救命救急センターの評価結果と言うのがあります。救急医療体制基本問題検討会報告書(平成9年12月)における「既存の救命救急センターを再評価し、その機能を強化する」との提言等を踏まえ、平成11年度から救命救急センター全体のレベルアップを図ることを目的とした評価結果が続けられています。
評価は補助金に直結し、
- 充実段階A : 補助基準額の100%を交付
- 充実段階B : 補助基準額の 90%を交付
- 充実段階C : 補助基準額の 80%を交付
年度 | 充実段階A評価(%) |
H.11 | 60.6 |
H.12 | 76.8 |
H.13 | 92.4 |
H.14 | 97.5 |
H.15 | 96.4 |
H.16 | 95.9 |
H.17 | 97.7 |
H.18 | 100 |
H.19 | 100 |
補助金と言うニンジンがあったにせよ、H.11年度には60.6%であった施設充実度AがH.18年度には100%になっています。実に素晴らしいと言いたいところですが、H.19年度も100%なんです。救急崩壊は今年も加速していますが、去年だって甘いものではなかったと記憶しています。いくらなんでもと言いたくなります。昨日引用した朝日記事でも、
- 日鋼記念病院が医師の相次ぐ退職でセンター休止
- 麻酔科医が辞め、一般内科・外科の受け入れが不可」(兵庫県立姫路循環器病センター)
- 「常勤医が退職した整形外科が休診中で、交通事故の負傷者が受け入れられない」(愛媛県立新居浜病院)
- 関西医科大付属滝井病院(大阪府守口市)では、心臓血管外科医3人がすべて他施設に移り、大動脈瘤(りゅう)破裂の処置が困難になっている
- 16施設で一部の診療科や疾患について受け入れ不能となっていた
- 緊急事態に対処し、危機的な症状を食い止める救急科専門医がゼロになったセンターも13カ所あった
そうなると関心が引かれるのは施設充実度の調査方法です。これは基本的に採点評価で行なわれており、
- 充実段階A:19点以上
- 充実段階B:12点以上18点以下
- 充実段階C:11点以下
1 二次医療圏における救急医療関係者協議会への参加状況
- 参加していない: △1点
参加していないことはまず考えられないので減点はOです。
2 併設(母体)病院内におけるセンター機能の評価委員会の設置状況
※ 単独センターにおいては、センター内設置で加点
- 有: 1点
- 無: 0点
評価委員会ぐらいすぐに作れますから、ここは1点ゲット。
3 空床確保の責任体制
※ 単独センターにおいては、センター確保で加点
- 併設(母体)病院で確保: 2点
- センターで確保: 0点
「そうしている」とすればOKですから2点ゲット、合計3点。
4 空床確保数
※ 確保病床数に幅がある場合は、平均、端数切り上げ
- 5床以上: 3点
- 4床: 2点
- 3床: 1点
- 特に確保に努めていない。0〜2床: 0点
ここは微妙ですが、1点はゲットできるとして合計4点。
5 センター担当医師の勤務体制
- 救急医による専任チーム体制又は救急医を核とし各診療科との協力で専任チーム体制: 3点
- 救急医を核とした各診療科との当直体制: 2点
- その他: 0点
ここも救急医さえいれば2点ゲット、合計6点。救急医がゼロのところは0点ですから合計4点のまま。
6 救急専用電話の有無
- 有: 1点
- 無: 0点
確実に1点ゲット、合計7点。救急医ゼロのところは合計5点。
7 救急専用電話の対応体制
- センター専任医、その他の医師: 1点
- 上記以外: △1点
これも確実に1点ゲットでしょうが、救命救急センターは必ず医師が応答しなければならないとしているようです。とりあえず合計8点。救急医ゼロのところは6点。
8 「受け入れ不可」の判断体制
- 病院長、センター長、センター専任医以外: △1点
これはマイナス1点になるかもしれません、合計7点。救急医ゼロのところは5点。
9 救急救命士に対する指示体制
・救急専用電話により、必ず医師が即応以外: △1点
ここは減点なし。
10 診療データの集計・分析
- 傷病別患者数(入院、外来、月別)
- 重傷度分類患者数(入院、外来、月別) : 1点〔全て揃って〕
- 外傷患者の各種スコア
- その他: 0点
ここも1点ゲット、合計8点。救急医ゼロのところは6点。
11 救急医療についても検討する倫理委員会の設置状況
- 有: 1点
- 無: 0点
ここも1点ゲット、合計9点。救急医ゼロのところは7点。
12 深夜帯におけるセンターの医師数
- 5人以上: 3点
- 4人: 2点
- 3人: 1点
- 2人以下: 0点
どんな勘定法か知りませんが1点は取れるでしょう、合計10点。救急医ゼロのところは8点。
13 深夜帯におけるセンター以外の医師数
- 2人以下: △1点
意地でも配置するでしょうから減点なし。
14 センター病床の稼働率
- 集中治療病室のみ
- 60%未満: △1点
- 集中治療病室以外
- 70%未満: △1点
これはクリアするでしょうから減点ゼロ。
15 重症傷病者数
※ 30床未満のセンターのみ、患者数を30床換算する。
- 1,000人以上: 3点
- 750人以上、1,000人未満: 2点
- 500人以上、750人未満: 1点
- 500人未満: 0点
重症の定義がよくわかりませんが、腐っても救命救急センターなので1点はゲットとし合計11点。救急医がいないところは9点。
16 専任医師数
- 5人以上: 3点
- 5人未満: 0点
研修医を名簿に入れても可能なので3点ゲット、計14点。救急医がいないところで12点。
17 平均在院日数
