焦点がずれているような

中間管理職さんの産科の電話代行業 でも責任は? 「神奈川県が妊婦搬送先探し代行、産科医の負担軽減へ 」への自分のコメントからのリサイクル・エントリーです。元記事は9/12付け読売新聞です。

神奈川県が妊婦搬送先探し代行、産科医の負担軽減へ

 神奈川県は、救急搬送が必要な妊婦の受け入れ先を医師に代わって、産科の研修を受けた県救急医療中央情報センター職員が探すシステムを11月から本格的にスタートさせる。

 4月から試験的に実施したところ、診察と並行して受け入れ先探しをしなければならなかった産科医から、「負担が軽減され、助かった」との声が上がったことなどから、体制を組んで取り組むことにした。

 同県では、出血するなど緊急に治療が必要な妊婦は、県内の八つの基幹病院が対応することになっているが、自分の病院に収容できない場合、産科医が、ほかの病院に電話するなどして受け入れ先を探している。

 同センターでは、職員11人が3人ずつ交代で、24時間態勢でこの作業を代行。破水や合併症の有無など、妊婦の症状が書かれた調査票を基幹病院からファクスで受け取り、県内の受け入れ可能な病院を探す。

 同県などは、産科医不足対策として、救急車への搬送先案内などを行っている同センターで、搬送先探しを試行。これまでに、基幹病院から依頼のあった152件のうち、88件で受け入れ先を確保した。

4月から試験的実施の報道の時も神奈川の試みとしてエントリーをしているのですが、その時に疑問点として挙げられていたのは

    初めは神奈川県内の病院が対象だが・・・
そこから当然考えられる事は、
    残念ながら神奈川県には搬送可能な病院はありませんでした。またの御利用をお待ちしています。
そうならいささか心配されます。4月時点の神奈川の搬送事情についての情報はレジデント初期研修用資料にあり、一部抜粋しますと、

  • 奈良県の産科事例、例の18病院が救急搬入を断った話は、現場では誰も驚かなかった。神奈川では、20病院以上に声をかけても搬入先がみつからないのは日常茶飯事だから
  • 産科救急で一番不足しているのが、小児集中治療に携わる医師。30週未満の早産では、生まれた子供は集中治療室でないと処置ができない、NICUのない病院は、そもそも救急搬入に対応できない
  • 小児用の集中治療室が維持できなくなっている。「早産の子供に対応してほしい」という声よりも、「風邪の子供を 24時間診てほしい」という声のほうが圧倒的に大きくて、集中治療室を放棄せざるを得ない
  • 某大学では、病院が24時間救急を受ける方針を決定した。風邪の子供を抱えたお母さんが夜中に殺到して外来が回せなくなり、集中治療室を閉めて対応せざるを得なかった
  • 病院間のネットワークは、すでに十分に機能している。某大学にネットワークの本部があって、電話一本で救急対応可能な搬送先を紹介してくれる。ところが稼働している病院が減っているため、横浜から問い合わせて搬送先小田原とか、神奈川/東京全滅で、搬送先はヘリで千葉県とか、どんどん遠くなっている

神奈川では周産期での搬送が逼迫どころではなく、危機的である事がわかります。また周産期のNICU運営が逼迫しているところに、一般の小児救急応需の圧力が強大でNICUを閉鎖してまで対応している様子が赤裸々に書かれています。そこでどれほどの医療施設が基幹病院として周産期救急に対応しているかと言うと、これは読売記事ですが、

出血するなど緊急に治療が必要な妊婦は、県内の八つの基幹病院が対応することになっている

これは神奈川の医療事情に詳しい人に教えて頂きたいところですが、「八つの基幹病院」が主な8ヶ所なのか、全部で8ヶ所なのかです。前回エントリーと今回の記事を読む限り「全部で8ヵ所」と解釈してもおかしくなさそうです。

それと県救急医療中央情報センターがさがす対象ですが、4月の試験運用時点でも、11月からの本格運用時点でも対象範囲はやはり神奈川県のみと考えるのが妥当と考えます。もし県外までさがす範囲を広げるならば、これは行政側の絶好のアピールポイントですから、黙ってこそっと行なうとは思えず、むしろ大々的に宣伝すると考えます。

搬送先探しの殆んどが神奈川県内にとどまるものであるなら県内だけのシステムでも十分かと思うのですが、4月から9月までの運用実績が記事になっています。試験運用期間での搬送元は、

    基幹病院から依頼
8つの医療機関のいずれかからの依頼であったと見なしてよいようです。センターは県内の他の搬送可能機関に依頼するわけですが、この数は残りの7つの基幹病院であると考えるのが妥当です。その依頼結果は
    152件のうち、88件で受け入れ先を確保した
88件は確保できたようですが、残り64件はどうなったのでしょう。記事から推測されるセンターのシステムからして搬送依頼元以外の7ヶ所の基幹病院に搬送依頼を断られたと考えるのが自然です。この時点でマスコミ用語の言う
    7ヶ所のたらい回し
が発生している事になります。これも仮にですが、8ヵ所の基幹病院以外に受け入れ能力が無いとしたら、県外搬送という事になりますが、この率は42%になります。これは周産期医療の整備が遅れていると話題になっている、奈良の県外搬送率を大幅に上回っている事になります。奈良と神奈川では人口が違いますから、率で上回れば実人数は多数である事は言うまでもありません。

記事の力点はセンター設立による周産期搬送の効率化ですが、私はそれよりもセンター試験運用により浮かび上がっている神奈川の周産期事情の厳しさの方が重要かと考えます。試験運用の結果、

    産科医から、「負担が軽減され、助かった」との声が上がったことなどから、体制を組んで取り組むことにした
この声に小躍りして県内だけのシステムとして本格運用するのではなく、64件、42%もの確保できなかった搬送先案件に目を向け、これに対する対策を打ち出すのが本当かと考えます。本筋は県内の周産期医療の充実でしょうが、これは一朝一夕にはどうしようもないでしょうから、緊急避難的でも広域連携でのセンターの確保先探しを行なうべきです。つまりセンター機能の充実です。

神奈川の試み自体は評価する声もありますが、行なうからには搬送依頼を受けたからには搬送先を確保するまで機能しないと価値が減じます。搬送依頼元以外の7ヶ所に連絡して「無かったらオシマイ」のシステムは如何なものかと思ってしまいます。