北の大地からのニュース

2/27付け北海道新聞より、

重症救急撤退を通告 札幌市産婦人科医会 市に「夜間の負担増」(02/27 07:19)

 札幌市の産婦人科の救急医療で、重症患者を診る二次救急を引き受けている札幌市産婦人科医会(遠藤一行会長)が「各病院の負担が重く、これ以上は担いきれない」として、二次救急からの撤退を市に申し入れていたことが、二十六日分かった。市は医師や住民による協議会を三月中に設置し、負担軽減策を話し合う考えだが、同医会は具体案が出ない場合は、九月で撤退すると通告している。市内では現状でも妊婦のたらい回しが起きており、撤退となれば、市の産婦人科救急に大きな影響が出そうだ。

 札幌市の各診療科の夜間、土日・祝日などの救急体制は《1》軽症者を診る初期救急《2》初期救急の医療機関から重症者を受け入れる二次救急《3》より重症な患者を二十四時間受け入れる三次救急−に分かれている。このうち、産婦人科は同医会所属の医療機関のうちNTT東日本札幌病院など九医療機関が、二次救急に加え、夜間(午後五時−翌日午前九時)の初期救急も担ってきた。

 担当医師の負担が増えたのは、産婦人科医の減少で二次救急を毎日交代で引き受ける医療機関が、四年前の十四から五カ所も減少したため。各医療機関の担当回数が二週間で一回から一週間で一・三回程度に増え、担当医から「産婦人科は慢性的な人手不足で、受け持ち患者の診療と出産で手いっぱい。これ以上、救急を分担できない」と、声が上がった。

 このため、同医会は二○○八年度に向け、市の夜間急病センターに夜間の初期救急を診る産婦人科医を置き、初期と二次を分離するよう市に要請した。遠藤会長は「センターで患者を振り分け、子宮外妊娠や早産などの重症患者だけを二次救急に送れば、医師の負担が大幅に軽減される」と説明する。しかし、市は新年度予算案に、二次救急医療機関への報酬の一千万円増額を盛り込んだものの、センターへの産婦人科医配置は見送ったため、医会として撤退を申し入れた。

 市医療調整課の飯田晃課長は「夜間急病センターに産婦人科医を配置すると、約七千万円の予算が必要になる。財源が限られる中、住民合意を得られるだろうか」と説明。三月中に協議会を設置し、負担軽減に向けた代案を話し合う。

 医療機関に二次救急を担う法的な義務はない。撤退が決まった場合、市が個別の医療機関に担当を依頼しなければならず、三次を担う市立病院や、市の依頼に応じる一部医療機関の負担が増大するのは確実。最悪の場合は救急体制が崩壊する恐れもある。

 遠藤会長は「医療にどうお金をかけるか、市と住民で考えてほしい」と話している。

北海道の中で別格の大都市と言える札幌の緊急事態です。今日は記事情報を鵜呑みする形で話を進めます。

記事の解釈が微妙なんですが、産婦人科救急のシステムは

  1. 軽症者を診る初期救急
  2. 初期救急の医療機関から重症者を受け入れる二次救急
  3. より重症な患者を二十四時間受け入れる三次救急
このうち初期救急と二次救急を担っていた9つの医療機関が撤退を通告したのニュースです。札幌も産婦人科医不足は深刻のようで、二次救急輪番を始めた当時は14ヵ所あったものがたったの4年で9ヶ所までまず減っています。減った結果、

医療機関の担当回数が二週間で一回から一週間で一・三回程度に増え

輪番から脱落した病院の中には産婦人科自体も撤収したところもあると考えられ、担当回数が増えただけではなく、残存医療機関の通常勤務の負担も増加していると考えるても良いかもしれません。その辺も踏まえて上がる声として、

産婦人科は慢性的な人手不足で、受け持ち患者の診療と出産で手いっぱい。これ以上、救急を分担できない

そこで出た産婦人科側からの提案が、

市の夜間急病センターに夜間の初期救急を診る産婦人科医を置き、初期と二次を分離するよう市に要請した。

ココロは現在担っている初期救急、二次救急のうち、初期救急の負担軽減の要望かと考えます。せめて初期救急の負担を何とかしてくれないと、救急には対応できないの要請と考えます。これに対する市の返答は、

夜間急病センターに産婦人科医を配置すると、約七千万円の予算が必要になる。財源が限られる中、住民合意を得られるだろうか

つまりゼロ回答です。ここで市医療調整課の飯田晃課長は産婦人科サイドへの拒否理由に必要な予算7000万円を

    「住民の合意が得られそうに無い」
との返答をしています。

7000万円とは巨額の予算ですし、札幌市自身も財政は苦しいようですが、札幌市の予算規模を平成20年予算の概要から見てみます。

予算の用途について目玉部分が特に「4つの施策に力点を置き、市民や企業などとの連携・協働で効率的・効果的に展開」として列挙されていますが、これを抜書きしてみます。
  1. 子どもが健やかに育つ環境を整備


