口蹄疫問題をもう一度だけ

この問題は微妙な問題点を多々含むので、触れるのはとっても怖い話題です。しょせんは門外漢ですから、普段扱っている医療問題に較べて分析の質が落ちますし、情報収集も不十分になってしまうからです。今日は先にお断りしておきますが、口蹄疫対策としての大筋は認める前提にさせて頂きます。つまり全頭殺処分を行い、口蹄疫清浄国復帰を目指した方針は是認すると言う事です。

現在の清浄国復帰方針に異論のある方もおられるでしょうが、そこから論ずるのは私の知識では力不足も甚だしいですし、その点については「次の時の方針」として別枠で論じた方が望ましいと考えています。その点については御了承頂くというか、今日のお話の前提として話を進めます。


口蹄疫も関係者の努力により漸く終息に近づいているとの報道にありますが、早くも犯人さがしに着手されているようです。まずは6/24付宮崎日日新聞からですが、

生産者が埋却地確保を 拡大県に第一義的責任

 口蹄疫対策で来県した山田正彦農相は23日、宮崎日日新聞社の単独インタビューに応じた。

 この中で、「ある程度の農地・用地を確保しないと(規模拡大を)簡単に認めるわけにはいかない」と述べ、今後、口蹄疫が発生した際に速やかに埋却を行えるよう、飼育頭数に応じた用地確保を生産者らに求める必要性に言及した。

 山田農相は「アジアでの口蹄疫の状況を考えれば、いつ(国内で)発生してもおかしくない」と見解。「牛で何千頭、豚で何万頭という大規模経営もある。畜産経営に当たって、埋却地の確保は視野に入れなければいけない」と発言した。

 一方、感染が拡大したことについては「第一義的には県の責任。川南で滞留した時点でステージが変わった」との認識を示し、埋却地の確保が難航した点を指摘。

今度の口蹄疫問題で難渋した埋却地問題への今後の山田大臣の方針のようです。趣旨としては埋却地問題に今回は難儀させられたので、今後の畜産業は埋却地の準備面積に応じた規模しか認めないと言明しています。確かにそうすれば埋却地問題はかなり解消されますが、必然的に日本の畜産業は極度に縮小します。北海道ぐらいを除いて大規模畜産業は今後は成立しないと考えて宜しいようです。

これにより牛もそうですが、豚はかなり高くなりそうに思います。この山田大臣の方針が果たして認められるかどうかは不明ですが、山田大臣の口蹄疫対策に対する姿勢だけははっきり判ります。埋却地は用意できなかった畜産農家及び現地で指揮にあたった宮崎県が悪いと言う事です。

    第一義的には県の責任。川南で滞留した時点でステージが変わった
この姿勢は7/20付宮崎日日新聞でさらに鮮やかになっています。

責任究明へ第三者委設置 山田農相が意向

 本県の口蹄疫問題に関し山田正彦農相は20日の会見で、感染拡大に至るまでの自治体の責任などを究明する第三者委員会を近く設置することを明らかにした。

 感染ルートを解明する疫学調査チームとは別に、拡大の経緯を検証する考え。

 山田農相は、川南町の大規模農場が4月20日の1例目発表前に口蹄疫の症状を見過ごしたとされる問題に「現地の獣医を含めた疫学調査チームの報告によると、国への報告以前から発症があった、あるいは判断が遅れたという点は免れないのではないか」と言及。その上で「疫学調査チーム、第三者委員会で国、県などの責任を含めて検証しなければならず、作業に取りかかった」と述べ、第三者委員会の人選に入ったことを報告した。

なかなかの段取りで、

これは良いとしても、あらかじめ山田大臣が「第一義的には県の責任」とした上でのお話ですから笑えば良いのでしょうか。言うまでもありませんが、第三者委員を選ぶのは当事者の一人である農水省であり、もっと言えば山田大臣です。この第三者委員会で山田大臣の「第一義的には県の責任」以外の結論が出たら仰天します。


口蹄疫問題で大ネックになった一つに埋却地問題があります。山田大臣が今後は畜産農家に自前で用意させると言明した埋却地です。この埋却地がどの程度必要かが4/20付の宮崎日日新聞にあります。

計186頭を殺処分した2〜3例目の埋却地は当初予定していた場所を掘削した際、地下水が漏れたことで用地を再選定した。幅と深さが3〜4メートル、長さ60メートルの穴を3カ所掘り、消毒用の消石灰とともに処分。家畜伝染病予防法に基づいて、1メートル以上の盛り土でふたをした。

牛186頭を埋却するのに

    幅と深さが3〜4メートル、長さ60メートルの穴を3カ所掘り
この記事には10年前の口蹄疫で北海道の牛を埋却したときの様子も書かれています。

10年前の口蹄疫で同程度の705頭を処分した北海道のケースでは、本人の土地に長さ50メートルの穴を数本掘削。作業は4日間で延べ700人近くを動員

まとまった広さの土地を宮崎県と言えども確保するのは容易ではありませんが、埋却地は土地さえあれば良いと言うものではありません。平成16年12月1日付「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に、

地質、地下水の高低、水源との関係、臭気対策等を関係機関と協議する

現実として掘って水が湧くような土地は不適で、山に埋めるにも水源地問題も絡んできます。もちろんですが周囲の住民がいれば、畜産関係者ならともかく、そうでなければ良い顔はしません。さらに土地には持ち主がいます。埋却されればその土地の価値は非常に下がります。無価値に等しくなると言っても良いと思います。誰が好き好んで殺処分された牛なり豚(その他汚染物質)が埋却された土地を買うでしょうか。

