三宅議員転倒劇

ここのところ医事ネタから離れ気味になっているのが遺憾なんですが、妙に気になるというか、野次馬的ですが、軽いネタで埋め草とさせて頂きます。もう一つの隠れた狙いは、いつもテキストベースで字ばかりなので、たまにはふんだんに画像を使った華やかなエントリーを書いて見たいというのもあります。5/14付読売新聞より、

民主、三宅議員負傷で自民・甘利議員に懲罰動議

 民主党は14日、自民党甘利明衆院議員に対する懲罰動議を横路衆院議長に提出した。

 民主党によると、甘利氏は12日の衆院内閣委員会で国家公務員法等改正案を採決した際、同党の三宅雪子議員らを突き飛ばし、右ひざ打撲などのけがを負わせたという。これに対し、甘利氏は自らのホームページで、三宅氏との接触を全面否定した。

そんなニュースが流れていました。まあ、国会審議で時に混乱と言うか乱闘があるのは常の事で、委員会審議なら強行採決時に野党側委員が委員長席に殺到するのも御馴染みの風景です。きっとそれにでも巻き込まれたのだろうと思っていました。あれは結構殺気だったものですからね。今でもおられるかどうか確認してませんが、プロレス出身の議員が何人かいた頃、あの連中が真剣に乱闘すればさぞ迫力があるだろうなんて不謹慎な事を妄想していたものです。

三宅議員が転倒したのもやはり委員会審議の強行採決時であったようです。この時の議題と言うか検討されていた法案は、

これには色々議論はあるようですが、話が煩雑になるので、そこの話はあえて置いときます。とにかく状況としては、与党側がその日の審議で強行採決するとの観測があり、これを阻止しようと野党議員も気勢を上げていた状態ぐらいに解釈しておけば良いようです。乱闘必至の状況と言っても良いかと思います。

そうやって乱闘になるのが良いのか悪いのかの議論も後に置いておきます。悪しき習慣であるとは思いますが、長年の間に形成された国会慣行のようですし、やっても批判はありますが、やらなければ「無気力」とか「無抵抗で白旗」みたいな評価も時になされるので、国会行事としてやる必要があるものぐらいと、とりあえず解釈しておきます。


さて問題の委員会は5/12の内閣委員会で起こっています。まず内閣委員会のメンバーですが、

役職 氏名 ふりがな 会派
委員長 田中 けいしゅう君 たなか けいしゅう 民主
理事 井戸 まさえ君 いど まさえ 民主
理事 大泉 ひろこ君 おおいずみ ひろこ 民主
理事 小宮山 洋子君 こみやま ようこ 民主
理事 松本 大輔君 まつもと だいすけ 民主
理事 村上 史好君 むらかみ ふみよし 民主
理事 井上 信治君 いのうえ しんじ 自民
理事 平井 たくや君 ひらい たくや 自民
理事 高木 美智代君 たかぎ みちよ 公明
委員 石毛 えい子君 いしげ えいこ 民主
委員 泉 健太君 いずみ けんた 民主
委員 磯谷 香代子君 いそがい かよこ 民主
委員 市村 浩一郎君 いちむら こういちろう 民主
委員 打越 あかし君 うちこし あかし 民主
委員 緒方 林太郎君 おがた りんたろう 民主
委員 大島 敦君 おおしま あつし 民主
委員 岸本 周平君 きしもと しゅうへい 民主
委員 後藤 祐一君 ごとう ゆういち 民主
委員 笹木 竜三君 ささき りゅうぞう 民主
委員 園田 康博君 そのだ やすひろ 民主
委員 田村 謙治君 たむら けんじ 民主
委員 高野 守君 たかの まもる 民主
委員 津村 啓介君 つむら けいすけ 民主
委員 寺田 学君 てらた まなぶ 民主
委員 中島 正純君 なかじま まさずみ 民主
委員 中林 美恵子君 なかばやし みえこ 民主
委員 橋本 博明君 はしもと ひろあき 民主
委員 古川 元久 ふるかわ もとひさ 民主
委員 甘利 明君 あまり あきら 自民
委員 小渕 優子君 おぶち ゆうこ 自民
委員 金田 勝年君 かねだ かつとし 自民
委員 鴨下 一郎君 かもした いちろう 自民
委員 小泉 進次郎君 こいずみ しんじろう 自民
委員 橘 慶一郎君 たちばな けいいちろう 自民
委員 中川 秀直君 なかがわ ひでなお 自民
委員 長島 忠美君 ながしま ただよし 自民
委員 漆原 良夫君 うるしばら よしお 公明
委員 塩川 鉄也君 しおかわ てつや 共産
委員 浅尾 慶一郎君 あさお けいいちろう みんな


