昨日のおさらいから。
事故調の中核をなすはずの委員会ですが構成は、
- 中央委員会
- 地方委員会
地方委員会は、医療事故調査を終えたときは、当該医療事故死亡者等に関する次の事項を記死亡者載した報告書を作成し、これを厚生労働大臣及び中央委員会に提出するとともに、当該医療事故死亡者等について厚生労働大臣に届け出た病院、診療所又は助産所の管理者及び当該医療事故死亡者等の遺族等に交付し、かつ、公表しなければならない。
地方委員会はここで調査報告書をまとめ「公表」してしまいます。つまり事実調査はこの時点で終了する事になります。遺族や病院関係者に交付し、さらに厚生労働大臣にまで提出された上「公表」されるのですから、報告書としては最終と考えるのが妥当でしょう。
中央委員会の役割は地方委員会から提出された報告書を基に、
(地方委員会の)報告書の分析及び評価を行なった結果に基づき、医療の安全の確保のため講ずべき措置について厚生労働大臣に対し勧告すること
中央委員会のお仕事は厚生労働大臣への勧告が主になるようです。勧告内容をもう少し具体的探してみると、
中央委員会は、地方委員会からの報告書の提出を受けた場合において、当該報告書の内容の分析及び評価を行った結果に基づき必要があると認めるときは、医療の安全を確保するために講ずべき措置について厚生労働大臣に勧告することができる
中央委員会の所掌事務に中央委員会として新たな報告書を作る業務はなく、また厚生労働大臣への勧告内容を公表する規定もどうやらなさそうです。地方委員会段階で「公表」しているのですから、中央委員会は地方委員会の報告書には手をつけないと考えられます。
あえて二つの委員会のお仕事をまとめると、
こういう機能分類になっている事がわかります。ところでこの二つの委員会はどれほどのペースで開かれるのでしょうか。まず中央委員会はすべて非常勤です。他にフルタイムの業務を抱えての勤務ですから、他の類似の審議会・調査会の例で考えると月1回が妥当かと考えられます。地方委員会は20人として4人が常勤、16人が非常勤です。委員会の開催条件は過半数の出席ですから、非常勤の委員が交替で8人ずつ月1回出席すれば、常勤の4人とあわせて12人になり委員会開催条件が整います。そうなれば月2回が妥当かと思われます。
ここで事故調の年間想定取り扱い件数ですが、4/4に行なわれた参議院厚生労働委員会での岡本充功議員が質問し、
岡本委員
報道によると調査対象となる対象は年間約2000件くらいではないかといわれておりますが、実際の医療安全調査委員会委員の構成の人数、それからそのバランス、こういったものはどのように考えられているのでしょうか。また調査チームとして何チームくらい予定されているのかお答えいただきたい。
これに対する厚労省側の答弁は、
外口崇医政局長
委員会の構成でございますけれど、中央の委員会、地方の委員会、そしてその下の調査チームとそれぞれ同じようなバランスになるかと思うのですが、これは今やっているモデル事業のメンバーの構成と大体似通ったものとして、たとえば医療の専門医である解剖の担当医(病理・法医)それから臨床評価を行う医師、さらに法律関係者やそのほかの有識者としてたとえば医療を受ける立場を代表する人と、こういった組み合わせのバランスになっております。人数についてですが、中央の委員会、地方の委員会、審議会のシステムに関する指針にもありますので、一定の制限等はありますが、先ほどの2000件という推定からすると延べにすれば2000人は超えてしまいます。もちろん、全部別々ではないのですけれど、それでもやはりある程度の人数の確保が必要となります。この件については現在つめているところです。
年間2000件に対して外口崇医政局長は否定をせず、これも念頭に置いて事故調のシステムを考えると答弁しております。
事故調法案では地方委員会を地方厚生局に置くとしています。地方厚生局は管轄範囲も決まっており、管轄範囲の人口で地方委員会ごとの取扱い件数が推測可能と考えられます。前提は全国で年間2000件です。
管轄地域人口 (百人) |
予想発生事案数 | |||
札幌市 |
北海道 |
42204 | 77 | |
青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 |
75598 | 138 | ||
茨城県 栃木県 群馬県 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 新潟県 山梨県 長野県 |
398445 | 729 | ||
富山県 石川県 岐阜県 静岡県 愛知県 三重県 |
156012 | 286 | ||
福井県 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 |
188690 | 345 | ||
鳥取県 島根県 岡山県 広島県 山口県 徳島県 香川県 愛媛県 高知県 |
65498 (四国を除く) |
120 | ||
徳島県 香川県 愛媛県 高知県 |
32688 | 60 | ||
福岡市 |
福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県 |
133363 | 244 |
最高が関東信越の729件、最低が四国の60件です。10倍以上の差はありますが、審議する地方委員会は同じで一つです。審議日数で1件あたりの審議事件がが計算できますが、月2回のモデルだけではなく幾つかのモデルを同時に出して見ます。審議時間はやや非現実的なんですが、昼休み1時間を挟んで朝9時〜夜6時までの実質8時間とします。
審議頻度 | 年間審議日数 | 関東信越 | 四国 | ||
処理案件数 | 審議時間 | 処理案件数 | 審議時間 | ||
月1回 | 12 | 60.8 | 7分54秒 | 5.0 | 1時間36分 |
