口蹄疫関連で少しだけわかった事

口蹄疫についての知識は十分ではありません。どこかに信用の置ける情報はないかと首を捻っていたら、遠目の親戚ですが北海道で獣医をやっている者がいるのを思い出しました。長いこと会っていないので、連絡先を親戚伝いに見つけ出すのも一苦労でしたが、週末に連絡を取ることが出来ました。親戚の獣医は獣医でも大型動物を専門とし、北海道だったか農協だったかの獣医をしているので、信頼の置ける情報と私は判断しています。

いろいろ聞いたのですが私自身が素人なので、なかなか的確に情報収集が出来たとは言い難い面があるのですが、とりあえず親戚の獣医曰く、

    現時点で信頼の置ける情報は農水省のHPのみ
親戚の獣医も仕事柄、畜産農家の横のネットワークによるアングラ情報や、限定的ですが農水省筋の噂も手に入るそうですが、その手の情報も信憑性に問題があるそうで、結局のところ私のような素人は農水省のHP情報以外は信用しない方が無難とされました。ネットでの情報発信もよほどの注意が必要のアドバイスも受けたのですが、うちの口蹄疫関連のエントリーがパンクしそうな関係もあり、この忠告に出来るだけ副っての情報提供にします。

農水省口蹄疫に関する情報は間違いない公式データなのですが、とりあえず現時点で「疑い事例」の累積数がどうなっているかをグラフに示してみます。

このうちで非常に気になる報告があります。平成22年4月23日付の宮崎県における口蹄疫の疑い事例の5例目、6例目についてです。できるだけ頑張って他の報告を読んだのですが、この回だけは他の報告とかなり異なっている部分がある事が確認できます。5例目と6例目の報告がありますが、気になるのは6例目のほうです。経緯の部分を引用しますが、

  1. 4月22日(木曜日)14時、1例目の農場と利用している飼料会社が共通である疫学関連農場として、宮崎県が当該農場の立入調査を実施しました。
  2. 立入検査時においては口蹄疫を疑う臨床症状は認められませんでしたが、農場主からの過去の臨床症状の聞き取りや、疫学関連農場であることを踏まえて採材を行い、また、別の検査で3月31日に採取、保存していた検体と合わせて、(独)農研機構動物衛生研究所に持ち込みました。
  3. 本日夕刻、PCR検査の結果、3月31日採取の1頭で陽性を確認し、口蹄疫の疑似患畜と判断しました(6例目)。

他の報告と異なり、ここでは症状を疑って検査をしたわけではありません。立入検査時には、

    口蹄疫を疑う臨床症状は認められませんでした
簡単に言えば元気だったと言う事です。ただ立入検査前には何らかの症状はあったようで、
    農場主からの過去の臨床症状の聞き取り
結果として口蹄疫は発見されているのですが、ここでも2つの検体をチェックしています。
  1. 4月22日の立入検査時に採取された検体
  2. 3月31日に別の検査で採取されていた検体
二つの検体で口蹄疫が確認されたのは、
    3月31日採取の1頭で陽性を確認
何が浮かび上がるかと言えば、3月31日時点には問題の牛は口蹄疫になっていたようです。それが4月22日時点では治っていたと解釈できます。ここが私の泥縄式の知識では理解できずに困っていたので、専門家に聞いてみた次第です。私の知識では不治の病と言うイメージが濃厚だったからです。専門家の返答は少々驚かされました。もちろん治らずに死に至ることもあるそうですが、実は結構治るそうです。親戚の獣医も学校の授業では悲惨な病気としてイメージしていたそうですが、実際はかなり治るそうです。ですから宮崎でも発見されて殺処分されるまでに治っている牛はかなりいるんじゃないかとも話されていました。

言われてみれば疫学的にはそうでなければならないはずで、感染力と毒性(死亡率)は通常反比例します。毒性は弱いが感染力が強いか、感染力は強いが毒性は弱いかのどちらかであり、感染力も強いが毒性も強いでは生き残れません。例外もありますが、常識的にはその範疇に収まることが通常は多いですし、口蹄疫もそうであっても不思議ありません。

さてそうなると次の関心は治った牛がどうなるかです。これがはっきりわからないそうです。症状として治ってもキャリアとして感染をばら撒くのか、それともある時期から感染しなくなるのかはよくわからないとしていました。理由は単純ですべて殺処分されるので追跡調査のデータがないそうです。同様により重症化しそうな豚になると、治るかどうかもよく判らないそうです。これもすべて殺処分されるからです。

ただ6例目のケースは示唆的です。3/31時点で口蹄疫であったのは証明されていますが、立入検査のあった4/22時点では、他の牛もさらには豚にも感染症状は無かったと考えられます。潜伏期間は1〜2週間だそうですから、どうも感染は牧場内で広がらなかったと考えられます。仮に広がったとしても治ってしまったと考えられそうです。

だからと言って口蹄疫に関する取扱いが変わるわけではもちろんありませんが、個人的に「驚いた」ぐらいで提供しておきます。



もう一つはこれも6例目の報告にのみ見られる個所ですが、

    飼料会社が共通である疫学関連農場
私には何のことやらミカンやらだったのですが、ここの読み方は、
    中国わら原因説で動いた跡
「飼料会社が共通」とは中国わらが共通であったと解釈するのだそうです。初動時には感染経路が中国わらとかなり疑われ、この飼料ルートを辿って封じ込めれば感染を小規模に抑えこめるの観測があったとされます。この線で動いていた傍証として宮崎県において確認された口蹄疫ウイルスの分析結果についてがあります。ここには、

先般、宮崎県児湯(こゆ)郡都農(つの)町で発生した口蹄疫(1例目・O型)について、(独)農研機構動物衛生研究所が実施したウイルス遺伝子の解析データを同研究所及び英国家畜衛生研究所(英国、パーブライト(注))が分析しました。