委員の定数は40人となっていますが名簿にあるのは39人で、結構多いのに驚きました。この名簿の中に甘利議員がいるのも確認できます。一方で三宅議員は委員ではなく、民主党の応援と言うか、見学と言うか、正式には傍聴者として出席しているのがわかります。三宅議員転倒シーンはたくさんの動画がupされているのですが、スローモーションのものが判りやすいので貼っておきます。

動画だけでもよくわかるのですが、もう少しだけ詳しく見てみます。

三宅議員転倒劇に関与する人物は3名で、甘利議員、三宅議員の他に民主党の初鹿議員がおられます。初鹿議員もまた内閣委員会に所属しておらず、三宅議員同様に傍聴者です。この初鹿議員と甘利議員の、この委員会のこの時の関係ですが、甘利議員のHPの【御報告】三宅議員転倒事件についてにはこうあります。

抗議に立とうとした所、委員でもない民主党の議員が乱入し、壁を作って私を執拗に妨害しました。委員以外が実力で議事妨害をすることは許されません。何度も力ずくで押し返されたものですから、いささか、腹を立てて再度歩み寄り、冒頭の「ふざけるな!」と前の議員をどかす行為に及んだというのが、事の顛末です。

これはあくまでも甘利議員の言い分ですが、少なくともこの時に初鹿議員と甘利議員の間に険悪な空気があったのは確認できますし、その雰囲気を三宅議員もどうも感づき二人の様子を窺っているのも確認できます。

ここは甘利議員が初鹿議員を突き飛ばす寸前の様子ですが、その気配を三宅議員は明らかに察知しており、後ろに身を交わそうとしている様子が確認できます。甘利議員の両腕が初鹿議員にかかっているのが確認できますし、三宅議員には触れようのない位置にあるのもわかります。
甘利議員が初鹿議員を突き飛ばした時には、三宅議員は完全に後ろに退避している様子が確認できます。表情も落ち着いています。またこれは動画の方が確認しやすいのですが、もともとの甘利議員、初鹿議員、三宅議員の立ち位置ですが、これは真横に並んでいたわけではなく、三宅議員はやや後方に位置していた事がわかります。

三宅議員は甘利議員と初鹿議員の険悪な様相を窺うために、体をややかがめて前方を窺い、甘利議員が初鹿議員を突き飛ばした時に上半身を引っ込める運動を行ったと見るのが正しいと考えられます。また甘利議員の両腕は画面から確認可能で、両腕で初鹿議員を押しているのも確認できます。どう見ても三宅議員の前に甘利議員の両腕はあり、三宅議員に触れている様子はありません。

もう一つ、初鹿議員が甘利議員に突き飛ばされて激しく動いているのは画像からでもわかりますが、一方で三宅議員は影響を受けている様子はありません。初鹿議員が突き飛ばされた影響があるのなら、この時点で三宅議員は初鹿議員の動きに連動している必要があります。

初鹿議員は机に手をついて体勢を立て直し甘利議員をにらみつけています。その初鹿議員の後ろを三宅議員が通り抜けようとしている様子がわかります。この前の画像と較べると三宅議員の位置が完全に変わっているのがわかってもらえると思います。それとこの時点で甘利議員の両腕は既に初鹿議員から離れているのも確認できますし、三宅議員とも完全に離れた位置にあるのも確認できます。

これは動画の方が確認しやすいのですが、上の画面からこの画面への三宅議員の動きですが、突き飛ばされた後に、机にしがみついてこらえた初鹿議員の動きを確認してから動きを始めた様子が窺えます。

三宅議員が初鹿議員の後ろを通り抜ける最中にバランスを崩しかけて様子です。この後に豪快にダイブされます。この時の甘利議員の位置と三宅議員は完全に離れており、三宅議員を突き飛ばせる位置にはいません。
ダイブ後の三宅議員の位置を注目して欲しいのですが、バランスを崩しかけた初鹿議員の位置からかなり離れた地点にダイブしています。また転倒時の勢いも強かったようで、足が高く上り、エビ反りのような姿勢になっている事が確認できます。この様な状態になるには三宅議員が初鹿議員の横を通り抜ける速度がかなり早くないと難しいかと考えられます。

甘利議員が初鹿議員を突き飛ばした時の三宅議員の位置は初鹿議員の横と言うより、横のやや後方です。突き飛ばされた初鹿議員の動きは三宅議員の前方で行なわれています。ここで甘利議員が初鹿議員を突き飛ばした事が三宅議員の転倒に関係しているとすれば、三宅議員は前に押し出されるのではなく、横ないし斜め後方に押し出される必要があります。

