数字で見る産科危機

全国周産期医療データベースに関する実態調査の結果報告 にある分娩取り扱い施設数及び常勤医師数のデータをがあります。2月ぐらいにこのデータを基に算数を何回かやったのですが、久しぶりに取り上げて見ます。元データは詳細なんですが、ブログで見てもらうために抽出してお示しします。


県名 病院 診療所 病院医師 診療所医師 総医師 出産数/医師
北海道 66 41 257 59 316 139
青森 16 27 49 30 79 146
岩手 14 27 46 27 73 153
宮城 22 34 83 46 129 157
秋田 20 14 60 18 78 103
山形 20 20 64 21 85 117
福島 31 29 80 34 114 161
茨城 27 30 107 42 149 176
栃木 17 36 103 50 153 116
群馬 19 32 64 44 108 164
埼玉 31 44 169 62 231 269
千葉 40 92 187 119 306 173
東京 94 100 617 116 733 127
神奈川 71 85 363 143 506 157
新潟 34 33 100 40 140 140
富山 18 11 59 14 73 128
石川 20 10 70 14 84 125
福井 14 14 51 16 67 109
山梨 11 9 50 13 63 119
長野 33 16 102 19 121 160
岐阜 24 76 57 102 159 115
静岡 29 72 129 86 215 156
愛知 69 102 312 163 475 148
三重 19 30 65 42 107 152
滋賀 15 30 52 34 86 158
京都 36 26 151 44 195 113
大阪 93 97 556 168 724 110
兵庫 56 65 208 93 301 165
奈良 14 16 48 24 72 163
和歌山 14 17 45 28 73 112
鳥取 7 13 40 20 60 88
島根 15 12 46 12 58 105
岡山 24 37 95 47 142 124
広島 32 29 128 57 185 139
山口 23 22 74 27 101 119
徳島 11 18 53 26 79 82
香川 20 10 56 13 69 131
愛媛 17 30 52 41 93 130
高知 10 12 40 14 54 113
福岡 26 123 165 185 350 129
佐賀 9 27 34 35 69 114
長崎 18 45 63 69 132 98
熊本 20 45 80 55 135 121
大分 13 28 43 34 77 130
宮崎 13 31 59 43 102 101
鹿児島 18 29 66 40 106 143
沖縄 17 27 76 34 110 149
合計 1280 1783 5474 2463 7937 135


一般に産科医一人当たりの分娩数が150を越えると厳しいとされるので、そこに該当する県の背景を黄色で、さらにその2割増の180以上を赤色で強調してみました。結果は見ての通りで東北、関東、東海はかなり厳しく、近畿では奈良と兵庫が双璧で厳しい事が分かります。統計上の数字ではまず医師の西高東低を裏付けるようなデータが出ています。ところでですが、この数字を基に2月頃に幾つかエントリーを立てた時に次のような指摘を頂きました。

・・・(前略)・・・この人数は正確には分娩取り扱い施設で働いている産婦人科医の数です。すなわち、分娩を取り扱っている病院で主に婦人科や生殖医療(不妊治療)の診療に従事している産婦人科医がふくまれており、産科診療のみに従事している産科医の数ではありません。・・・(中略)・・・おそらくその多くは当施設と同様に婦人科・生殖医療に主に従事している産婦人科医が半数はいると思います。

もっともな指摘で、たとえば大学病院なんかでは分娩も行なわれていますが、一方で婦人科医療、生殖医療を主として、実質的に産科医療にほとんど携わらない医師も少なくないと考えられます。御指摘では半数なんですが、もう少し細かく見て、産科医が5名以上勤務している病院の半数として集計しなおして見ます。もっともそこまで細かいデータが無いので、5〜9人勤務の病院の医師数を7人、10人以上を10人としての概算してのものです。


