豚の餌に年金

いつも楽しませてもらっているJA1NUT氏のステトスコープ・チェロ・電鍵様の6/27エントリーを読んで驚きました。まず話の前提を引用します。


これは、厚生年金保険法作成に携わった戦前厚生年金保険課長だった花澤武夫氏が、昭和61年に厚生省の外郭団体が主催した座談会で話した内容です。

その内容は、「厚生年金保険制度回顧録」にまとめられています。

「厚生年金保険制度回顧録
発行:(株)社会保険法規研究会
編集:財団法人 厚生団

第159回国会 予算委員会 
第18号 平成16年3月3日(水曜日)でも取り上げられた内容です。

とりあえず気になったのはどんな国会質疑であったかですが、会議録が残っています。この日の予算委員会は、前半が北朝鮮問題の集中審議で、後半が一般質疑となっており、質問者は民主党海江田万里氏です。

海江田委員
    民主党の海江田でございます。 参考人の皆様、御苦労さまでございます。

     今、参考人の意見陳述等も聞かせていただきました。それから、坂口厚生労働大臣も、今、福祉関連施設、大変大きな問題になっていますが、年金の加入者にそういうニーズがあったんだというようなお話もございました。それから、もちろんあくまでもこれは年金の加入者の福利厚生のためだということなんですが。

     私は、まず吉原参考人にお尋ねをしたいと思います。 吉原参考人が今理事長をしております財団法人厚生年金事業振興団という団体ですが、この前は厚生団という団体でございましたね。
吉原参考人
    おっしゃいますとおり、従前は、厚生団という名称でございましたが、平成二年から、厚生年金事業振興団というふうに名称を変更いたしました。
海江田委員
    それでは、その厚生団のときに「厚生年金保険制度回顧録」という本を出しておるんですが、これはごらんになったことはございますか、どうですか。
吉原参考人
    ございます。
ここで吉原参考人とは、財団法人厚生年金事業振興団吉原健二氏です。海江田委員が持ち出した「厚生年金保険制度回顧録」についての質問がここで行なわれます。引用すれば長くなりますので会議録を読んで頂きたいのですが、ほぼ正確に引用しての質問が行なわれています。冒頭部分だけを引用します。

海江田委員
     それでは、しっかりとそのときのことを思い出していただければいいんですが、先ほど厚生労働大臣も言いました、本当に保険の加入者のために、年金の加入者のためにやっているんだということで書いてございますが、ここに、そもそも厚生団をつくったいきさつ、今の事業団の前身ですが、出ていまして、花澤さんという大先輩が「厚生年金保険の歩みを語る」ということで書いているんです。

    資金運用と福祉施設

     それで、いよいよこの法律ができるということになった時、 これは労働者年金保険法ですね。・・・(後略)
海江田委員の質問にあるように「厚生年金保険制度回顧録」には「厚生年金保険の歩みを語る」であるとされます。どういう理念、精神で年金を運用するか、もっと言えばこれは回顧録ですから「運用してきたか」かがしっかり書き込まれています。言うまでもなく内容は週刊誌がアングラ情報で組み立てた記事ではなく、厚生団自らが編集したものですから、嘘偽りが生じる余地はなく、都合の悪い個所は編集してのものと考えるのが妥当です。

海江田委員の質問内容からこの個所には「資金運用と福祉施設」のサブタイトルがついているようです。原文を引用します。


 それで、いよいよこの法律ができるということになった時、これは労働者年金保険法ですね。すぐに考えたのは、この膨大な資金の運用ですね。これをどうするか。これをいちばん考えましたね。この資金があれば一流の銀行だってかなわない。今でもそうでしょう。何十兆円もあるから、一流の銀行だってかなわない。

 これを厚生年金保基金とか財団とかいうものを作って、その理事長というのは、日銀の総裁ぐらいの力がある。そうすると、厚生省の連中がOBになった時の勤め口に困らない。何千人だって大丈夫だと。金融業界を牛耳るくらいの力があるから、これは必ず厚生大臣が握るようにしなくてはいけない。この資金を握ること、それから、その次に、年金を支給するには二十年もかかるのだから、その間、何もしないで待っているという馬鹿馬鹿しいことを言っていたら間に合わない。

 そのためにはすぐに団体を作って、政府のやる福祉施設を肩替りする。社会局の庶務課の端っこのほうでやらしておいたのでは話にならない。大営団みたいなものを作って、政府の保険については全部委託を受ける。そして年金保険の掛金を直接持ってきて運営すれば、年金を払うのは先のことだから、今のうち、どんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。二十年先まで大事に持っていても貨幣価値が下がってしまう。だからどんどん運用して活用したほうがいい。

