横浜市立大学の怪文書

いやはやの怪文書が出ています。怪文書と言っても

行政文書の開示請求に関する実費等についてのお振込、大変お手数をおかけしました。開示請求いただきました行政文書について、先日お送りしました一部開示決定通知書に従い、別添のとおり送付させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

こういう手続きが正式に行われ、開示請求にしたがって公立大学法人横浜市立大学 企画経営室 総務・財務課から送られてきた行政文書ですから、公式のものになります。一部と言うか半分ぐらいは個人情報保護+アルファのためか黒塗りにしてありますが怪文書本文をお読みください。もっとも怪文書自体は長くもないので、読める部分は全文引用しておきますが、

公立大学法人 横浜市立大学
理事長,学長 殿

前略

 突然のことで誠に恐縮でございますが、重大なご報告とお願いを申し上げます。横浜市立大学旧第2外科医局はこれまでに経験したことのない危機に直面しております。旧第2外科学教室では、医局員全員が博士号の名に恥じない論文を作成することを目標に、研究の指導がされて参りました。これにより多くの医局員が査読付きの英文論文を完成し、便宜など供与される必要もなく博士号を取得するに至っております。過日、名古屋市立大学で博士号取得の便宜供与に関わる贈収賄事件が世間を騒がせましたが、当医局に対する同様の醜聞が内通という形でまずは大学に通報され・・・(黒塗り部分)・・・と聞き及びます。前述のとおり医局員が博士号を取得した際に提出された論文は、日本中どの大学においても博士号取得に足る立派な論文であり、何らかの便宜供与など全く不必要であるにもかかわらずです。

 大学側はコンプライアンス委員会を立ち上げ、・・・(長い長い黒塗り部分)・・・歪曲された事実関係を作り上げてまで医局を混乱に陥れようとする者達に加担することと同じであり、大学の自治と浄化能力を否定することに繁がりかねません。そこで、本件問題を適切に解決できる環境を整えるため、貴職らに置かれては、早急に本事件の発端となった人間達(恐らく大学のコンプライアンス委員会の立ち上げの原因となった投書をした者)の厳しい責任の追及と猛省をお願いしたいと考えます。また、そのために必要であれば我々医局一同は協力を惜しみませんので、何なりとお知らせ下さい。

以上、申し入れ致します。

平成20年2月12日

横浜市立大学 消化器,腫瘍外科学(旧第二外科)教室
他 有志

後は有志の名前が黒塗りであるのですが、全部で11名だそうです。

先に断っておきますが、この事件については私はこの文書以外の情報はまったく知りません。ですからこの文書のみからすべてを推測します。まず文書の内容から事件の概要を組み立てると、

  1. 名古屋市立大学で博士号取得の便宜供与に関わる贈収賄事件が報道であった
  2. 横浜市立大学 消化器,腫瘍外科学(旧第二外科)教室にも同様の疑惑が内通された
「内通」と言うぐらいですから、横浜市立大学旧第二外科に属する医師から疑惑が大学に当初により報告されたと考えられます。旧第二外科じゃなくとも横浜市立大学関係者であるのは間違いないでしょう。大学としてはこの問題は慎重な扱いになりますし、投書を無視して後日表沙汰になれば袋叩きですから、コンプライアンス委員会を立ち上げたようです。別に不思議な対応とも思えません。長い長い黒塗り部分が気になるのですが、どうもこのコンプライアンス委員会が出来た事自体がお気に召さなかったようです。
    早急に本事件の発端となった人間達(恐らく大学のコンプライアンス委員会の立ち上げの原因となった投書をした者)の厳しい責任の追及と猛省をお願いしたいと考えます。
いやはや凄い鼻息なので驚きます。もちろんこれだけでは事件の真相は分かりませんが、旧第二外科の言い分は、
  1. 旧第二外科に不正など存在しない
  2. 不正が無いのだからコンプライアンス委員会は無用である
  3. こんな濡れ衣騒ぎを起した人物を糾弾せよ
おそらくこういう趣旨だと思います。ここで分からないのはコンプライアンス委員会がどこまで調査と言うか活動をしたかです。文面から考えられる状態は2つで、
  1. まだ本格的な活動はしていない
  2. 調査結果がかなり進展している
普通に考えれば濡れ衣であればコンプライアンス委員会で潔白を証明すれば良いだけであり、潔白が証明されればこの文書にあるように、
    厳しい責任の追及と猛省
これは別に旧第二外科が申し入れなくとも、大学を混乱させたの理由で当然行なわれると思います。ですからコンプライアンス委員会の活動が始まる前ではなく、活動が始まってから行われたと考えられ、調査結果は旧第二外科に不利に展開していると思われます。そうでなければ、
    歪曲された事実関係を作り上げてまで医局を混乱に陥れようとする者達に加担
このセリフは活動が始まってもいない状態では通常出ません。

一方でコンプライアンス委員会の活動前の状態である可能性も十分あります。どういう事かと言えばコンプライアンス委員会を作るための会議が開かれているはずだからです。そこで旧第二外科は「事実無根のの濡れ衣でありコンプライアンス委員会の設置自体が不要」とした可能性があります。コンプライアンス委員会が開かれる事自体が不愉快で許し難いことであり、開かれる事に決定した事が許せないの姿勢です。投書による報告など取り上げる価値無しの主張を認められなかった怒りとすれば良いでしょうか。