前後関係でも初鹿議員が三宅議員の前にいますから、もし甘利議員の突き飛ばしの影響があったとするなら、三宅議員はそれによりまず横ないし斜め後方にまず押し出され、それから初鹿議員の背後を周り、さらに前方に勢い良くダイブしなければなりません。

甘利議員の突き飛ばし行為は初鹿議員に一度だけ行なわれたのは明白であり、この巻き添えで三宅議員が横ないし斜め後方に吹っ飛ぶのならともかく、前方にいた初鹿議員の背後を回って前方に勢い良くダイブするのは物理学的に困難です。それに初鹿議員が突き飛ばされている最中に三宅議員に影響があった様子は画像からありません。

ところが三宅議員のダイブ方向は前方に豪快に為されています。これが甘利議員によるものであれば、甘利議員は初鹿議員を突き飛ばした後、素早く三宅議員の後方に移動し、そこから三宅議員を改めて前方に突き飛ばす必要があります。そういう俊敏な動きを甘利議員が行なわれていないのは画像でも動画でも明らかです。

三宅議員の転倒劇は、甘利議員が初鹿議員を突き飛ばし、さらに初鹿議員が机で体を支えて突き飛ばされた影響がほぼ終了してから始まっています。もちろんその時の甘利議員と三宅議員の間には明白な距離があり、どう見てもそこから甘利議員が三宅議員を突き飛ばす事は不可能です。


それと三宅議員も初鹿議員も内閣委員会に於ては傍聴者です。甘利議員は委員であり直接審議に関る者です。傍聴者は常識以前の問題として審議の妨害を行なってはなりません。乱闘が審議かと言う問題はさておき、乱闘に加わり議事を妨害するのも委員にのみ資格があるのが国会の慣例のようです。これは乱闘もまた審議の一部であるとの考え方ぐらいに解釈すれば良いのでしょうか、

もう一つ、委員会席にある机に近づけるのは委員のみであるはずと言うのもあります。傍聴者である初鹿議員が委員である甘利議員の横に陣取り、なおかつ甘利議員の行動を妨害するのは委員会審議の妨害行為に該当することになります。また傍聴者である三宅議員が委員会会場の中に乱入するのも審議妨害に該当するとは言えます。

読売記事にある、

初鹿議員は甘利議員に間違いなく突き飛ばされていますが、三宅議員は見る限り無関係です。ここで問題なのは出されたのが刑事告訴ではなくて懲罰動議であることです。刑事告訴なら捜査が行なわれ、関係者の証言や画像の分析が行なわれるのですが、議会の動議であるなら過半数の賛成があれば可決されます。国会で過半数を握っているのは懲罰動議を提出した民主党ですから、どうなる事やら。



ずぅっと話を先送りしていたのですが、正直なところもうちょっと上品にならないかと思います。国会中継もネットで中継されるようになり、これを見るものはかつてのNHK国会中継に較べて格段に増えているかと思います。関心の高い議案の審議なら、実際の審議のやり取りを確認しておこうとする人間が非常に増えています。私のようなおっさんになると、乱闘シーンも見慣れたものですが、これは小中学生でも見ることが出来るのです。

憂うべき事は乱闘騒ぎの一環で三宅議員が転倒したことではなく、国会で乱闘が許容される事じゃないかと思っています。突き飛ばしたり、小突いたり、汚い野次の応酬が横行する現実こそ問題と考えています。

こんな時に子どもをダシにするのは卑怯かもしれませんが、プロ野球なんかでも乱闘シーンが起こると「子どもの教育に良くない」の批判は必ず上ります。では国会の乱闘劇は「子どもの教育に良い」のでしょうか。起こっている場を常識的な感覚で評価すれば、国会で起こる乱闘劇の方が遥かに「教育上良くない」のは誰でもわかることです。

国会は言うまでもなく国の三権の一つである立法府です。ここで競われるのは言論であって、腕力ではありません。お儀式のように強行採決に乱闘がセットでなければならない感覚が異常とは誰も思わないのでしょうか。民主主義の基本は話し合いですが、話し合いがまとまらなければ腕力に訴える事が「正当である」と国会自体が国民にアピールしているのが乱闘シーンのように思えてなりません。

本来は言論による審議が建設的に進められるシステムを構築し、乱闘を排するのが正しい方向のはずです。


と、綺麗事を並べましたが、国会審議とは言え、政府提出法案は基本的に絶対であり、審議と言っても、ひたすら言うだけであり、政府与党側もひたすら聞くだけです。子ども手当の審議でもわかるように、いかに法案の欠点を具体的に指摘しようとも政府与党側は聞く耳をもたず、審議時間の累積のみを心がけておられます。これは民主政権だからでなく、自民政権でも同様でした。

