二つの読売記事

2/25付読売新聞・静岡より、

 今月7日。掛川市立総合病院と袋井市袋井市民病院を統合して新病院を設置する計画について、袋井市立中央公民館で「市民報告会」が開かれた。

 「互いに引っ張り合っても仕方がない。袋井と掛川が協力してやったことを全国にアピールしてほしい」。男性が会場から訴えると、約300人の市民から拍手が起こった。

 異なる市町村間での公立病院同士の統合は全国初の試み。報告会では、両市でつくる新病院建設協議会の会長を務めた佐古伊康・しずおか健康長寿財団理事長が「病院統合は良い医療を提供するための手段。連携、機能分担が大事で、住民の理解や協力も欠かせない」と呼びかけた。

 医師不足、相次ぐ診療科の休診、増える空きベッド……。地域医療の衰退が止まらない。その打開策として、病院統合の動きがある。

 両病院は施設・設備の老朽化が進む。掛川、袋井両市が別々に新病院を作るのは財政負担が大きく、非効率だ。一つに集約すれば負担減になり、経営規模拡大で診療科の充実も果たせる。

 2007年末から月1回のペースで協議会を開き、新病院の将来像や規模、経営形態などを話し合った。最後まで難航した新病院の建設場所も、両市境に近い掛川市下俣地区で決着した。500床規模で、2012年度末の開院を目指す。

     ◎

 市町村合併が簡単には進まないのと同様、自治体病院同士の統合も容易ではない。両病院の統合合意は「奇跡的」とも言われる。

記事前半だけの引用ですが掛川市立総合病院と袋井市袋井市民病院が合併して新病院を作るお話です。記事の後半は沼津夜間救急医療センターのお話ですが、これはどう読まれても称賛記事で、前半もまた同様に称賛記事と考えてよさそうです。さらにこの記事は、

    企画・連載
    医療改革提言
    静岡の現場から「病院統合で財政負担減」

こういう企画ものですから、読売新聞の編集権の直轄の下で書かれたと考えるのが妥当です。記事自体の称賛ポイントをまとめると、

  1. 掛川市立総合病院と袋井市袋井市民病院が合併して新病院を作った事
  2. 沼津、三島、裾野市など3市3町で沼津夜間救急医療センターを作った事
この記事は単純に病院統合礼賛の記事に読めます。


もう一つ記事を引用します。8/24付読売新聞・千葉より、

 昨年9月に休止した銚子市立総合病院。同市外川町の無職金野芳江さん(72)は、「本当に再開するのだろうか」と不安そうに見守る。

 金野さんは2年前に脳梗塞で同病院に入院し、通院治療を続けていたが、休止後は検査を受けるため、数か月おきにだが約40分かけて、茨城県神栖市の鹿島労災病院に通院する。

 夫(73)も隣接する旭市の病院に通院するが、2人とも運転免許証を持っていないため、通院する時は事前に親類に依頼し、車を出して付き添ってもらう。

 病院に行けば、待ち時間などを含めて半日がかり。金野さんは「相手の1日をつぶしてしまうので、付き添いを頼むのは心苦しい」と打ち明ける。

 病院休止問題で前市長がリコールされ、新市長は病院再開を約束して当選した。だが、病院経営は自治体の負担も大きく、医師や看護師を再び集めるのは容易でない。「再開には国の力が必要だ」と期待するのは、金野さんだけではない。

この記事も後半部分の引用にしていますが、前半は県立東金病院の機能低下による救急受け入れ問題について書かれています。この記事で挙がっている例は、

  1. 東金病院の機能低下
  2. 銚子市立市民病院の閉院
記事の見出しも、

病院再開 高齢者ら願い切実

こちらの記事はどう読んでもアクセス低下による問題をアピールしています。


二つの記事を並べると正反対の主張がなされているように感じます。もちろん違いはあり、静岡の記事は計画的統廃合であり、千葉の記事は病院機能低下の記事です。公立病院の統廃合は総務省が音頭どころか大号令をかけて行なっていますが、掛川市立総合病院と袋井市袋井市民病院の統合は総務省主導によるものである可能性が示唆されます。東金病院や銚子市立市民病院は総務省に関係なく衰微した病院です。

どちらであっても結果として患者のアクセスが低下するのは同じと考えるのですが、正反対の結論が導かれている様な気がします。もちろん掛川市立総合病院と袋井市袋井市民病院の統合はまだ余力のあるうちの統合の可能性がありますし、例の100億円の交付金も手に入るかもしれません。そうなればアクセス低下のための配慮も行なわれるかもしれません。一方で、東金病院や銚子になると無計画な機能低下や閉院ですから、同列に論じられないの考え方があるのかもしれません。