この結果、当該ウイルスがアジア地域で確認されている口蹄疫ウイルスと近縁のウイルス(O/JPN/2010)であることが確認されました。

遺伝子解析で97%ぐらい一致したそうですが、現在のところ中国わら説であるかどうかは判断できないそうです。あまりにも感染が拡散しすぎて、疫学的調査が追いついていないらしいと言う事です。初期に飼料会社ルートで疫学関連農場を指定したようですが、その調査結果とかは農水省のHPからは拾えません。そういう調査方針・防疫方針が初期にあった事だけが断片的に窺えるだけです。



ついでなんですが、4/28付宮崎県における口蹄疫の疑い事例の8例目、9例目及び10例目の確認並びに第2回口蹄疫防疫対策本部の開催についても少し注意を引きます。

今回の発生を受け、直ちに第2回口蹄疫防疫対策本部(本部長:赤松農林水産大臣)を開催し、隣接県全域での全額国庫負担による消毒薬散布、宮崎県における迅速な殺処分等の防疫措置を支援する獣医師などの増員等を決定しました。

消毒薬の供給状況は種々の情報が入り乱れて確認しようが無い面があるのですが、このプレスリリースでは

    隣接県全域での全額国庫負担による消毒薬散布
こうなっていますが、4/28に打ち出された対策の内容であると考えられる4/30付「口蹄疫発生に伴う関連対策」には、
    宮崎県全域を対象とした全額国庫負担による消毒薬の散布
隣接県全体と宮崎県だけではかなり変わってくるのですが、どこがどうなっているのか良く分からないところです。ここについての親戚の獣医の見解は聞きそびれました。それと4/28付で決定されたとされる獣医師の増員ですが、これは5/10付読売新聞

赤松農相は、国などから応援に来ている獣医師を、現在の50人から100人に増やすことに加え、九州農政局からの応援を10人から100人に増やすことを明言。

どうも4/28付では50人の増員であり、今は100人のようです。5/16付宮崎県への人的支援の状況についてで確認すると、「殺処分等の防疫措置」に従事されている人数がそれに当たると考えられ、

合計279人となっています。これらは農林省HPに、

農林水産省、関連独立行政法人及び都道府県から宮崎県に対し、獣医師等を派遣し、以下のような支援を実施しています。

これは赤松大臣への批判ではなく、5/10の知事との会談時に明言していた獣医師の増員がどこに反映されているのか少々わかりにくくなっています。5/10時点では応援が50人で、その時点で100人にするとしていましたが、5/16時点にはさらに279人にまで増えたのでしょうか。そうであればさすがの指導力ですが、情報がこれだけしかありませんし、現在本当はどうなっているかもよく判らないそうです。

それでもってもともと宮崎にどれぐらいの獣医師がおられたかですが、平成20年12月31日時点の農水省データでは、

  1. 国家公務員 0人
  2. 都道府県職員:農林畜産64人、公衆衛生133人
  3. 市町村職員:農林畜産3人、公衆衛生3人、その他1人
  4. 民間団体職員:農業協同組合1人、農業共済団体117人、会社29人
  5. 独立行政法人24人
後は民間診療施設もあるのですが、総計で獣医師として届出があるものが598人、そのうち獣医事に従事しない者が53人となっています。ただ殺処分に従事するには別に資格も必要だそうで、これらの獣医師のうち、どれだけが殺処分に従事できるかの正確なデータは不明でした。


これもついでですから、これも個人的に疑問だったのですが5/10の赤松大臣が知事と会見した時に打ち出された「全額補償」です。天漢日乗様のところに転載されているNHK宮崎記事を引用しますが、

家畜を処分された農家に対しては損失額の5分の4を国が補償して、残る5分の1は農家が任意で加入している農業共済で補償されます。しかし農業共済に加入していない畜産農家もあることや、加入していても評価額が低いケースがあり宮崎県は、国に支援を求めていました。

これについて赤松農林水産大臣は、「農業共済でも補償されないケースについてはいったん県が手当をてすればその分を国が補填できるようにしたい」と述べ畜産農家の損失について全額補償する考えを示しました。

これに対し畜産農家の評価が低い事を天漢日乗様も伝えていますが、何故低いのかの理由がよく判りませんでした。これについても親戚の獣医は素人の私にもわかりやすい様に説明して頂きました。記事をよく読んで欲しいのですが、

    残る5分の1は農家が任意で加入している農業共済で補償されます
これが何を意味してるかですが、補償されるのは保険評価額と言うか、牛の個体評価額であると言う事です。それ以外に牛にどんな価格があるかと言うと市場評価額があります。畜産農家の経営は当たり前ですが、牛が市場評価額で売れることを計算の基礎として成り立っています。関係としては「個体評価額 < 市場評価額」であり、宮崎の牛の具体的な価格は知らないが、たぶん半分ぐらいのものだろうとしていました。

宮崎牛の市場価格は値下がり気味で100万円は行かないだろうと言っていましたが、仮に100万円とすれば、補償額は50万円程度になり、そのうち40万円はもともと国が補償しますから残り10万円程度の国の補償の増額に過ぎないと言う事です。これも、もともと農業共済で満額保証を掛けていた農家には関係の薄い話で、救済策といわれても反応が悪いのは当然だろうとしていました。

こういう補償では大規模なところほど打撃が大きく、倒産も増えるだろうとの懸念をされていました。おそらく宮崎の畜産農家が求めている補償は経営存続のために市場評価額に近い補償を期待していたにも関らず、鳴り物入りで出された補償がこの程度であったので、失望感が広まったんじゃないかの観測をされていました。