木下常任理事

僻地の産科医様の木下理事の「明文化」謝罪会見より、

    日医の木下理事は28日の定例会見で、
    医療安全調査委員会の説明で

    「明文化」の記述をしたことを謝罪しました。

    本日、
    日医は「厚生労働省第三次試案に関する日本医師会の見解」を公表。
    その見解を要約すると、
    「8割の都道府県医師会も賛成したし、
     日医としては第三次試案による法制化を強く要望する」
    という内容でした。

    それで、その見解の書面に、
    警察庁法務省に対しては、参議院決算委員会での
     両刑事局長による『試案の内容は厚労省と合議し、
     了解している』との答弁の通り、文書は交わしていないが
     試案の記載内容の遵守を求めていく」
    とありました。

    これについて記者から質問。
    「文書は交わしていないと認めたということは、
     これまで『明文化されている』と木下理事がお書きになった
     日医ニュースの表現を訂正するのですね」と。

    すると木下理事は、最初は「よく覚えてません」とか
    「あれは別紙3についてやりとりして・・・」などと弁解していましたが
    最終的に
    「ああ、ちょっと行過ぎた書き方をしてしまったかもしれない。お詫びします」
    と言われました。

ソースは5/28の記者会見に出席された記者です。僻地の産科医様は「あるお友達の記者さん」とボカしていますが、私もその記者がどなたかを存じています。

木下常任理事が日医での事故調推進派の最強硬派である事は有名です。ある日医ウォッチャーに言わせれば、木下常任理事のみが事故調に異様に熱心であり、他の日医幹部はなんかよく分からないうちに引きずられているんじゃないかの観測さえあります。この辺りについての真相は下々には憶測のみになっていますが、日医では木下常任理事が矢面に立って事故調推進に驀進している事だけは間違いありません。

ここで事故調推進に積極的なことはマイナス評価でありません。事故調問題の大前提は「事故調は必要である」の合意は医師の間で既に為されているのです。問題の焦点はどんな事故調になるかです。事故調に対する希望は様々にありますが、最大公約数的なものとしては、

  1. 医療事故は事故調が責任の有無を決定する
  2. 刑事民事については事故調の決定に基づいて行なわれる
こういう組織である事を望んでいるで良いかと考えます。これは現在の訴訟で医師に求められる善管注意義務が余りに高くなり、その高さを守ろうとすると、患者への不利益を度外視する萎縮医療・防衛医療を余儀なくされる現状があるからです。萎縮医療・防衛医療の水準はJBMと揶揄しているうちはジョークでしたが、JBMが現場の医療に実際に浸透している事態を危惧してのものです。

上記2条件を機能させるためには

  1. 事故調調査が終了まで刑事介入、民事手続きの停止
  2. 事故調調査結果で「シロ」ならば刑事民事の手続きは行なわれない
この2つの条件が必要です。このうち民事は国民の訴訟を起す権利との兼ね合いがあり、現状ではすぐにはどうしようもないので、運用実績を重ねる事により、民事訴訟での決定的鑑定所見として重きを為してくれるのを待たざるを得ないだろうと考えられています。もちろんそんな生温いものではなく「即座に」の意見もありますが、民事の話は今日はさておきにしておきます。

とりあえずの問題は刑事です。いくら事故調があったとしても警察捜査が介入すれば事故調調査は頓挫します。事故調調査結果に基づいて刑事手続きを判断するにも、事故調調査が終了するまで警察捜査の介入を停止する担保が無い事には事故調の存在意義が疑われます。この点についての明確な位置付けが事故調試案にない事が問題視されています。

事故調試案は現在三次ですが、試案上の警察捜査の位置付けは一貫して「謙抑的」です。木下常任理事は三次試案よりさらに酷かった二次試案から賛成で、三次になると賛成を超えて全面推進の立場に立たれています。ただ私だけではなく学会や各地の医師会から警察捜査に対する「謙抑的」の懸念が強く打ち出されています。これに対する木下常任理事の説明は、

