小沢氏の議決起訴

マスコミが懸命に追っている小沢元代表の検察審議会からの議決起訴ですが、よく判りません。政治的なテーマは触れない事はありませんが、主戦場にはしていないブログではありますし、小沢氏自身についてもさほど興味が無いのですが、どれほどの悪事を行ったのかどうにもハッキリしないのが感想です。

とりあえず現行犯的な破廉恥事件ではなさそうです。また検察も不起訴とし、検察審査会の起訴議決でも不起訴を決定しています。これらから推察される事は、何がしかの容疑があったとしても、刑事犯として問うには容疑が薄いと判断する事も可能です。とりあえず1/31付読売新聞記事を引用してみます。

 小沢一郎民主党元代表(68)の資金管理団体陸山会」の政治資金規正法違反事件で、検察官役の指定弁護士は31日、東京第5検察審査会の起訴議決に基づき、小沢元代表を同法違反(虚偽記入)で東京地裁に在宅起訴した。

 改正検察審査会法施行後、強制起訴は4件目で、政治家は初めて。小沢元代表は無罪を主張する。今後、公判前整理手続きが行われる見通しで、初公判は夏以降になるとみられる。

 大室俊三弁護士ら指定弁護士の3人は同日、記者会見し、「(有罪立証に)不足のない補充捜査を尽くした。議決に従い、有罪判決を得られるよう努力したい」と述べた。一方、小沢元代表の弁護人の弘中惇一郎弁護士は「無罪判決を得るため、最大限の努力を払う」と話した。

 起訴状では、小沢元代表陸山会元事務担当者・石川知裕衆院議員(37)ら元秘書3人(起訴)と共謀し、同会が2004年10月に支出した土地購入代金約3億5200万円を同年分の政治資金収支報告書に記載せず、05年分に記載。土地購入の原資となった小沢元代表からの借入金4億円を04年分の報告書に記載しなかったとしている。

記事から判ることは小沢氏の容疑は「政治資金規正法違反事件」であるようです。具体的な容疑は、

    同会が2004年10月に支出した土地購入代金約3億5200万円を同年分の政治資金収支報告書に記載せず、05年分に記載。土地購入の原資となった小沢元代表からの借入金4億円を04年分の報告書に記載しなかったとしている。
ここだけ読むと小沢氏が4億円をポッポ・ナイナイしたようにも読めますが、本当にそうなら小沢氏が政治資金を隠匿流用して、何らかの不正を行った事になり、立派な容疑になるとは思います。ただよく読むと解釈が難しい話が書いてあります。

疑惑は2004年に購入した土地代金を巡るもののようです。記事には2004年10月に購入した土地代金を2004年の収支報告書に記載していないとなっています。ほいじゃ、そのまま記載されていなかったかと言えばそうではなく、2005年の収支報告書に記載したとなっています。つまり疑惑の焦点は、

    2004年に記載すべき政治資金報告を2005年に行った
不正といえば不正ですが、不正と言うより手続きミスに近いような気がします。2005年に報告書に記載したのですから、当然のように2004年には借入金の報告がなされていませんが、結局のところ2005年に報告しているのですから、トータルで見ると政治資金としての動きに不正は無かったとの考え方も成立します。言ったら悪いですが、明らかな脱税を「指摘されてから」修正し、残りは時効でお咎め無しの前首相より悪意は低そうに感じます。


ここで4億円の出所に不正収賄の疑惑があるのなら問題です。この件についても色々記事になっていましたが、結局のところ消えてしまっているように思えます。つうか、そこが議決起訴の焦点であるなら大々的に書いてあるはずだと思います。影も形も無いところを見ると、4億円の出所については議決起訴では、さしたる問題になっていなかった可能性があります。

ここは推測だけではよろしく無いので、2010年9月14日付東京第5検察審査会の議決(公表は10月4日)要旨のうち、「被疑事実の要旨」を引用しておきます。

 小沢氏は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実は陸山会において平成16年10月に代金合計3億4264万円を支払い、東京都世田谷区の土地2筆(以下「本件土地」という)を取得したのに

