くだらん対談

これは参議院比例代表自民党公認候補の松浦まなみ氏と大和成和病院病院長・心臓センター長の南淵明宏氏の対談です。ちなみに松浦氏は看護協会推薦の議員であり、南淵氏は私は見たことが無いのですが、マスコミの医療コメンターとしても活躍もされているようです。

この対談はまつまな.comこんな現実を変えていきたい!vol.13となっており、上記二人の対談は「看護師が声をあげれば、医療が、社会が、必ず変わる」と題されています。全体は4部構成となっており、私もその構成にそって追ってみたいと思います。

■看護師と医療ミス

 松原まなみ(以下、松原)

著書を拝見しましたけど、南淵さんは看護師が医療現場で不当な状況におかれている現状をとても嘆いていらっしゃいますよね。とくに印象に残っているのは、東海地方の病院で起こった医療ミスのくだりでした。


 南淵明宏(以下、南淵)

あれは、医者が「半筒」と指示したのを看護師が「3筒」と聞き間違えて6倍のワソラン(カルシウム拮抗薬)を投与し、その結果、患者さんは亡くなってしまい、後日、看護師は医者とともに業務上過失致死の疑いで送検されたというケースですね。


 松原

そうそう、それです。


 南淵

本来、このような医療ミスでは、なぜミスが起こったかという点を問題にすべきなのに、そこをきちんと検証せず、現場の看護師に罪を負わせるのはバカげていると思ったんです。


 松原

なるほど。


 南淵

実はある研究によるとシステム上、医者のミスは半分くらい看護師が訂正するけれど、看護師のミスは誰にもチェックされないでそのまま患者に行われてしまうというのです。例えば医師が患者に投薬する際、それが万が一間違っても、看護師がミスに気付くなど、救済される場がいくつかある。ところが看護師の場合、現場で実際に投薬を行う立場であるから、何かあったときの救済が難しく、結果的に医療ミスに関わってしまうことが多くなる。そういうことを理解しないで、現場にいた看護師が悪いと単純に非難するのは、大間違いだと思いませんか?


 松原

そう思います。だからそういうときこそ看護師が声をあげるべきなんでしょう。


 南淵

医療の現場や問題点を誰より知っているのは看護師ですから、看護師が声をあげれば、医療が、社会が、必ず変わるはずなんです。――ただ残念なことに、なかなかモノを言わないのが看護師の習性になっている気がします。「言っても仕方がない」とあきらめているのでしょうか。

あくまでもこの対談内容からの分析ですが、看護師が行なった医療ミスとしてあげられたのは、

    医者が「半筒」と指示したのを看護師が「3筒」と聞き間違えて6倍のワソラン(カルシウム拮抗薬)を投与
これがここでの問題の事例のようです。「はんとう」と「さんとう」は確かに似ていますが、量としてはえらい違いです。この医療ミスでの病状がわかりませんから、指示の時点で「さんとう」投与の可能性がありそうな状態だったかどうかは何とも言えませんが、通常なら「さんとう」と聞こえても「おかしい」と感じて聞きなおして再確認する量かと思います。これに対して南淵氏は
    本来、このような医療ミスでは、なぜミスが起こったかという点を問題にすべきなのに、そこをきちんと検証せず、現場の看護師に罪を負わせるのはバカげていると思ったんです。
「キチンと検証せよ」は正論かと感じます。ただ後半の「現場の看護師に罪を負わせるのはバカげている」はやや問題を含むと考えます。「キチンと検証」と「罪を負わせる」は対立するものではなく、ここでの正しい表現は「キチンと検証した上で、看護師に罪があるかどうかを問うべきだ」とすべきかと考えます。そうしないと看護師の致命的なミスに対し免責を主張されていると誤解されるかと考えます。

次はチェック体制についての南淵氏の主張です。氏の主張をまとめると、

  • 医者のミスは半分くらい看護師が訂正
  • 看護師のミスは誰にもチェックされない
主張自体は正しいかと思います。病棟では医師と看護師が診療に関わり、医師の指示を受けた看護師が治療を行なう形態はポピュラーなものです。医師が勘違いして指示を出した場合、看護師がそれに気づいて訂正される事はありますが、看護師が勘違いすれば挙げられた事例の様にチェックされないからです。

看護師には次の段階のチェックが無いから責任重大であるという論旨はわかりましたが、その上でどうするかですが、

    何かあったときの救済が難しく、結果的に医療ミスに関わってしまうことが多くなる。そういうことを理解しないで、現場にいた看護師が悪いと単純に非難するのは、大間違いだと思いませんか?
先ほど看護師免責論と誤解されると私は書きましたが、どうも南淵氏は看護師免責論を本当に主張しているようです。つまり南淵氏は看護師の投薬には、次の段階のチェックが無いから、ミスをしても非難はしてはならないと主張されています。もちろん「単純に」と注釈が入っているので無制限の免責論ではないでしょうが、ワソラン「はんとう」を「さんとう」と聞き違えて、その投与量が常識外れである事に気がつかない程度は「非難するのは、大間違いだ」と文脈上解釈できます。

さらに次のコメントには、

    看護師が声をあげれば、医療が、社会が、必ず変わるはずなんです。
この言葉はこの対談のタイトルに上げられているぐらいですから、松原氏の主張も看護師免責論であると考えられます。

次の段落に移ります。

■病院のワナにはまるな!

