平成21年10月20日時点での厚労省の新型ワクチン接種スケジュール表があります。ここからワクチンの年内の出荷量を抜き出してみます。スケジュール表では生産計画として「○月前半」としていますが、現在詳細な出荷日が判明している第1回〜第3回の出荷スケジュールを参考にすると、
* | 出荷日 | 医療機関到着 |
第1回出荷 | 10/9 | 10/19 |
第2回出荷 | 10/20 | 10月末以降 |
第3回出荷 | 11/6 | 11/16以降 |
出荷日はどうやらその月の上旬と中旬に行なわれると推測され、出荷日から約10日で市中に出回ると考えられます。そうなると年内最後の12月後半出荷分は年内には医療機関まで届かないと考えられますから、今年に使用できる可能性のあるワクチンは12月前半出荷分までになると考えられます。スケジュール表の出荷を容量ごとに回数接種で換算してみます。
ワクチン | 10月中旬 | 10月末 | 11月中旬 | 11月末 | 12月中旬 | 計 |
10mlバイアル | 45万 | 90万 | 170万 | 180万 | 280万 | 765万 |
1mlバイアル | 73万 | 44万 | 160万 | 340万 | 340万 | 957万 |
5mlシリンジ | 0 | 0 | 25万 | 55万 | 55万 | 135万 |
計 | 118万 | 134万 | 355万 | 575万 | 675万 | 1857万 |
10月中旬に届いたワクチンは医療従事者の使われました。11月の優先者は妊婦、基礎疾患を有する者(最優先)に加えて、幼児と小学校低学年が加わると厚労省は発表しています。スケジュール表では妊婦及び基礎疾患を有する者(最優先)の接種時期は11月から12月前半となっています。そうなると使用可能のワクチン数は成人換算で1064万回分になります。
一方で接種対象者なんですが、幼児を成人換算で0.4人分、小学生を0.6人分として計算します。これにさらに基礎疾患を有する者(その他)350万人のうち半数が加わると考えられますから、
優先者 | 回数(成人換算) |
妊婦 | 65万 |
基礎疾患を有する者(最優先) | 600万 |
幼児 | 120万 |
小学校低学年 | 210万 |
基礎疾患を有する者(その他) | 175万 |
計 | 1170万 |
算数として
-
供給ワクチン量:1064万回
必要ワクチン量:1170万回
素晴らしい、ワクチンが100%効率で使用されたとして91%は満たしています。だから机上ではほぼ可能としているかと思われます。足りない分に関しても、これは予測であって「下回る」可能性もあるとしていますから、そうなれば必要量は厚労省及び政府は供給した事になりますから、政府としての役割は十分果たした事になるようです。
政府のワクチン問題の役割分担は、あくまでも医師会主催のワクチン説明会で聞いた限りなのですが、
事業実施主体 | 役割 |
国 | ワクチンの確保と受託医療機関の委託契約の締結 |
都道府県 | ワクチン接種スケジュールの設定、在庫状況の把握 |
市町村 | ワクチン接種を行う医療機関の確保、住民に対する周知、低所得者への負担軽減 |
国の役割は極論すれば必要量のワクチンを都道府県に届れば終了です。ですから机上で足りるから、幼児や小学校低学年にも接種を拡大するのもあくまでも「要請」です。もっとも要請と言っても、これを都道府県が拒否すれば猛烈な批判が巻き起こりますから事実上の指示であることは言うまでもありません。
もっとも都道府県も拒否する必要はありませんから、要請の通り接種スケジュールを改訂するのはまず間違いありません。市町村に至っては国の要請や、要請を受けた県の決定に異議を唱える必要もありませんから、粛々とこれを実行すると思われます。
ちょっと構図を書けば、
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国が机上で足りるから要請 → 都道府県は要請を当然のように承諾 → 市町村は粛々と周知徹底
