見ようによってはドツボ構図

2/1付共同通信(m3.com版)より、

97市町村に抑制計画求める 医療費多いため、厚労省

 厚生労働省は29日、市町村が運営する国民健康保険(市町村国保)で、2008年度の医療給付費が国の定める基準を大幅に超えたとして、24道県の97市町村を、医療費抑制の計画策定を義務付ける「安定化計画指定市町村」に指定した。

 医療費の地域差を是正し、国保の財政を安定化させる目的。指定市町村は、医療費抑制の数値目標や具体策などを盛り込んだ計画を3月末までに定めなければならない。

 道県別では、北海道が15市町村と最多で、徳島県の11市町が続く。全国の市町村に占める割合は5・5%で、前年度の6・1%(109市町村)からは減少した。

 市町村ごとの住民の年齢構成を調整した上で基準給付費を算出、給付実績がこの1・14倍を超えると指定対象となる。

安定化計画指定市町村とは国民健康保険法第68条の2第1項の規定に基づくものだそうで、平成21年度の指定市町村の指定では24道府県、109市町村となっています。平成22年度は数からすると少し減ったのかもしれません。それでもって具体的に何をするかと言えば、

指定市町村は、指定後、厚生労働大臣の定める安定化計画の作成指針(昭和63年7月22日厚生省告示第216号「安定化計画の作成指針を定める件」)に従い、3月末までに、国民健康保険事業の運営の安定化に関する計画(安定化計画)を定め、この計画に沿った医療給付費等の適正化その他運営の安定化のための措置を講ずることとなる。

これは共同記事の方がわかりやすくて、要は国保会計の医療費を抑制する事が目標です。今日は安定化計画自体に深く触れるつもりはありませんので、解説としてはこの程度で良いかと思います。


さてこれは厚労省からの是正命令なんですが、総務省からは公立病院改革ガイドラインが打ち出されています。これも大雑把に説明しておくと目標は、

一般会計からの所定の繰出後、「経常黒字」が達成される水準を目途

期限も設定されており、

  • 地方公共団体は、平成20年度内に公立病院改革プランを策定
  • 経営効率化は3年、再編・ネットワーク化、経営形態見直しは5年程度を標準

これに対応した自治体は公立病院改革プランを立てるわけですが、たとえば2009.3.14付室蘭日報では、

プランの基本目標は(1)一般会計からの繰り出し後、経常収支比率を23年度までに100%以上とする(2)8億8,611万1,000円(19年度決算)の不良債務を24年度までに解消する―と設定した。

こんな感じの改善計画を総務省に提出して、実現に向かって努力されるわけです。


つまりと言うほどではありませんが、市町村によっては

この2つが課せられる事になります。健康保険には国保と社保がありますが、その比率はいわゆる地方僻地になるほど国保の比率が非常に高くなります。理由は単純で社保を営めるほどの企業が少なくなるからです。もうちょっと目を広げると、地方僻地の公立病院の患者は、その自治体の住民が大多数を占める事もさして珍しくありません。

ここで、とある地方僻地の公立病院が赤字であったとします。総務省の改革指令に基いて経営改善を行なおうとすれば、どうすれば良いかになります。病院会計の改善のためには、とにもかくにも病院の売り上げが増えなければどうしようもありません。売り上げが増えるというのは、公立病院に支払われる医療費が増えると言う事です。

増えた医療費は誰が払うかと言えば、当然ですがその自治体の住民となります。住民とは言え、保険医療ですから7割以上は保険から支払われますし、上述した様に地方僻地に行くほど国保比率が高くなりますから、市町村運営の国保から公立病院に支払う額が増える事になります。つまり地方僻地に行くほど、総務省の改革プランが順調に進むほど、

    公立病院改善 = 国保会計支払い増
こういう図式が成立する事になります。ところが国保の支払いが増えると今度は厚労省から安定化計画の指令が下されることになります。安定化計画は国保会計の赤字とか黒字とかの観点で行なわれるものではないらしく、

指定市町村は、当該市町村の実績給付費(災害その他の特別事情に係る額は控除)が、当該市町村の基準給付費に1.14倍を乗じて得た額を超える市町村である。

簡単に言えば、支払い額が多いと下されるものと考えて良く、国保からの支払い増を保険料のupでカバーする手法では通用しない様に読めます。厚労省指令も軽くないでしょうから、安定化計画実現のためには国保からの医療給付、もっと具体的に言えば国保患者の医療機関受診の抑制を考えなければならなくなります。

厚労省指令に従って、国保患者の受診抑制に励めば、地方僻地になるほど、

    住民 ≒ 国保 ≒ 患者
この構図が強くなりますから、
    国保会計の支出減 ≒ 公立病院の収入減
公立病院の経営悪化に連動すると考えられます。


もうちょっと広い目で考えれば「住民 ≒ 国保 ≒ 患者」が成立している地方僻地に於ては、「公立病院 ≒ 国保会計 ≒ 自治体会計」の関係もまた成立していると見れます。税金とか、保険料とか、会計が名目上別と言っても、結局のところどれも経営者は自治体になります。公立病院への一般会計からの赤字補填、市町村国保の一般会計からの赤字補填と言っても、これも結局のところ自治体の同じ懐からの支出になります。

自治体からの支出と言う観点に立てば、国保会計の支出も、病院会計への支出も回りまわれば同じ懐からの支出ですから、病院が赤字になっても、国保が赤字になっても大して差が無いと見れるのではないでしょうか。一定の収入の下で確実に生じる赤字ですから、それを国保で支払おうが、病院で支払おうが、経営者である自治体にとっては一体で経営し連動している部門間の赤字の振り分けのように見えます。

ただ国から見れば管轄の違う別世界の会計であり、総務省からは病院だけの会計の改善を要求され、厚労省からは国保会計だけの改善を指令されると見ることが出来ます。どちらか一方だけ改善したら、確実に他方は悪化しますから、自治体にすれば対応に苦慮どころか途方にくれると私は見ます。


今日のお話はそれほど明快な根拠に基いていません。実際をもう少しだけ考えると、国保社保の患者比率の問題、周辺地域との医療圏としての地理的関係・人口規模、自治体の財政状態により一概に言えませんし、そんなところまで分析できるだけの知見もありません。

まあ、安定化計画指定の97市町村のの中にはそういうドツボ構図のところもあるんじゃないかと言う事と、総務省の公立病院改善指令が実を結ぶところには、今度は厚労省からの安定化計画の指定が新たに来るんじゃないかと感じるだけです。