「合意」と「覚え書」続報

訂正とお詫び

 4/22の衆院決算行政監視委員会第四分科会で答弁に立った米田氏と大野氏の肩書きですが聞き取りであったため間違いがありました。二人とも肩書きが刑事局長であったため、局長は二人いないと考え大野氏が検察局長説を取っていましたが、指摘があり二人とも刑事局長である事が分かりました。

 謹んで訂正とお詫び申し上げます。しかし法務省にも刑事局長がいるとは知りませんでした。

三次試案の刑事手続きにおける「謙抑的」の根拠となった

  • 法務省、警察の協議での合意
  • 合意に関する覚え書
この2つですが、覚書については4/22の衆院決算行政監視委員会第四分科会で大野法務省刑事局長、米田警察庁刑事局長とも誤解の余地無く
    覚書のようなものを取り交わした事実はございません
これは質問に立った橋本岳議員の二度にわたる設定を変えての質問に対して明瞭に答弁されています。また合意の内容についても米田刑事局長は、
    繰返しますが、刑事処分を求めるというような患者や遺族の方々の権利を封ずるということはあってはならないと考えております。
これもまた従来と何ら変わりが無い事を「繰り返し」強調しております。

ところで厚労省厚労省医政局総務課の二川課長が日経メディカル取材で語った「法務省、警察との協議」とはどんな形式で、どんな内容だったのでしょうか。これについては知りようがないと半分あきらめていましたが、出てくる物です。情報源は最近明かせないことが多くて申し訳ありませんが、極めて信用できる筋からのものです。

厚労省法務省の間での約束について

    厚労省検討会とは異なる場で、佐原室長が、法務省警察庁の課長から、第三次試案の資料 3 Q and A をだすことの了承を口頭で取り付けた。
    木下日医常任理事は、佐原室長から直接口頭で、厚労省法務省警察庁との間で、上記で同意したことを聞いた。
覚え書きの有無について
    日医医療安全対策室が佐原室長に直接確認したら、覚え書きは無い、と返答された

簡潔な情報ですが内容は重大で、必要な事はすべて網羅されています。あえてまとめると、

ポイント 実際
協議場所 事故調委員会と別
協議レベル 課長クラス
協議内容 事故調別紙Q&Aの添付の了承
覚え書の有無 無し


法務省、警察との協議が合意」とはあくまでも事故調の別紙3を出してよいかだけの事柄であった事が分かります。協議が課長レベルである事が悪いとは言いませんが、課長レベルであったが故に三次試案本文には書かれず別紙と言う形式であったと考えてよいでしょう。この三次試案の別紙は全部で3枚なんですが、こうやって考えると実に不思議なスタイルになっています。

別紙1、別紙2は制度の概要を模式図にしたものです。これが試案本文と別にされていても何の不思議もありません。ところが別紙3の内容は本来、試案本文中に含まれるべき内容です。二次試案までは確かそうでした。ところが三次試案になると完全に分離してわざわざ別紙となっています。それも異例の体裁と言えるQ&A形式です。なぜそうなったかの回答がここにある様な気がします。

  1. 別紙3は事故調委員会でのみ決定されたものではない
  2. 別紙3の最終決定は事故調委員会とは別のところで決定された
  3. 別紙3は決定権の低い課長レベルの協議であったため確定的な表現をより回避する表現となった
  4. とくに法務省、警察は具体的な表現を忌避し、Q&A形式にせざるを得なくなった
そのため内容は玉虫色となり、刑事手続きについては警察の捜査権を直接阻害するような表現は避ける内容とし、さらに曖昧にするためQ&A形式に落ち着いたと考えられます。課長レベルで「警察の捜査権を制限」なんて踏み込んだ内容に合意できるわけが無いからです。もちろん協議前に法務省、警察の代表はその意を強く訓令されていたと思います。これは法務省、警察が悪いのではなく、この程度のレベルの協議でそんな重大な事を決めてもらったら困るとの意向だと考えます。国会質疑に呼ばれた米田刑事局長もそういうつもりですから、当然のように上記なような答弁になるわけです。

おそらくですが「覚え書」と表現したものは、この時の協議になった別紙3そのものではないかと考えます。ここは憶測になりますが、厚労省サイドは協議に当り試案本文に警察捜査の制限を表現したものの了解を求めたんじゃないかと考えています。しかし法務省、警察サイドはその内容に難色を示し、それこそ協議の末に別紙にし、なおかつQ&A形式であるなら了解したのではないかと考えます。別紙3は協議によって生まれたものなので「覚え書」に等しいとの考え方です。

