秋田で起こったよくあるお話

この話はアドバイスを考えるの続編になるのですが、簡単に経緯をまとめておきます。舞台になっているのは北秋田医療圏(北秋田市上小阿仁村)でここに新たな拠点病院を作ったというものです。ここで北秋田医療圏の人口がどれほどかと言うと、

合計すると41323人。面積は秋田県の10%ほどになるそうですが、4万人の診療圏への拠点病院構想です。それでもって北秋田診療圏に拠点病院が無かったかと言えばそうでもないらしく、現在も北秋中央病院と言うのがあります。話の原点の一つにこの北秋中央病院が老朽化したので、どうするかも多分に含まれているようです。現在の北秋中央病院と新設移転予定の北秋田市民病院の計画規模を示しておきます。
    北秋中央病院:16診療科 医師15人 199床
    北秋田市民病院:21診療科 医師31人 320床
新病院は診療科を5つ増やし、医師も16人増やし、病床数も121床増設する計画です。新病院建設の事業費は約91億円とされます。ちなみに北秋田市の予算規模はよしみの議会だよりによりますと、

一般会計は197億1793万3千円で、前年度当初予算費7億6463万4千円、3.7%の減となっています

市長交代のために骨格予算だそうですが、まあまあこの程度の規模の予算と考えて良いかと思います。この約200億円の予算の内、

主な歳出では、北秋田市民病院(工事請負費、備品購入費など)約39億6千万円

歳出の2割が新病院に費やされていると考えられ、北秋田市にしても渾身の大事業であると考えられます。ここで6/9付け読売新聞より、

病床154、医師19人に減少へ

10月開業の北秋田市民病院 津谷市長、赤字補填方針も示す

 北秋田市は8日、10月にオープンする北秋田市民病院について、病床数を当初予定していた320床から154床に減らし、医師数を当初の31人から常勤医、非常勤医合わせて19人で開業することを決めた。医師確保の見通しが立たない中で病院建設を進めた結果、計画変更を余儀なくされた。8日に開かれた市議会全員協議会で、津谷永光市長が病院の運営方針の変更を説明した。

 病院を運営する指定管理者のJA秋田厚生連に対し、岸部陞前市長は「赤字の穴埋めはしない」との考えを示していた。しかし、津谷市長は、2009年度は約3億5000万円、10年度は約3億8000万円の赤字が見込まれ、方針を一転させ、赤字を補填(ほてん)する方針を示した。

 また、当初は厚生連が半額を負担するとしていた建設費の企業債の利息分と減価償却費についても、全額負担することとした。

この計画は様々な混乱があったようですが、ごく素直に誰もが懸念したのは、そんなに計画通り医師も看護師も集まるかと言うことです。病院の建物自体は予算さえ調達できれば建設できますが、建物だけでは医療は出来ません。看護師の募集がどうなったかはわかりませんが、医師の募集結果は記事にあります。

常勤医、非常勤医合わせて19人で開業

移転前の北秋中央病院の医師数が15人ですから、なんとか4人は増やしたとも見えますが、この常勤・非常勤の内訳情報があります。ソースが怪しげな点は陳謝しなければならないのですが、6/9付けタブロイド紙より、

オープン時は医師19人(常勤医15人、非常勤医4人)でスタートすることが決まっている

病院の医師数の数え方はバラツキがあって、常勤・非常勤を合計する時も、常勤医数だけ数える時も、両方を分けて数える時もあります。これは非常勤医と言っても勤務形態は様々で、限りなく常勤に近い場合もあれば、週1回ないしそれ以下の程度の勤務の時もあります。タブロイド紙情報にある常勤医15人が現在の北秋中央病院の医師数15人と一致しているかどうかは判断の難しいところで、考えるシミュレーションは、

  1. 北秋中央病院15人にも常勤と非常勤があり、両方とも微増した
  2. 北秋中央病院の常勤医15人に新たに非常勤4人が加わった
  3. もともと北秋中央病院は常勤医15人+非常勤医4人であったのを、数え方を変えて表現した
どれが真相かはわかりませんが、新設の北秋田中央病院の計画医師数31人は常勤医であると考えられます。まさか計画段階で非常勤医をカウントしているとは思えないからです。320床のために31人が必要としていたので、医師数が不足すれば病床数を計画より削減せざるを得なくなります。この病床数の縮小は読売記事に、

320床から154床に減らし

計画病床数の48.1%に縮小しています。154床とはえらく中途半端な病床数と思っていたのですが、どうもこれは医師の充足率に比例していると考えられます。現在の勤務予定常勤医数は計画医師数に対して48.4%しかいませんから、これはほぼ一致しています。

    病床縮小率:154床 ÷ 320床 = 48.1%
    医師充足率:15人 ÷ 31人 = 48.4%
医師数の充足率と病床の縮小率を連動させるのは変な話ではないのですが、そうなると非常勤医4人は戦力的に余り期待されていないポジションである可能性が出てきます。加えて少し不思議なのは、現在の北秋中央病院と新設の北秋田市民病院の病床数です。
    現在:北秋中央病院(199床
    新設:北秋田市民病院(154床
医師数の頭数のうち常勤医数は減っていないと考えられますが、病床数は数にして44床、率にして2割少々減ることになります。病床数だけで医療能力は単純には評価できませんが、絶対値としての入院能力は確実に低下します。北秋田医療圏の4万の患者にしてみれば、約91億円の予算を費やして新築の病院は手に入りましたが、その代わり従来より2割少々入院規模が縮小した病院になったことになります。外野から見れば「???」てなところです。

もっともなんですが、診療圏人口が4万人程度で320床は大きすぎるという意見もあり、154床ぐらいでも本当は適正規模ではないかの意見もあります。また現在の北秋中央病院が15人の医師では負担が過重であり、これを適正化して勤務医の負担を軽減したという見方も出来ます。適正規模かどうかは現在の北秋中央病院の病床利用率などのデータが必要なんですが、残念ながら手許にありませんから、ドンブリな感覚としてのものである事をお断りしておきます。


ここでなんですが、199床から320床に病院規模を拡大する必然性が、本当にあったかどうかを本来は検証しないといけません。検証すると言っても基礎データは診療圏人口しかないのですが、とりあえず北秋田市としての事業計画は存在したと思います。そこには需要見積もりがビッチリ根拠付きで記載されているとは思います。もちろん黒字経営の計算です。

これは説明の必要もありませんが、公共事業での需要見積もりが当たる、ないしは見積もり以上になることは宝くじ並みの確率になります。実際の見積もり作業の多くは、需要見積もりに対してそれに必要な施設を作るのではなく、施設規模に応じて黒字になるように需要見積もりが作文されます。そういう実例を挙げるとキリが無いぐらいあります。

問題の要は計算の根拠となる施設規模の決定の経緯です。誰がどういう思惑で決めたかと言うことです。年間予算が200億円程度の自治体での総事業費約91億円ですから、地域への波及効果と言うか、工事によりメリットを受ける人々は少なくないかと考えられます。公共工事にはそういう面が多少はあるのは避け難い面があるのですが、それにしても約91億円の負の遺産北秋田市民に長く残る事だけは確実です。チト大きすぎるという事です。

病院建て替えと言う千載一遇の好機に群がり潤った人々がいたのは間違いありませんが、後始末は大変だな〜というのが素直な感想です。大変と言うより果たしてできるのかどうかに不安を感じてしまいます。贈る言葉としては高額の投資は何であれ「ご利用は計画的に」です。派手に使った金は自治体でも穴埋めしないといけませんからね。