鳴しやすく、なおかつ不安な状況から考えられる、主観的により不安な状況に同調しやすい傾向にあるとぐらいにすれば宜しいでしょうか。私もそれなりに被災経験がありますから、これも主観的にわかるような気がします。

こういう時には、主観的に共鳴しなかったり、同調し難い情報の受け入れは案外難しいと思っています。たとえ理性で否定しても、感情がそちらに魅かれしまうと言えば説明になるでしょうか。そう言うときの基本的な対策は何かといえば、これはワーキングチームが書いていますが、

    国、地方公共団体等は、あらゆるメディアを通じて信頼できる情報発信に努める
「正しい情報」で流言飛語を打ち消すのは基本としては間違っていませんが、何が正しい情報かの選別が難しくなります。感情的に受け入れ難い情報ですから、感情的反発を克服させるだけの信頼になるかと思われます。


さて国や地方公共団体が提供する情報ですが、一定の信頼は確かにあります。なんのかんのと言いながら、混乱時の情報リテラリシーの軸になるからです。ところがそれだけで十分かとなると、そうとも言えないところが多々あります。国や地方公共団体が提供する情報は、正確性に拘る点があるために、どうしても情報提供が後手後手に回る事が多々あります。

今、提供して欲しい情報より、既に確定した既知の確報を提供する傾向があると言う事です。不安心理から情報に飢えた者にとっては、しばしば物足りない情報になります。阪神の時にはネットは無かったとしても良いですから、国や地方公共団体が提供する情報の遅さに苛立ちが昂じた事は記憶しています。

少しでも早い情報が欲しいとなれば、次善はマスコミ情報になります。これがまた大変な情報提供で、報道機関の御趣味と言うか、報道機関が「客」として対象にしている層にえらく偏った情報提供になりがちです。速度は国や地方公共団体より早いのですが、編集権があったり、高度の創作性があったり、「客」のニーズに合わせているため、被災者として欲しい情報が不足していたりとなります。


さてさて、流言飛語と言っても幾つか種類に分かれると思っています。世の中の混乱を助長させるのが目的だけの悪質なものも確かにあります。これを抑止しようとするだけなら非常時の対策としてまだしもなんですが、その時点の情報分析で暴走しただけのものもあります。また情報を発信する方もある程度舞い上がっている側面がありますから、思考の迷路に突進してトンデモ結論に達し、流布させてしまう事もないとは言えません。

私も震災以来、ネット情報は嫌でも目にするのですが、影響力の大きい、とっても著名な方がトンデモナイ暴走をネット上でやらかしているのを見ています。誰とは言いませんが、知ってられる方は知ってられると思います。それでも発信者自体は流言飛語を流しているとの意識はなく、発信者自体は冷静な分析情報を流していると判断しているはずです。

そういう善意のデマの取扱いはどうなるのでしょうか。混乱時の情報は断片的であり、十分な情報と根拠をそろえてじっくり分析するなんて事は難しいものです。とくにじっくりは至難の業で、本人は冷静のつもりでも実は完全に舞い上がっているなんて事も普通です。まあ、そういう情報は本人的には削除して欲しいかもしれませんけどね。


さて、ワーキングチームの流言飛語対策に戻りますが、ごく素直に読んで、

こういう風に解釈することも可能です。確かにネット情報は普段から玉石混交であり、震災時にも明らかなデマ情報は出ていました。ただしネットの情報リテラリシーも甘いものではなく、デマ情報に対して訂正情報もまたしっかり提供されていました。この点については非常に感心した次第です。

ネット情報は、マスコミ情報と違う事を知っている人々なら十分に有用なものでした。また速報性や、情報量では既製マスコミが手の届かないところの貴重な情報が多数提供されています。問題はそういうネット・リテラリシーを備えている人間がどれほどいるかです。そんな調査はないでしょうが、あくまでも私の主観として「非常に多い」と感じています。

ネット・リテラリシーの基礎中の基礎である、ネット情報は全部が正しいわけではなく、ウソも確実に混じっているの基本を備えている人間は「非常に多い」と感じています。それでもデマに振り回されている方々もでるでしょうが、ネットと言うメディアは宿命的にそんなものだと考えています。間違っても、善意に溢れた正直者だけが集うメディアではないからです。


個人的にネット上の流言飛語対策としては、「これは流言飛語だ!」と上から押さえつけて叩き潰すより、手間ですが「流言飛語」と判断できる情報に対して、根拠を示して反論して潰す対策の方が効果的ですし、影響力があると考えています。賽の河原の石積みみたいと思われるかもしれませんが、ネットとは不思議なところで、賽の河原の石積みをやっている情報も瞬時に広がり、協力して積んでくれる人間も増えるという側面もあります。


それと、そもそもなんですが、とくに原発問題では非常にデリケートな性質がありそうに思います。正直なところ、地震津波による直接の被害への流言飛語は落ち着きつつあると感じています(今朝見たら大規模な余震があったみたいで、その点は訂正しておきます)。人々が冷静さを取り戻せば、流言飛語を飛ばそうにも拡散しなくなります。今、不安心理を助長しやすいのは原発問題です。

ここの口を押さえてしまう対策は、微妙ですねぇ。こと原発問題に関しては、国や地方公共団体の情報さえ、信頼度が必ずしも高くありません。そりゃ、改善して鎮静化に向いそうな情報の翌日には、新たな「深刻な事態」があれだけ出れば、国の情報であっても「明日はどうなるかわからない」と考えるのは当然でしょう。

結果的にかもしれませんが、改善して鎮静化する情報に異を唱えた情報が正しかったりするわけですから、どの情報に信頼を置くかで混乱してもやむを得ない状況と感じています。

そういう状況で流言飛語対策の名目で上から押さえようとする対策は、震災や原発問題に便乗した言論統制の布石と受け取る方は、さぞ多い事かと思われます。さらに反発はそういう発想をした関係者、さらにその上部監督官庁、さらには・・・もう良いでしょう。


それでも、もっと冷静な方は今回の通達の実効性の低さを理解していると思っています。流言飛語対策と言っても、しょせんは手作業の塊になります。広大なネット上を人力で確認して回り、明らかに悪質な流言飛語と断定できるものを確認の上で削除する事になります。ここで過剰の削除でもやれば、猛烈な批判が渦巻くのは間違いありませんし、その批判を取り締まるのはさすがにこの日本では無理です。

それでも、とりあえず国のお達しですから、皆様くれぐれも御注意下さい。