そういう考え方は一つの理屈ですが、銚子がもしあの時点で、閉院ではなく旭中央との統合による閉院であったらどうかの疑問が出てきます。実際は経営母体の問題もあり困難でしょうが、地理的にはありえない選択ではありません。旭中央も国保病院ですから総務省の統廃合対象に入るかと思います。あくまでも仮定の話ですが、銚子と旭が経営統合して銚子が閉院となっていれば記事のアクセス評価はどうなるか興味深いところです。


二つの記事がどこまで考えて書かれているかの真相は不明ですが、病院の閉院しろ統廃合にしろ確実にアクセス低下をもたらします。物理的に病院が減るのですから、必然として生じます。それと統廃合のパターンとして、「なぜか」ですが、従来の病院を閉鎖して新病院を作るというのがあるようです。記事にある掛川と袋井もそうですし、北播磨の三木と小野もそうです。

n=2なので大した根拠ではありませんが、100億円なり30億円の交付金まで用意されていますから、建設にも励みが出るでしょうし、地方政治的にも「相手に吸収された」との非難を避ける事が出来るかもしれません。その辺はわかるとしても、場所的に両方の自治体から等しく便利なところというのはまずありえず、どちらかと言うと等しく不便なところである可能性の方が高いように思えます。

どこの自治体でもそうでしょうが、公共交通網は自治体の中心街を基点に整備されています。もちろん自治体によって差はあるでしょうが、中心から同心円状に不便になります。つまり二つの自治体から等しく不便な場所は、公共交通網もまた不便である可能性が高いと言う事です。下手すると山の中に忽然と新病院だけ聳えているなんて事も考えられるからです。

何が言いたいかと言えば、統合で新病院を作れば、従来の病院の患者の大部分のアクセス低下を招く事も十分に予想されると言う事です。掛川と袋井がそうであるかは地理的実感がありませんので何とも言えませんが、三木と小野は確実にそうなると言えます。

読売はその事を果たして記事にするでしょうか。総務庁指導で統廃合を果たしたところは礼賛記事、そうでなく医師が逃げて閉院とか機能低下を起こしたところはアクセス低下の問題とする姿勢を貫くかです。もうチョット言えば、閉院とか機能低下による病院の問題だけ、読売が前に発表した医療改造提言(だったかな?)に従っての医師の強制配置推進のためのネタにするかです。表にしてまとめると、

掛川・袋井 銚子
状態 統廃合により新病院 閉院
財政援助 100億円の交付金の可能性 なし
アクセス 低下 低下
読売の姿勢 病院統合で財政負担減 病院再開 高齢者ら願い切実


東金はともかく銚子は「閉院により財政負担源」とは思うのですが、その視点は銚子には向けてはならないようです。掛川と袋井もアクセス低下で困る高齢者が出てくるとも思うのですが、「病院再開 高齢者ら願い切実」にはならないようです。もっとも掛川と袋井はすごく便利な場所に移転したとか、100億円の交付金で便利な交通網を整備するというのがあるのかもしれません。


総務省主導の病院統廃合路線は、あれはあれで相当無理な点もあると考えていますが、現状の医療を守るためには統廃合も必要かと思ってはいます。ただし統廃合がすべてバラ色のものではありません。数は減るのですから、どう工夫してもアクセスは確実に低下します。医療はどう頑張っても当分はゼロサムゲーム状態にならざるを得ないところがありますから、統廃合で病院機能が仮に充実しても、アクセス低下は不可避と言う事です。

最悪なのは統廃合して作った新病院が機能麻痺に陥る事です。読売の医療改造提言では、医師はまるで医療ロボットみたいに扱われ、強制配置して送り込めさえすれば機能するのを前提に作られていた様に思います。しかし残念ながら医師も人間であり、自分の意志と言うものが存在します。新病院のハコモノに予算を費やしすぎて、待遇が悪くなればやはり逃げ出します。医師をやめても逃げるかもしれません。

統廃合による新病院の機能には、地方政治のお約束としてテンコモリの機能を盛り込もうとします。そんな新病院を作ると言う事で住民の不満を宥めるためです。「365日24時間の全診療科の断らない救急」ぐらいは宣言しても今時の事ですから、さして奇異とも思いません。もちろんそれが出来るだけの医師と設備があれば良いのですが、設備はともかく医師が集まるかは疑問です。

もしそれだけの医師を集める事が出来ても、今度は経営が大赤字になります。日本の診療報酬体系はそんな莫大な人件費を負担できるような代物ではないからです。ほとんどの自治体は財政難ですし、新病院建設への持ち出しも新たな負担になるわけですから、新たな医療サービスへの負担は医師に付回されるのは、ほぼ確実と見るからです。


読売の報道姿勢はどこかのタブロイド紙と違って強力な編集権でコントロールされていると考えていますから、今後の記事展開に興味津々というところです。