    • ワーク・ライフ・バランス取組企業応援事業:1300万円
    • 福祉と多世代のふれあい公園づくり事業:4800万円
    • 特別支援教育支援員活用事業:4900万円


  2. 市民主体のまちづくり活動を推進


    • まちづくりセンター地域自主運営化推進:1500万円
    • 市民まちづくり活動促進総合事業(基金造成費含む):4400万円
    • 厚別清掃工場跡地パークゴルフ場整備:5500万円


  3. 経済の活性化を推進


    • 大学連携型施設等運営事業:1200万円
    • 北海道の魅力発信推進拠点整備(都心):1000万円
    • さっぽろコンテンツマーケット創出事業:3400万円


  4. 環境首都・札幌の実現に向けて


    • 札幌・エネルギーeco プロジェクト事業:2億1100万円
    • 北海道洞爺湖サミット開催関連事業:1億1100万円
    • リサイクル・パートナーシップモデル事業:500万円
どれも重要な事業でしょうし、きっと札幌市の発展のために欠かせない事業であるため予算に盛り込まれたのだと考えます。当然これは「住民の合意を得た」もしくは「得られて当然である」と判断されたはずです。また少なくとも産科救急の予算よりは優先度が遥かに高い事業であり、産科救急の確保を放棄してまで実施しなければならない事業であると判断され、それは「札幌市民が望むこと」と札幌市は考えていると思われます・・・。



ここまでは記事から脊髄反射に出てきた話ですが、そんな単純な話かどうかに疑問を感じます。ここで出てくる当事者は、

  • 札幌市(行政)
  • 産婦人科医会(経営者)
  • 勤務医(現場)
本当は患者も入るのですが、ちょっと置いておきます。話がどこから出てきたかと考えると現場からの不満でしょう。その現場からの不満を聞いて経営者が動いたと考えるのが妥当です。記事の印象からは経営者は現場の声にかなり肩入れしている印象があります。ただよく考えると、このまま交渉決裂になり初期救急・二次救急から本当に撤退すれば批判は経営者に集中します。行政が7000万円を出し渋った方に向かう可能性もありますが、そうは向かわせないように頑張るマスコミもいます。

バッシングのリスクを考慮した上の交渉であればアッパレですが、そこまで腰が据わった経営者が9人もそろっているとは思えません。良くも悪くも「患者のため」論で撤退通告に反対の経営者もいるはずです。そういう反対論を丸め込んで通告にもっていくためには、あくまでも交渉上のブラフであるとの暗黙の合意があっても不思議は無いと思います。

行政はそういう経営者側のブラフを見通した上で「ゼロ回答」をまず行い、そこからゼロサム交渉をする腹積もりとみます。経営者側も最後通告まで出して交渉をしたという姿勢を現場に見せることで、現場の不満を和らげ、ゼロサムの「サム」の成果で現場を丸め込んで事を収めようとしているんじゃないでしょうか。行政も経営者も救急撤退によるバッシングの攻撃にさらされるのは避けたいはずだからです。

つまりこの最終通告は経営者側から行政に向けられたというより、経営者側から現場に向けられた宣伝であり、経営者と行政の交渉の本音は、どの程度の「サム」で現場の不満のガス抜きが出来るかの落としどころを探る会議と考えます。行政の最大限の譲歩は7000万円の初期救急分離策を飲むことで、それ以内に収まれば上出来の交渉です。さらに行政は7000万円の譲歩をするにしても、経営者側の脅迫に屈したという形を取った方が議会対策もラクになります。

経営者側も最終通告と言う切り札まで出して初期救急分離策を獲得すれば現場の不満は和らぐでしょうし、今年度獲得できなくとも、なんらかの「サム」を得たうえで来年度以降に整備を努力するの言質をとれば、現場を収められるの計算があると考えます。

ただしこの経営者側、行政の計算にどれだけ現場の不満が強いかを算定してるかが問題です。もちろん札幌の現場の不満の強さを知る術はありませんが、普通に考えて相当強いだろうと考えられます。強いだけに最終通告に強い期待をかけている可能性が高いと考えます。中途半端な妥協で果たして現場が収まるかに不安を感じます。

さらに経営者側も一枚岩とは思えません。本音の本音の部分で救急撤退の方がベターと考えている経営者も必ずいると考えます。こういうものの撤退時期は、早期に撤退したものは責められませんが、最後まで踏ん張って残ったものが撤退した時には、そこへのバッシングが集中的に行なわれます。今のうちに逃げ出したいが、逃げ出すための大義名分が欲しいと時期を窺っている経営者もいると思います。

経営者側と行政の交渉が満額回答ならば逃げ出す口実を失いますが、「サム」程度で終わればこれを大義名分にする経営者がでてきてもおかしくありません。現在9ヵ所の医療機関が参加していますが、交渉結果が「サム」以下に終われば、これ幸いと2〜3ヶ所が脱退すれば自然に輪番は維持不能に陥ります。

後半部分は憶測ですが、行政も経営者側も思惑とは別にかなりのチキンゲームを行なっていると見えます。交渉結果に注目します。