  1. 警察・法務省と事前相談済である
  2. 相談だけではなく文書も取り交わしている
要するに密約がなされているから「大丈夫」で一貫されております。これは私から言わせればおもしろい表現で、約束の内容は言えないけど「安心しろ」の説明に思えてなりません。ただ木下常任理事の懸命の活動で密約を信用して、三次試案に賛成と言う幹部医師が増えているのは間違いありません。ところが疑問が浮き上がる事になります。

国会質疑で文書の存在が公に否定されたことです。木下常任理事は事故調反対派の説得材料に文書の存在をかなり強調されています。これは各地で木下常任理事の説明を実際に聞いた方の証言で明らかです。文書の存在についてはたとえあったとしても、その有効性は無に等しいであるとの意見も有力ですが、木下常任理事の説明で賛成に回った幹部医師のかなりが「文書まであるのなら」が大きかったとされます。これについてはこの段階になって

    「ああ、ちょっと行過ぎた書き方をしてしまったかもしれない。お詫びします」
文書の有効性の議論はさておいても、文書の存在が事故調賛成の大きな鍵であったと思うのですが、これを否定しています。


ところで事故調推進に対し様々な思惑が飛んでいます。これも木下常任理事の説明ですが、

  1. 社会保険庁解体に伴うこの時期が事故調創設の千載一遇のチャンスである
  2. 事故調法案さえ成立させれば内容は法が施行されるまでに修正可能である
社会保険庁受け皿説ですが、人員的には実情からして疑問であるとされています。これは説得力のあるものですが、私はやはり受け皿説を取ります。人員の問題ではなく、組織の数としての見方です。つまり社会保険庁が解体されてなくなる代わりに事故調をバーターで作ると言う考え方です。数の上で一増一減ですから官僚的には帳尻が合うとされていると考えられます。だから千載一遇のチャンスであるとのとらえ方です。官僚以外の人間の感覚として、社会保険庁解体と事故調創設はなんの関係もないと感じますが、官僚論理からすると非常に密接したものになると思われます。

この話は嘘ではないと思います。社会保険庁解体にリンクさせた方が事故調創設は官僚的には説明しやすくスムーズに事が運ぶ側面があるんだと思います。またこの事を、木下常任理事は厚労官僚から相当輪をかけて吹き込まれていると考えても良さそうです。根拠のない話ではありませんから、説得力もあるでしょうから「二度とチャンスは無い」と思い込んでも不思議ありません。

おそらくですが「二度とチャンスは無い」を十分信じ込まされた上で、「だから内容はともかく、とにかく作るのが重要」と話を更に吹き込まれたと考えています。木下常任理事も厚労官僚も試案の内容より器の成立が優先であるとひたすら訴えています。

1.の話はまんざら嘘ではありませんが、2.の話は木下常任理事が躍らせれていると考えます。早期成立のために内容は厚労官僚の言うがままになる必要がありません。厚労官僚は医療政策については柔軟性どころか朝令暮改を平気で行いますが、自らに都合の悪い事、不都合な事には一切耳を傾けません。看護師内診問題の看護課通達一つでさえ是正できません。厚労省のメリットばかりを並べた法案が成立すれば、条文を盾に絶対譲歩しないのは言うまでもありません。神話時代の日医であれば可能であったかもしれませんが、現在の日医の意見など厚労省聞く耳はありません。

1.にしても厚労省も事故調を作っておきたいを忘れてはいけません。一増一減は厚労省にとっても大きく、社会保険庁の縄張りが減った分に事故調が欲しいと言う側面は確実にあります。厚労省にとってもこの時期を外せば、一つ縄張りが減る事になり困るからです。極論すれば厚労省にとっては事故調でなくとも良いわけで、何か社会保険庁の穴埋めになる組織が必要と言うことです。

厚労省社会保険庁解体の穴埋めに事故調が欲しいと言う思惑がありそうですから、そこをテコにすれば事故調案の内容の交渉も様々あると考えています。あくまでも個人的にですが、木下常任理事は厚労省の縄張り確保のために不利な条件をすべて抱え込み、厚労省のために反対派を説得するのに大汗をかかされているように見えます。またあくまでも伝聞ですが、木下常任理事の人柄は誠実と聞いていますから、その誠実さを巧妙に利用されているように思えて仕方ありません。