長い長い黒塗り部分が分からないので難しいのですが、もう一つの解釈も成立します。投書からの経緯を推測してみると、

  1. 投書による報告が大学にあった
  2. これについての会議が開催された
  3. 会議の結果、コンプライアンス委員会が作られた
  4. 旧第二外科が抗議の要望書を出した
ここまでは分かります。ここでコンプライアンスを規律と訳して考えれば、委員会は投書を真実として認定した上での処分・対策のための役割であったとの見方です。委員会で旧第二外科に処分を下す方針が決定されかけ、これを不当とし、不当な決定を下そうとする委員会を糾弾しているとも考えられます。長い長い黒塗り部分は会議の内容への抗議です。

この解釈も投書への会議(おそらく教授会と思われますが)だけで、真実であると旧第二外科の教授の前で決定してしまうかどうかに疑問を感じます。通常と言うか常識的には、会議では投書が検討するに値するかどうかのみを決定し、真贋は更なる調査チーム(コンプライアンス委員会)に委ねた上での決定にする手順を踏むと考えます。もっとも投書に対する会議の前に調査チームが活動し、その報告で真実を確認した上でコンプライアンス委員会が作られたのかもしれませんが、なんとも言えません。

少しだけ穿って考えれば、大学内もしくは医局内のなんらかの勢力争いが投書を火種に燃え上がっているのかもしれません。いわゆる「白い巨塔」的な世界です。医局の力は往時に較べ落ちてはいますが、残るところはまだまだ残っています。横浜市立大にそんな力が残っているかどうかは寡聞にして存じませんが、あったとしてもあまりに時代遅れの感覚と感じずにはおれません。

だいたい力瘤を入れて書かれている

    大学の自治と浄化能力を否定
この言葉とコンプライアンス委員会の存在の否定は普通に考えれば矛盾しています。コンプライアンス委員会がどういう位置付けで作られているかの情報に欠きますが、文書を読む限り大学が独自に設置したと考えられ、「自治」にも「浄化能力」に差し障ると思えません。むしろ「自治」と「浄化能力」のために活動しているように考えるのが常識的で「否定」の言葉が踊るのは極めて不思議です。

旧第二外科の「事実無根」の言い分が正しいかどうかは外部からは判定できません。本当に事実無根なのかもしれません。長い長い黒塗り部分に事実無根の根拠が書かれているのかもしれません。その根拠が正しく、旧第二外科が濡れ衣を着せられていると考えてもやはり怪文書です。使われている語句の表現が常軌を逸しているからです。冤罪であれば身の潔白を訴えるのは正しい行為ですが、常識ある社会人の主張とはとても思えません。

あくまでも仮定の上になりますが、旧第二外科がクロ判定をされ、これが冤罪であれば求めるのは再審査でなければならないはずです。調査の杜撰さ、事実認定の不正確さを根拠とともに訴え、改めて公平中立な再調査を申し出る要望書であるべきはずです。誰が考えてもそうです。それを頭から調査結果を全否定し「俺様は正しい」と言い切った上で、「俺様は正しい」の立場から正しい俺様を罪に陥れようとした連中を糾弾せよの申し入れは違和感の塊となります。

    そこで、本件問題を適切に解決できる環境を整えるため、貴職らに置かれては、早急に本事件の発端となった人間達(恐らく大学のコンプライアンス委員会の立ち上げの原因となった投書をした者)の厳しい責任の追及と猛省をお願いしたいと考えます。
このセリフは大学内の手続きとして行なわれたであろう、投書の真贋性の検討を正式にひっくり返した上でなければならないはずです。

ここで実は旧第二外科の事実無根が既に証明された上での要望書である可能性はどうかが問題になります。そうとは読み取り難い内容なのですが、この事件の経過が、

  1. 内通者による投書
  2. 投書を受けてのコンプライアンス委員会の設置
  3. 委員会でのクロ判定及び旧第二外科への処分内定
  4. 旧第二外科の抗議による再審査によるクロ判定撤回
  5. 名誉を傷つけられた旧第二外科からの関係者処分要求
こういう経過が進んだ上で、
    本件問題を適切に解決できる環境を整えるため
この「適切に解決」が旧第二外科の事後処理のための名誉回復のためのものであるとの考え方です。ただそうであるならば、要望書の文面構成は非常に拙劣と思われます。当たり前ですが、濡れ衣をはらした後での要望であるなら、まずその経過を冒頭に記し、それによっての被害を訴え、関係者の処分を要望することをもっと簡潔に要求しているはずです。冒頭部にある、
    横浜市立大学旧第2外科医局はこれまでに経験したことのない危機に直面しております
これが濡れ衣を晴らした後のものであるなら危機には直面していないからです。濡れ衣を晴らしたことにより危機は去ったわけであり、被害を蒙ったにしろ直面状態からは脱しているはずだからです。

内容も表現方法もまさに怪文書です。