麻酔科危機マップ

youri様より麻酔科の危機について資料をたくさん頂いているのですが、何分、小児科医であり、麻酔や手術の現場の実情に疎く、申し訳ありませんが店ざらしにしていました。麻酔科医の数自体は標榜医、専門医として登録され、認定医として把握するのは可能なようですが、認定医であっても手術麻酔だけを行なっているわけではなく、これもyouri様から

麻酔科医が携わっている業務も手術麻酔だけではなく救急・ICU・ペインクリニックなどがあり、パートタイマーや、研究・教育・管理職・留学・休職・退職後の医師も認定医数に数えられているため、フルタイム勤務換算の手術部実働部隊数を出すのは困難なのですが、友人・知人の近況や自県の手術部実働部隊数を数えてみて、とりあえず認定医数/2で計算してみました。

手術実働部隊はおよそ半数の概算に従いたいと思います。

静脈麻酔を除く、全身麻酔の件数も統計としてあるようなんですが、youri様が集めてくれた資料は2005年9月の麻酔件数です。資料として難しいのは、この全身麻酔をすべて麻酔科医が管理しているわけではないのです。各科麻酔というのがあり、麻酔科医ではなく外科医などが全身麻酔を行う事があるのです。この各科麻酔の割合なんですが、これもyouri様からですが、

 上記の全身麻酔件数は、各科麻酔も含めた数です。以前、日本麻酔科学会が麻酔科管理症例数を出していたと思うのですが、どこかへやってしまいました。
 自科麻酔をしてもらえれば麻酔科医の負担は減りますが、脊麻・硬麻・伝麻onlyの麻酔や、重症患者局麻手術の全身管理依頼などもあるので、差し引きするとどの程度になるかは分かりません。
(因みに、麻酔管理料加算は厚生労働省の締め付けが相当厳しくなっているので、非認定医にも色々させる教育病院では、ほとんど加算できない事態になっています)

手術場の事情に疎いのは隠しようも無いのですが、ここは8割が麻酔科医が全身麻酔を管理したとの概算にします。

次に月間の適正麻酔件数なのですが、月に25件(300件/年)を上限とするのが一つの目安のようです。25件以上になれば危険水準となり、42件(500件/年)を越えるとデッドラインと考えればよいようです。ちなみに月に42件を越えると

フルタイム勤務医が当直もバリバリこなし、月160時間以上の時間外労働をすることが前提になっています。

下記に表を示しますが、推定値Aとは実働手術部隊が半数と推定したもの、推定値Bとは麻酔科医の管理件数を8割としたものです。


都道府県名 2005年9月分 2007年現在 全麻数/麻酔医 推定値A

(×1/2)
推定値B

(A×0.8)
推定値C

(A×0.7)
全麻総数 麻酔認定医数
北海道 11618 400 29.0 58.1 46.5 40.7
青森 2047 60 34.1 68.2 54.6 47.8
岩手 1965 46 42.7 85.4 68.3 59.8
宮城 3794 123 30.8 61.7 49.4 43.2
秋田 1535 50 30.7 61.4 49.1 43.0
山形 1349 50 27.0 54.0 43.2 37.8
福島 2920 68 42.9 85.9 68.7 60.1
茨城 3181 93 34.2 68.4 54.7 47.9
栃木 2465 124 19.9 39.8 31.8 27.8
群馬 2582 118 21.9 46.8 35.0 30.6
埼玉 5976 247 24.2 48.4 38.7 33.9
千葉 6412 223 28.8 57.5 46.0 40.3
東京 19673 986 20.0 39.9 31.9 27.9
神奈川 10335 437 23.6 47.3 37.8 33.1
新潟 2621 70 37.4 74.9 59.9 52.4
富山 1914 62 30.9 61.7 49.4 43.2
石川 1764 74 23.8 47.7 38.1 33.4
福井 1146 35 32.7 65.5 52.4 45.8
山梨 938 32 29.3 58.6 46.9 41.0
長野 2861 96 29.8 59.6 47.7 41.7
岐阜 2038 63 32.3 64.7 51.8 45.3
静岡 4650 133 35.0 69.9 55.9 48.9
愛知 8408 254 33.1 66.2 53.0 46.3
三重 1876 47 39.9 79.8 63.9 55.9
滋賀 1681 71 23.7 47.4 37.9 33.1
京都 4412 169 26.1 52.2 41.8 36.5
大阪 12473 530 23.5 47.1 37.7 32.9
兵庫 8589 284 30.2 60.5 48.4 42.3
奈良 1899 73 26.0 52.0 41.6 36.4
和歌山 1559 60 26.0 52.0 41.6 36.4
鳥取 1320 44 30.0 60.0 48.0 42.0
島根 950 49 19.4 38.8 31.0 27.1
岡山 2695 136 19.8 39.6 31.7 27.7
広島 4468 166 26.9 53.8 43.1 37.7
山口 2183 76 28.7 57.4 46.0 40.2
徳島 1064 46 23.1 46.3 37.0 32.4
香川 1591 62 25.7 51.3 41.1 35.9
愛媛 1644 78 21.1 42.2 33.7 29.5
高知 1255 52 24.1 48.3 38.6 33.8
福岡 8905 344 25.9 51.8 41.4 36.2
佐賀 1210 43 28.1 56.3 45.0 39.4
長崎 1894 78 24.3 48.6 38.9 34.0
熊本 2847 122 23.3 46.7 37.3 32.7
大分 1783 72 24.8 49.5 39.6 34.7
宮崎 1466 67 21.9 43.8 35.0 30.6
鹿児島 2783 119 23.4 46.8 37.4 32.7
沖縄 1688 75 22.5 45.0 36.0 31.5
合計 174427 6707 26.0 52.0 41.6 36.4


実は下書きの段階では自科麻酔が2割の計算をしていたのですが、これでマップを作ると日本地図が真っ赤に燃え上がるどころか、黒く塗りつぶされてしまいます。そこで急遽自科麻酔を3割に修正してみたのが推定値Cです。何回も申し訳ありませんが、手術場の現在の実相の知識に乏しいので、どれぐらいが実感的に正しいか分かりません。宜しければ情報下さい。

その上でマップの色分けの設定なんですが、年間ベースの概算で行なっています。麻酔科的には月間25件以下(年間300件)が適正値で、月間42件(年間500件)を越えると無茶苦茶という意見がベースです。それに基づいての分類で、

  • 月間25件以下(年間300件以下):適正領域
  • 月間33件以下(年間400件未満):危険領域
  • 月間42件以下(年間500件未満):要危険領域
  • 月間50件以下(年間500件未満):デッドライン
  • 月間58件以下(年間600件未満):崩壊領域
  • それ以上:焼野原、黒塗り領域
マップは推定値Cに基づいています。


産科マップやNICUマップをこれまで作りましたが、麻酔科マップは別格の趣があります。産科、小児科の危機に引き続いて、外科の危機もマスコミレベルで散見されるようになっていますが、外科手術を支える麻酔科は厳しいを通り越し、末期的な状態である事が示されます。なんと言っても外科も厳しくなっているので、自科麻酔比率を上げるにも、外科にも人手が無い悪循環が進行していますので姑息的な対策さえ思い浮かびません。

なお何回も何回も繰り返して申し訳ありませんが、麻酔科の実情は疎い所がありますので、数値の実感の修正などがあれば、よろしくアドバイス頂きたいと思います。