90日ルールへの特例措置

ステトスコープ・チェロ・電鍵様で見かけた記事です。

退院や転院に向けて努力していれば90日超えても減額対象外に  厚労省通知
08/09/08
記事:WIC REPORT
提供:厚生政策情報センター

 一般病棟入院基本料を算定している病棟に長期入院している高齢の脳卒中後遺症患者及び認知症患者に関する診療報酬の算定の際の留意事項について(9/5付 通知)《厚労省

 厚生労働省は9月5日付けで地方社会保険事務局等宛てに、一般病棟入院基本料を算定している病棟に長期入院している高齢の脳卒中後遺症患者及び認知症患者に関する診療報酬の算定の際の留意事項を通知した。

 平成20年度診療報酬改定では、一般病棟が本来担うべき役割を明確にするため、「一般病棟入院基本料を算定している病棟に90日を越えて入院している後期高齢者である患者であって、重度の意識障害、人工呼吸器装着、頻回の喀痰吸引等を実施している状態等にない脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者(以下、対象患者)について、後期高齢者特定入院基本料の算定対象者とし、半年間の準備期間を設け、平成20年10月1日から施行すること」になっていた。

 今回の改正で、「対象患者のうち、平成20年9月30日現在において一般病棟入院基本料を算定している病棟に入院している患者又は疾病発症当初から当該一般病棟入院基本料を算定する病棟に入院している新規入院患者であって、当該保険医療機関が退院や転院に向けて努力をしているものについては、90日を超えても後期高齢者特定入院基本料の算定対象としないこと」とした(P1-P2参照)。

 なお、医療機関は、退院支援の状況について、退院支援状況報告書を地方社会保険事務局長に毎月届け出ることとされた(P2参照)(P5参照)。

おもしろそうな記事なので平成20年9月5日付保医発第0905001号一般病棟入院基本料を算定している病棟に長期入院している高齢の脳卒中後遺症患者及び認知症患者に関する診療報酬の算定の際の留意事項についてを引用しながら読んでみます。まず記事の

 平成20年度診療報酬改定では、一般病棟が本来担うべき役割を明確にするため、「一般病棟入院基本料を算定している病棟に90日を越えて入院している後期高齢者である患者であって、重度の意識障害、人工呼吸器装着、頻回の喀痰吸引等を実施している状態等にない脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者(以下、対象患者)について、後期高齢者特定入院基本料の算定対象者とし、半年間の準備期間を設け、平成20年10月1日から施行すること」になっていた。

ここに該当する通達部分は、

 平成20年度診療報酬改定において、一般病棟が本来担うべき役割を明確にするため、一般病棟入院基本料を算定している病棟に90日を超えて入院している後期高齢者である患者であって、重度の意識障害、人工呼吸器装着、頻回の喀痰吸引等を実施している状態等(基本診療料の施設基準等(平成20年3月5日厚生労働省告示第62号)別表第四第一号から第十一号の各号に掲げる状態)にない脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者(以下、「対象患者」という。)について後期高齢者特定入院基本料の算定対象患者とし、半年間の準備期間を設け、平成20年10月1日から施行することとしているところである

記事では簡潔に「重度の意識障害、人工呼吸器装着、頻回の喀痰吸引等」に記していますが、正確には「別表第四第一号から第十一号の各号に掲げる状態」とあります。この11項目を挙げてみると、

  1. 難病患者等入院診療加算を算定する患者
  2. 重症者等療養環境特別加算を算定する患者
  3. 重度の肢体不自由者脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く。)、脊髄損傷等の重度障害者(脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を除く。)、重度の意識障害者、筋ジストロフィー患者及び難病患者等
  4. 悪性新生物に対する治療(重篤な副作用があるもの等に限る。)を実施している状態
  5. 観血的動脈測定を実施している状態
  6. リハビリテーションを実施している状態(患者の入院の日から起算して180日以内に限る。)
  7. ドレーン法若しくは胸腔又は腹腔の洗浄を実施している状態
  8. 頻回に喀痰吸引・排出を実施している状態
  9. 人工呼吸器を実施している状態
  10. 人工腎臓、持続緩徐式血液濾過又は血漿交換療法を実施している状態
  11. 全身麻酔その他これに準ずる麻酔を用いる手術を実施し、当該疾病に係る治療を継続している状態(当該手術を実施した日から起算して30日までの間に限る。)
これ以外のこれらの患者は90日ルールに該当するというのが、今春の後期高齢者医療制度発足に伴い改定された診療報酬の内容です。90日ルールとは、入院日数(転院があれば転院前の入院日数を合算する)が90日を越えれば入院料がこう変る寸法です。言うまでも無くここで注釈を入れておかないと誤解する人がおられると思います。正確な数字は開業医なのでウロ覚えなのですが、一般病棟の入院料も入院日数で厳しく逓減されていきます。90日までなるとかなり減っていたはずです。たとえ一般病棟入院基本料であっても、一般病棟の設備及びスタッフを支えるには足りない額とされています。一般病棟は急性期疾患を取り扱えるだけのシステムを持っており、そのシステムを維持するだけの入院料がないと破綻します。ですから後期高齢者特定入院基本料に変更されると、病院側としては赤字から大赤字に変ると考えてもらえれば良いかと思います。

