5分ルール

医療維新より引用、

Vol.4◆厚労省保険局医療課長・原徳壽氏に聞く(中)
「外来管理加算」はあくまで「5分」が目安
再診料はイニシャルコストを包含、外来管理加算こそ技術料
橋本佳子(m3.com編集長)

――今改定で一番議論になったのは再診料です。病院と診療所を同一にすべきか否かについて、どうお考えですか。

  私が医療課長補佐だった1996年の改定では、再診料の病診格差を広げました。「診療所の再診の方が価値が高い」という発想からです。
  
――「診療所の再診の方が価値が高い」とはどんな意味なのでしょうか。

  同じ診療をやった場合でも、診療所の点数の方を高くしてもいいという考えです。医療全体を考えた場合、外来診療の多くは検査などを必要としません。したがって、外来診療の大半が診療所で可能であるという意味で、評価すべきだと考えました。

  特に初診では、病院ではなく診療所に行くべきです。風邪などで病院を受診すべきではありません。だから、96年の改定では、診療所の初診料を引き上げました。一方、病院については紹介患者を中心にすべきであり、初診料を特定療養費化し、紹介以外の患者からは、初診料に上乗せする形で自己負担を求めることができるようにしました。

  つまり私自身は、大きな流れとしては、再診料に病院と診療所の差があることには抵抗がありませんでした。

  もう一つ、再診料についての考え方で、「再診料は技術料」とよく言われますが、イニシャルコストも含まれていると思います。そこで「外来管理加算」の話につながります。今改定で、外来管理加算を技術料ととらえ、「丁寧な診察」という要件を入れました。

 ――外来管理加算に「丁寧な診察」の要件を入れた狙いは。

  外来診察には、基本的な診察と「丁寧な診察」があると思います。基本診察は再診料で評価します。一方、「丁寧な診察」は外来管理加算で、別途評価するという考え方です。「技術料」に相当する本当の意味での診察の評価は、外来管理加算の形で取り出すことができたことになります。

  「外来管理加算は技術料」という考えなので、病院と診療所の点数は同一です。一般と老人の点数もそろえました。一方、再診料にはイニシャルコストも入るわけですから、病院と診療所は異なります。

 ――つまり、外来管理加算の考え方が変わったと。

  はい。前述のように、診察の中から、「丁寧な診察」部分を取り出したわけです。その意義は大きいと思います。したがって、処置などを行った場合でも「丁寧な診察」を行えば、外来管理加算が算定できるという見方も成り立ちます。ただ、まずは今までの体系(外来管理加算と処置などは併算定できず)はあまり大きく崩さないという考えで改定しました。次のステップとして、処置を実施した場合などでも外来管理加算が算定できるようにすれば、本当の意味で「技術料」として独立した点数となるでしょう。

 ――従来、外来管理加算の意味が曖昧だったというわけですか。

  はい。もともとは、「内科再診料」という考え方から始まった点数です。内科では、検査や処置などが少ない一方、「丁寧な診察」を行うことから、それを評価するために設けた点数ですが、今、実態としては、「丁寧な診察」が実施されているとは言えません。
 
 ――「5分を診療時間の目安とする」という要件を問題視する声が多いのですが、通知に要件として明記するのでしょうか。

  そこは、なかなか難しいところですが、やはり「5分」ですね。なぜ「5分」にこだわっているか。一つには、財源の問題があります。改定時には、外来管理加算がどのくらい算定されるかを計算していますから、「5分」は崩せません。

 ――「5分」の根拠は何ですか。

  丁寧な診察をして、患者さんが納得する診療をしてもらいたいということです。「3時間待ちで3分診療」がよく問題視されています。だから「3分診療」ではだめなのです。

 ――レセプトなどに診察時間を記載するのでしょうか。

  外来管理加算を算定しているということは、「5分の診察」が前提なので、レセプトに書く必要はありません。しかし、どんな診察を行ったかについては、カルテに記載してください。
 
 ――医師による診察の前に、看護師さんなどが問診する場合もありますが、診察時間に含めていいのでしょうか。

  いえ、あくまで医師の診察時間です。ただ、点数は患者1人当たり52点、1時間で12人診察した場合、6000円強です。点数的に十分かどうかは議論があるところですが、「医師の時間を占有する」、その対価という考え方になります。

  もちろん、「薬のみ」の診察では算定できません。それとは分けましょうという考え方です。外来管理加算については、名称を変更する話もありましたが、今回はやめました。ただ、いずれは再診料への加算ではなく技術料として独立させて、名称を変えてもいいでしょう。
 
 (2008年2月25日にインタビュー)

厚労省保険局医療課長・原徳壽氏のお話ですから、査定基準に重視される内容として考えても良いかと思います。なかなか興味深い内容ですが、冗談もお好きなようで、

 ――つまり、外来管理加算の考え方が変わったと。

  はい。前述のように、診察の中から、「丁寧な診察」部分を取り出したわけです。その意義は大きいと思います。したがって、処置などを行った場合でも「丁寧な診察」を行えば、外来管理加算が算定できるという見方も成り立ちます。ただ、まずは今までの体系(外来管理加算と処置などは併算定できず)はあまり大きく崩さないという考えで改定しました。次のステップとして、処置を実施した場合などでも外来管理加算が算定できるようにすれば、本当の意味で「技術料」として独立した点数となるでしょう。

外来管理加算は「丁寧な診察」への加算であり、現在は処置のないものに対してのもだが、「丁寧な診察」であれば『将来』は処置があっても加算するなんて笑い話も述べられています。真剣な雰囲気なインタビューなのですが、笑いを取ろうと努力もされております。ただジョークはあまり得意でないようで、私も笑うのに相当な努力を要しました。