何しろ集まる金が雪ダルマみたいにどんどん大きくなって、将来みんなに支払う時に金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばいいのだから、それまでの間にせっせと使ってしまえ。

海江田委員が「厚生年金保険制度回顧録」を引用する前に年金制度は「労働者年金保険法ですね」と念を押しています。年金が保険方式で運用されていたのは周知の事ですが、厚生団の理念は根本的に違うようです。保険として年金に支払いに当てられるはずの払い込まれた掛け金は、年金の支払いのために確保しておくのではなく、厚生省の天下り先の養成に使うと明記されています。使われる先は具体的には、
  1. 政府のやる福祉施設を肩替りする
  2. 政府の保険については全部委託を受ける
  3. 金保険の掛金を直接持ってきて運営
象徴的なのはバブル崩壊後、二束三文で叩き売りにされたグリーンピアなんかでしょう。まあこの手の事業は天下り利権がある程度は匂う物なのですが、天下り先の養成目標も書かれています。
    厚生省の連中がOBになった時の勤め口に困らない。何千人だって大丈夫だと
厚生団の年金資金の運用目的は、厚生省OBの天下り先の養成に使われるためにあるとの宣言です。そのために厚生年金は存在しているとの理念が明瞭に示されています。それでも保険として預かっている掛け金を使い込んだら、支払いのときに困るんじゃ無いかと素人なら心配するのですが、そんな心配はご無用のようです。
    使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。
そんな貧乏臭い心配は無用と証言してくれています。きっと当時の部下はこの言葉に励まされたんじゃないかと思います。ボスがそこまで言ってくれるのなら部下は存分に腕が揮えます。なんと言っても資金は莫大でここにも書かれている通り、
    何十兆円もあるから、一流の銀行だってかなわない
なんと言っても無税でじゃんじゃん年金の掛け金は払い込まれますし、それを年金として支払う事を念頭におかずに使い込めるのですから、文字通りの宝の山です。なんと言っても厚生省の同僚や先輩、さらに後輩のために、大事な、大事な天下り先の養成ですから、渾身の知恵を使って仕事に励んだはずです。資金は無尽蔵に近い感覚だったのではないでしょうか。

それでも部下に「支払い時に困るんじゃないか」の懸念を進言したものがいたのではないかと考えます。いくらボスが「問題ない」と言われても、算数をすれば不安になっても不思議はありません。しかしボスは部下のそんなチンケな心配を吹き飛ばすような秘策を持っていました。

    将来みんなに支払う時に金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばいい
痛快な論理です。いくら使い込んでも、支払い時点で資金不足になっても、「足りなくなった、年金の危機だ」と弁明し、年金を保険方式から賦課方式に切り替えれば何の問題も生じないという理屈です。確かにそうで、統計学的な理論付けは御用学者がいくらでもしてくれますし、その理論に基づいて煙に巻けば誰一人責任は問われないという訳です。よって雪ダルマ式に集まってくる掛け金は、
    それまでの間にせっせと使ってしまえ
「泥棒に番をさせる」と言う言葉が思い浮かびます。年金を預かる団体が天下り先の養成に資金をせっせと使われたら、いくら集めても絶対に足りなくなります。そのうえ足りなくなれば保険方式から賦課方式に切り替える手段まで最終的に用意しているのですから、泥棒と言うより山賊団や大規模な詐欺グループが居座っているイメージの方が似合いそうです。

しかし皆様御安心ください。厚生団及び後身の厚生年金事業振興団が「せっせと使って」くれたおかげで、年金は無事、保険方式から賦課方式に切り替わったはずです。つまり「せっせと使う」余地がかなり小さくなったかと考えます。この回顧録の元になった座談会が行われたのが1986年、あれから20年以上、20年前でも回顧録ですから、もっと長期に何十兆円もの資金をバックに営々と天下り先の養成に努めたのですから、当初の目標の「何千人」は達成できたんじゃないでしょうか。

それでもひょっとしたらまだ足りないのかもしれません。なんのかんのと未納時期を作り出し、支払いを渋ったのもその一環かもしれません。払い込みは強制的ですが、支払いは申請主義としているのもそのせいかもしれません。宙に浮いた5000万件も計算通りなのかもしれません。錬金術のタネは次々と生み出されているようにも思います。

あとどれくらい天下り先の養成のために年金資金を注ぎ込めば、普通に年金業務をしてくれるのですかね〜。