  1. 陸山会会計責任者の大久保隆規被告とその職務を補佐する元私設秘書で衆院議員の石川知裕被告と共謀の上、平成17年3月ころ、東京都選挙管理委員会において、平成16年分の陸山会の収支報告書に、本件土地代金の支払いを支出として、本件土地を資産としてそれぞれ記載しないまま、総務大臣に提出した
  2. 大久保被告とその職務を補佐する元私設秘書の池田光智被告と共謀の上、平成18年3月ころ、東京都選挙管理委員会において、平成17年分の陸山会の収支報告書に、本件土地代金分過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨、資産として本件土地を平成17年1月7日に取得した旨それぞれ虚偽の記入をした上、総務大臣に提出したものである。

小沢氏の容疑はやはり、土地購入に伴う資金報告を2004年に行わず、2005年に行った事なのが確認できます。あれだけの政治家であり、実力者ですから政治資金の調達に明朗で無い部分があるだろうぐらいは誰でも憶測するところですが、今回の議決起訴では不明朗な政治資金調達について争われるわけではなく、帳簿上の掲載時期についての問題のみ争われようとしている事になります。

これも検察審査会要旨にあるものだそうですが、土地売買に関する経過があります。

Date 事柄
2004.10.5 小澤個人が市街化区域内の農地(地目=畑)の売買を予約。
2004.10.29 小澤個人が3億4200万円を支払うが、農地法5条により直ちには所有権移転ができないので所有権移転請求権仮登記を行うにとどめる。
2005・1・7 農地法5条による転用届出が受理されたので、所有権移転を登記する。所者者=小澤一郎。同日確認書により陸山会に移譲(民法上の売買)。陸山会は土地代金・登記料・登記手数料等3億4264万円を小澤個人に支払う。これらは、05年収支報告書に取得原価として記載。


これもよく読むと「???」なんですが、外形的手続きとして、
  1. 小沢氏個人として2004.10.29にまず土地(農地)を購入
  2. 農地は農地法5条の規制があるため、2005.1.7に所有権の登記が為される
  3. 所有権登記がなされた同日に、小沢氏個人から陸山会に売買
  4. 陸山会は小沢氏個人に購入代金を支払う
議決起訴された容疑は陸山会の政治資金届出です。小沢氏個人が土地売買を行うのは自由ですし、売買した土地を陸山会に売るのも自由です。なんでこんな複雑な経過を取ったのかはやや疑問ですし、そこに資金上のカラクリがあるんじゃないかと考えるのは勝手とは言え、そこについての容疑追及は為されていません。正直なところカネの由緒については問題とされていないからです。

議決起訴の容疑としては、小沢氏が個人ではなく陸山会代表として土地を購入したはずだとしています。確かに陸山会は小沢氏の後援組織であり、小沢氏が代表を務めています。どうも代表が購入したのだから、これは陸山会が購入したものと見なされるというのが議決起訴の容疑のように考えられます。見なされるかどうかは、それこそ裁判の結果を見ないとわかりませんが、私にはよくわからないところです。


あんまり法律論に踏み込むのは怖いのですが、仮に議決起訴の通りに小沢氏個人ではなく陸山会が購入したものとしてみます。これはolive ! news様の指摘の受け売りなんですが、2004年に購入した土地が農地であるのも解釈が煩雑になるとしています。小沢氏も土地を農業をするために購入したのではありません。宅地として転用するために購入しています。

農地は購入しても宅地には使えません。宅地に転用するには、農地法5条を引用しておきますが、

農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。次項及び第四項において同じ。)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が都道府県知事の許可(これらの権利を取得する者が同一の事業の目的に供するため四ヘクタールを超える農地又はその農地と併せて採草放牧地について権利を取得する場合(地域整備法の定めるところに従つてこれらの権利を取得する場合で政令で定める要件に該当するものを除く。第四項において同じ。)には、農林水産大臣の許可)を受けなければならない。

ウジャウジャ長いですし、以下にも例外規定が延々と列挙されていますが、要は都道府県知事の許可が必要と言う事です。現実にも2005.1.7に転用許可を受けています。また転用だけはなく、転用目的で「権利を設定し、又は移転する場合」にも都道府県知事の許可が必要となっています。そのため2004.10.29に小沢氏が土地を購入したと言っても、所有権の登記はできず、

    農地法5条により直ちには所有権移転ができないので所有権移転請求権仮登記を行うにとどめる
素朴に都道府県知事の許可が下りなかったらどうなるんだろうの疑問は出ますが、この辺は農地の取引の慣例みたいなものではないかと推測しています。知らないですからね。それはともかく、所有権が正式に移転した2005年の時点までは「取得中」の考え方も成立すると指摘されています。だから政治資金の報告は、正式に取得が終わった2005年の時点で為されても問題がないはずだと言う事です。