 松原

現状では医師と看護師は対等ではなく、そうした土壌が発言しにくい状況を作っているのだと思います。勇気を持って意見を言っても受け入れられなかったケースも実際にありますし。


 南淵

それはどんなケース?


 松原

ある病院の話です。夜中に患者さんの容態が相次いで急変したんですが、夜勤の看護師が二人しかいなかったため対応が間に合わず、一人の患者さんが亡くなってしまった。担当看護師は「この人数では限界だ。人を増やして欲しい」と訴えたところ、病院側はまったく受け入れてくれなかったんです。


 南淵

なるほど。確かに人員不足は一つの要素ですし、増やすことで解決できる可能性はあります。ただそれで事故は防げるかと言ったら難しいかもしれないですね。看護師を増やしてもその数より重症患者が増えたら、やっぱり同じ事故が起きる可能性があります。人員不足だけに焦点を当てるような見方はあまり正しくない気がします。


 松原

南淵さんならどんな見方を?

 南淵

僕なら事故が起こった本質をもう少し考えます。詳細が分からないのであくまで推測ですが、根本的には医師の質が低いんだと思います。看護師だって人間ですから疲れもするし、ミスもする。それを考慮して医師は看護師に指示しなければいけない。


 松原

医療ミスの背景にはいろいろな要素があるわけで、事実の分析をきちんと行わないまま、「忙しい」という結論だけで帰結しているのはよろしくないということですね。


 南淵

そう。それで何より怖いのは、本質が隠れてしまう恐れがあること。例えば人員不足を訴えたとしたら、「人手不足が原因だ」→「まったく、その通り。看護師不足は日本全体の問題です」という構図ができあがる。「病院の問題」から「日本の問題」にすり替わってしまったわけです。それこそ病院の思うツボ。そのワナにはまっちゃいけないんです!

看護師、看護協会に対し、僕はめちゃめちゃ、期待してますよ!

この段落は松原氏の設問に対し、南淵氏の回答というスタイルになっています。松原氏の話は非常にありふれた設定なんですが、二人夜勤の時に入院患者が次々と容体急変し、手が回らなかったお話です。ありふれてはいますが、看護師にとって切実な問題かと考えます。

南淵氏の回答は

  1. いくら人員を増やしてもそれ以上に重症患者が増えれば意味が無い
  2. 看護師の疲労やミスを考慮した指示を出せ
設問はあくまでも夜勤看護師の数では対応できない非常事態が突発的に起こったときの対応であるかと思います。私のような凡人で考えるのはまずマンパワーの確保です。とにもかくにも人手が無いと回らないからです。この人手不足に対し、恒常的に人員を増やせは看護協会の主張でしょうが、現実的には緊急応援体制の整備かと考えます。究極の理想としては、看護協会の主張する恒常的な人員増の方が望ましいとさえ言えます。

ところが南淵氏は人手を増やす事には消極的です。「看護師を増やしてもその数より重症患者が増えたら」がその理由ですが、病床数以上には重症患者は増えませんから、説得力にやや欠けるように思います。それでも次に解決策らしいものを提示しているので、看護師の数を増やさずに非常事態に対応する秘策があると期待していると、いきなり、

    根本的には医師の質が低いんだと
この後の文章への続きが悪いのですが、どうも突発事態を招くような治療する医師の質が低いと解釈するのが妥当なようです。そもそも医師の質が高ければ、突発実態など起こるはずが無いの主張で、『突発事態が起こる=医者の質が低い』の方程式が南淵氏の考えにあるようです。つまり南淵氏の主張は質の高い医師が診療を行なえば突発事態などそもそも起こらないから、人員増は不要だと結びつければ良いようです。あまりにも御立派な主張で恐れ入りました。

最後はこの段落のタイトルになっている南淵氏のコメントですが、解釈にやや難儀します。

    人手不足が原因だ」→「まったく、その通り。看護師不足は日本全体の問題です」という構図ができあがる
この構図は「病院のワナ」だと結論付けています。正直なところ読んでも「???」です。このコメントだけでは何を言いたいか理解できないので、その前のコメントと合わせて考える必要がありそうです。

ここでまず南淵氏の「病院」の意味するところですが、限りなく医師側の意見と解釈すれば良さそうです。もう少し言えば、医師も含めた経営側の事を指すと言った方が良さそうです。突発事態が起きた時の人手不足の解消のためには、日本の医療体制では国が方針を変えないと病院はどうしようもありません。医療費削減でどこもカツカツの経営を強いられている病院に、余剰の人員を雇う余裕はありません。診療報酬が看護師の人員増に耐えられる構造に変わらないことには、どうしようもありません。

