昨日中途半端になってしまったので書き直しです。ソースは全国厚生労働関係部局長会議資料【医政局】(平成20年1月16日開催(一日目))なる会議資料の重点事項の18ページからです。
ソースの「産科救急搬送受入体制等の確保について」の概要は昨年12月に出されたようです。これが出された経緯は冒頭部にあるように、
本年8月、奈良県で、健診を受けていない妊婦が、周産期医療ネットワークによる対応とならず救急搬送中に死産となった事例を受け、その後の検証等を通じて得られた課題の分析を基に方策を検討。
奈良流産騒動をキッカケにして作成された事が明記されています。対策としては、
第1フェーズ:直ちに着手可能なもの
第2フェーズ:一定の検討を要するもの
- 都道府県において、産科救急受入体制の総点検を行い、地域の実情に応じた対策を速やかに検討の上、実施。さらに、対策のフォローアップ、合同訓練等を実施。
- 国においては、必要な関係予算の確保に努める等都道府県の取り組みを支援。
関係省庁において、別途検討会を設置する等、それぞれ必要な検討等を行なった上で、年度内までに対応していく予定。
とくに第1フェーズの「速やかに」は、12月にお触れが出ていると考えるのですが、
かなりの速度を要求されているのがわかりますが、そのために「産科救急搬送受入体制の確保に係る方策」が示されています。総点検とか対策はこれに従って考えよというか、このまませよと考えれば良いかと思われます。
まず「1.救急搬送に対する支援体制の確保」となっています。この詳細を順番に見て行きたいのですが、
救急医療情報システムの充実・改善
- 更新頻度の増加
- 入力情報の改善
- 都道府県等によるフォロー
これは「たらい回し」報道があるたび取り沙汰される搬送情報のIT化に関する話とかと考えます。瞬時に搬送可能病院を確認ができれば、「たらい回し」が予防できるとの考えかと思います。ここについては、空床情報と空室情報を参照頂ければ良いのですが、ITと言っても現在のところ、全自動で空床を確認し、なおかつ患者を受け入れるマンパワーがあるかどうかを測定するシステムはありません。つまりは人力で刻々と変わる状況を入力する必要があります。そのための人員確保無しに「どうにかしろ」と言われても現場は悲鳴をあげます。
もっとも厚労省もまったく考えていないわけではなく、「都道府県のフォロー」として、都道府県で何とかしろと指示しているようにも読めます。
消防機関と医療機関の連携体制の確保
ここは時限爆弾は炸裂していたで紹介した今春の地域医療計画改定に連動した部分かと考えます。改定される医療計画での救急対策は「全国福島宣言」が目玉です。全国福島宣言をベースにして、コーディネーターやメディカルコントロールが動くプランとなっています。
この全国福島宣言の考えの前提に「どこかに遊休ベッドがある」があります。「どこかにあるベッド」を効率よく探せば「たらい回し」は解決するはずであり、そのためにコーディネーターヤメディカルコントロールを設置すれば問題は解決の姿勢です。「本当に一つもない」事に気がついてもらえるまでどれだけの時間がまだ必要かと思うと気が遠くなります。
県境を越える患者搬送体制の整備
- 都道府県間協議による搬送ルールの策定
- 隣接県の救急医療情報システムへのアクセス
- ドクターヘリの活用
これは笑えました。これが問題なく運用されるためには、救急医療情報システムが机上の理想の運用を実現しなければなりません。救急要請を受けたら瞬時に地域内の受入状況が判明しなければならないからです。瞬時にわかってこそ、他地域の情報を調べる段取りになるからです。そんな事が現状では到底不可能な事は現場の人間ならよく承知しています。
広域連携は否定もしませんし、必要なものと考えています。しかし現状では受入が不能としている地域内の医療機関の電話での再確認が必須であり、それから他地域へのアプローチにならざるを得ません。この作業は「たらい回し」そのものです。前提で救急医療情報システムをいくら書いても絵に描いた餅でしかないのですから、絵に描いた餅を前提として体制を考える事になり、まさに砂上の楼閣です。
残りの方策は一度に示します。
2.救急医療と産科・周産期医療の連携
3.産科医療体制の確保
- 救急部門と産科・周産期部門の連携体制の確保
- 周産期救急情報システムの利用の検討
4.妊婦健診診査の受診勧奨
- 地域における産科医療体制の確保
- 産科医の確保
- 適切かつ効果的な健康診査及び保健指導の推進
- 公費負担の充実
- 早期の妊娠届出の励行
さすがに厚労官僚が8月から4ヶ月もかけて分析検討しただけあって、問題点の抽出は間違っていません。しかしこれらは問題点の抽出であって方策ではありません。こういう問題点の解決が、都道府県レベルでは手に負えなくなって悲鳴をあげているのが実情です。どの問題点も地方自治体レベルでは対処が不可能になっているのが医療崩壊の実相です。
4ヶ月も奈良の事例を厚労官僚が分析検討し、厚労官僚はまだ誰も知らない問題点を発見したと考えているのかもしれませんが、この程度の方策で済むのなら、格差問題がこの世の中にあるのを発見したから「解消せよ」と通達したら、すべて問題が解決するとか、ホームレスが増えているようだから「解消せよ」と通達しているのと変わらないレベルです。
今朝も時間切れになりそうなのですが、最後に「総点検・フォローアップ」としてこの方策が進行しているかどうかをチェックするとして終わっています。医療崩壊に対する認識としての表現として、「周回遅れ」が良く使われますが、まさにそんな感じです。来年度の基本指針はこれに従って行われれますから、アンドロメダ星雲の彼方まで周回遅れと評させて頂きます。