ごく簡単には言論が通用しないから腕力を競う審議構造が国会には明らかにあります。さらにそれの改善方法は「ない」に等しい現実があります。そんな審議であるなら議員にも乱闘要員を確保するのが方向性として成り立ちます。ヤジ要員てのもいるそうですからね。乱闘要員としてプロレス出身の議員であるとか、格闘技出身の議員を与野党とも一定以上そろえ、乱闘時には総動員して本気の修羅場を展開するのもまた審議になります。

乱闘のたびに議員が複数以上「病院送り」になったり、殉職者が出る様になれば、腕力で審議することのアホらしさが、国会議員でも自覚する様になるかもしれません。いや、ならないかなぁ。


くどいけど追加

引きのアングルで転倒劇のもう少し前から撮影されている動画です。

これで確認すると甘利議員と初鹿議員のバトルは二度あったことが確認できます。一度目は甘利議員、初鹿議員、三宅議員の立ち位置は平行関係であったようで、甘利議員が初鹿議員を突き飛ばした時に三宅議員も巻き添えになっている事がわかります。あくまでも画像上からですが、一度目の甘利議員の突き飛ばしでは、初鹿議員は三宅議員に跳ね返って姿勢を立て直したように見えます。

ここからはスローモーションので紹介した動画の様子になるのですが、三宅議員も最初に甘利議員が突き飛ばし初鹿議員がぶつかった時に「何が起こったか」と感じた様に見えます。だから2回目の甘利議員の突き飛ばしの前に、横の2人の議員の様子を窺う素振りを見せていたと考えられます。最初の衝撃の影響の可能性もありますが、2回目の甘利議員の突き飛ばしの際には三宅議員はやや後ろに移動していたと考えられます。

もう一つ注目しておいても良いのは、1回目の時にはほぼ真横から衝撃を受けて、ほぼ横ないし、やや斜め後方に三宅議員は動いている様子が確認できます。1回目と2回目の間隔は短いのですが、1回目の衝撃の後の立ち位置で転倒劇につながる2回目が起こっています。2回目は三宅議員も不意討ち状態ではなく、甘利議員と初鹿議員の様子を観察しながら初鹿議員が倒れこんでいるのを前に見ながら避けています。

三宅議員が初鹿議員を交わしたので、初鹿議員は机の端まで飛ばされているのも画面から確認できます。スローモーション画像でなくてもわかるのですが、初鹿議員が机の端で踏ん張った直後に半呼吸ほどおいて、三宅議員が唐突に前方にダイブする様子が確認できます。これがまた不思議なダイブで、これは桜子のおしゃべり様に掲載されていた画像ですが、

転倒時にはごく普通に膝を床につけ、さらに前方に手が出ています。このままなら通常は四つんばいでバッタリになりそうなものですが、結末は画像に残る通りで、とくに右足を高々とあげるエビ反り状態になっています。この状態を民主党山岡賢次国対委員長
    (三宅議員は)2メートル先まで(甘利議員に)突き飛ばされた
こう表現し、甘利議員に懲罰動議を出しています。この動議は読売記事にあるように正式に提出されたようです。懲罰動議が採択されるかどうかは国会の多数決で決まります。衆議院で2/3の多数を握っているのは言うまでもなく動議を提出した民主党であり、動議を提出したからには可決しようと努力されるはずです。

三宅議員転倒劇の動画はTouTubeやニコ動を介して広い範囲に公開されています。私も動画を分析しましたが、どう見ても甘利議員が三宅議員を2メートルも突き飛ばしている様子が確認できません。このまま懲罰動議を国会で多数を握るので可決するのでしょうか。国会は多数決で決議されるのが原則ですから、やろうと思えば強行採決でも決議は可能です。

しかしこの状態で決議するのは民主党にとっても得点どころか失点にしかならないの観測も十分に可能です。では取り下げるとなれば、今度は取り下げる理由が必要になり、これもまた民主党にとって好ましい展開とは言えません。取り下げるのならば甘利議員と何らかの取引が必要ですが、甘利議員が現在の状態で詫びを入れて手打ちになされるかと言えば、これも可能性は低そうに思います。

そうなると来月中には会期末を迎えるので、動議は提出したまま審議は行わず自然に消え去るのを待つのが一番ありえそうな選択です。実に「ハイレベル」な政治が行なわれているのがよく判ります。