在宅看取り推進計画

5/17付産経ニュースより、

医療事故防止で病院スクラム 入院死亡1万人減目指す

 患者の容体が急変した場合の対応方法や、手術時の注意事項などを病院間で共有し、医療事故の防止につなげようと、日本医師会日本看護協会日本病院団体協議会が17日、合同キャンペーン「医療安全全国共同行動」を始めた。

 期間は平成22年5月までの2年間で、国内の病院の3分の1に当たる約3000病院の参加を想定。入院死亡者1万人の減少を目指す。主催する同行動推進会議の高久史麿議長は「できるだけ多くの病院に参加を呼びかけ、患者の安全と命を守りたい」と強調した。

 賛同する病院は、19日からネットを通じ参加登録。(1)危険薬の誤投与防止(2)輸液ポンプや人工呼吸器の安全管理(3)患者の容体急変時の対応態勢の確立−など8項目から取り組みたいテーマを選び、毎月の入院死亡数と死亡率を報告。キャンペーン終了時に取り組みの成果を自己評価する。

記事によると医療安全全国共同行動なるものが行われ、そこにある8つの取組みをするそうです。記事には3つしかありませんが全部あげると、

  1. 医療関連感染症の防止
  2. 危険薬の誤投与防止
  3. 周術期肺塞栓症の防止
  4. 危険手技の安全な実施
  5. 医療機器の安全な操作と管理
  6. 急変時の迅速対応と院内救急体制の確立
  7. 事例要因分析から改善へ
  8. 患者・市民の医療参加とパートナーシップの構築。
立派な目標ですが、これが達成される事により、
    共同行動では有害事象件数30万件以上低減,入院死亡数1万人以上低減という達成目標を掲げる予定。
目標は二つに分けられますが、
  • 有害事象件数30万件以上低減
  • 入院死亡数1万人以上低減
まず有害事象件数が現在どれぐらいかがデータが出て来ないのですが、こちらの方の目標はまだ達成は可能かもしれません。この共同行動の削減対象の有害事象の定義は分かりませんが、基本的にヒューマンエラーと考えられますから理論上は削減可能です。目標が現実的な数字なのかそうでないかの検証は全国共同行動のHPを見てもよく分かりませんが、削減について努力しようという趣旨は理解します。

もう一つの目標が不可解です。はっきり言わなくとも普通にやれば不可能です。全部現在のレベルで望みうる最高水準で達成されても、いやその10倍ぐらいの水準で達成されても普通にやれば絶対不可能です。医療は寿命の前には無力だからです。確定値である平成18年での65歳以上の高齢者比率は20.8%です。予測値もあり平成22年には23.1%に増えるとされています。平成18年と平成22年(予測値)の人口差は約60万人ですから、比率による高齢者人口の差は誤差範囲ないと見なせるかと考えます。死亡者数も109万人から119万2000人に増えます。表にまとめると、

分類 平成18年 平成22年
総人口 1億2777万人 1億2717万6000人
65歳以上人口 2660万4000人 2941万2000人
死亡者 109万人 119万2000人


この共同行動の期間は平成20年から平成22年ですからあくまでも参考ですが、高齢者人口が増え、死亡者の数が増えていくのはもはや誰でも常識として知っています。出生者を増やす事は理論上可能であっても、死亡者の数を医療では左右できません。現代の医療水準では統計を左右できる部分は既にやり尽くしています。

先ほど「普通にやれば」と言いましたが、普通にやらなければ達成は十分可能になります。もっとも普通にやらなければこんな共同行動をしなくとも達成は可能なんですが、共同行動の目的はあくまでも、

    入院死亡数の削減
つまり病院以外で死亡する人間の数が増えてもらえば良いわけです。そうなると現在どれぐらい在宅見取りが行なわれているかと言えば、2007.10.27付け読売新聞

在宅で看取り2万7000人…過去1年本社集計
支援診療所3割が「ゼロ」

 高齢者の自宅などでの療養を支援する在宅療養支援診療所が過去1年間に在宅で看取(みと)った患者は、全国で2万7000人に上ることが、読売新聞社の調査でわかった。在宅での看取りの実数が明らかになったのは初めて。