月2回 | 24 | 30.4 | 15分48秒 | 2.5 | 3時間12分 |
週1回 | 50 | 14.6 | 32分54秒 | 1.2 | 6時間40分 |
連日 | 230 | 3.2 | 2時間30分 | 0.3 | 3日と2時間38分 |
全国でもっとも多忙な関東信越ブロックでは月2回の審議では1回の審議に付き30件の処理が求められ、1件あたりの処理時間は15分です。ちなみに非常勤である委員を1年間フルタイムで働いてもらっても、1日の処理案件数は3.2件で1件あたり2時間30分になります。どうなるかはどこにも書いてありませんが、委員の大半が非常勤である事を考えると、どんなに精力的に会議を行なっても週1回が限界で、それでやっと32分54秒です。またこの審議時間の計算の基は上記した通り、1回の審議時間を実質8時間としているため、午後からの半日開催であればさらに審議時間が短くなります。ちなみに中央委員会が月1回、8時間審議として計算すれば1件につき3分弱となります。
これは外口崇医政局長が答弁したとおり、2000件であっても耐えられるシステムとして作られていると考えて良いと思われます。解釈としてこんな審議時間ではパンクすると考えるのは間違いで、地方委員会や中央委員会に厚労省が求めている業務はその程度のものであると解釈する方が正しいと思われます。つまり厚労省が法案化して決定した事故調の審議は、
-
中央委員会・・・3分審議
地方委員会・・・15分審議
しかし地方委員会で15分で審議を終わらすためには委員会提出時の報告書資料が限りなく完成版に近いことが要求されます。15分ではこれを大幅訂正する事など不可能だからです。この地方委員会への報告書資料を作るのは三次試案では調査チームとなっていました。しかし事故調法案を読む限り調査チームについて具体的に記した記載は見当たりません。あくまでも地方委員会が調査し報告書を作成するとなっています。
地方委員会が調査をするにしても委員が実際に調査を行うのは不可能です。あれだけの数の報告書の審議だけで目一杯です。そうなると臨時委員とか専門委員が調査チームに当るかと言えば、彼らも非常勤ですから日常業務を横において調査に専念するわけにもいかないでしょう。
そこで気になる条文が出てきました。これは昨日の段階では削除されたと考えていたのですが、別のところに復活していました。まったく法案を読むのは大変です。「委員等の職務従事の制限」として、
地方委員会は、委員、臨時委員又は専門委員が医療事故死等の原因に関係があるおそれのある者であると認めるとき又は医療事故死等の原因に関係があるおそれのある者と密接な関係を有すると認める時は、当該委員、臨時委員又は専門委員を当該医療事故死等に関する調査に従事させてはならない。
2.前項の委員、臨時委員又は専門委員は、当該医療事故調査に関する地方委員会の会議に出席する事が出来ない。
ここで書かれているのは読んでの通り、委員、臨時委員、専門委員が事案関係者と関係がある時は調査や地方委員会に出席は認めないというものです。当然あっても不思議無いのですが、この「委員等の職務従事の制限」を杓子定規に読むと制限されるのはあくまでも委員、臨時委員、専門委員に限られます。それ以外の人間への適用は無いとも解釈可能です。
ここで「医療事故調査等の委託」をもう一度出せば、
地方委員会は委員では実務調査は不可能なので、調査自体はすべて「委託」にて行なう方針と考えます。委託先はどこかと言えば、案件が発生した院内事故調査委員会と考えるのが妥当です。三次試案でも院内事故調査委員会の整備は強く求めていました。ここで問題になるのは案件当事者との関係です。「委員等の職務従事の制限」を委託先に課せば院内事故調査委員会では調査不可能です。そりゃ、院内ですから最低限顔見知りでしょうし、親しい同僚であっても何の不思議もありません。そこで「委員等の職務従事の制限」はあくまでも委員に限定し、委託先への適用を慎重に避けたとの可能性が出てきます。
もしそうであるなら事故調の基本システムは、
このシステムの優秀なところは調査チームへの医師集めに厚労省が頭を悩ます必要が無いことです。院内の人間の調査ですから資料集めも、調査も非常に容易です。調査に当る方も調査時間が長引けば、自分の本来の業務の首を絞めますから、可能な限り短時間で精力的に行ないます。間違っても非常勤だから月1回しか審議を行なわないな悠長な事はしません。厚労省から委託費用も出るでしょうが、こっちは非常勤扱いの月1回を目安にした薄謝で必要にして十分ですから、専属の調査チームを抱え込むよりはるかに安上がりです。
今日のお話はあくまでも法案から読み取れる事故調のシステムの仮説です。本当にこうなるかどうかはもちろん分かりません。しかしもし本当であるなら、調査システムの根本を見直さなければならないと考えます。医師サイドのみから立てば有利な点もありますが、こんなシステムでは事故調の調査結果が信頼を勝ち取るのは不可能だと思われます。
こんなシステムでは医師ですらそうですし、遺族の立場に立てばなおの事「信用できない」と断言されても不思議ありません。私がごく一部の急進的な患者団体に余り良い感情を抱いていないのは御存知かと思いますが、この仮説通りのシステムであり、これに患者団体が反対するのであれば私ですら賛同するかもしれません。役に立たないのが目に見えており、事故調と同時に選択可能である民事及び刑事訴訟に従来通りに遺族は向かうと考えられます。そうなれば医師及び病院は民事・刑事だけではなく事故調の調査まで背負い込む事になります。
最後にもう一度念を押して起きますが、条文だけから事故調制度の全貌を推測するのは非常に難しく、この仮説に誤りがある可能性は多分にあります。あくまでも仮説であり、そうとも「とらえられる」とぐらいで御理解頂きたいと思います。