財務省指数による医師の偏在の是正

4/21付共同通信(47NEWS版)より、

地方で不足、医師数格差4・6倍 財務省、診療報酬見直しも

 財務省は21日、都道府県ごとの医師数について、人口と面積を基準に算出した独自の指数を公表した。指数が最大で医師数が相対的に最も多い東京都と、最小の茨城県とでは4・6倍の格差があった。地方で医師不足が深刻な一方、都市部に集中しがちな実態が浮かび上がった。

 財務省は、医師が不足しがちな地域への診療報酬を手厚く配分することで偏在を是正する見直し策を検討。与野党で高まる医療費総額の増額要求をかわす狙いもありそうだ。年末に予定している診療報酬改定に向けて厚生労働省などとの議論を本格化させる。

 財務省がこの日開かれた財政制度等審議会に提示した試算は、2006年度の都道府県ごとの医師数を全国平均を1として指数化。単なる人口比に比べ病院への距離なども反映されるため、利用者の実感により近い指数とみている。

 それによると、最大の東京は3・19で、続いて大阪2・43、神奈川1・53、福岡1・45、京都1・33と大都市を抱える都道府県が上位に並ぶ。一方、指数が低いのは茨城0・70、岩手0・74、青森0・74、新潟0・76、福島0・76などだった。

 へき地の医師不在に加え、産婦人科や小児科などの医師不足が深刻化しているものの、全国の医師数は06年度までの10年間で14・4%増加。地域格差だけでなく、診療科別でも精神科や泌尿器科など医師が比較的多い分野でさらに増える傾向があり、医師の偏在が拡大している可能性がある。財務省は診療科ごとに開業できる枠を設ける案も検討する方針だ。

必要な医師数の試算に人口要素だけではなく地理的要素を加える事は間違っていません。地図上の同じ面積の同じ人口でも、地理的に交通不便で二分されたら、同じ人口であっても必要医師数は変わります。人口的には必要医師数が1人であっても、地理的に2人必要になるみたいな感じです。離島医療を思い浮かべると良いかもしれません。

ただし地理的要因と面積的要因はイコールではありません。同じ距離であっても交通機関の整備状況により同じではないからです。地理的要因を考慮する事は重要ですが、これを試算に加える時はそれこそきめ細かい配慮が必要になります。地理的要因を考慮せずに面積的要因のみで必要医師数を計算するのは机上の空論の可能性が高くなります。

この財務省

人口と面積を基準に算出した独自の指数

これがどれほど地理的要因を考慮したものかですが、記事にある財務省財政制度等審議会に提示した資料が医療提供体制の再構築のようです。

ここに計算法が書いてあります。

(注)都道府県ごとの医師数について、面積当たり及び人口当たりで、それぞれ全国平均を1として指数化。これを人口:面積を9:1に配分し、上位(医師数が相対的に多い)の都道府県から順に並べたもの

これを読む限り指数の計算法は、

  1. 日本の医師数を面積で割ったものと人口で割ったものを出す(全国値)
  2. 都道府県の同様の計算を全国値で割り、指数化する
  3. 人口の指数と面積の指数を9:1の割合で足し算し財務省指数とする
どうやらこういう手法で導き出されたようです。データは2006年度なっているので、これを検算しようとしたんですが、私の計算が悪いのかどうしても財務省資料と合いません。偏在トップの東京と最下位の茨城の基礎データと私の計算結果を示しておきます。

都道府県 面積 人口 医師数 人口指数 面積指数 財務省指数
全国 377923.14 127788743 263540 * * *
東京 2187.42 12658633 33640 1.29 22.05 3.37
茨城 6095.69 2971798 4359 0.71 1.03 0.74


微妙に食い違うのですが、お時間のある方は検算とデータの確認をお願いします。計算が食い違うのは気色悪いのですが、この計算の上で財務省の偏在の是正をやってみました。そうすると東京都が10000人、茨城が5950人で財務省指数が1.0になります。その結果人口10万対の医師数がどう変化するかと言えば、

都道府県 財務省是正前 財務省是正後
全国 206.2 206.2
東京 265.7 79.0
茨城 146.7 196.9


茨城の増加数は全国平均に近づくので妥当かとも思いますが、東京は現在の3割程度の医師数の79.0人になります。ちょっと少なすぎる様な気がするのですが、如何なものでしょうか。それでも東京の医師数が現在の1/3以下になる事が財務省の医師の偏在の是正になります。ついでのシミュレーションですが、医師数が40万人となった時にはどうなるかも試算してみました。人口は2006年度のままで、人口10万人あたりの医師数です。
    全国:313.0人
    東京:119.3人
    茨城:299.5人
どうも財務省の偏在是正では東京の医師数が現在の水準に戻る事は二度と無さそうです。現在の半分になるのも遠い夢のように考えられます。それでも、

単なる人口比に比べ病院への距離なども反映されるため、利用者の実感により近い指数とみている。

利用者の実感に近い現実的な偏在の是正だそうです。指数の設定に無理がありそうな気が個人的にはするのですが、

年末に予定している診療報酬改定に向けて厚生労働省などとの議論を本格化させる。

予算を握る財務省の主張ですから、今後はこの財務省指数による「医師の偏在の是正」が大きな比重を占めてくるかと考えられます。とりあえず東京都民の皆様並びに東京都の勤務医の皆様、御愁傷様です。