 支援診療所が本来の機能を果たしているかを測る指標となるが、一人も看取ったことがない施設が3割を占めた上、地域差も目立った。

 支援診療所は、高齢者医療を支える中核施設として、昨年4月に創設された。24時間365日往診できる体制を整えることなどが条件で、往診料などを一般の診療所に比べて高く請求できる。終末期医療も担うため、看取り数の報告が義務づけられている。

 調査は、支援診療所が看取った患者数について、全国の9777施設が今年7月、各都道府県の社会保険事務局に報告したデータを読売新聞社が情報公開請求して集計した。対象期間は、昨年7月から1年間。

 それによると、在宅で亡くなった患者は2万7072人。このうち、2万1724人が自宅で、5348人が特別養護老人ホーム老人保健施設などで亡くなっていた。地域別では、東京が4514人で最も多く、大阪2345人、神奈川1844人などの都市部が続き、少ないのは高知、富山などだった。75歳以上の死亡者数1万人当たりで見ると、787人の東京がトップで、大阪(587人)、奈良(559人)が続いた。関東、近畿などの大都市圏で看取りの割合が高く、北海道・東北、甲信越、中国地方が低かった。

 診療所別に看取った人数をみると、0人が3168施設(32%)に上り、在宅で最期まで看取るという機能を果たしていない施設が多いことがわかった。

 国立長寿医療センターの大島伸一総長の話「看取りの数は予想していたよりも非常に少ない。手を挙げながら、実際には機能していない支援診療所が多いことが裏付けられた形だ」

 在宅での看取り 医師が定期的に自宅などを訪問診療し、死に至るまで見届けること。在宅死は、かつては8割を占めていたが、病院が整備された結果、1割強に落ちている。政府は医療費抑制と患者の生活の質の向上を掲げ、在宅での看取り推進を医療制度改革の柱に据えている。

記事の内容はどうでも良いのですが読売新聞の調査ではありますが去年で、

    全国で2万7000人
だそうです。きっちり統計年次が合わないのですが、
  • 平成19年の入院外死亡が2万7000人
  • 平成18年度の総死亡数が109万人
  • 平成22年度の推定死亡者が119万2000人
おおよそですがこの計画のスタート時の入院死亡者数は106万3000人、これを2年間で1万人減らせば105万3000人、一方で計画終了時の推定死亡者は119万2000人ですから、
    119万2000人 − 105万3000人 = 13万9000人
現在の3万人弱の入院外死亡を2年で5倍以上の約14万人にする計画である事がわかります。またこれも読売調査を信用してですが、老健や特養の死亡者数はほとんど増えない可能性が高いですから、13万人以上は在宅看取りに移行する事になります。算数の基礎にした統計数字が微妙にバラバラですがこの程度は必要になるかと考えます。

この共同行動のもう少し具体的な内容ですが、

この実現に向け,3000病院以上(または全急性期病床数の50%以上)の参加登録,そして医療安全の基盤づくりには地域内の他の病院や団体との協力が不可欠なことから,30か所以上の地域支援拠点の設置をめざしていく。

参加する医療関連施設は、

  1. 3000病院以上(または全急性期病床数の50%以上)の参加登録
  2. 地域内の他の病院や団体との協力
  3. 30か所以上の地域支援拠点の設置
在宅見取り数を増やすには入院できなくすれば良いわけですから、病床数の削減が一番効果的です。病床がなければ入院したくとも物理的に出来なくなるからです。そうなると、どの病院の病床を減らすかになりますが、やっぱりこの計画に参加していない病院を狙い撃ちにするのでしょうか、それとも参加した病院に対し「目標未達成」のペナルティを課して減らすんでしょうか、興味が尽きないところです。そう言えば試算した13万人の病院外での死亡者数は療養病床大幅削減計画の現在の達成数に妙に近い気がしてならないのですが、気のせいでしょうか。

この医療安全全国共同行動ですが、有害事象の削減はまあ良いとして、入院死亡者数1万人削減は「在宅看取り推進計画」と素直に言っても良さそうな気がします。