- 7日以内: 3点
- 7日超、11日以内: 2点(センター病床40床以上の場合3点)
- 11日超、14日以内: 1点(センター病床40床以上の場合2点)
※ ただし、適用に当たっては、14(2)が80%以上であること。
よくわかりませんが2点はゲットできるとし計16点。救急医がいなくとも14点。
18 センター患者1人当たり平均入院診療点数
※ ただし、適用に当たっては、14(2)が80%以上であること。
- 10,000点以上(センター病床40床以上の場合7,000点以上): 2点
- 10,000点未満(センター病床40床以上の場合7,000点未満): 0点
これも取れるとして2点ゲットで計18点。救急医がいなくとも16点。
19 救命救急士の研修受け入れ実績
- 250人日以上: 3点
- 150人日以上、250人日未満: 2点
- 100人日以上、150人日未満: 1点
- 100人日未満: 0点
こんなところに救急救命士の受け入れがあるんですね。これは根性で受け入れて3点ゲット、合計21点。救急医がいなくとも19点。
20 貴院における医療事故防止に関するマニュアル
21 貴院における医療事故防止・患者安全をテーマにした研修
- 無し: △1点
- 実施していない: △1点
当然のように減点なし。
22 貴院における研修は年2回以上、又は、各部門(医師、看護師、診療技術、事務)別において年2回以上実施
- している: 2点
- していない: 0点
2点ゲット、合計23点。救急医がいなくとも21点。
23 貴院における日本救急医学会専門医または認定医
- いない: △1点(日本救急医学会指導医がいるなら減点しない)
救急医がいない病院は20点。
24 貴院における日本救急医学会専門医数(認定医数及び認定医資格も持つ指導医数含む)
- センター専任医数
- 5人以上: 3点
- 4人: 2点
- 3人: 1点
- 0〜2人: 0点
- センター外常勤医
- 5人以上: 1点
- 5人未満: 0点
最終項目に加点が無くとも救急医がいる病院なら23点、ゼロでも20点獲得の可能性があります。目出度く充実段階A認定です。もっとも私の得点評価も知見不足で怪しい部分はありますので、現場の医師の意見を頂きたいところです。
さらにここで得点を獲得できなくても充実段階A認定の別ルートがあります。
- 重症患者数750人以上
- 在院日数7日以内
- 病床利用率75%以上
- 診療点数12,000点以上
- 院外患者受入率55%以上
評価方法を読んで正直なところ甘い評価のように感じました。tadano-ry様のコメントが端的なので引用します。
設定した各項目に対して点数をつけ(加点と減点があります)、19点以上が評価Aなのですが、計算してみたところ満点は36点です。つまり100点満点で55点取れればA評価がもらえるのです。大学の単位でもあり得ない甘甘評価です。各施設の点数も公表すべきではないでしょうか。
私も読んだ時は共感したのですが、よく考えるとこの評価の本来の趣旨と文章表現に乖離がありすぎるのではないかと感じています。この評価は何のために行なっているかです。救命救急センターと認可されると補助金が支給されます。これは救命救急センターと認可されれば自動的に支給されるものと考えて良いかと思います。おそらくその認可のためには膨大な書類仕事が費やされているはずです。書類仕事だけではなく各種の設備案件や人的配置要件もハードルとしてしっかりあるはずです。
認可されて補助金支給の資格を得た上での補助金支給額の支給率の評価がこれにより行なわれているのだと考えます。だから評価が0点でも8割の補助金支給は行なわれます。おそらく前提としてこの程度の評価ならA判定は当然の基準ではないでしょうか。つまり余ほど評価の悪いところだけ補助金支給を減額する評価と考えられます。
「充実段階」なんて表現を使うから妙な誤解を招くのであって、これが「補助金支給基準」であれば100%であってもさして不思議に感じません。評価の内容も「補助金支給基準」であれば内容に違和感を感じる項目があるにせよ「そんなもの」と思いますし、普通にやればA判定で、かなりひどいところのみB判定やC判定になるとすれば「大学の単位でもあり得る甘甘評価」になると思います。
この評価が始まったのがH.11からです。当時にはどういう思惑があったのかはわかりませんが、補助金受給基準に過ぎないこの評価判定に充実段階なんて大層な名前を付けたのが勘違いされる大元のように気がしています。充実段階なんて聞けば、「凄い充実した施設」の印象を誰だって抱きます。ところが実態は補助金支給のための評価基準に過ぎないのです。
私が恐れるのは当初の思惑はさておき、現在の医療情勢になってこの充実段階なる言葉が独り歩きしている気がしている事です。これもまた厚労省の公式調査ですから、救急医療を考える時に「あの施設は充実段階Aだから・・・」とか「充実段階Aには余力があるはずだから・・・」式の引用が恣意的に使われている可能性が十分ありえます。
救急医療に関する会議で提出される時の充実段階の資料には当然のように評価法は添えられず、「100%の施設が充実段階Aである」の結果しか示されません。会議に出席している「有識者」は「充実段階」の言葉の語感のみに引きずられて物事を判断します。
本当は「看板に偽りあり」なんですが、羊頭狗肉の恣意的運用をされると誰も見抜ける人はいない事になります。この辺は厚労省の深慮遠謀があったと言うよりは、たまたまうまい表現が転がっていたので利用したに過ぎないと思いますが、砂上の楼閣に過ぎない充実段階Aは密かに猛威を振るっているとも考えます。