ところがその論法を南淵氏は「病院のワナ」として頭から否定しています。ではどうすれば良いのかですが、このコメント中に回答はありません。そうなればその前の、「突発事態を絶対に起さず、看護師の疲労度やミスに配慮した指示を出す」が回答になります。そんな事が出来るのは「質の高い医師」と言うことになります。

ちょっと煩雑になりましたが、松原氏の「看護師の人手が足りないほどの突発事態」への南淵氏の回答は「医師の質が高ければ突発事態は起こらない」となります。

次の段に移ります。

■専門性を持つ看護師

 松原

話は変わりますが、医師に専門医がいるように看護師にも専門性を持つ看護師を認定しようという動きが出ています。それが「認定看護師」や「専門看護師」です。


 南淵

前から思っていたんですが、看護師の最大の問題点は、専門性がなく、専門を自由に選べないところ。精神科の看護師が翌年の部署換えでいきなり手術室の主任になったり、手術室の看護師が内科の病棟に行ったり。合理的ではないですよね。


 松原

それが変わってきたわけです。


 南淵

それは期待できますね。ただフリーパスで会員になって、一定期間過ぎれば全員専門医になれるという医師の専門医制度と同じ轍(てつ)だけは踏まないで欲しい(笑)。


 松原

看護師の場合は、教育、実践、認定試験という3本立てなので、それは大丈夫です。


 南淵

実践・・・場数(ばかず)を重視する点がいいですね。僕自身もそうですが、やっぱり場数を踏むのは大切です。場数を踏めば踏むほど、経験も能力も蓄積していきますし、逆に言えば体力や気力があって、そして何より現場が好きじゃないと場数は踏めませんから。


 松原

だからでしょうか、専門性を持った看護師は皆さん、とても生き生きと仕事をされています。話を制度に戻しますが、日本看護協会では看護師を管理する「認定看護管理者」という制度も設けています。


 南淵

循環器の専門看護師がいるように、管理を専門とする看護師がいるということ?


 松原

ええ。管理能力の高い看護師を育成、輩出するようになったことで、病院運営や管理の面で力を発揮できるようになりました。失礼ですが、今は医師が院長になっていますけど、だからといってその医師に管理能力があるとは限らないですよね。


 南淵

あれは「死に土産」です(笑)。


 松原

そうなんですね(笑)。いずれにしても看護師の意見が病院運営にもっと活かされるようになれば、看護師も声を上げやすくなるでしょう。そんな時代が近いうちに来ると思っています。


 南淵

それだったら、認定看護管理者だけでなく、教育を専門とする看護師やリサーチを専門とする看護師を育成してもいいですね。専門看護師の集団をどんどん作っていったらヒエラルキーがなくなり、横でつながる強力なマトリックスができあがる。そういう連携が強くなれば、医者もようやく我に返り、医療システムそのものが改善されるかもしれない。まぁ、100年ぐらいかかるでしょうけど(笑)。

専門看護師礼賛の段です。多くを語る必要は無いかと思います。医師は専門医から総合医路線に怒涛のように政策が遂行されています。専門看護師も専門性が高まった時点で総合看護師路線が推進されると予想しておきましょう。

そして最終段です。

■医者の無秩序を正すのは看護師だ!

 松原

そろそろお時間ですが、最後に一言、言っておきたいことはありますか?


 南淵

じゃあ、一言だけ。今の日本は医者が全然ダメ。無秩序で、無統制、おまけに無道徳。医療が細分化されていると言われているけれどそれはまったくウソで、医者が自分勝手に好きなことをやっているだけです。この無秩序状態を正すのは、看護師しかいないんです! 看護師、看護協会に対して、僕はめちゃめちゃ、期待しているんですよ!!


 松原

南淵さんのその期待を裏切らないよう、がんばらないと! 今日の対談ではものすごくパワーをもらいました。このまま突っ走っていけそうです(笑)。今日はどうもありがとうございました。

これは参議院候補のホームページです。それも泡沫候補でなく看護協会が全面バックアップし当選が有力視されている候補と言ってよいでしょう。そうなればかなり公的な色彩もあるホームページも受け取れます。そこでの発言ですし、実名での発言ですからそれなりの重みがあると判断する事は大袈裟すぎるとは思えません。

南淵氏の最後のコメントをまとめます。

  1. 今の日本は医者が全然ダメ。無秩序で、無統制、おまけに無道徳
  2. 医療が細分化されていると言われているけれどそれはまったくウソ
  3. 医者が自分勝手に好きなことをやっているだけ
  4. この無秩序状態を正すのは、看護師しかいないんです!
このうちd.の発言は個人の信条ですから容認の範囲かと考えます。一方でa.〜c.は日本の医師を明らかに中傷誹謗しています。コメント中にある「今の日本は医者」にとくに設定条件があるわけではないので、日本中の医師を一律に侮辱した事になります。少なくとも私はそう受け取ります。