日本学術会議のホメオパシー否定

日本学術会議会長 金澤一郎氏による平成22年8月24日付「ホメオパシー」についての会長談話です。長くもないのでリンク先を確認してもらえれば嬉しいのですが、終わりの部分を引用します。

今のうちに医療・歯科医療・獣医療現場からこれを排除する努力が行われなければ「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米と同様の深刻な事態に陥ることが懸念されます。そしてすべての関係者はホメオパシーのような非科学を排除して正しい科学を広める役割を果たさなくてはなりません。

最後にもう一度申しますが、ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います。

この日本学術会議と言うのが結構凄い団体で、wikipediaで十分ですから引用しておきますと、

科学者の内外に対する代表機関であり、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする(日本学術会議法第2条)。

内閣総理大臣に任命された210人の会員(日本国内に本部を所在する各学術研究団体からの推薦に基づき、日本を代表するような研究者等から選考)により構成される(第7条)。法律上の位置づけは、内閣府本府の特別の機関である。(2005年4月1日、文部科学省から移管)。移管の理由は、内閣府に科学技術担当大臣が任命されたことによる。なお、特別の機関であるため、本会議自体に行政・立法・司法の三大権限は有していない。しかしながら、政策提言や政策意見具申などの権限は有している。

読めばお判りのように日本で最高権威の科学者機関と言えるかもしれません。私如きには縁遠い機関ではありますが、ほんじょそこらの民間団体とは権威の桁がかなり違う事だけは判って頂けるかと思います。さらにこれに連動した動きがあります。8/25付Asahi.comより、

ホメオパシー 日本医師会・医学会、学術会議に賛同

 日本学術会議(会長=金沢一郎東京大学名誉教授)が、通常の医療とは異なる民間療法「ホメオパシー」の科学的根拠を全面的に否定する会長談話を出したのを受け、日本医師会と日本医学会が25日、共同会見を開き、会員、学会員らに治療でこの療法を使わないよう、周知徹底していくことを表明した。

 会見には、日本医師会の原中勝征会長と日本医学会の高久史麿会長が出席。原中会長は「ホメオパシー新興宗教のように広がった場合、非常に多くの問題が生じるだろうという危機感を持っている」と述べた。高久会長は「科学的根拠はないということで一致した。ホメオパシーに頼り、通常医療を受けずに亡くなった人がいるという被害が出ている」と指摘し、学術会議の会長談話に賛同する姿勢を示した。

日本医師会は説明する必要はないでしょうが、腐っても鯛の日本の医師の代表団体です。日本医学会はやや聞きなれないでしょうが、いわゆる医学関係の学会の総元締みたいな団体です。俗に日医は開業医の団体とも呼ばれたりしますが、あえて例えれば日本医学会は勤務医の代表団体としても良いかもしれません。もちろん日医と日本医学会では性質や位置づけがかなり違いますから、適切でない表現かもしれません。

日医と日本医学会の細かな性格付けはともかく、この両団体が医師の団体として大きな影響力と権威を有しているのは間違いありません。いや、「大きな」と言うより医学界の最高権威とシンプルに表現した方がわかりやすいと思います。ごくシンプルにまとめると、

実に重々しい権威の3団体がホメオパシーの医療効果を明快に否定したと言う事です。その後も同意の声明が増えて、現在は8団体になっているとの情報もあります。

もちろんこういう権威機関が否定したからと言って、法的拘束力が生じるわけではありません。また権威が認めたからと言って、その所属員ですら無条件にそれを肯定するわけでもありません。権威主義の末期症状に陥っている団体ならともかく、そこそこ健全な団体であれば「おかしい」と思えば異論反論は自由に出ます。

それでも重いのは間違い無く、一度権威が肯定した意見を覆すのは大変な作業が必要になります。また権威の意見が正しければ完璧なお墨付にたちまちなります。ホメオパシーの件であるなら、所属員の大多数はこの意見に同調する可能性が非常に高いと考えます。私も同調します。


ここでの見方、考え方のポイントなんですが、重い権威を背負う者が態度姿勢を明らかにすれば、その影響力はプラスにもマイナスにも実に多大です。もし権威が間違った判断をして覆されるような羽目になれば、その権威は失墜し、非常な失態となります。権威の力は強いですが、使い方を誤れば我が身にも刃が降りかかる性質もあります。

そのため重い権威の座にある者ほど、発言や、ましてや態度姿勢の決定は慎重になります。日本No.2の権威者であった鳩山前首相の信頼が見る見る揺らいだのは、重い権威者の座にありながら態度姿勢がグラグラと国民に思われてしまった点も小さくないと考えています。一方で日本No.1の権威者の発言は、それこそ慎重の極みみたいなものになっています。

日本学術会議も非常に重い権威を背負っており、そういう機関が態度を公式に明確にすると言うのは、それだけの決断があると受け取るべきかと考えています。



さてなんですがこの日本学術会議の声明に対しの反応記事を2つ紹介します。8/25付共同通信(東京新聞版)から、

厚労相ホメオパシー効果調べる 研究班組織へ

長妻昭厚生労働相は25日、日本学術会議の金沢一郎会長が「ホメオパシー」と呼ばれる代替医療の効果を否定する談話を発表したことを受け「本当に効果があるのかないのか、厚労省で研究していく」と述べた。視察先の横浜市内で記者団に語った。

 同省は医学者らによる研究班を組織し、近くホメオパシーを含む代替医療に関するデータ集めを始める。

 ホメオパシーは植物や動物、鉱物などを希釈した水を染み込ませた砂糖玉を飲む療法だが、24日に出された会長談話は「(これに頼ることで)確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性がある」と警告した。推進団体は談話に反発している。