査定基準としては後半部分が重要かつ具体的なのですが、

 ――「5分を診療時間の目安とする」という要件を問題視する声が多いのですが、通知に要件として明記するのでしょうか。

  そこは、なかなか難しいところですが、やはり「5分」ですね。なぜ「5分」にこだわっているか。一つには、財源の問題があります。改定時には、外来管理加算がどのくらい算定されるかを計算していますから、「5分」は崩せません。

何があっても「5分」は鉄則のルールとして厳密に適用すると宣言しています。ここもそれまでの続きからすると唐突な部分で、外来管理加算は「丁寧な診察」の反映論を滔々と述べた後、「5分」の根拠は試算した上の「財源の問題」であると明言されております。そうなると今回は「5分」ですが、「財源の問題」が再び生じれば計算に基づき変更される余地は十分あると考えられます。

 ――「5分」の根拠は何ですか。

  丁寧な診察をして、患者さんが納得する診療をしてもらいたいということです。「3時間待ちで3分診療」がよく問題視されています。だから「3分診療」ではだめなのです。

誰でも言いそうな感想を書いておきます。「3時間待ちで3分診療」はダメでも「5時間待ちの5分診療」なら問題は解消するそうです。待ち時間が増えることは厚労省としては大歓迎としていますので、待ち時間が長くなってもくれぐれも医師に文句を言わないようにしてください。「そうせよ」と厚労省は「財源の問題」から決定していますから。

 ――レセプトなどに診察時間を記載するのでしょうか。

  外来管理加算を算定しているということは、「5分の診察」が前提なので、レセプトに書く必要はありません。しかし、どんな診察を行ったかについては、カルテに記載してください。

どうやら査定法は極めて機械的に行なう算段のようです。ある一定の基準を超えれば問答無用で査定を行い、レセプトに時間を書いても一顧だにしないと宣言しています。だから当然書く必要もないし、査定する側もそんな事は気にする必要は無いと解釈すれば良いようです。問題になる基準ですが、

 ――医師による診察の前に、看護師さんなどが問診する場合もありますが、診察時間に含めていいのでしょうか。

  いえ、あくまで医師の診察時間です。ただ、点数は患者1人当たり52点、1時間で12人診察した場合、6000円強です。点数的に十分かどうかは議論があるところですが、「医師の時間を占有する」、その対価という考え方になります。

査定の基準を明確にされております。

    1時間(60分) ÷ 5分 = 12(人)
「規定の総診察時間数×12」が基準となり、5分ルールを厳正適用するとしています。たとえば午前診3時間、午後診3時間の計6時間が診察時間とすれば1日72人までは基準内で、それ以上は「5分ルール」に抵触すると機械的に査定する意向を打ち出しています。実際は診察時間が延長となって「5分ルール」を守っていようが、レセプトにその旨を書くことを排除していますから、純機械的査定が行なわれると判断して良いかと思います。

もちろん査定されても「正当な事由」があれば抗弁できるのですが、抗弁するには正確な診察時間の記録が必要でしょうし、カルテの内容が外来管理加算に相応しいかの厳しいチェックが、すべての記載について行われるのは間違いありません。そういう事が毎月繰り返されれば、とくに個人開業医では到底対応しきれません。

  もちろん、「薬のみ」の診察では算定できません。それとは分けましょうという考え方です。外来管理加算については、名称を変更する話もありましたが、今回はやめました。ただ、いずれは再診料への加算ではなく技術料として独立させて、名称を変えてもいいでしょう。

厚労省保険局医療課長・原徳壽氏は医師です。略歴を書いておけば、

1981年自治医科大学卒業。京都府衛生部医療課から厚生省健康政策局計画課課長補佐、保険局医療課課長補佐、環境省環境保健部企画課特殊疾病対策室長、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課がん研究調整官などを経て、03年10月から防衛庁運用局衛生官に就いていた。原氏は医療課長補佐時代に、薬価差問題に関するプロジェクトチームの事務局も務めた。

自治医大卒業生は一般に僻地医療に取りくむと思われていますが、義務年限は医療でなく役人になっても果たされるそうです。この略歴からどの程度の臨床経験があるかはわかりませんが、2年程度である可能性も十分考えられます。その程度の経験では外来診療なんて到底任せられるような技量になっていないので、あったとしても非常に乏しいと考えます。

そのせいか

    「薬のみ」の診察
こういう言葉を頻発されます。実際にはあるじゃないかと言われればそれまでなんですが、そういう診察は医師法で禁止されています。

医師法第20条

 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

「薬のみ」の診察とは、

    自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付
これに綺麗に該当します。少なくとも厚労省保険局医療課長ともあろう人物が、こういう診察方法を肯定してはいけないはずです。ところが肯定しただけではなく、
    それとは分けましょうという考え方です
医師法20条に禁止されている診察方法を公式に承認し、承認する代わりに外来管理加算を付けないだけのものにすると言明しています。誰か注意してあげる人物が周囲にいないかと疑問に思います。


ま、そんな枝葉末節はこの辺にして、厚労省保険局医療課長・原徳壽氏の「5分」への言い回しはおもしろいですね。3つの定義を語っておられます。

  1. 丁寧な診察
  2. 財源の問題
  3. 医師の専有時間
本丸は財源の問題であるのは明らかですから、次回改定以降は財源の問題の打ち出の小槌に「5分」の時間延長は必至と考えます。改定のたびに2200億円の削減が宿題として与えられていますし、厚労省保険局医療課長・原徳壽氏は年齢からして2年後の改定にも関与される可能性が高いので、その時にはきっと「10分ルール」についてインタビューを受けていると予測しておきます。