埋却地として提供するなら「買い取ってくれ」が地主の素直な反応になります。実際にどれぐらいの牛なり豚の埋却地が必要であったかですが、初動時、とくに赤松前大臣が外遊に出かけられる前の状況です。

松前大臣が外遊に行く前に、これだけの殺処分頭数に必要な埋却地が緊急に必要であったわけです。この数は赤松大臣外遊中にさらに膨れ上がります。

月日 合計
残処分数
処分対象数 処分済数 残処分数 処分対象数 処分済数 残処分数
4月30日 2452 383 2069 1915 488 1427 3496
5月1日 2452 708 1744 5743 488 5255 6999
5月2日 2876 708 2168 6042 488 6042 8210
5月3日 2913 708 2205 6042 488 6042 8247
5月4日 2913 712 2201 24799 1917 22882 25083
5月5日 2913 712 2201 31012 6119 24893 27094


発生から2週間程度で必要な埋却地を確保するには、それこそ札束で顔をひっぱたくぐらいの覚悟が必要です。たしかに国の財政は大赤字ですが、宮崎県だって金はありません。平成16年12月1日付「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」には、

 患畜等の死体及び汚染物品は発生地(患畜等の所在する場所を含む。以下同じ。)において焼却、埋却又は消毒をすることを原則とするが、その数量、現地の地形等によって発生地で実施困難な場合は、適切な消毒の実施等病原体の拡散防止に万全を期しつつ、他の場所(化製場を含む。)に輸送し、焼却、埋却又は化製(疑似患畜に限る。)をする。

 このため、都道府県は、家畜の所有者が患畜等の死体及び汚染物品の処理が速やかに実施できるよう、あらかじめ市町村等と協議を行い、その処理方法を検討するとともに、焼却、埋却等の場所の確保に努めるよう指導及び助言を行うものとする。また、都道府県及び市町村は、関係機関及び関係団体と連携して、本病の集団発生等により多数の患畜等の死体及び汚染物品が生じる場合を想定し、焼却、埋却及び化製処理が可能な施設のリストアップ、発生時の相談窓口の確認及び事前説明並びに関係団体等が行う患畜等の死体等の運搬及び処理体制の整備についての指導・推進に努める。

これには責任主体は都道府県になっていますが、事態は宮崎県の手に負える問題でなくなっていたのは明らかだと思われます。いくら防疫指針に都道府県が主体と書いてあっても、無理なものは無理であり、都道府県で無理があれば国が出動するのは当然ではないかと言えます。それとも宮崎県が無理であれば口蹄疫対策はあきらめて良いと言うのでしょうか。

思うに防疫指針は10年前の教訓から作られているとは思いますが、あくまでも小規模感染を想定して作られていると感じます。前回程度の規模であれば都道府県主体でも対応は可能かと思えますが、今回は爆発的な大流行に至っています。赤松大臣が外遊前に事態は防疫指針を既に超えていたと考えるのが妥当です。越えたからには新たな緊急の対策が必要であり、それを陣頭指揮できるのは外遊に出かけた赤松前大臣だけです。

これは赤松前大臣の能力が必要であったとの意味ではなく、農林水産大臣としての権限が必要であったとの意味です。いかなる災害であれ初動は直接関係する地方自治体になりますが、災害規模が拡大すれば都道府県が出動し、都道府県でも手に負えないようなら国が出動します。これは災害の種類が違っても、一国の安全保障の最低限のルールであります。口蹄疫問題にも当然あてはまると考えます。

それでもって山田大臣の御認識は、

    第一義的には県の責任。川南で滞留した時点でステージが変わった
結果としては初動段階での対応が十分でなかったのは正しいですが、山田大臣が副大臣時代に行なった国の対応は第二義以下と定義づけられておられます。さらに第二義以下の責任があっても、その責任は実質的に引責退任された前大臣の責任に帰します。問題発生以来、それこそ不眠不休で努力してきた宮崎県には既に「第一義の責任」を負わすと山田農相は決定しています。つまり、
    第一義的:県の責任
    国の責任:赤松前大臣
口蹄疫問題で大きな責任を負う事になった宮崎県と国ですが、宮崎県は一番の問題があると大臣決定がなされ、国の初動時の問題は前大臣が引責退任で帳消しと言う事です。そうなれば功績は形式的に責任を負わなかった山田大臣の手にすべて落ちるわけです。菅総理は選挙しかやってないので、論功行賞はすべて山田大臣がお引き受けになる手順が決定したようです。

昔から「泣く子と地頭には勝てぬ」と昔から言いますが、赤松前大臣が「泣く子」であり、山田現大臣が「地頭」でしょうか。山田大臣も「口蹄疫問題の解決者」の栄誉が輝けば、9月の新内閣人事でも留任ないし、さらなる要職への御出世の可能性が大きく広がる事になります。こういうのを「焼け太り」と言うのですが、今回は不謹慎ですが「埋め太り」でしょうか。

山田大臣も赤松前大臣時代は「副大臣」だったのですが、副大臣と言うポジションは、余程責任とは無縁のポジションである事だけは今回の件ではっきりしました。いや、チョットは責任が生じる可能性があるので、結論を宣言した第三者委員会が必要と御判断されたのかもしれません。いずれにしても真夏の三流怪談みたいなお話です。