県名 病院 診療所 病院医師 診療所医師 総医師 出産数/医師
北海道 66 41 196 59 255 172
青森 16 27 40 30 70 165
岩手 14 27 37 27 64 175
宮城 22 34 60 46 106 191
秋田 20 14 51 18 69 116
山形 20 20 55 21 76 131
福島 31 29 71 34 105 175
茨城 27 30 77 42 119 220
栃木 17 36 79 50 129 153
群馬 19 32 55 44 99 179
埼玉 31 44 121 62 183 338
千葉 40 92 121 119 240 221
東京 94 100 502 116 628 148
神奈川 71 85 259 143 402 198
新潟 34 33 81 40 121 162
富山 18 11 50 14 64 146
石川 20 10 56 14 60 175
福井 14 14 35 16 51 143
山梨 11 9 41 13 54 139
長野 33 16 90 19 109 178
岐阜 24 76 52 102 154 119
静岡 29 72 87 86 173 194
愛知 69 102 227 163 390 180
三重 19 30 56 42 88 185
滋賀 15 30 43 34 77 176
京都 36 26 123 44 171 129
大阪 93 97 485 168 553 144
兵庫 56 65 166 93 259 192
奈良 14 16 32 24 56 210
和歌山 14 17 36 28 64 128
鳥取 7 13 35 20 55 96
島根 15 12 57 12 49 124
岡山 24 37 71 47 118 149
広島 32 29 102 57 159 162
山口 23 22 58 27 85 141
徳島 11 18 48 26 74 88
香川 20 10 45 13 58 159
愛媛 17 30 43 41 84 144
高知 10 12 28 14 46 133
福岡 26 123 113 185 298 152
佐賀 9 27 29 35 64 123
長崎 18 45 58 69 127 102
熊本 20 45 56 55 111 147
大分 13 28 34 34 68 147
宮崎 13 31 47 43 90 114
鹿児島 18 29 57 40 97 156
沖縄 17 27 60 34 94 174
合計 1280 1783 4640 2463 7103 151


統計が示す通り、北海道、東北も厳しいですが、関東、東海の厳しさはもっと深刻です。神奈川が厳しい話を先日しましたが、データでは、埼玉がこれまで話題にならないのが不思議なぐらい飛びぬけて厳しいのがわかります。正直なところ、この数字で産科医が死なないのが信じられないぐらいです。また首都圏ではさすがに東京が数字上はやや余裕がありますが、東京を取り巻く各県、埼玉、千葉、神奈川のいずれもが厳しく、さらに茨城も深刻ですから、東京の余裕がいつまで持つかは誰にも保証できないかと思います。

東海もかなり強烈で、俗に言う東海三県がいずれもデッドラインになっています。近畿は全国的に有名な兵庫と奈良がやはり肩を並べているのが良く分かります。修正した統計でも西高東低は変わりなく、あくまでもデータ上ですが、沖縄を除くとまだ比較的マシです。もっともマシと言っても関東、東海が強烈過ぎて、それに較べればマシと言った程度です。さらにこれはあくまでも県別データですから、県内の地域差を加味するともっと深刻な問題であるのは言うまでもありません。

それと何より重要なのはこのデータは平成18年6月14日に出されたものです。それ以来産科医や分娩施設は増えているかと言えばそうでなく、確実に減っています。これについては中間管理職様が適宜データを管理されていますので引用すると下記の通りです。これは上記の統計データの集計が終わってから休止になったところです。これを加味すると現在どうなっているか、考えただけでも怖ろしいかと思います。

産婦人科 分娩休止一覧


北海道
 道立江差病院/北海道/H19.01月
 釧路労災病院/北海道/H19.03月
 江別市立病院/北海道/H19.03月
 足立病院/釧路 北海道/H19.03月
 カレス・アライアンス日鋼記念病院/北海道/H19年度中に縮小・休診 
 滝川市立病院/北海道/H19年度中に縮小・休診 
 留萌市立総合病院/北海道/H19年度中に縮小・休診 
 道立紋別病院/北海道/H19年度中に縮小・休診 
 北海道社会事業協会富良野病院/北海道/H19年度中に縮小・休診 
 岩見沢市立総合病院/北海道/H19年度中に縮小・休診 
 旭川赤十字病院/北海道/H19.05月
 天使病院/北海道/H19.10月  
 斗南病院/北海道/H18.04月  
 市立函館病院/北海道/H18.04月  
 市立小樽病院/北海道/H18.04月  
 市立根室病院/北海道/H18.09月 
 新日鉄室蘭病院/北海道/H19.06月  

青森県
 青森労災病院/青森/H19.04月  
 弘前市立病院/青森/H19.04月   

 ■分娩制限
 青森労災病院/青森/H19.04月


岩手県
 県立釜石病院/岩手/H19.09月  
 県立胆沢病院/岩手/H19.09月  
 盛岡市立病院/岩手/H19.04月

宮城県
 東北労災病院/宮城/H19.01月  
 宮城社会保険病院/宮城/H19.03月
 登米市立佐院/宮城/H19.09月  

秋田県
 大館市立扇田病院/秋田/H18.11月 

福島県
 福島県立三春病院/福島/H19.03月  
 村松総合病院/福島/H19.06月  
 福島県大野病院/福島/H18.04月
 福島労災病院/福島/H18.08月
 福島県会津総合病院/福島/H18.09月  

