東京ルール

11/14付産経ニュースから引用します。

病院同士で搬送先決定 東京都が正式発表

 東京都は14日、都内を12地域に分け、2カ所ずつ拠点となる病院を「地域救急センター」に指定するなど、病院同士で搬送先を見つける独自の救急医療体制「東京ルール」を来年度から始めることを正式に発表した。病院同士で自ら搬送先を決める試みは全国でも珍しい。また、石原慎太郎知事は同日、機能的な救急搬送の仕組みを検討するプロジェクトチーム(PT)を設置する方針を明らかにした。

 東京ルールでは、救急隊による搬送先の病院探しが難航した場合、12地域のセンターが地域内の受け入れ病院を探したり、自ら受け入れたりする。さらに、地域内で搬送先の病院が見つからない場合は、東京消防庁救急救命士がコーディネーターとして、地域外の病院を調整する。地域の病院同士で連携して対応するため、搬送先となる都内の救急病院(333施設)に、医師の稼働状況や受け入れ可否の検索機能を備えた「救急医療情報システム」を新たに導入する。

 このほか、患者を救急車内で待たせる時間を少なくするため、最終的な搬送先以外の病院で患者を応急処置した後、転送する取り組みも始める。

 一方、石原知事は同日の定例会見で、都立墨東病院など8病院から受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題などを受け、「緊急事態の時に差配するコーディネーターの設置など、もっと綿密な機能整備をしたい」と、今後も都の体制の整備を続ける意向を示した。

昨日から話題の東京ルールですが、まず素早い取組み姿勢を見せた点は評価したいと思います。姿勢を評価した後は内容の検証が必要なんですが、なにぶん記事情報のみなので引用した産経記事以外にも見かけた情報を適宜補足して全体像を推測してみます。まずですが、

救急隊による搬送先の病院探しが難航した場合

他社の記事では一般救急でなく重症救急の時に適用されるともありました。重症救急であれば搬送先は通常二次以上を考慮すると思われるのですが、ここは軽く流して表現としての「難航した場合」の「難航」の程度をどの辺りに置いているのかは気になるところです。「難航」の程度は記事を読む限り救急隊サイドからの見方と捉えても良さそうなので、総務省が平成20年3月11日に発表した救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果についてを参考にしたいと思います、

読んでもらえればわかるのですが、たとえば、

地域別の状況を見ると、首都圏、近畿圏等の大都市周辺部において照会回数が多くなっており、4 回以上の事案の占める割合が全国平均(3.9%)を上回る団体(10都府県)における4 回以上の事案数が、全国の事案数の85%を占めるなど、選定困難事案が一定の地域に集中して見られる傾向があります。

ここだけではなく「4回以上」を問合せ回数の大きな指標にしており、「難航」は消防庁的には「4回以上」と考えても良さそうです。では東京都で4回以上の難航した搬送が起こった件数ですが、消防庁データでは重症救急だけで4769件あります。実際の運用の詳細は記事からは不明ですが、4回以上を難航と規定したのなら、3回の問合せで搬送先が見つからなかった場合に、

12地域のセンターが地域内の受け入れ病院を探したり、自ら受け入れたりする

こうなる可能性があります。1地域に2ヶ所のセンターを設けるという情報がありますが、重症救急なら3回のうち2回はセンター病院に問合せがなされ、受け入れが出来なかったという前提でスタートすることになるかと考えるのが妥当です。ちなみに重症救急での難航件数のセンターあたりの年間担当数はあくまでも平均ですが、

    4769件 ÷ 24(センター)= 198.7件
2日に1回以上は東京ルールに従っての搬送先探しを行なう必要があります。結構忙しそうです。でもって誰がこの東京ルールの搬送先探しを行なうかの問題があります。あくまでもおそらくですが、
  1. 重症救急の搬送先を救急隊が3ヶ所探す
  2. 3ヶ所のうち2ヶ所は当該地域のセンター病院が含まれると考えられる
  3. 救急隊は任意の当該地域のセンター病院に東京ルールを発動する
センター病院は受け入れが出来ない状態です。受け入れが出来ない状態と言っても様々ですが、患者の治療で手が離せない場合が多いのはもちろんです。受け入れが出来ないほど院内の治療に手間取っている時に医師に東京ルールによる搬送先探しをさせるのでしょうか。それともセンター病院に専属のコーディネーターを配置して東京ルールの搬送先を探させるのでしょうか。その点については記事情報ではわかりません。平均で2日に1回以上は東京ルールが発動される可能性があり、もしこれをセンター病院の医師に行なわせるのは少々負担が高いように思われます。

もう一つ気になる事が書かれています。

患者を救急車内で待たせる時間を少なくするため、最終的な搬送先以外の病院で患者を応急処置した後、転送する取り組みも始める。

これも「どこに」の疑問がすぐに出ますが、東京ルールの記事情報からの推測ではセンター病院になる可能性は低くありません。センター病院でなくとも受け入れが不能となっている病院であるのは間違いありません。医療者ならすぐに分かりますが、なんとも中途半端な状態です。疾患の種類によっては応急処置が可能な患者もいますが、事実上、手が出せない状態も多々あるかと思われます。

とくに余力さえあれば受け入れられる施設であれば、正直なところ時限爆弾を抱え込むような状態です。搬送先探しが長時間化したときに患者及び家族の視線が厳しくなるのは当然です。出てくる声は当たり前といえば当たり前ですが「なぜ受け入れて治療をしてくれないんだ」と切実に訴えられると思います。最終的な結果が良くなければどうなるかの想像を描かれる医療者も少なくないと考えます。

ではここで「呼び戻し」の大技を使ったらどうなるかです。別に変な技ではなく、患者の容体を見かねて休み中の医師及びその他スタッフになんとか連絡を付け、無理算段で病床を確保して治療を行なうことです。この行為自体は医療者から見れば従来は美しい行為でした。ダメと言う時点から、関係者の懸命な努力により治療可能な体制に持ち込んだのですから称賛されても良いかと思うのですが、現実はそんなに甘くありません。

こういう行為への評価は現在は非常に辛く、一旦受け入れ不能として、次の時点で受け入れるという行為は人畜非道であるとの評価が固まりつつあります。つまり無理算段でも受け入れられるのであれば「最初から受け入れろ」の非難が巻き起こります。無理算段でも何でも、結果として受け入れられるのであれば「医師の怠慢」「モラルの低下」の集中砲火を覚悟する必要があります。

なにぶん詳細がわかりませんので、きっと私が思いつくような初歩的な問題点など十分に検討した上で、東京ルールは運用されると信じたいと思います。