病院経営は軒並み喘いでいますから、こういうディスカウントをされれば、とても患者を入院させておられなくなります。「赤字」程度は状況によっては目を瞑れても、「大赤字」となれば病院の生死に関ってきます。経済的に追い詰められた病院は患者を追い出さざるを得ない状態になると言う事です。追い出すとは非人情と感じる方もおられるとは思いますが、通達にはこうも書かれています。

一般病棟が本来担うべき役割を明確にするため

これだけじゃ、わかりにくいと思いますから翻訳すると

    この通達に該当する患者は一般病棟で診療を行うには不適切である。不適切な患者の診療を行ったペナルティとして入院料を引き下げる。ペナルティをもらいたくないのなら、とっとと不適切な患者を追い出すべし。
ここで毎度の事ながら嫌らしいのは、厚労省は真綿で首を締め上げますが、患者追い出しをさせるのはあくまでも現場の病院にさせます。自分の手は汚さず、直接の恨みや批判を買うのは病院側になる寸法です。

先ほど一般病棟ではそれに相応しい設備及びスタッフがあるとしましたが、病床は患者の病態に合わせて区分されています。

    一般病床 → 療養病床 → 老健 → 特養
本来は患者の症状に応じて上流から下流に流れていくはずですが、現実はそう簡単には流れません。理由は単純で「足りない」からです。また「足りない」から増やすという事は無く、療養病床などは大幅な削減が断行されています。老健、特養の建設も厳しく制限されています。つまり厚労省は施設での入院治療ラインを出来るだけ細くしたいと熱心に推進されています。当然の事ながら行くところがなくなってくるのですが、それだけは考えてあります。現在御執心の「在宅医療」です。「皆様、後は在宅でバラ色の医療が待ってます」と言う感じでしょうか。

この療養病床以下の施設状況はかなり地域差はあります。平均的に逼迫しているのは間違いありませんが、物理的に不可能なところも数多くあります。物理的に不可能なところは一般病棟を追い出されれば在宅医療しか選択枝が無くなります。文字通りの追い出し状態になるという事です。そんな政策が10/1付で断行される予定でした。

ところがさすがに総選挙が絡んでくると政治が動きます。特例緩和が打ち出されることになります。通達にある改正の概要には、

 対象患者のうち、平成20年9月30日現在において一般病棟入院基本料を算定している病棟に入院している患者又は疾病発症当初から当該一般病棟入院基本料を算定する病棟に入院している新規入院患者であって、当該保険医療機関が退院や転院に向けて努力をしているものについては、基本診療料の施設基準等の別表第四第十二号に該当するものとして、90日を超えても後期高齢者特定入院基本料の算定対象としないこととした。なお、各保険医療機関においては、退院支援の状況について、退院支援状況報告書を地方社会保険事務局長に毎月届け出ること。

分かり難い文章ではありますが、「基本診療料の施設基準等の別表第四第十二号」なるものが追加されました。内容は、

前各号に掲げる状態に準ずる状態にある患者(※4参照)

(※4参照)が今回の要でこれも通達から引用します。

 基本診療料の施設基準等別表第四第十二号に規定する「前各号に掲げる状態に準ずる状態にある患者」は、基本診療料の施設基準等別表第四第一号から第十一号の各号に掲げる状態に該当しない脳卒中の後遺症の患者又は認知症の患者であって、以下のいずれにも該当するものとする。なお、2.の届出は毎月行うものとし、当該診療月の翌月10日までに届け出るものとする。

  1. 平成20年9月30日現在において一般病棟入院基本料を算定している病棟に入院している患者又は疾病発症当初から当該一般病棟入院基本料を算定する病棟に入院している新規入院患者
  2. 当該保険医療機関が退院や転院に向けて努力をしており、その状況について、別紙様式27により地方社会保険事務局長に届け出ているもの

別紙様式27もリンクしている通達にあるので御参照ください。こういう書式で「退院や転院に向けて努力」している事が認められれば一般病棟基本入院料で診療してもよいと言う特例緩和措置です。勤務医の皆様にとってはまたも書類仕事が増えるのがお気の毒です。

他にも問題点を指摘したい方々は多数おられると思いますが、私が一番気になるのは、

    平成20年9月30日現在において一般病棟入院基本料を算定している病棟に入院している・・・(中略)・・・入院患者
ここの解釈は素直に読んで、現在(9/30まで)の入院患者に対象を限定していると考えられます。つまり平成10年10月1日以後に入院した患者には適応されないと解釈するのが妥当かと思われます。そうなると10/1以降に入院した患者にはこの特例措置は適用されず、90日経てば追い出される事になります。そうなると来年早々にも再び追い出し騒動が再燃すると考えられます。お役所文なのでこの「平成20年9月30日現在において」の取り方が別なのかもしれませんが、私にはそう読めます。

そう考えれば通達には気になる文章も書かれています。

一定期間経過後、実態の把握を行う予定であるので、各社会保険事務局においては、届出のあった退院支援状況報告書について整理をしておくこと。

ここは10/1以降に入院した患者について特例措置を適用しないとの前提で読むと意味深長です。どうも今回の特例措置はあくまでも3ヶ月程度の限定措置であると考えられます。そうしないと、10/1以後入院患者と9/30以前の入院患者で取扱いで大きな差が生じるからです。そういう不公平な扱いはどう考えても問題です。

どうにも総選挙が終わるまでの批判かわし、点数稼ぎに見えてしまうのは私だけでしょうか。