もちろんですが法務省にしろ警察にしろ別紙3が覚え書とは思うはずも無く、国会答弁としては「そんな物は無い」としか答えようがありません。これは厚労省サイドの相当な作為が入った発言と考えられます。そして何より重要なことは、「合意」にせよ「覚え書」にしろ警察捜査に関し従来の枠組みとなんら変わらないことです。これも報道にあった、

同省は「捜査の制限になるが、警察庁法務省とも合意した」としている。

「捜査の制限になる」と言っているのは厚生労働省だけであり、警察は「そんな事は全くない」と明言しています。



もう一つ不思議な行動に出ているのが日医です。日医は三次試案ですら問題ありと思われるのに、二次試案の頃から賛成の意を表しています。ところがある日医ウォッチャーによると試案賛成に走り回っているのは木下常任理事一人で、会長や副会長クラスになると積極的に動いた形跡がないと検証されています。いわゆる事故調成立推進への木下理事独走説があります。誰も積極的でないのに木下理事が強引に引っ張りこんで日医を事故調賛成に向かわせているとの見方です。

私もそういう見方は成立すると思っていましたが、ここまで来るとそれは単純すぎるんじゃ無いかと思い始めています。木下常任理事がどんな人物か良く知りませんが、会長や副会長を凌駕するような実力者とは思えません。表に立って奔走しているのは木下理事ですが、これは独走しているのではなく、ただの使い走りと考えた方が良いと考えます。つまり会長及び会長側近はとっくの昔に事故調賛成で、木下理事を使って意見集約を行なっているだけと見たほうが適切じゃないかと言うことです。

なぜ会長及び会長側近が積極的に賛成の意を表さないかといえば、会長改選をにらんでのものと考えると分かりやすくなります。会長の予想に反して、事故調試案には日医会員の反発が非常に強く、事故調賛成を表に掲げて会長選を行うと思わぬ波乱因子になるとの判断です。そのため会長は事故調に対して積極的な姿勢を明確にせず、ひたすら木下理事だけ奔走させていたと言うわけです。

ではでは会長及びその側近が事故調になぜ賛成かと言えば、事故調賛成を何らかの取引材料にしていたと考えられます。何らかといえば深遠そうな話ですが、診療報酬改定における本体部分の微増としか考えられません。再診料の引き下げ阻止だったかもしれません。その辺りを取引材料に、日医を事故調賛成に取りまとめる密約が為されたと考えるのが蓋然性が高いと思います。もちろん会長引退後の待遇も附帯条件としてあった可能性は十分あります。つまり厚労省と日医首脳は既に事故調問題での合意は終わっていると考えられます。

そこでなんですが、

    木下日医常任理事は、佐原室長から直接口頭で、厚労省法務省警察庁との間で、上記で同意したことを聞いた
日医に好意的に取れば、木下理事は厚労省幹部に言いくるめられたの観測も出来ますが、日医と厚労省の間で話がついているのなら、これはこの協議をどう活かそうかの連絡とも考えられます。木下理事は各地の医師会を説得するに当たり、
    話はついている
このニュアンスの発言を繰り返し、危惧する日医会員を抱き込んでいます。しかし実態は何もありませんから、法務省、警察との協議を最大限に活かすために口裏合わせを行なったと考えるのが正しそうです。

厚労官僚が法務省、警察との協議でいかにも重大な事が取り決められたのニュアンスを記者発表すれば、木下理事の説得でも半信半疑であった日医会員も「そうだったんだ」との裏付けになる計算です。この時点では、協議内容が国会質問にでるなんて計算外であったかもしれませんし、あったとしても警察や法務省がもう少し上手にはぐらかしてくれると期待していたのかもしれません。

しかしここまで情報が集まれば、事故調試案は刑事手続きに関しほとんど無力である事が判明しました。無いよりはあった方が警察も少しは「謙抑的」の度が強くなるぐらいの期待は出来ますが、どうがんばってもその程度です。警察は事故調の存在に関係なく自らの判断で刑事手続きに踏み切ります。これは国会答弁で余りにもはっきりしています。そうなんです、三次試案では第二の福島事件の抑止には余りに無力なのです。

事故調設立の要求の気運は福島事件が契機であり、第二の福島事件を起さないために医師は事故調設立を望みました。これが原点なのです。原点はあくまでも、

    No More Fukushima !
この原点を我々は忘れてはなりません。原点の要求が満たされない事故調試案への答えは「No!」以外にありません。