優先者 | 対象人数 |
幼児 | 600万 |
小学校低学年 | 350万 |
小学校高学年 | 350万 |
計 | 1300万 |
小学生以下は2回接種ですから2600万回になります。ここまで接種率が高いかどうかは不明ですが、2000万回近くはあってもおかしくはなく、季節性は延べ接種回数は9000万回程度あるとも考えられます。もっとも最終的なロスや返品もあるでしょうから、やはり8000万回程度と考えた方が良いかもしれません。
季節性接種は10/1から始まっていますが、これを年内に終わらせるためには、大雑把な割り算ですが10月に3000万回、11月に3000万回、12月に2000万回程度は必要です。新型接種はこの上に11月中旬から12月上旬にかけて、1000万回加わる事になります。現在の季節性の接種の数は膨大です。うちのようなツブクリでもヘトヘトになりながら数をこなしています。いくらワクチンは計算上あるからと言われても、時間と体力が無いというのが本音です。
計算上は季節性のワクチンの総生産量は去年の8割程度であり、さらに接種時期が例年より2週間ほど繰り上がり、さらに接種開始と同時に津波のように希望者が押し寄せている状態ですから、12月上旬には季節性ワクチンはほぼ無くなる可能性があります。そこまで行けば、新型接種を手がける余力も出てきますが、11月中旬から12月上旬ぐらいまでは季節性でどこも手一杯と考えています。
それでも「国 → 都道府県 → 市町村」で下りてくる「要請」の最後のツケは医療機関に回されて、「ワクチンはあるはずなのに、接種が出来ないのは医療機関の怠慢」としてマスコミ各位以下のバッシングを頂戴するのでしょうか。季節性ワクチン自体も不足するのはほぼ確実ですから、これもまた「希望したのに接種できないのは医療機関の怠慢」としてバッシングを頂戴するのでしょうか。どうにも憂鬱です。
最後に集団接種の可能性です。これも一部の意見に開業医や医師会が儲けるために妨害しているの意見があります。開業医も立ち位置が様々ですし、私は医師会活動に極めて不熱心なので、いわゆる医師会幹部の生の意見や動きは存じない事を先にお断りしておきます。個人的にはは10mlバイアルの活用問題もあり、行なうべしだと考えています。
ただし行政的にはかなりハードルがありそうな気がします。かつて、学校で集団接種を行っていたときには、それを行なう医療機器やノウハウも存在していました。しかしこれだけ中断期間が長くなれば医療機器はどうなったかわかりませんし、ノウハウも消えうせたと考えます。また当時のノウハウのままでは、現在の医療状況に通用するかどうか疑問です。
接種要領では希望者に対し、直接丁寧な説明を行なうことを記載しています。これを集団接種だからと言って、説明書を配布し、読んで署名してきたら「説明済み」と見なして接種OKに出来るかどうかは行政担当者も悩むところになるかもしれません。しかし医師が1人、1人に丁寧に説明していたら学校や保育所、幼稚園の集団接種はそもそも成立しません。
それから行政がワクチンを集団接種のためにワクチンを購入するという問題もあります。それなりのワクチン数を確保するとなれば、それなりの予算も必要で、さらに細かいですが予防接種用の注射器、注射針、酒精綿などの購入も必要です。医師やワクチンをセットアップするための看護師のための人件費も、すべて新規に計上する必要があるでしょうから、議会を通す必要もあるかもしれません。
学校以外ならそのための広報や、その日の対象者の絞込み、予防接種代金を受け取って処理する事務的問題もあるでしょうし、定番の責任問題もあります。毎年行なっていたら手はずもスムーズでしょうが、新規事業とまったく同じですから、なかなか右から左には事が進み難いように見えます。
今日のはすべてボヤキです。今週もハードな1週間になりそうなのは確かですから、現時点のエントリー更新の予定は月水金の3日とさせて頂きます。それさえも可能かどうかは自信がありませんが、よろしくご了解の程をお願いします。