いつも読ませてもらっている「健康、病気なし、医者いらず」のDr.I様が、先日私も書かせてもらった加古川の事件のさらなる真相を加古川、心筋梗塞事件。衝撃の事実として書いておられます。真相の根拠とされた内部情報は事件当日に現場医に居合わせたと考えれる人物からであり、Dr.I様はなんらかのルートから直接のコンタクトを取り、この事件の循環器医から見て必要な情報を集めて解説されています。
小児科医である私の解説よりもDr.I様のエントリーを読まれるほうがよほど詳しいのですが、のぢぎく県の事件ですし、一人でもたくさんの医師が取り上げた方が望ましいと考え、協賛エントリーの趣旨で私も解説させてもらいます。内部情報の原文をまず引用します。
まず、電話で「胸が苦しく気分が悪い」というような内容の訴えと受診依頼があり、すぐに受けた。何回か加古川市民病院の受診歴はあるものの、定期通院をしている方ではなかった。確か64歳の男性。奥さんと一緒に歩いて来院され、診察室に入ったのは昼の12時過ぎ。二次救急の日ではなかった。小児の患者さんは数人おられ、小児科医師が対応していた。
たまたまアルバイトで来ていた内科医師(前回の記事で、循環器ではない医師って書きましたが、循環器内科医だと思われます。すいません)は、すぐに患者さんをベッドに寝かせアナムネ(患者の症状とかの話)を聴取しつつ心電図をとり、モニターを付け、採血をした。ただちに心筋梗塞を疑っての処置です。
採血にはトロポニンTも含まれており、その陽性と心電図でAMI(急性心筋梗塞)と診断した。トロポニンTが出てすぐ。時間は「12時40分位かなぁ・・」 と、言っていましたがはっきりしていません。
診断後すぐにミリスロールとリドカイン開始(点滴治療)。すぐ家族にカテ(カテーテル治療、経皮的冠動脈再建術:PCI)のできる施設に転送の必要ありとムンテラ(患者、患者の家族への説明)をし、すぐ転送先を探す電話をし始めた。本当に診断後、即、だそうです。
まず神鋼加古川に電話。しかし、神鋼の当直医師も循環器医師に連絡して確認しないといけません。一旦電話を切ってその返事待ちです。結果は受け入れ出来ない、との事。その後同じ事を繰り返しました。一件につき10分〜15分はかかります。高砂市民病院、姫路循環器病センター、三木市民病院、神戸大学病院にあたりましたが全てダメ。結局、高砂市民病院(神鋼加古川?記憶があいまい)に転院する事になったそうです。
搬送先が決まり、救急車を要請。救急隊がストレッチャーに乗せようとした瞬間。おそらく報道の14時30分「容態悪化」の事だと思いますが全身性の痙攀がおきた。その後、心マ(心臓マッサージ)、挿管(気管内挿管)を行っていますが全く無理な状態だったそうです。
容態悪化の14時半から死亡確認の15時半までは 蘇生治療をしていたと思われます。
小児科の看護師さんも含め、麻酔科の医師や皆総出で頑張ったけれど、もう痙攀の時点でほぼ頓死に近かっただろう、との事。
この情報からわかる時間経過をまとめてみます。
胸痛出現。記事情報で11:30来院とあり、電話問合せから来院までの時間を考えると、心筋梗塞発症時間はこの時刻前後と考えられる。 | |
記事情報の来院時間 | |
受診 | |
心筋梗塞診断。即座にPCI必要と判断し患者及び家族に転送での治療が必要と説明。 | |
転送先に高砂市民病院が決定。転送先決定までに神鋼加古川、高砂市民病院、姫路循環器病センター、三木市民病院、神戸大学病院と断られ続け、おそらく2回目の要請で決定と考えられる。 | |
救急隊が到着しストレッチャーに載せる瞬間に全身性の痙攣出現、懸命の蘇生処置を行なったが実際はほぼ頓死状態であったとの事。 | |
死亡確認 |
- 午後0時15分ごろ、妻が同病院に連れて行った。
- 担当医師は同0時40分ごろ、急性心筋梗塞と診断
- 同1時50分ごろ、効果があるとされる経皮的冠動脈再建術(PCI)が可能な同県高砂市の病院への転送を要請した。
判決は「約70分も転送措置が遅れており、医師に過失があると言わざるを得ない」とした。
この約70分とは12:40に心筋梗塞を診断し13:50に転送決定までの「約70分」を指すと考えます。なぜこんな事に引っかかっているかといえば、13:50に転送決定から14:30に救急隊到着までの40分がやや長すぎる印象があるからです。舞台となった加古川市民病院は辺鄙なところにある病院でなく、なぜ40分もかかったかは不明です。記事でも内部情報でもその点は沈黙しています。強いて考えるなら、転送を受け入れた高砂市民病院が受け入れ態勢を作るまでに時間が欲しいと言った事ぐらいはあるかと思います。
それでも2つの記事から転送先決定時刻は13:50はほぼ間違いないようです。この70分の間の記事情報は「点滴で漫然と経過観察を行い」としていますが、真相は診断とともに即座に転送判断を下し、患者及び家族に説明を行い、神鋼加古川、高砂市民病院、姫路循環器病センター、三木市民病院、神戸大学病院と少なくとも5件以上の転送要請を行なっています。
転送要請は先日のエントリーでも書いたように、病状を説明し、PCIが必要なので受け入れをお願いするものです。この日は日曜日ですから、当直医が循環器医では必ずしもなく、また循環器医であっても一人でPCIを行なえるわけではありませんから、入院病室の確保、PCIに必要なスタッフの確保の確認に、おおよそ10〜15分必要です。転送要請経過から高砂市民病院が転送を受け入れたのは2度目の要請であったのは確実で、これだけの作業をに70分かかるのは当然です。PCIを行なうには手術並みのスタッフが必要である事を忘れてはなりません。
この転送先を探し続けている時間を「漫然と過ごした」とされたのなら医師としてたまったものではありません。患者が受診した加古川市民病院ではPCIが行なえなかったのですから、心筋梗塞と診断し、PCIが必要と診断すれば、医師の仕事はPCIが出来る転送病院を探す以外にありません。70分もかかって電話をかけまくって、三拝九拝の末に転送先を探し出した労苦は単なる「手遅れ」としているのです。
この構図は去年医療界を震撼させた奈良事件の時とよく似ています。奈良事件の時はこれ以外にもCT問題が論議されましたが、この加古川の事件ではもっとシンプルで、担当医師は本当に転送先を探す以外に出来る事は無かったのです。奈良事件はそれでも立件は見送られそうな情勢ですが、加古川の事件は民事とは言え莫大な賠償金をすべて医師の責任として課しています。
循環器医療の滅びを見るような判決です。神戸地裁の名物裁判官の判決だそうですから、高裁で逆転するだろうの観測がもっぱらですが、担当した医師はこれから高裁、最高裁と、長い、長い裁判生活が待ち受けています。この判決記事を読んで若い医師がどれだけ循環器医療に意欲を燃やしてくれるでしょうか、中堅以上の循環器医もそうです。
まかり間違っても上級審でこんなトンデモ判決が確定するようなら、日本の医療は確実に死に向かいます。