ただこれには民法からみれば変わるという指摘も行われており、土地代金の支払いが終わった時点で計上すべきではないかの意見も出てくるとされています。それを踏まえた上で、

  1. 第一はその時点で【外形的に本当に陸山会の会計からお金が支出されたか】が重要になる。
  2. 第二は、農地法ではそもそも知事の許可が無ければ、農地を宅地に農転できないとされているところ、それを無視して、資産計上せよということになってしまう。

第一の問題については、売買代金が小沢氏個人から提供されたのではなく、実質として陸山会から支出された証明が必要だと考えられます。第二の問題については、陸山会が取得した土地が農地であるか宅地であるかで資産価値が変わる点を指摘していると考えます。

もう一つの指摘もなされています。陸山会の会計報告の疑惑は2004年と2005年についてのものとなっています。一方で会計報告は繰越金も含むために、2006年、2007年と連続しているものであるはずです。あくまでも帳簿上のものとは言え、2004年、2005年時点で不正があれば、その矛盾は連続している2006年、2007年に影響を及ぼしているはずだの考え方です。ところが2004年、2005年以外のもの、たとえば2007年は検察審議会でも不起訴となっています。



正直なところ、これだけの情報で小沢氏の有罪・無罪を論じる事は難しいところがあります。ただごく素直に思ったのは、記載時期の問題にのみ容疑の焦点を絞るのであれば、小沢氏が農地を買った時期が悪かったの感想が出てきます。これが1月なり2月の購入であれば、ごく単純に年度内に記載され報告され何の波風も立たなかったと考える事が可能だからです。

たまたま年を跨いで購入手続きが行なわれ、取引終了時(農地の権利移転・転用許可が出た時点)に政治資金報告をしただけじゃないかと言う事です。その判断に多少の問題を含むとしても、大枠においてさしたる不正、とくに刑事罰を加えるような違反が果たしてあるのだろうかと感じざるを得ません。


私は小沢氏を清廉潔白と思ったことはありません。政治家、とくに実力者とされる人物は「清廉潔白でござい」では現実として存在し得ないからです。これは小沢氏だけでなく、かなりの部分の政治家に多かれ、少なかれ当てはまると思っています。議決起訴の容疑とされた案件についても、小沢氏が個人で買った土地を自分が代表を務める陸山会にわざわざ転売するあたりに、小沢流錬金術があるかもしれないと勘ぐるのは可能です。

それについての一連の捜査が行なわれていたのは事実ですが、検察審査会が議決起訴の理由に出来たのは、

    当該年に記載すべき資金報告を翌年にした
これで具体的にどういう損害とか、小沢氏にメリットが生じたかの指摘はありません。また上述した通り、土地の転記上の時期の解釈も分かれそうな気配があります。これだけの疑惑で今の大騒ぎは何なんだろうと思ってはいます。よくある政治資金報告の記載ミスによる訂正と、どれだけ違うのであろうかと感じています。

どっか情報が足りないか、欠けているのかな? 私はこの件に関しては、それこそマスコミ情報の拾い読み程度しか知識がありませんが、あれだけ連日のように報道されている割には、具体的に小沢氏が何の容疑に問われているかを解説したものにあんまり巡りあっていません。目に入るのは

  • 「とにかく、政治資金規正法違反だ]
  • 「とにかく、検察審議会による強制起訴だ」
  • 「とにかく、起訴されている小沢氏の説明が足りないから証人喚問せよ」
  • 「とにかく、起訴だから議員辞職せよ」
「起訴される」の事実からの報道ばかりで、肝心のどれだけ容疑が濃いのかの説明と言うか、起訴に足りるだけの容疑が、具体的にどのようにあるのかの報道は殆んど眼にしていません。あるのは、
    「とにかく、起訴されたから小沢氏は終わりだ!」
後はせいぜい「有罪に出来ないかもしれない」の懸念ぐらいです。小沢氏の政治的支持者ではありませんが、どこかポイントのずれた騒ぎのように感じています。これだけしか本当に具体的な容疑が無いのなら、判決が確定するまで鉄板の「推定無罪」として扱うべきだと考えるのは私だけでしょうか。