 ■分娩制限
 総合磐城共立病院 /いわき市 福島/H19.04月 ● 


茨城県
 水戸医療センター /茨城/H19.04月
 国立水戸医療センター/茨城/H18.04月   

 ■分娩制限
 龍ヶ崎済生会病院/茨城/H18年
 水戸済生会総合病院/茨城/H18年
 総合守谷第一病院/茨城/H18.10月


栃木県
 塩谷総合病院/栃木/H19.01月
 NHO栃木病院/栃木/H19.08月
 宇都宮社会保険病院/栃木/H18.04月


群馬県
 ■分娩制限
 西吾妻福祉病院/群馬  (2→1人、縮小)/H19.04月


埼玉県
 八潮中央総合病院/埼玉/H19.02月  
 川口工業総合病院/埼玉/H19.04月 ● 

千葉県
 銚子市立総合病院/千葉/H19.01月
 みつわ台総合病院/千葉/H19.02月
 県立東金病院/千葉/H19.04月  
 浦安市川市民病院/千葉/H19.05月  
 県立佐原病院/千葉/H18.04月

東京都
 東京逓信病院/東京/H19.01月
 都立豊島病院/東京/H18.09月  
 国立病院機構災害医療センター/東京/H18.10月 
 都立荏原病院/東京/H19.10月 ● 

 ■分娩制限
 都立墨東病院/東京/H18年11月 外来制限
 東京医科大学八王子医療センター/東京/H18年
 公立阿伎留医療センター/東京/H19.01月


神奈川県
 三浦市立病院/神奈川/H19.03月
 厚木市立病院/神奈川/H19.07月  
 西横浜国際総合病院/神奈川/H18.09月
 横須賀共済病院/神奈川/H19.10年 ● 

 ■分娩制限
 秦野赤十字病院/神奈川/H18年
 大和市立病院/神奈川/H19.07月  
 太田総合病院/神奈川/H19.01月 
 川崎協同病院/神奈川/H18年
 済生会横浜市南部病院/神奈川/H18年  
 横浜市立みなと赤十字病院/神奈川/H18.12月


新潟県
 新潟労災病院/新潟/H18.06月
 新潟県厚生連けいなん総合病院/新潟/H18.10月
 新潟県立がんセンター/新潟/H18.11月  
 坂町病院/新潟/H19.10月 ● 

 ■分娩制限
 新潟市民病院/新潟/H19.03月  


石川県
 金沢赤十字病院/石川/H18.04月  
 金沢市立病院/石川/H18.04月  
 加賀市民病院/石川/H18.07月 

福井県
 福井社会保険病院/福井/H19.04月 

 ■分娩制限
 福井愛育病院 /福井/H18年


山梨県
 都留市立病院/山梨/H20.04月  
 塩山市民病院/山梨/H19.10月
 社会保険山梨病院/山梨/H18.07月  
 加納岩総合病院/山梨/H18.07月  
 上野原市立病院/山梨/H18.10月  

長野県
 昭和伊南総合病院/長野/H20.04月  
 県立須坂病院/長野/H20.04月  
 国立松本病院/長野/H19.09月  
 下伊那赤十字病院/長野/H18.04月 
 諏訪中央病院/長野/H19.04月 
 町立辰野総合病院/長野/H18年までに縮小もしくは休診 
 安曇総合病院/長野/H18年までに縮小もしくは休診 
 富士見高原病院/長野/H18年までに縮小もしくは休診 
 下伊那赤十字病院/長野/H18年までに縮小もしくは休診 
 安曇野赤十字病院/長野/H18年までに縮小もしくは休診 
 NTT東日本長野病院/長野/H18年までに縮小もしくは休診 

 ■分娩制限
 伊那中央病院/長野 「里帰り出産」制限/H20.04月 ● 
 佐久市国保浅間総合病院/長野/H19.04月 


岐阜県
 恵那市 唯一の開業産婦人科医院/岐阜/H19.03月
 土岐市立総合病院/岐阜/H19.07月  
 岐阜社会保険病院/岐阜/H18.04月 

 ■分娩制限
 中津川市民病院/岐阜/H18年「里帰り出産」制限 
 高山赤十字病院/岐阜/H18(分娩制限) ● 


静岡県
 聖隷三方原病院(7→4名)/静岡/H19年度中に縮小・休診
 聖隷沼津病院(3→2名)/静岡/H19年度中に縮小・休診
 共立湖西病院(3→0名)/静岡/H19年度中に縮小・休診
 袋井市民病院/静岡/H19.04月  
 静岡徳州会病院/静岡/H19.09月  
 島田市民病院(7名→1名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 御前崎市民病院(1名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 伊東市民病院(3→1名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 静岡県東部医療センター(6名→1名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 共立蒲原病院(2→0名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 社会保険浜松病院(2→1名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 浜松日赤病院(1→0名)(新築移転)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診
 浜松労災病院(3→0名)/静岡/H18年までに縮小もしくは休診