もう一つ8/25付読売新聞より、

ホメオパシーは無意味」医師会と医学会も見解

 患者に独自の砂糖玉を飲ませる民間療法「ホメオパシー」について、日本医師会(原中勝征会長)と日本医学会(高久史麿会長)は25日、医療関係者がこの療法を用いないように求める見解を共同で発表した。


 日本学術会議が24日に出した会長談話に賛同した。原中会長は「(ホメオパシーは)科学的にはまったく無意味」と述べた。高久会長は、ホメオパシーだけに頼り、きちんとした治療を受けないことが問題だと指摘した。

 また、長妻厚生労働相も25日、「仮に、本人の意思に反して病院に行かないようなことがあるとすれば問題。省内でよく議論し、実態把握の必要があれば努めていきたい」と述べた。

8/25に出された長妻大臣のコメントは、

  • 仮に、本人の意思に反して病院に行かないようなことがあるとすれば問題。省内でよく議論し、実態把握の必要があれば努めていきたい
  • 本当に効果があるのかないのか、厚労省で研究していく

この二つの部分があるようにも思われますが、発言の趣旨自体は一続きのものと受け取れそうな気がします。もう一つのポイントなんですが、ここが個人的には非常に注目されます。ホメオパシーも含む代替医療を保険医療に取り入れようとする動きを至極簡単に整理しておくと、

月日 動き
1/29 鳩山前首相、所信表明演説統合医療の推進を明言
2/5 厚労省統合医療プロジェクトチーム発足
2/26 要望書の集約や研究実績などの情報を収集終了


2/26に「要望書の集約や研究実績などの情報を収集終了」した後の次の手順はどうであったかと言えば、情報を基に治療の有効性の検証に続く予定となっていました。手順としてはおかしくありませんが、「要望書の集約や研究実績などの情報を収集終了」したのが半年前です。つまり次のステップには進んでいないという事です。

ここでありきたりの事を考えて欲しいのですが、鳩山前首相が所信表明演説統合医療の推進を唱えた理由は何かになります。もちろん鳩山前首相が個人的に代替医療が大好きと言うのもあるかもしれませんが、議員に支持者を集め、首相の所信表明演説に反映させるためには、関係団体の「誠意と熱情」がふんだんに必要です。

1月の所信表明演説は関係団体の「誠意と熱情」の結晶であったと考えるのが妥当です。鳩山前首相や長妻大臣が候補に上げた代替医療は、

わらわらと数は上っていましたが、鳩山前首相や長妻大臣と言えどもこれらを根こそぎ導入する意図はなかったと考えます。候補の数は多くとも導入される療法は限定と言うか、最初から一つであった可能性が高いと考えます。候補をたくさん挙げたのは、「厳選の末、選んだ」のポーズのためであり、選ばれるのは「誠意と熱情」が一番強いところだけと考えます。


そう考えると話が見えやすくなるところがあります。ホメパチ団体の不思議な高姿勢です。そういう団体だからの見方も十分すぎるほど可能ですが、それでもVitK事件発覚後の動きは首を傾げるところが少なくありません。まるで世間に喧嘩を売っているように思えてしまうところが多大です。正直なところ黙っておいた方が良いんじゃないかと感じるぐらいです。

これを「そういう団体だから」とだけ見るのではなく、それが出来る自信があるからと見ればどうでしょうか。ホメオパシーへの保険適用の動きは鳩山前首相の所信表明演説で大きく動きましたが、その後の鳩山政権は迷走を続け、代替医療どころの話ではなくなってしまい、鳩山前首相も6月に退陣してしまいました。厚労省の動きも停滞しているのですが、ホメパチ団体はそういう期間も「誠意と熱情」を途切れなく続けているとも考えられます。

ホメパチ団体の「誠意と熱情」は、もしかしたら停滞している統合医療の保険化を次の段階に進めるところまで来ていると考える事はできます。私は良く知らないのですが、代替医療団体でホメパチ団体ほどの「誠意と熱情」が可能なところが他にあるんだろうかと思っています。中途半端な「誠意と熱情」では、ここまで話は動かないからです。


さてホメオパシー側の「誠意と熱情」なんですが、その動きはやはり他に知る者は増えると考えるのが自然です。ホメオパシー側の「誠意と熱情」は支持者を増やすのも目標ですから、対象としてホメオパシーに好意を持っていない者にも及んでいると考えるのが妥当です。そういう線から、日本学術団体なりに内定進行の情報が届いたとしても、これまた不思議ではありません。

厚労省が検証会議を開くとなると、勝負は会議室ではなく会議が開かれる前に決しています。そういう段階まで進んでいる情報をつかんだんのではないかと推測しています。一度会議が開かれてしまうと、「結論ありき」をひっくり返すのは事実上不可能なのは、御用会議の御用学者の供給源の性質も持つ学術会議なら百も承知かと考えます。

また会議開催後に反対で「結論ありき」を潰してしまうと、せっかくつかんだ御用学者の地位を失いかねません。そこで御用学者の地位を損ねずにホメオパシー反対の意思表明を先手を打って行なってしまおうとしたのが、学術会議の声明ではないかと考えます。検証会議自体は開催予定すら現在では未定です。この段階で出来るだけ重い権威で明快に拒否の姿勢を出してしまえば傷口は小さくなります。


まあ、考えようによっては日本学術会議を持ち出さなければならないほど、事態は深刻であるとも受け取れます。その分ですが、効果は絶大で、ホメオパシーは大袈裟に言えば日本中の科学者を敵に回したと言えます。科学を普通に信じる者には、ホメオパシーを否定するのは非常に容易です。たとえ御用学者であっても、ホメオパシーに科学的裏付けを行なう作業はよほど嫌であったと思えます。

世界中の笑いものになるのは、科学者の最後のプライドが許さなかったと推察しています。