愛知県
 名古屋掖済会病院/愛知/H19.07月  
 新城市民病院/愛知/H18.04月
 知多市民病院/愛知/H20.04月 ● 

三重県
 県立志摩病院/三重/H19.01月

滋賀県
 彦根市立病院/滋賀/H19.03月 
 東近江市立蒲生病院/滋賀/H19.03月  

 ■分娩制限
 近江八幡市総合医療センター/滋賀/H19.06月 (新患分娩中止) 


京都府
 関西医科大学附属男山病院/京都/H19.04月
 舞鶴医療センター/京都/H18.04月  
 国立病院機構舞鶴医療センター」/京都/H18.04月 

大阪府
 阪和住吉総合病院/大阪/H19.03月
 住友病院産科/大阪/H19.03月
 オーク住吉産婦人科/大阪/H19.04月
 JR大阪鉄道病院/大阪/H18.06月 
 済生会富田林病院/大阪/H18.04月    
 KKR大手前病院 産科休止/大阪/H18年までに縮小もしくは休診 
 市立岸和田市民病院 産婦人科休診/大阪/H18年までに縮小もしくは休診  

 ■分娩制限
 聖バルナバ病院/大阪/H19.02月   
 北野病院/大阪/H18年  
 住吉市民病院/大阪/H18年
 大阪府愛染橋病院/大阪/H18年
 市立池田病院/大阪  分娩制限(月30件)/H18年


兵庫県
 市立宝塚病院/兵庫/H20.04月  
 柏原赤十字/兵庫/H19.03月
 姫路医療センター/兵庫/H19.04月  
 西宮市立中央病院/兵庫/H18.04月
 市立加西病院/兵庫/H18.06月  (H19.11再開予定)
 高砂市民病院/兵庫/H18.06月 
 神鋼病院/兵庫/H18.07月 
 兵庫県立尼崎病院/兵庫/H18.09月  

 ■分娩制限
 県立柏原病院/兵庫/H19.08月 ● 
 加古川市民病院/兵庫/H19.07月 ● (正常分娩制限)
 関西労災病院/兵庫/H18年
 市立伊丹病院/兵庫  分娩制限(月20件)/H18年


奈良県
 大淀病院/奈良/H19.03月
 県立五條病院/奈良/H18.04月  
 済生会御所病院/奈良/H18.10月  

 ■分娩制限
 大和高田市立病院/奈良/H18年


和歌山県
 新宮市立医療センター/和歌山/H19.10月(国の緊急医師派遣の適用、再開予定)
 NHO南和歌山医療センター/和歌山/H18.09月  

鳥取県
 済生会境港総合病院/鳥取/H19.04月  

島根県
 津和野共存病院 /島根/H19.03月

 ■分娩制限
 隠岐病院/島根/H18年


岡山県
 井原市民病院/岡山/H18.08月  

広島県
 福山市民病院/広島/H19.04月   

 ■分娩制限
 JA広島総合病院/広島/H19.02月  


山口県
 宇部興産中央病院/山口/H18.12月

 ■分娩制限
 小郡第一総合病院/山口/H19.02月  (正常分娩休止)


徳島県
 県立海部病院沼病/徳島/H19.09月  

香川県
 坂出市立病院/香川/H19.07月  

愛媛県
 西条中央病院/愛媛/H18.05月  

福岡県
 北九州市立 八幡病院/福岡/H18.04月 
 九州労災病院/福岡/H19.03月

熊本県
 菊水町立病院/熊本/H19.04月 
 市立牛深市民病院/熊本/H19.03月  
 小国公立病院/熊本/H19.03月  
 八代総合病院/熊本/H18.04月  
 荒尾市民病院/熊本/H18.04月  
 天草中央病院/熊本/H18.04月  

大分県
 中津市民病院/大分/H19.04月  
 国東市民病院 産婦人科休止/大分/H18年までに縮小もしくは休診  
 健康保険南海病院/大分/H18.04月 
 公立おがた総合病院/大分/H18.06月  


沖縄県
 沖縄県立北部病院/沖縄/H19.03月